板金プレス成形シミュレーション
理論:割れ・しわ・戻りの3つの不具合
概要
プレス成形のシミュレーションは、どんな不具合を見つけるために使うのですか?
主に3つ、割れ・しわ・スプリングバック(形状の戻り)だ。割れは板が伸ばされて局所的に薄くなりすぎることで起き、成形限界線図(FLD)で判定する。しわは板が縮められる部分で座屈して起き、しわ押さえ力やビード(材料の流れ込みを抑える突起)で抑える。スプリングバックは金型から外したときに弾性の分だけ形が戻る現象で、高強度鋼ほど大きい。自動車ボディのパネルのように大きく複雑な部品では、金型を作る前にこれらを予測して、ブランク(素板)の形、しわ押さえ力、ビード、金型の形を決める。解析は板をシェル要素で表し、金型を剛体として接触と摩擦を解く陽解法が多く使われ、最後に陰解法でスプリングバックを計算する。
成形限界と板厚減少
t は板厚(mm)、n は加工硬化指数(0.21で頭打ち)、e₁ は公称の主ひずみ、ε₁・ε₃ は真の主ひずみと板厚ひずみ。平面ひずみでは幅方向のひずみがゼロなので、体積一定から板厚ひずみは主ひずみと大きさが等しい。
円を描いた板から生まれた図
成形限界線図は、1960年代にKeelerやGoodwinが、板に小さな円を格子状に印刷してプレス成形し、円が楕円に変わった形から割れる直前のひずみを読み取って作った。伸びる方向と縮む方向のひずみの組み合わせで限界が変わることを1枚の図にまとめたもので、今もシミュレーションの割れ判定の基準になっている。現在は円の代わりにランダムな模様をカメラで追うデジタル画像相関法で測ることが多い。
計算例
式はn_eff = min(n, 0.21)を使うKeeler型の経験的な初期見積もり。DP590は入力を仮定した比較例で、ロットの実測FLCではない。「10%余裕」は相対10%ではなく、公称主ひずみから10パーセントポイントを引いた仮定。許容板厚減少率として一律に使わない。
例:軟鋼とDP590の平面ひずみ限界と許容板厚減少
| 材料 | 板厚 | n | FLC₀ | 限界の板厚減少 | 10%余裕での板厚減少 |
|---|---|---|---|---|---|
| 軟鋼 | 0.8 mm | 0.22 | 34.6% | 25.7% | 19.7% |
| DP590 | 1.2 mm | 0.14 | 26.8% | 21.2% | 14.4% |
n は代表的な値。DP590は板が厚い分だけ限界が上がるが、加工硬化指数が小さいので軟鋼より成形しにくい。アルミ合金はこの式が使えず、同じn でもFLC₀がずっと低いことが多い。
シミュレーションでは板厚減少が最大18%で、軟鋼の許容20%を下回りました。それでも試作で割れたのはなぜですか?
板厚減少だけで判定すると、ひずみの経路と局所の条件を見落とすことがある。板厚減少の目安は平面ひずみを前提にしているが、FLDでは引張と圧縮の組み合わせ(ひずみ比)で限界が変わり、ひずみ比によっては板厚減少が小さくても限界に近いことがある。さらに、成形の途中でひずみの向きが変わる(例えば最初は2軸に伸ばされ、後で平面ひずみになる)と、通常のFLCより早く割れる。ほかにも、要素が粗くて局所のひずみ集中が平均化されている、摩擦係数が実際より小さい、材料のばらつきでn値が低い、金型の肩の半径が小さい、といった原因がある。まずFLDに全要素のひずみを描いてFLCまでの余裕を見て、問題の場所だけ要素を細かくし、摩擦と材料データを確かめるとよい。
実務での進め方
- 材料の応力-ひずみ曲線、r値、FLCを、実際に使う板のロットに近いデータで用意する。
- ワンステップ法(逆解析)でブランク形状と成形の可否を早く見積もる。
- 工程を追う増分解析で、しわ押さえ力とビードを調整し、FLDで割れの余裕を確かめる。
- スプリングバックを計算し、金型の形を見込み補正する。
- 試作品の板厚やひずみの測定(画像相関法など)と比べて、摩擦と材料データを調整する。
「ビード1本で割れが消えた」
割れが出たとき、しわ押さえ力を下げて材料を流れ込みやすくするのが一般的な対策だが、それではしわが出る、ということもよくある。そんなとき、場所ごとに流れ込みを調整できるビードの位置と強さを変えると、割れとしわを同時に解決できることがある。シミュレーションでは、ビードを実形状ではなく「引き抜き抵抗力」を持つ線として与えることが多く、この抵抗力の値を変えて試すのが効率的だ。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 板厚減少だけで判定 | ひずみ比による割れを見逃す | FLDで全要素を確認 |
| アルミに鋼の式を使う | 成形性を過大評価 | 試験でFLCを求める |
| 要素が粗い | ひずみ集中が平均化 | 問題部を細分化 |
| 摩擦係数を決め打ち | 流れ込みがずれる | 潤滑条件で調整 |
| スプリングバックを無視 | 寸法不良 | 陰解法で計算し補正 |
関連する内容も知りたいです。
関連するページは深絞り成形シミュレーション、スプリングバック解析、圧延シミュレーション、鍛造シミュレーションが参考になる。
よくある質問
プレス成形シミュレーションで割れはどう判定しますか?
成形限界線図(FLD)で判定します。各要素の主ひずみと副ひずみの組を図に描き、材料の成形限界曲線(FLC)を超えたら割れ、近ければ割れの危険とします。最も厳しいのは幅方向に縮まない平面ひずみの状態で、その限界値FLC₀が材料の成形しやすさの目安になります。
FLC₀はどれくらいですか?
鋼板ではKeeler-Brazierの式 FLC₀(%) = (23.3 + 14.13t) × n/0.21(t は板厚mm、n は加工硬化指数、0.21で頭打ち)がよく使われます。板厚0.8 mmの軟鋼(n = 0.22)で約35%、板厚1.2 mmのDP590(n = 0.14)で約27%です。アルミ合金にはこの式は当てはまらず、試験で求めます。
板厚減少率で判定してもよいですか?
目安としてよく使われます。平面ひずみでは、主ひずみの分だけ板厚が減るので、FLC₀が35%の軟鋼なら板厚減少約26%、27%のDP590なら約21%が限界です。10%の安全余裕をとると、軟鋼で約20%、DP590で約14%が許容の目安になり、高強度鋼ほど許される薄肉化が小さくなります。
参考資料・検算の位置づけ
掲載値は本文の仮定に基づく教育用の参考計算。資料は理論・設定の参照先であり、本記事の数値を各ソフトで再現した証明ではない。設計・製造の判断には対象条件での検証が必要。
関連トピック
なった
詳しく
報告