溶接冶金シミュレーション

カテゴリ: 製造プロセスシミュレーション | 2026-10-02 改稿
CAE visualization for welding metallurgy theory - technical simulation diagram
溶接冶金シミュレーション

理論:熱影響部で何が起きるか

概要

🙋

溶接部の割れは、溶けた部分ではなく、その横で起きることが多いと聞きました。なぜですか?

🎓

溶けなかったが強く熱せられた部分、つまり熱影響部(HAZ)の組織が変わるからだ。鋼は約900℃以上でオーステナイトという組織になり、そこから冷えるときの速さで最終的な組織が決まる。ゆっくり冷えればやわらかいフェライトとパーライト、速く冷えると硬いベイナイトやマルテンサイトになる。溶接では熱影響部が短時間で高温になり、周りの冷たい母材に熱を奪われて急に冷えるので、マルテンサイトができやすい。硬いマルテンサイトに、溶接金属から入った水素と、引張の残留応力が重なると、溶接の数時間〜数日後に割れる(低温割れ・遅れ割れ)。溶接冶金シミュレーションは、熱解析で求めた温度履歴から熱影響部の組織と硬さを予測し、予熱や入熱の条件を決めるために使う。

炭素当量

$$ CE_{\text{IIW}} = C + \frac{Mn}{6} + \frac{Cr+Mo+V}{5} + \frac{Ni+Cu}{15},\qquad P_{cm} = C + \frac{Si}{30} + \frac{Mn+Cu+Cr}{20} + \frac{Ni}{60} + \frac{Mo}{15} + \frac{V}{10} + 5B $$

元素記号は質量%。CE(IIW)は一般の鋼に、Pcm(伊藤・別所)は炭素の少ない高張力鋼に使われることが多い。どちらも大きいほど熱影響部が硬くなりやすい。

Coffee Break よもやま話

割れを数式にした日本の研究

Pcmは1960年代に伊藤慶典と別所清が、斜めY形の拘束割れ試験の結果から導いた式で、炭素の少ない高張力鋼の溶接割れの予測に広く使われている。日本では造船や橋梁で高張力鋼の溶接が早くから大量に行われたため、溶接割れの研究と予熱温度の決め方の体系化が進み、そこで生まれた式や試験法は国際規格にも取り入れられた。

計算例

成分は説明用の質量%。表の省略元素は0、SiはC-Mn鋼0.35%・Cr-Mo鋼0.25%。Pcmの数値は式の比較用で、高炭素Cr-Mo鋼への適用を推奨するものではない。予熱・後熱・硬さの許容値は材質、板厚、水素量、拘束、適用規格と施工試験で決める。

例1:2つの鋼の炭素当量

鋼(成分は例示)CMnCrMoCE (IIW)Pcm
構造用C-Mn鋼0.161.40——0.390.24
Cr-Mo鋼(4140相当)0.400.851.000.200.780.51

この炭素当量から予熱温度や後熱の要否を一意には決められない。低炭素鋼向けのPcmを高炭素鋼に外挿しない。材質と施工に対応する規格・施工試験を確認する。

冷却時間t8/5をCCT図と照合する

800℃から500℃までの冷却時間です。熱履歴を溶接用CCT図と照合して組織や硬さを評価します。t8/5だけで組織の割合は確定せず、鋼種、最高温度、再加熱も必要です。

🙋

熱解析の温度履歴にCCT図を当てはめたら、熱影響部の全体がマルテンサイトになりました。そこまで硬くなるものですか?

🎓

CCT図の種類と、最高温度ごとの違いを確かめよう。材料カタログの普通のCCT図は、炉でゆっくり加熱して十分にオーステナイト化した条件で作られている。溶接の熱影響部は加熱が数秒と短く、最高温度も場所によって違う。融合線のすぐ近く(1,300℃以上)では結晶粒が粗大化して焼入れ性が上がるが、少し離れた800〜900℃程度までしか上がらない場所では、オーステナイト化が不完全で、マルテンサイトはずっと少ない。溶接用に、短時間の加熱と最高温度を変えて作ったCCT図(溶接CCT図)を使い、最高温度ごとに領域を分けて判定する必要がある。また、多層溶接では後のパスの熱で前のパスの熱影響部が焼き戻されて硬さが下がるので、パスごとの温度履歴を追うことも大切だ。

実務での進め方

  1. 鋼の成分から炭素当量を計算し、規格に沿って予熱温度の初期案を決める。
  2. 熱源を溶け込み形状に合わせた熱解析で、熱影響部の各点の最高温度とt8/5を求める。
  3. 溶接用CCT図や相変態モデルで、組織の割合と硬さを予測する。
  4. 予熱・入熱・パス間温度を変え、適用する材質・施工規格の硬さ基準や靭性を満たすか検討する。
  5. 試験片の硬さ分布と断面組織で予測を確かめる。
Coffee Break よもやま話

「硬さの山は融合線の外側にある」

溶接部の断面で硬さを測ると、最も硬いのは溶接金属でも母材でもなく、融合線のすぐ外側の粗粒域であることが多い。ここは最高温度が高くて結晶粒が大きくなり、焼入れ性が上がったうえに急冷されるからだ。シミュレーションでこの硬さの山の位置と高さが測定と合えば、熱源と変態モデルがおおむね正しいと判断できる。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
普通のCCT図を使う硬さを過大評価溶接用CCT図
最高温度で分けない組織の分布が誤る最高温度ごとに判定
焼戻しを無視多層溶接の硬さを過大評価パスごとに追跡
炭素当量だけで予熱を決める厚板・高拘束で割れる板厚・水素・拘束も考慮
熱源を調整しない熱影響部の幅がずれるマクロ写真に合わせる
🙋

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よくある質問

溶接冶金シミュレーションでは何を予測しますか?

溶接の熱で母材の組織がどう変わるか、つまり熱影響部(HAZ)の組織(フェライト・ベイナイト・マルテンサイトの割合)、硬さ、結晶粒の粗大化です。熱解析で各点の温度履歴を求め、連続冷却変態(CCT)の関係や相変態モデルに当てはめて組織と硬さを計算します。

炭素当量とは何ですか?

合金成分から焼入れ性や溶接硬化の傾向を比較する指標です。この例のIIW炭素当量はC-Mn鋼0.393、Cr-Mo鋼0.782。予熱の必要性と温度は板厚、水素量、拘束、施工条件も含めて決めます。

冷却時間t8/5は組織にどう効きますか?

800℃から500℃までの冷却時間です。熱履歴を溶接用CCT図と照合して組織や硬さを評価します。t8/5だけで組織の割合は確定せず、鋼種、最高温度、再加熱も必要です。

参考資料・検算の位置づけ

掲載値は本文の仮定に基づく教育用の参考計算。資料は理論・設定の参照先であり、本記事の数値を各ソフトで再現した証明ではない。設計・製造の判断には対象条件での検証が必要。

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