鍛造シミュレーション
理論:鍛造の荷重を決めるもの
概要
鍛造シミュレーションでは、何を予測しているのですか?
主に4つだ。素材が金型の隅まで流れて充填されるか、必要なプレス荷重とエネルギー、欠肉やかぶり(材料が折れ重なる欠陥)が出ないか、そして製品内のひずみ・温度の分布と金型の応力だ。解析は、素材が何十%も潰れる大変形の問題として、剛塑性または弾塑性の有限要素法で解く。変形が進むと要素がつぶれるので、途中で何度もメッシュを作り直す(リメッシュ)のが普通だ。結果を左右するのは、材料の流動応力(ひずみ・ひずみ速度・温度で変わる)、金型との摩擦、金型や空気への熱の逃げの3つで、どれも入力として与える値だ。だからこそ、手計算で荷重の桁を確かめてからFEMに進むのがよい。
据え込みの荷重(スラブ法)
r₀・h₀ は初期の半径と高さ、σ_f は流動応力、μ はクーロン摩擦係数、p̄ は平均面圧、F は荷重。体積一定から半径が決まり、摩擦があると中心ほど面圧が高くなるため平均面圧が上がる。
ひずみ速度と加工発熱
v は工具の速度、m はひずみ速度感度、β は塑性仕事のうち熱になる割合(約0.9)、ρc は体積あたりの熱容量。
刀鍛冶から有限要素法へ
鍛造は人類最古の金属加工の一つだが、荷重を計算で求める方法が整ったのは20世紀に入ってからだ。1920〜30年代にSachsやSiebelが、素材を薄い板(スラブ)に切り分けて力のつり合いを立てるスラブ法を作り、その後に上界法が加わった。1970年代には剛塑性有限要素法が実用化され、Kobayashiらの研究を経て、金型の形を入れれば材料の流れまで分かる今日のソフトにつながった。
計算例
例1:円柱の据え込み荷重(直径・高さ50 mm、流動応力100 MPaと仮定)
| 高さ | 直径 | 真ひずみ | 摩擦なし | μ = 0.1 | μ = 0.2 | μ = 0.3 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 40 mm | 55.9 mm | 0.22 | 245 kN | 257 kN | 268 kN | 280 kN |
| 30 mm | 64.5 mm | 0.51 | 327 kN | 351 kN | 374 kN | 398 kN |
| 20 mm | 79.1 mm | 0.92 | 491 kN | 556 kN | 620 kN | 685 kN |
潰れるほど断面積が増えて荷重が上がり、さらに直径/高さの比が大きくなるため摩擦の上乗せも増える。高さ20 mmでは μ = 0.3 で摩擦なしより40%大きい。熱間の流動応力はひずみであまり増えないとして一定値を使った。
FEMで同じ据え込みを解いたら、摩擦係数0.3なのに荷重が手計算より小さく出ました。どちらが正しいのですか?
摩擦の上限を確かめよう。クーロン摩擦では摩擦力 μp が面圧に比例して増えるが、実際の摩擦応力は素材のせん断降伏応力(流動応力の約0.58倍)を超えられない。この例の中心付近では面圧が流動応力の2倍前後に達し、μ = 0.3 では μp がせん断降伏応力に届いて素材が金型に張り付く(固着)。多くの鍛造ソフトは摩擦の上限を設けるか、摩擦力をせん断降伏応力の m 倍とする摩擦因子モデルを使うので、単純なスラブ式より荷重が小さく出るのは自然だ。熱間鍛造では摩擦因子 m = 0.3〜0.7、冷間の潤滑ありでは μ = 0.05〜0.1 程度がよく使われる。値はリング圧縮試験で実測して決めるのが確実で、これを決めずに荷重を議論しても意味がない。
例2:プレスとハンマーのひずみ速度
| 設備 | 工具速度 | ひずみ速度(高さ20 mm) | 流動応力(プレス比) |
|---|---|---|---|
| 油圧プレス | 50 mm/s | 2.5 /s | 1.0 |
| ハンマー | 5 m/s | 250 /s | 2.0 |
熱間鋼のひずみ速度感度を m = 0.15 とすると、ひずみ速度が100倍で流動応力は 100^0.15 ≈ 2.0 倍になる。ハンマーでは接触時間が短く金型への熱の逃げが少ない一方、流動応力の増加が荷重に効く。
例3:加工発熱
| 条件 | 流動応力 | ひずみ | 温度上昇(断熱) |
|---|---|---|---|
| 熱間鍛造 | 100 MPa | 0.92 | 16 K |
| 冷間鍛造 | 600 MPa(平均) | 0.92 | 98 K |
冷間鍛造では加工発熱で素材が100 K近く上がり、流動応力の低下や潤滑膜の劣化につながる。熱間では発熱は小さいが、低温の金型に触れた面が急に冷えて流動応力が上がり、欠肉の原因になる。どちらも熱と変形を連成して解く必要がある。
実務での進め方
- 素材の流動応力を、ひずみ・ひずみ速度・温度の関数として用意する(圧縮試験やデータベース)。
- 摩擦条件をリング圧縮試験などで決める。
- スラブ法で荷重の桁を確かめ、設備の能力と比べる。
- 軸対称や対称性を使った2次元モデルで材料流れと欠陥を確かめてから3次元に進む。
- 試作品の寸法・荷重・断面のメタルフローと比べ、摩擦と熱伝達の値を調整する。
「かぶりは断面を切って初めて分かる」
型鍛造でよく問題になるかぶり(折れ込み)は、表面に細い線が見える程度で、断面を切ってエッチングしないと全体が分からないことが多い。疲労強度を大きく下げるため、後から見つかると金型の作り直しになる。シミュレーションで材料の流れを追い、表面の要素が内側へ巻き込まれていないかを確かめる手順は、試作の前に欠陥を潰す最も効果的な使い方の一つだ。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 流動応力を室温の値で入力 | 荷重を数倍過大評価 | 温度・速度依存のデータ |
| 摩擦を固定値で決め打ち | 荷重・充填の誤差 | リング圧縮試験 |
| 金型への熱伝達を無視 | 欠肉を見逃す | 熱-変形連成 |
| リメッシュ条件が粗い | 体積が減る・かぶりを見逃す | 体積変化を監視 |
| ハンマーをプレス速度で解析 | 流動応力を過小評価 | 実際の速度履歴を与える |
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