深絞り成形シミュレーション

カテゴリ: 製造プロセスシミュレーション | 2026-10-02 改稿
CAE visualization for deep drawing theory - technical simulation diagram
深絞り成形シミュレーション

理論:何が深絞りの限界を決めるか

概要

🙋

深絞りでは、どうして一度に深く絞れないのですか?

🎓

力の通り道が1か所しかないからだ。深絞りでは、パンチが素板の中央を押し、外周のフランジをダイの中へ引き込む。フランジを縮めながら引き込むのに必要な力は、すべてカップの壁を通ってパンチ肩まで伝わる。素板が大きいほど引き込む力は増えるが、壁が耐えられる力は板厚と強さで決まっているので、ある大きさを超えるとフランジが入りきる前にパンチ肩の近くで壁が破断する。この限界を素板直径とカップ直径の比で表したのが限界絞り比で、軟鋼でおよそ2.0だ。もう一つの問題はしわで、フランジは周方向に縮むので押さえないと波打つ。しわ押さえ力を上げればしわは止まるが、摩擦で引き込み力が増えて破断に近づく。深絞りの設計とシミュレーションは、この破断としわの間の範囲を探す作業だと言える。

素板直径・絞り比・成形荷重

$$ D_0 = \sqrt{d^2 + 4dh},\qquad \beta = \frac{D_0}{d} \le \beta_{\text{lim}} \approx 2.0,\qquad F_{\max} \approx \pi d\,t\,\sigma_B\left(\frac{D_0}{d} - 0.7\right) $$

d はカップ直径、h は高さ、t は板厚、σ_B は引張強さ。素板直径は表面積一定から求め(角の丸みは無視)、最大成形荷重は経験式で見積もる。

Coffee Break よもやま話

鍋と薬莢の技術

深絞りは19世紀に金属の鍋や食器を作る技術として広まり、20世紀初めには小銃の薬莢を大量に作るために、何段もの絞りと焼なましを組み合わせる工程が確立された。限界絞り比の考え方や、板の異方性(r値)が大きいほど深く絞れることが体系的に整理されたのは20世紀半ばで、今日の自動車ボディのプレス成形シミュレーションもこの理論の上に立っている。

計算例

例:直径50 mm・高さ40 mmの円筒カップ(板厚1.0 mm、引張強さ300 MPaの軟鋼と仮定)

項目1工程2工程(1回目)
素板直径102.5 mm102.5 mm
絞り後の直径50 mm56.9 mm
絞り比2.05(限界約2.0を超える)1.80
カップ高さ40 mm31.9 mm
最大成形荷重(経験式)63.6 kN59.0 kN
2回目(再絞り)の絞り比—1.14

しわ押さえ力は、初期フランジ面積6,123 mm²に面圧2.5 MPaを掛けて約15.3 kN。1工程では絞り比が限界を少し超えるので、1回目を1.8に抑え、2回目で50 mmに再絞りする。

🙋

FEMで1工程のまま解いたら、破断せずに絞れてしまいました。手計算と食い違うのはなぜですか?

🎓

FEMが破断を「判定していない」可能性が高い。弾塑性FEMは、壁が薄くなりすぎても要素が伸び続けるだけで、自分で割れはしない。破断は成形限界線図(FLD)で判定する必要があり、各要素の主ひずみと副ひずみの組が成形限界曲線を超えたら破断とみなす。軟鋼でパンチ肩付近の板厚減少が25〜30%を超えるようなら、FLDで見ても危険域に入っていることが多い。もう一つは材料モデルで、等方性のvon Misesで計算すると、r値(板の幅と厚さのひずみ比)の効果が入らず、実際の絞りやすさとずれる。深絞り用鋼板はr値が1.5〜2程度あり、Hill48などの異方性降伏関数とr値を与えないと、破断の余裕や耳の大きさが正しく出ない。さらに摩擦係数(潤滑ありで0.05〜0.15程度)でも結果は大きく変わるので、FLDによる判定、異方性、摩擦の3点をそろえてから結論を出す。

実務での進め方

  1. 素板直径と絞り比を計算し、工程数と各工程の絞り比を決める。
  2. 材料の応力-ひずみ曲線、r値(0°・45°・90°)、成形限界曲線を用意する。
  3. シェル要素で、パンチ・ダイ・しわ押さえを剛体として接触と摩擦を設定する。
  4. しわ押さえ力を変えて、しわと破断の間の範囲を探す。
  5. 試作品の板厚分布や耳の高さと比べ、摩擦と材料データを調整する。
Coffee Break よもやま話

「耳が4つ出る理由」

円筒カップの縁が均一な高さにならず、4か所が高く盛り上がることがある。これを耳と呼び、圧延方向に対して0°・90°と45°でr値が違う(面内異方性)ことが原因だ。r値の平均だけでなく、方向による差 Δr = (r₀ + r₉₀ − 2r₄₅)/2 が正なら0°と90°に、負なら45°方向に耳が出る。耳の分だけ縁を切り落とす必要があるので、素板を少し大きくする量の見積もりにも、異方性を入れたシミュレーションが役立つ。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
FLDで判定しない破断を見逃す主・副ひずみで判定
等方性の降伏関数絞りやすさ・耳がずれるHill48等とr値
しわ押さえ力を1値で決め打ちしわか破断範囲を探索
板厚方向の積分点が少ない曲げ・戻りの誤差5〜7点以上
工程を1つにまとめる限界絞り比を超える絞り比で工程を分割
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