OpenFOAM燃焼解析
理論:反応流の設定と燃焼モデル
概要
OpenFOAMで燃焼を解くには、普通の流れの計算に何を足せばよいのですか?
化学種の輸送、反応、そして反応と乱流の関係の3つだ。reactingFoamでは、各化学種の質量分率の輸送方程式をエネルギー方程式と一緒に解き、反応による生成・消滅と発熱を加える。化学種の熱物性(JANAFの多項式など)と反応式・速度定数はconstant/thermoとconstant/reactionsに書く。反応は流れよりはるかに速い時間で進むので、化学反応の式は「硬い」常微分方程式になり、chemistryPropertiesで専用のODEソルバー(seulexやRosenbrock法など)を選ぶ。さらに乱流の中では、セルより小さな渦の中で燃料と酸素が混ざる速さが反応を左右するので、combustionPropertiesでEDCやPaSRといった燃焼モデルを選ぶ。燃焼解析の多くの失敗は、この3つのどこかの設定の食い違いから起きる。
量論比
メタン1モルを完全に燃やすのに必要な空気の量。数字は分子量(g/mol)。
発熱量と火炎の厚さ
ṁ_f は燃料の質量流量、LHV は低位発熱量(メタン約50 MJ/kg)、α は未燃ガスの温度伝導率、S_L は層流燃焼速度、δ_d は拡散的な厚さ、δ_th は温度勾配で定義した熱的な厚さ。
GRI-Mech:メタン燃焼の標準反応機構
天然ガスの燃焼の詳細な反応機構としてよく使われるGRI-Mech 3.0は、米国のガス研究所(Gas Research Institute)の支援で1990年代にまとめられ、53化学種・325反応からなる。実験値と照合して速度定数を最適化しているため、燃焼速度や着火遅れの検証の基準として今も広く使われる。ただし3次元の乱流燃焼にそのまま使うと計算が非常に重くなるので、実務では化学種を数個〜数十個に減らした縮約機構を使うことが多い。
計算例
量論比は乾燥空気をO₂ + 3.76N₂とした完全燃焼の手計算。火炎速度・厚さは機構、輸送物性、圧力、入口温度と定義で変わる参考尺度で、reactingFoamの実行結果ではない。設定ファイルは发行版・ソルバーの付属例に合わせる。
例:メタン-空気(常温・大気圧)
| 項目 | 値 | 使いどころ |
|---|---|---|
| 量論の空燃比(質量) | 17.1 | 入口条件の確認 |
| 量論混合気のCH₄・O₂の質量分率 | 0.055 / 0.220 | 初期・入口の質量分率 |
| 燃料1 g/sの発熱 | 50 kW | エネルギー収支の確認 |
| 空気流量(当量比1.0 / 0.8) | 17.1 / 21.4 g/s | 入口流量 |
| 層流燃焼速度(文献値) | ≈ 0.37 m/s | 1次元火炎の検証 |
| 拡散的な厚さ α/S_L | 59 µm | |
| 熱的な厚さ(文献の目安) | ≈ 0.45 mm | セル45 µm以下で10セル |
| 断熱火炎温度(化学平衡の代表値) | ≈ 2,230 K | 最高温度の上限の目安 |
層流燃焼速度・熱的な厚さ・断熱火炎温度は文献の代表値。1次元の層流火炎をreactingFoamで解き、燃焼速度と最高温度がこれらに近いことを確かめてから、乱流燃焼の本計算に進むのが安全だ。
燃焼器の計算で、最高温度が2,600 Kを超えました。どこがおかしいのでしょうか?
まず入口温度・圧力・組成と化学モデルを確認しよう。常温・大気圧・空気のメタン火炎の平衡温度は約2,200 Kという比較尺度になるが、どんな条件でも同じ上限ではない。1段反応は解離を再現せず、2段反応に替えるだけで必ず改善するともいえない。検証済みの機構、温度依存の熱物性を用い、Cantera等の同条件の平衡・一次元火炎計算と比較して、熱損失や乱流モデルの影響を切り分けよう。
実務での進め方
- 反応機構(総括反応・縮約機構・詳細機構)を、必要な精度と計算量から選ぶ。
- 1次元の層流火炎で、燃焼速度と断熱火炎温度を文献値と比べる。
- 乱流燃焼モデル(EDC・PaSRなど)と化学反応のODEソルバーを設定する。
- 入口の流量・質量分率をエネルギー収支と量論比で確かめてから本計算を行う。
- 出口温度・組成、壁温を測定や設計値と比べ、放射や熱損失の扱いを調整する。
「化学の時間刻みは流れより短い」
燃焼の計算が遅い原因の多くは化学反応の積分にある。反応の時間スケールはマイクロ秒以下のこともあり、流れの時間刻み(クーラン数で決まる)の中で、ODEソルバーがさらに細かい刻みで反応を積分している。OpenFOAMではTDAC(タブ化と縮約を組み合わせた高速化)や、反応が進まない低温のセルを飛ばす設定で、計算時間を大きく減らせることがある。速さを優先して精度を落とす設定なので、層流火炎の検証で結果が変わらないことを確かめてから使う。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 1段総括反応のみ | 温度が数百K高い | 2段反応・縮約機構 |
| 比熱を一定 | 高温を過大評価 | 温度依存の熱物性 |
| 質量分率の合計が1でない | 組成と温度が誤る | 入口条件を検算 |
| 火炎をセルより薄いまま直接解く | 燃焼速度が誤る | 燃焼モデルか細分化 |
| 化学のODE設定が不適切 | 発散・極端に遅い | 硬い問題用のソルバー |
関連する内容も知りたいです。
関連するページは予混合火炎モデル、EDCモデル(Eddy Dissipation Concept)、化学反応速度論の基礎、OpenFOAM入門、OpenFOAM後処理が参考になる。
よくある質問
OpenFOAMで燃焼を解くソルバーは?
代表はreactingFoam(圧縮性・非定常・多成分の反応流)で、噴霧燃焼のsprayFoam、固定格子での燃焼ガス流れのrhoReactingFoamなどもあります。化学種と反応はconstant/reactions・thermo、燃焼モデルはconstant/combustionPropertiesで選び(laminar、EDC、PaSRなど)、化学反応式の積分はchemistryPropertiesのODEソルバーで解きます。
火炎を直接メッシュで解くにはどれくらい細かくする必要がありますか?
メタン-空気の量論混合気(常温・大気圧)の層流火炎は、温度が変わる熱的な厚さが約0.45 mmです。その中に10セル以上入れるには45 µm以下のセルが必要で、装置全体をこの細かさにするのは現実的でありません。そのため実用の乱流燃焼では、EDCやPaSRのように火炎の内部構造をモデルで表す燃焼モデルを使います。
燃焼解析の結果はどう確かめますか?
まず保存量と既知の値で確かめます。燃料1 g/sのメタンなら発熱は約50 kW、量論の空気は17.1 g/sです。出口の燃焼ガスのエネルギー収支がこれと合うか、断熱条件の最高温度が量論で約2,230 K(化学平衡計算の代表値)を大きく超えていないかを見ます。超えていれば、熱物性や解離の扱いを疑います。
参考資料・検算の位置づけ
掲載値は本文の仮定に基づく教育用の参考計算。資料は理論・設定の参照先であり、本記事の数値を各ソフトで再現した証明ではない。設計・製造の判断には対象条件での検証が必要。
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