単振動(SHM)— 固有振動数・減衰比からFEM固有値解析まで
1. 単振動とは — 最も重要な振動モデル
タコマナローズ橋の崩落ってどういう現象なんですか? 振動と関係あると聞きましたが。
1940年にアメリカで起きた橋崩落事故だ。橋の固有振動数と風による渦励振(カルマン渦)の周期が偶然一致して、振動が急激に大きくなった。正確にはフラッタ不安定という空力弾性現象だけど、共振が根本原因に近い。単振動の共振メカニズムを理解すれば「なぜ小さな風でも巨大橋が崩れるか」が見えてくる。設計者が振動を考慮しなかった悲劇的な例だ。
単振動(Simple Harmonic Motion, SHM)は、「復元力が変位に比例し、変位中心に向かって働く」運動です。フックの法則 $F=-kx$ に従うばね-質量系が最も基本的な例です。
単振動が重要な理由:あらゆる線形振動系は、複数の単振動(固有モード)の重ね合わせとして表現できます(モード重ね合わせ法)。つまり単振動を理解することは、あらゆる複雑な振動現象を理解する土台となります。
2. 単振動の方程式と固有振動数
フックの法則 $F = -kx$ をニュートンの第2法則 $F = ma = m\ddot{x}$ に代入:
この2階線形常微分方程式の一般解は:
固有角振動数(Natural Angular Frequency):
固有振動数(Natural Frequency)と固有周期(Natural Period):
固有振動数を上げたいときはどうすればいいんですか?
$\omega_n=\sqrt{k/m}$ だから、剛性 $k$ を上げるか質量 $m$ を減らすかだ。自動車なら車体を軽量化($m$を下げる)しつつボディ剛性($k$を上げる)を両立するのが「走る・曲がる・止まる」の高性能化につながる。でも乗り心地との兼ね合いもある。CAEではモーダル解析で問題のある振動モードを特定してから、剛性アップと軽量化を同時に追求する設計を繰り返す。
3. 単振子と近似
長さ $L$ の単振子(振れ角が小さい場合):
$L=1\,\text{m}$ の場合:$T = 2\pi\sqrt{1/9.81} = 2.006\,\text{s}$。これが時計の振り子(1往復2秒 → 1秒を刻む)の原理です。
ただし小角近似($\theta \ll 1\,\text{rad}$)を使っており、振れ角が大きくなると $T$ が長くなる(非線形効果)。FEMでは梁要素のたわみが大きい場合に幾何学的非線形が現れ、固有振動数が変化する(プリストレス効果、スピンアップ効果)現象と同じ原理です。
4. 減衰振動(1自由度減衰系)
現実の振動系には必ず減衰があります(内部摩擦・空気抵抗・構造接合部の摩擦):
減衰比(Damping Ratio):
3つの減衰領域
不足減衰(Underdamped, $\zeta < 1$):振動しながら減衰する。最も一般的なケース。
臨界減衰(Critically Damped, $\zeta = 1$):振動せずに最も速く収束。ドアダンパーの設計目標。
過減衰(Overdamped, $\zeta > 1$):振動せず、ゆっくりと収束。粘性が高い場合。
| 構造物の種類 | 代表的な減衰比 $\zeta$ | 備考 |
|---|---|---|
| 溶接鋼構造 | 0.01〜0.02 | 軽微な減衰、共振が起きやすい |
| ボルト締結鋼構造 | 0.02〜0.04 | 接合部摩擦で増加 |
| RC(鉄筋コンクリート) | 0.03〜0.08 | ひび割れで増加 |
| 木造建築 | 0.03〜0.08 | 接合部の多さで比較的高い |
| 免震装置(積層ゴム) | 0.10〜0.20 | 意図的に減衰を設計 |
| タイヤ(ゴム) | 0.10〜0.15 | 内部損失が高い |
5. 強制振動と共振
外部から周期的な力 $F_0\cos\Omega t$ が作用する場合:
定常状態の振幅倍率(動的倍率):
ここで $X_{st} = F_0/k$ は静的変位です。
共振時($\beta = 1$, $\Omega = \omega_n$)の振幅倍率:
鋼構造の $\zeta=0.01$ では $M=50$ 倍!これがタコマナローズ橋などの共振崩壊の原因です。
共振回避の設計指針
- 励振周波数(エンジン回転数・外部振動源)と固有振動数の比を $\beta < 0.7$ または $\beta > 1.3$ に保つ
- ダイナミックダンパー(吸振器)の付加
- 制振材料(粘弾性材料)の活用
6. 多自由度系(MDOF)への拡張
$n$ 個の質量-ばね系を連結した多自由度系:
自由振動・減衰なしの固有値問題:
$i = 1, 2, \ldots, n$ の解として $n$ 個の固有角振動数 $\omega_i$ と固有モード $\{\phi_i\}$ が得られます。
モード重ね合わせ法(Modal Superposition)
強制振動応答は各固有モードの独立した応答の和として求められます:
各 $q_i(t)$ は単振動(SDOF)の方程式を解くだけでよいため、計算が大幅に効率化されます。これがFEMモーダル解析の核心的なアイデアです。
7. FEM固有値解析(モーダル解析)
大規模FEMモデル(数百万自由度)の固有値問題を解くには反復法が使われます。最も広く使われるのがランチョス(Lanczos)法です。
ランチョス法の概要
- ランダムな初期ベクトルを出発点に、$[K]^{-1}[M]$ を繰り返し掛ける
- 各ステップで基底ベクトルを直交化(グラム-シュミット過程)
- 得られた小さな3重対角行列の固有値が元の大規模問題の固有値を近似
- 低次の固有モードを効率よく求められる
自動車設計でモーダル解析って何回くらいやるんですか? すごく時間がかかりそうで。
設計初期から最終確認まで何百回も回す。ボディ剛性が1Hz変わったら乗り心地に影響するし、ボンネット開閉の「ドン」という音(閉め音)が問題になって固有値を調整することもある。走行中の「ブーミング」(40〜100Hz帯の低周波騒音)もモーダル解析で原因追求する。CAEエンジニアは1日に何度もモーダル解析を回して設計変更の効果を確認するよ。
固有値解析のFEM入力と出力
入力:質量行列 $[M]$(密度・ジオメトリから自動計算)、剛性行列 $[K]$(ヤング率・ポアソン比・形状から自動計算)、境界条件
出力:固有振動数リスト(Hz)、固有モード形状(アニメーション表示)、有効質量(各モードへの質量参加率)
8. 実験モーダル解析(EMA)とV&V
FEMモーダル解析の検証には、実物の振動試験データが必要です。
試験手順
- 加振:インパクトハンマー(ハンマリング法)または電磁シェーカーで構造物を加振
- 計測:圧電加速度センサーで多点の振動加速度を測定
- FRF取得:力センサーからの入力力と加速度応答の伝達関数(周波数応答関数, FRF)を計算
- モード抽出:FRFから固有振動数・モード形状・減衰比を同定(Polymax、EFDD等のアルゴリズム)
FEM-EMAの相関確認(MAC)
モード形状の相関は Modal Assurance Criterion (MAC) で定量化されます:
$MAC_{ii} > 0.9$ で良い相関、$MAC_{ij} < 0.1$($i\neq j$)でモード間の直交性確保を目標とします。
9. 実践事例:建物の耐震設計
建物の1次固有周期は高さと共に長くなります(経験式):
地震の卓越周期(地盤種別で変化)と建物固有周期が一致すると共振が起き、地震被害が増大します。阪神大震災(1995年)では固有周期 0.6〜0.8 s の建物(5〜8階建て相当)で特に被害が大きかったとされています。
免震構造の原理
免震装置(積層ゴム支承)を建物基礎に設置することで、建物の固有周期を意図的に長くします($T \approx 3〜5\,\text{s}$)。一般的な地震動の卓越周期(0.5〜1.5 s)から外れることで、地震エネルギーの建物への入力を大幅に低減できます。これは共振を積極的に「回避」する設計です。免震建物の設計では、積層ゴムの非線形剛性と減衰特性を含む詳細なFEM動解析が必須です。