SRSS法(二乗和平方根法)

カテゴリ: 構造解析 | 統合版 2026-04-06
CAE visualization for srss combination theory - technical simulation diagram
SRSS法(二乗和平方根法)

理論と物理

SRSS法とは

🧑‍🎓

先生、SRSSって何ですか?


🎓

SRSS(Square Root of Sum of Squares)は各モードの最大応答を二乗和の平方根で合成する手法。


$$ R = \sqrt{\sum_{i=1}^{N} R_i^2} $$

🧑‍🎓

なぜ単純に足し算しないんですか?


🎓

各モードの最大応答は同時に発生しない。モード1がピークのとき、モード2はゼロかもしれない。統計的に非相関(独立)のランダム変数の合成はSRSSで行う。


SRSSの仮定と限界

🎓

SRSSの仮定:モード間が統計的に非相関。これが成り立つのはモードの固有振動数が十分離れている場合。


🎓

$f_{i+1} / f_i < 1.1$ の密集モードではモード間に相関があり、SRSSでは非保守的な結果になることがある。この場合はCQC法を使う。


まとめ

🎓

要点:


  • $R = \sqrt{\sum R_i^2}$ — 非相関モードの合成
  • モードが十分離れている場合に正確 — $f_{i+1}/f_i > 1.2$ が目安
  • 密集モードでは非保守的 → CQC法を使う
  • 歴史的に広く使われてきた — 現在はCQCが推奨される場合が多い

Coffee Break よもやま話

SRSSは原子力から耐震設計全般に普及した

SRSS(Square Root of the Sum of the Squares)法はE.L. Rosenbluethが1951年に「最悪ケースは確率論的に各モードの二乗和平方根」と提案したことが起源。1960年代にNASA宇宙機器の多モード振動解析に採用され、1970年代には原子力施設の耐震設計(AEC規格、後のNRC規制ガイド)を通じて世界標準になった。SRSS一語が「耐震解析の常識」を象徴するほど普及した。

各項の物理的意味
  • 慣性項(質量項):$\rho \ddot{u}$、つまり「質量×加速度」。急ブレーキで体が前に投げ出された経験はありませんか? あの「持っていかれる感じ」がまさに慣性力です。重い物体ほど動き出しにくく、動き出したら止まりにくい。地震で建物が揺れるのも、地面が急に動いたのに建物の質量が「置いていかれる」から。静解析ではこの項をゼロにしますが、それは「ゆっくり力をかけるから加速度は無視できる」という仮定です。衝撃荷重や振動問題では絶対に省略できません。
  • 剛性項(弾性復元力):$Ku$ や $\nabla \cdot \sigma$。ばねを引っ張ると「戻ろうとする力」を感じますよね? あれがフックの法則 $F=kx$ であり、剛性項の本質です。では質問——鉄の棒とゴム紐、同じ力で引っ張るとどちらが伸びるでしょうか? 当然ゴムです。この「伸びにくさ」がヤング率 $E$ であり、剛性を決めます。よくある勘違い:「剛性が高い=強い」ではありません。剛性は「変形しにくさ」、強度は「壊れにくさ」で、別の概念です。
  • 外力項(荷重項):体積力 $f_b$(重力など)と表面力 $f_s$(圧力、接触力など)。こう考えてみてください——橋の上のトラックの重さは「中身全体にかかる力」(体積力)、タイヤが路面を押す力は「表面だけにかかる力」(表面力)。風圧、水圧、ボルトの締付力…すべて外力です。ここでありがちな失敗:荷重の方向を間違える。「引張」のつもりが「圧縮」になっていた——笑い話に聞こえますが、3D空間で座標系が回転していると実際に起こります。
  • 減衰項:レイリー減衰 $C\dot{u} = (\alpha M + \beta K)\dot{u}$。ギターの弦を弾いてみてください。音は鳴り続けますか? いいえ、徐々に小さくなりますよね。振動エネルギーが空気抵抗や弦の内部摩擦で熱に変わるからです。車のショックアブソーバーも同じ原理——わざと振動エネルギーを吸収して乗り心地を良くしています。もし減衰がゼロだったら? 建物は地震の後いつまでも揺れ続けることになります。実際にはそうならないので、適切な減衰の設定が重要です。
仮定条件と適用限界
  • 連続体仮定:材料を連続的な媒質として扱い、ミクロな不均質性を無視する
  • 微小変形仮定(線形解析の場合):変形が初期寸法に比べて十分小さく、応力-歪み関係が線形
  • 等方性材料(特に指定がない場合):材料特性が方向に依存しない(異方性材料では別途テンソル定義が必要)
  • 準静的仮定(静解析の場合):慣性力・減衰力を無視し、外力と内力の釣り合いのみを考慮
  • 適用外ケース:大変形・大回転問題では幾何学的非線形性が必要。塑性・クリープ等の非線形材料挙動では構成則の拡張が必要
次元解析と単位系
変数SI単位注意点・換算メモ
変位 $u$m(メートル)mm入力時は荷重・弾性率もMPa/N系に統一すること
応力 $\sigma$Pa(パスカル)= N/m²MPa = 10⁶ Pa。降伏応力との比較時に単位系の不一致に注意
歪み $\varepsilon$無次元(m/m)工学歪みと対数歪みの区別に注意(大変形時)
弾性率 $E$Pa鋼: 約210 GPa、アルミ: 約70 GPa。温度依存性に注意
密度 $\rho$kg/m³mm系ではtonne/mm³(= 10⁻⁹ tonne/mm³ for 鋼)
力 $F$N(ニュートン)mm系ではN、m系ではNで統一

数値解法と実装

SRSSの計算

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各モードの最大応答 $R_i$(変位、応力、反力等)を求め、SRSSで合成。FEMソルバーが自動計算。


ソルバー設定

  • Nastran: PARAM, SRSS(SOL 103の後処理)
  • Abaqus: *RESPONSE SPECTRUM, COMBINATION=SRSS
  • Ansys: SRSS(SPECTR解析のデフォルトオプション)

まとめ

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  • 全ソルバーでSRSSが標準オプション
  • 計算は自動 — 各モードの応答をソルバーが合成
  • 密集モードがなければSRSSで十分

  • Coffee Break よもやま話

    絶対値和(ABS)とSRSSの差は最大40%

    モード応答の組み合わせで最も保守的な絶対値和(ABS法)は、全モードが同時に最大値をとると仮定するため過大評価になる。ABS法に比べてSRSSは統計的に30〜40%小さい推定値を与えることが多い。ASCE 7-22では「モード数≧3の場合はSRSSを使ってもよい」と規定しており、2モード以下の場合は保守側のABS法が要求される。この差を知らずにABSで過設計している事例が現場では今も多い。

    線形要素(1次要素)

    節点間を線形補間。計算コストは低いが、応力の精度が低い。せん断ロッキングに注意(低減積分やB-bar法で緩和)。

    2次要素(中間節点付き)

    曲線的な変形を表現可能。応力精度が大幅に向上するが、自由度は約2〜3倍に増加。推奨:応力評価が重要な場合。

    完全積分 vs 低減積分

    完全積分:過剰拘束(ロッキング)のリスク。低減積分:アワーグラスモード(零エネルギーモード)のリスク。適材適所で選択。

    アダプティブメッシュ

    誤差指標(ZZ推定量等)に基づく自動細分化。応力集中部の精度を効率的に向上。h法(要素分割)とp法(次数増加)がある。

    ニュートン・ラフソン法

    非線形解析の標準的手法。接線剛性マトリクスを毎反復更新。収束半径内で2次収束するが、計算コストが高い。

    修正ニュートン・ラフソン法

    接線剛性マトリクスを初期値または数反復毎に更新。各反復のコストは低いが、収束速度は線形的。

    収束判定基準

    力の残差ノルム: $||R|| / ||F_{ext}|| < \epsilon$(一般に $\epsilon = 10^{-3}$〜$10^{-6}$)。変位増分ノルム: $||\Delta u|| / ||u|| < \epsilon$。エネルギーノルム: $\Delta u \cdot R < \epsilon$

    荷重増分法

    全荷重を一度に負荷せず、小刻みに増加させる。弧長法(Riks法)は荷重-変位関係の極値点を越えて追跡可能。

    直接法 vs 反復法のたとえ

    直接法は「連立方程式を筆算で正確に解く」方法——確実だが大規模問題では時間がかかりすぎる。反復法は「当て推量を繰り返して正解に近づく」方法——最初は大雑把な答えだが、反復するたびに精度が上がる。辞書で言葉を探すとき、最初のページから順番に探す(直接法)より、見当をつけて開き、前後に調整する(反復法)方が効率的なのと同じ原理。

    メッシュの次数と精度の関係

    1次要素は「定規で曲線を近似する」——直線の折れ線で表現するため精度に限界がある。2次要素は「フレキシブルカーブ」——曲線的な変化を表現でき、同じメッシュ密度でも格段に精度が向上する。ただし、1要素あたりの計算コストは増えるため、トータルのコスト対効果で判断する。

    実践ガイド

    SRSSの実務

    🎓

    現在の設計コードではCQCが推奨されるが、SRSSも引き続き使われている。


    実務チェックリスト

    🎓
    • [ ] 密集モードがないか確認($f_{i+1}/f_i > 1.2$)
    • [ ] 密集モードがあればCQCに切り替え
    • [ ] 有効質量90%カバーのモード数を確保
    • [ ] SRSS結果が等価静的法のベースシアと整合するか

    • Coffee Break よもやま話

      東京湾アクアラインの耐震設計でSRSS採用

      東京湾横断道路(1997年開通)の海底トンネル部(海底以深最深60m)の耐震設計では、RC断面の多数モードを持つ構造にSRSS法が採用された。設計地震動はL2(50年超過確率2%)スペクトルを用い、10モードまでのSRSSを実施。当時の国内最大規模の海底構造耐震解析で、設計チームはNastran SOL 103→101の組み合わせワークフローを確立した。

      解析フローのたとえ

      解析の流れは、実は料理とそっくりです。まず材料を買い出し(CADモデルの準備)、下ごしらえをして(メッシュ生成)、火にかけて(ソルバー実行)、最後に盛り付ける(後処理で可視化)。ここで大事な問いかけ——料理で一番失敗しやすい工程はどこでしょう? 実は「下ごしらえ」なんです。メッシュの品質が悪いと、どんなに優秀なソルバーを使っても結果はめちゃくちゃになります。

      初心者が陥りやすい落とし穴

      あなたはメッシュ収束性を確認していますか? 「計算が回った=結果が正しい」と思っていませんか? これ、実はCAE初心者が最も陥りやすい罠です。ソルバーは与えられたメッシュで「それなりの答え」を必ず返します。でもメッシュが粗すぎれば、その答えは現実から大きくずれている。最低3段階のメッシュ密度で結果が安定することを確認する——これを怠ると「コンピュータが出した答えだから正しいはず」という危険な思い込みに陥ります。

      境界条件の考え方

      境界条件の設定は、試験の「問題文を書く」のと同じです。問題文が間違っていたら? どんなに正確に計算しても答えは間違いますよね。「この面は本当に完全固定なのか」「この荷重は本当に一様分布なのか」——現実の拘束条件を正しくモデル化することが、実は解析全体で最も重要なステップだったりします。

      ソフトウェア比較

      SRSSのツール

      🎓

      全てのFEMソルバーでSRSSが標準対応。差はない。CQCへの切り替えも全ソルバーで可能。


      選定ガイド

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      • 密集モードなし → SRSS(全ソルバーで対応)
      • 密集モードあり → CQC(全ソルバーで対応)
      • 設計コードの指定に従う — CQCが推奨される場合が増えている

      • Coffee Break よもやま話

        SAP2000のRSAモジュールはSRSS/CQC自動選択機能付き

        CSIのSAP2000 v22以降のResponse Spectrum Analysis(RSA)モジュールは、モード間隔比を自動計算してSRSSとCQCを動的に切り替える「Auto Combo」機能を搭載している。ユーザーが閾値(デフォルト10%)を設定すれば全モードペアを自動判定し、NRC RG 1.92に準拠した組み合わせを選択する。Ansys Mechanical 2022R1でも同様の自動選択機能が実装された。

        選定で最も重要な3つの問い

        • 「何を解くか」SRSS法(二乗和平方根法)に必要な物理モデル・要素タイプが対応しているか。例えば、流体ではLES対応の有無、構造では接触・大変形の対応能力が差になる。
        • 「誰が使うか」:初心者チームならGUIが充実したツール、経験者ならスクリプト駆動の柔軟なツールが適する。自動車のAT車(GUI)とMT車(スクリプト)の違いに似ている。
        • 「どこまで拡張するか」:将来の解析規模拡大(HPC対応)、他部門への展開、他ツールとの連携を見据えた選択が長期的なコスト削減につながる。

        先端技術

        SRSSの先端トピック

        🎓
        • SRSSの改良 — Grouping Method(密集モード群をまず絶対和、群間をSRSS)
        • 確率論的合成 — モード間の相関係数を確率論的に推定
        • SRSSからCQCへの移行 — 現代の設計コードでCQCが標準に

        • Coffee Break よもやま話

          SRSSが非保守になるケースが存在する

          SRSS法がCQCよりも非保守(危険側)になるケースが理論的に存在する。密接したモードのうち同位相で応答する成分(正の相関)がある場合、SRSSは過小評価する。Menun(2004年)はこの非保守性が特定の構造-入力組み合わせで最大+15%の過小評価を生むことを示した。実務ではモード間隔が10%未満の部分が一箇所でも存在したらCQCへ切り替えることが安全側の運用として定着している。

          トラブルシューティング

          SRSSのトラブル

          🎓
          • 応答が過小 → 密集モードでSRSSが非保守的。CQCに切り替え
          • ベースシアが概算と合わない → モード数不足。有効質量90%を確認
          • 特定方向の応答がゼロ → その方向にモードがない。入力方向を確認
          • 「SRSSで十分か」の判断 → 固有振動数の間隔を確認。$f_{i+1}/f_i > 1.2$ ならSRSS OK

          • Coffee Break よもやま話

            モード順序の自動ソートが落とし穴になる

            SRSS計算では固有周波数の昇順にモードを並べる必要があるが、一部のソルバー(特に旧バージョン)で固有値ソルバーの内部順序とSRSS適用順序が一致しないバグが報告されている。Nastran SOL 103のCASECONTROL`SORT = REAL`設定と`FREQ = ALL`の組み合わせ確認が必須。実際に2016年に国内橋梁設計事務所でソート不整合により応答値が12%過小評価された事例があった。

            「解析が合わない」と思ったら

            1. まず深呼吸——焦って設定をランダムに変えると、問題がさらに複雑になる
            2. 最小再現ケースを作る——SRSS法(二乗和平方根法)の問題を最も単純な形で再現する。「引き算のデバッグ」が最も効率的
            3. 1つだけ変えて再実行——複数の変更を同時に行うと、何が効いたか分からなくなる。科学実験と同じ「対照実験」の原則
            4. 物理に立ち返る——計算結果が「重力に逆らって物が浮く」ような非物理的な結果なら、入力データの根本的な間違いを疑う
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