SRSS法(二乗和平方根法)
理論と物理
SRSS法とは
先生、SRSSって何ですか?
SRSS(Square Root of Sum of Squares)は各モードの最大応答を二乗和の平方根で合成する手法。
なぜ単純に足し算しないんですか?
各モードの最大応答は同時に発生しない。モード1がピークのとき、モード2はゼロかもしれない。統計的に非相関(独立)のランダム変数の合成はSRSSで行う。
SRSSの仮定と限界
SRSSの仮定:モード間が統計的に非相関。これが成り立つのはモードの固有振動数が十分離れている場合。
$f_{i+1} / f_i < 1.1$ の密集モードではモード間に相関があり、SRSSでは非保守的な結果になることがある。この場合はCQC法を使う。
まとめ
要点:
- $R = \sqrt{\sum R_i^2}$ — 非相関モードの合成
- モードが十分離れている場合に正確 — $f_{i+1}/f_i > 1.2$ が目安
- 密集モードでは非保守的 → CQC法を使う
- 歴史的に広く使われてきた — 現在はCQCが推奨される場合が多い
SRSSは原子力から耐震設計全般に普及した
SRSS(Square Root of the Sum of the Squares)法はE.L. Rosenbluethが1951年に「最悪ケースは確率論的に各モードの二乗和平方根」と提案したことが起源。1960年代にNASA宇宙機器の多モード振動解析に採用され、1970年代には原子力施設の耐震設計(AEC規格、後のNRC規制ガイド)を通じて世界標準になった。SRSS一語が「耐震解析の常識」を象徴するほど普及した。
各項の物理的意味
- 慣性項(質量項):$\rho \ddot{u}$、つまり「質量×加速度」。急ブレーキで体が前に投げ出された経験はありませんか? あの「持っていかれる感じ」がまさに慣性力です。重い物体ほど動き出しにくく、動き出したら止まりにくい。地震で建物が揺れるのも、地面が急に動いたのに建物の質量が「置いていかれる」から。静解析ではこの項をゼロにしますが、それは「ゆっくり力をかけるから加速度は無視できる」という仮定です。衝撃荷重や振動問題では絶対に省略できません。
- 剛性項(弾性復元力):$Ku$ や $\nabla \cdot \sigma$。ばねを引っ張ると「戻ろうとする力」を感じますよね? あれがフックの法則 $F=kx$ であり、剛性項の本質です。では質問——鉄の棒とゴム紐、同じ力で引っ張るとどちらが伸びるでしょうか? 当然ゴムです。この「伸びにくさ」がヤング率 $E$ であり、剛性を決めます。よくある勘違い:「剛性が高い=強い」ではありません。剛性は「変形しにくさ」、強度は「壊れにくさ」で、別の概念です。
- 外力項(荷重項):体積力 $f_b$(重力など)と表面力 $f_s$(圧力、接触力など)。こう考えてみてください——橋の上のトラックの重さは「中身全体にかかる力」(体積力)、タイヤが路面を押す力は「表面だけにかかる力」(表面力)。風圧、水圧、ボルトの締付力…すべて外力です。ここでありがちな失敗:荷重の方向を間違える。「引張」のつもりが「圧縮」になっていた——笑い話に聞こえますが、3D空間で座標系が回転していると実際に起こります。
- 減衰項:レイリー減衰 $C\dot{u} = (\alpha M + \beta K)\dot{u}$。ギターの弦を弾いてみてください。音は鳴り続けますか? いいえ、徐々に小さくなりますよね。振動エネルギーが空気抵抗や弦の内部摩擦で熱に変わるからです。車のショックアブソーバーも同じ原理——わざと振動エネルギーを吸収して乗り心地を良くしています。もし減衰がゼロだったら? 建物は地震の後いつまでも揺れ続けることになります。実際にはそうならないので、適切な減衰の設定が重要です。
仮定条件と適用限界
次元解析と単位系
| 変数 | SI単位 | 注意点・換算メモ |
|---|---|---|
| 変位 $u$ | m(メートル) | mm入力時は荷重・弾性率もMPa/N系に統一すること |
| 応力 $\sigma$ | Pa(パスカル)= N/m² | MPa = 10⁶ Pa。降伏応力との比較時に単位系の不一致に注意 |
| 歪み $\varepsilon$ | 無次元(m/m) | 工学歪みと対数歪みの区別に注意(大変形時) |
| 弾性率 $E$ | Pa | 鋼: 約210 GPa、アルミ: 約70 GPa。温度依存性に注意 |
| 密度 $\rho$ | kg/m³ | mm系ではtonne/mm³(= 10⁻⁹ tonne/mm³ for 鋼) |
| 力 $F$ | N(ニュートン) | mm系ではN、m系ではNで統一 |
数値解法と実装
SRSSの計算
各モードの最大応答 $R_i$(変位、応力、反力等)を求め、SRSSで合成。FEMソルバーが自動計算。
ソルバー設定
- Nastran: PARAM, SRSS(SOL 103の後処理)
- Abaqus: *RESPONSE SPECTRUM, COMBINATION=SRSS
- Ansys: SRSS(SPECTR解析のデフォルトオプション)
まとめ
絶対値和(ABS)とSRSSの差は最大40%
モード応答の組み合わせで最も保守的な絶対値和(ABS法)は、全モードが同時に最大値をとると仮定するため過大評価になる。ABS法に比べてSRSSは統計的に30〜40%小さい推定値を与えることが多い。ASCE 7-22では「モード数≧3の場合はSRSSを使ってもよい」と規定しており、2モード以下の場合は保守側のABS法が要求される。この差を知らずにABSで過設計している事例が現場では今も多い。
線形要素(1次要素)
節点間を線形補間。計算コストは低いが、応力の精度が低い。せん断ロッキングに注意(低減積分やB-bar法で緩和)。
2次要素(中間節点付き)
曲線的な変形を表現可能。応力精度が大幅に向上するが、自由度は約2〜3倍に増加。推奨:応力評価が重要な場合。
完全積分 vs 低減積分
完全積分:過剰拘束(ロッキング)のリスク。低減積分:アワーグラスモード(零エネルギーモード)のリスク。適材適所で選択。
アダプティブメッシュ
誤差指標(ZZ推定量等)に基づく自動細分化。応力集中部の精度を効率的に向上。h法(要素分割)とp法(次数増加)がある。
ニュートン・ラフソン法
非線形解析の標準的手法。接線剛性マトリクスを毎反復更新。収束半径内で2次収束するが、計算コストが高い。
修正ニュートン・ラフソン法
接線剛性マトリクスを初期値または数反復毎に更新。各反復のコストは低いが、収束速度は線形的。
収束判定基準
力の残差ノルム: $||R|| / ||F_{ext}|| < \epsilon$(一般に $\epsilon = 10^{-3}$〜$10^{-6}$)。変位増分ノルム: $||\Delta u|| / ||u|| < \epsilon$。エネルギーノルム: $\Delta u \cdot R < \epsilon$
荷重増分法
全荷重を一度に負荷せず、小刻みに増加させる。弧長法(Riks法)は荷重-変位関係の極値点を越えて追跡可能。
直接法 vs 反復法のたとえ
直接法は「連立方程式を筆算で正確に解く」方法——確実だが大規模問題では時間がかかりすぎる。反復法は「当て推量を繰り返して正解に近づく」方法——最初は大雑把な答えだが、反復するたびに精度が上がる。辞書で言葉を探すとき、最初のページから順番に探す(直接法)より、見当をつけて開き、前後に調整する(反復法)方が効率的なのと同じ原理。
メッシュの次数と精度の関係
1次要素は「定規で曲線を近似する」——直線の折れ線で表現するため精度に限界がある。2次要素は「フレキシブルカーブ」——曲線的な変化を表現でき、同じメッシュ密度でも格段に精度が向上する。ただし、1要素あたりの計算コストは増えるため、トータルのコスト対効果で判断する。
実践ガイド
SRSSの実務
現在の設計コードではCQCが推奨されるが、SRSSも引き続き使われている。
実務チェックリスト
東京湾アクアラインの耐震設計でSRSS採用
東京湾横断道路(1997年開通)の海底トンネル部(海底以深最深60m)の耐震設計では、RC断面の多数モードを持つ構造にSRSS法が採用された。設計地震動はL2(50年超過確率2%)スペクトルを用い、10モードまでのSRSSを実施。当時の国内最大規模の海底構造耐震解析で、設計チームはNastran SOL 103→101の組み合わせワークフローを確立した。
解析フローのたとえ
解析の流れは、実は料理とそっくりです。まず材料を買い出し(CADモデルの準備)、下ごしらえをして(メッシュ生成)、火にかけて(ソルバー実行)、最後に盛り付ける(後処理で可視化)。ここで大事な問いかけ——料理で一番失敗しやすい工程はどこでしょう? 実は「下ごしらえ」なんです。メッシュの品質が悪いと、どんなに優秀なソルバーを使っても結果はめちゃくちゃになります。
初心者が陥りやすい落とし穴
あなたはメッシュ収束性を確認していますか? 「計算が回った=結果が正しい」と思っていませんか? これ、実はCAE初心者が最も陥りやすい罠です。ソルバーは与えられたメッシュで「それなりの答え」を必ず返します。でもメッシュが粗すぎれば、その答えは現実から大きくずれている。最低3段階のメッシュ密度で結果が安定することを確認する——これを怠ると「コンピュータが出した答えだから正しいはず」という危険な思い込みに陥ります。
境界条件の考え方
境界条件の設定は、試験の「問題文を書く」のと同じです。問題文が間違っていたら? どんなに正確に計算しても答えは間違いますよね。「この面は本当に完全固定なのか」「この荷重は本当に一様分布なのか」——現実の拘束条件を正しくモデル化することが、実は解析全体で最も重要なステップだったりします。
ソフトウェア比較
SRSSのツール
全てのFEMソルバーでSRSSが標準対応。差はない。CQCへの切り替えも全ソルバーで可能。
選定ガイド
SAP2000のRSAモジュールはSRSS/CQC自動選択機能付き
CSIのSAP2000 v22以降のResponse Spectrum Analysis(RSA)モジュールは、モード間隔比を自動計算してSRSSとCQCを動的に切り替える「Auto Combo」機能を搭載している。ユーザーが閾値(デフォルト10%)を設定すれば全モードペアを自動判定し、NRC RG 1.92に準拠した組み合わせを選択する。Ansys Mechanical 2022R1でも同様の自動選択機能が実装された。
選定で最も重要な3つの問い
- 「何を解くか」:SRSS法(二乗和平方根法)に必要な物理モデル・要素タイプが対応しているか。例えば、流体ではLES対応の有無、構造では接触・大変形の対応能力が差になる。
- 「誰が使うか」:初心者チームならGUIが充実したツール、経験者ならスクリプト駆動の柔軟なツールが適する。自動車のAT車(GUI)とMT車(スクリプト)の違いに似ている。
- 「どこまで拡張するか」:将来の解析規模拡大(HPC対応)、他部門への展開、他ツールとの連携を見据えた選択が長期的なコスト削減につながる。
先端技術
SRSSの先端トピック
SRSSが非保守になるケースが存在する
SRSS法がCQCよりも非保守(危険側)になるケースが理論的に存在する。密接したモードのうち同位相で応答する成分(正の相関)がある場合、SRSSは過小評価する。Menun(2004年)はこの非保守性が特定の構造-入力組み合わせで最大+15%の過小評価を生むことを示した。実務ではモード間隔が10%未満の部分が一箇所でも存在したらCQCへ切り替えることが安全側の運用として定着している。
トラブルシューティング
SRSSのトラブル
モード順序の自動ソートが落とし穴になる
SRSS計算では固有周波数の昇順にモードを並べる必要があるが、一部のソルバー(特に旧バージョン)で固有値ソルバーの内部順序とSRSS適用順序が一致しないバグが報告されている。Nastran SOL 103のCASECONTROL`SORT = REAL`設定と`FREQ = ALL`の組み合わせ確認が必須。実際に2016年に国内橋梁設計事務所でソート不整合により応答値が12%過小評価された事例があった。
「解析が合わない」と思ったら
- まず深呼吸——焦って設定をランダムに変えると、問題がさらに複雑になる
- 最小再現ケースを作る——SRSS法(二乗和平方根法)の問題を最も単純な形で再現する。「引き算のデバッグ」が最も効率的
- 1つだけ変えて再実行——複数の変更を同時に行うと、何が効いたか分からなくなる。科学実験と同じ「対照実験」の原則
- 物理に立ち返る——計算結果が「重力に逆らって物が浮く」ような非物理的な結果なら、入力データの根本的な間違いを疑う
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