混合対流(複合対流) — Richardson数による流れ領域判定
理論と物理
概要 — 混合対流とは何か
先生、複合対流って強制対流と自然対流が両方効いてる状態ですか? どっちかだけ考えればいい場面との境目がよくわからなくて…
そのとおり。「混合対流」あるいは「複合対流(mixed convection)」は、強制的な流れ(ファンやポンプ)と浮力による流れ(温度差で生じる密度差)が同時に効いている状態だ。
ポイントは、強制対流だけ・自然対流だけを仮定すると誤差が大きくなるゾーンが存在するということ。例えば電子機器のファン冷却で、ファンの風速が弱い低速域では浮力の影響が無視できないし、逆にデータセンターのホットアイルではサーバーの排熱が上昇気流を生んで、空調の強制気流と干渉する。
なるほど… じゃあ「どっちが支配的か」を数値で判定する方法があるんですか?
ある。それが Richardson数(Ri) だ。$\mathrm{Ri} = \mathrm{Gr}/\mathrm{Re}^2$ で定義される。浮力効果と慣性力効果の比を表す無次元数で、この値一つで流れの性格が決まる。
Richardson数による領域判定
Richardson数の具体的な判定基準を教えてください!
Richardson数の定義と流れ領域の分類はこうだ:
ここで $g$ は重力加速度、$\beta$ は体膨張係数、$T_s$ は壁面温度、$T_\infty$ は主流温度、$L$ は代表長さ、$U_\infty$ は主流速度である。
| Richardson数の範囲 | 流れ領域 | 支配的な伝熱メカニズム | 典型的な場面 |
|---|---|---|---|
| $\mathrm{Ri} < 0.1$ | 強制対流支配 | 慣性力 >> 浮力 | 高速ファン冷却、風洞実験 |
| $0.1 \leq \mathrm{Ri} \leq 10$ | 混合対流領域 | 慣性力 ≒ 浮力 | 低速ファン冷却、データセンター、HVAC |
| $\mathrm{Ri} > 10$ | 自然対流支配 | 浮力 >> 慣性力 | パッシブ放熱、自然換気、建屋内温度成層 |
$\mathrm{Ri} \approx 1$ あたりが一番厄介ということですね。具体的な数値例ってありますか?
例えば、サーバーラックの排気口付近を考えよう。排気温度 $T_s = 60\,^\circ\mathrm{C}$、周囲温度 $T_\infty = 25\,^\circ\mathrm{C}$、排気口高さ $L = 0.5\,\mathrm{m}$、空調の送風速度 $U_\infty = 0.8\,\mathrm{m/s}$ とする。空気の体膨張係数 $\beta \approx 1/T_\mathrm{avg} \approx 1/316\,\mathrm{K}^{-1}$ として:
$\mathrm{Ri} = \dfrac{9.81 \times (1/316) \times 35 \times 0.5}{0.8^2} \approx \dfrac{0.543}{0.64} \approx 0.85$
$\mathrm{Ri} \approx 0.85$ だから、まさに混合対流領域だ。強制対流だけの式で計算すると熱伝達を過小評価してしまうし、自然対流だけでは流速の影響を見逃す。
Nusselt数の合成則
混合対流のとき、Nu数ってどうやって計算するんですか? 強制対流のNuと自然対流のNuを足すだけ?
単純加算ではなく、Churchill-Usagiの合成則 を使う。べき乗和のかたちだ:
ここで:
- $n$ は合成指数。$n = 3$ が最も広く使われる(Incroperaの教科書、MorganのASMEレビュー等)。$n = 4$ を推奨する文献もある(Chenの垂直平板)。
- $+$(プラス): Aiding flow(助長流れ) — 浮力と強制流れが同方向
- $-$(マイナス): Opposing flow(対向流れ) — 浮力と強制流れが逆方向
え、$n = 3$ ということは単純な足し算じゃなくて3乗和の3乗根ということですか? なぜこんな形になるんですか?
物理的に言うと、強制対流と自然対流の境界層は独立に発達するわけではなく、相互に干渉する。単純加算($n=1$)だと干渉効果を過大評価してしまう。$n=3$ は実験データとの整合が最も良い「経験的に最適な値」で、Churchillが1977年に体系化した。
具体的に書くとこうだ:
この式って、$\mathrm{Ri} \ll 1$(強制対流支配)のときは自然に $\mathrm{Nu} \to \mathrm{Nu}_{\mathrm{forced}}$ に漸近するんですか?
するする。$\mathrm{Nu}_{\mathrm{natural}} \ll \mathrm{Nu}_{\mathrm{forced}}$ なら3乗してもほぼゼロだから、$\mathrm{Nu}_{\mathrm{mixed}} \approx \mathrm{Nu}_{\mathrm{forced}}$ に収束する。逆に $\mathrm{Ri} \gg 1$ なら $\mathrm{Nu}_{\mathrm{mixed}} \approx \mathrm{Nu}_{\mathrm{natural}}$ になる。つまりこの合成則は両極限で正しい漸近挙動を持っている。これがChurchillの合成則の優れたポイントだ。
Aiding flow vs. Opposing flow
さっきの式の「$\pm$」が気になります。aiding flowとopposing flowって具体的にどう違うんですか?
加熱された垂直壁を考えると分かりやすい。壁面近くでは温められた流体が上昇する浮力流れが生まれる。
- Aiding flow(助長流れ): 強制流れが下から上へ吹いている場合、浮力流れと同方向 → 境界層が薄くなりNuが増大
- Opposing flow(対向流れ): 強制流れが上から下へ吹いている場合、浮力流れと逆方向 → 境界層が厚くなりNuが低下、最悪の場合は剥離や逆流が発生
- Transverse flow(横断流れ): 強制流れが水平方向の場合、浮力と直交 → 3D的な二次流れが発生
opposing flowだと剥離が起きるんですか? それって実務的にはマズいですよね?
非常にマズい。例えば電子基板を垂直に立てて上から下に送風する設計をすると、基板下部(温度が高い部分)で浮力と強制流れが拮抗して再循環ゾーンが生じ、局所的な高温スポット(ホットスポット) ができることがある。実際に私が過去に担当した車載ECUの解析でも、opposing配置にしたら基板中央のICが熱暴走したケースがあった。設計段階でaiding配置にするだけで $\Delta T$ が15K以上改善したよ。
支配方程式(Boussinesq近似)
混合対流の支配方程式はどうなるんですか? 普通のNavier-Stokesと何が違うんでしょう?
基本はNavier-Stokes方程式だけど、浮力項を運動方程式に追加する のがポイントだ。最も広く使われるのがBoussinesq近似で、密度変化は浮力項のみに現れ、それ以外では密度一定とする。温度差が小さい($\beta \Delta T \ll 1$)場合に有効だ。
連続の式:
運動量方程式(Boussinesq近似):
エネルギー方程式:
運動量方程式の最後の項 $\rho_0 \beta (T - T_0) \mathbf{g}$ が浮力項ですね。温度差があると重力方向に力が生まれるということか。
そのとおり。重要な注意点を3つ挙げておく:
- Boussinesq近似の適用限界: $\beta \Delta T < 0.1$ 程度が目安。空気で $\Delta T > 30\,\mathrm{K}$ 程度になると非Boussinesqモデル(可変密度モデル)を検討すべき
- 重力方向の設定ミス: CFDソルバーで重力ベクトルの方向を間違えると、浮力の向きが逆転して全く意味のない結果になる。信じられないほど多い初心者ミスだ
- 参照温度 $T_0$ の選び方: 入口温度や環境温度を使うのが一般的。不適切な参照温度は浮力項の大きさを狂わせる
Boussinesq近似の妥当性チェック
- $\beta \Delta T$ の値を確認: 空気の場合 $\beta \approx 1/T_{\mathrm{avg}}$(理想気体近似)。$T_{\mathrm{avg}} = 300\,\mathrm{K}$、$\Delta T = 50\,\mathrm{K}$ なら $\beta \Delta T \approx 0.17$ → やや限界。$\Delta T = 100\,\mathrm{K}$ 以上なら可変密度モデルを使うべき。
- 水の場合: $\beta \approx 2.1 \times 10^{-4}\,\mathrm{K}^{-1}$(20℃付近)なので、$\Delta T = 50\,\mathrm{K}$ でも $\beta \Delta T \approx 0.01$ → Boussinesq近似が十分成立。
- 密度変化の実際の影響: Boussinesq近似を使うと圧縮性効果を無視するため、高温ガスの膨張による速度場への影響が抜け落ちる。燃焼場のような大温度差ではLow-Mach数近似やフル圧縮性解法が必要。
主要な無次元数の定義と関係
| 無次元数 | 定義 | 物理的意味 |
|---|---|---|
| Grashof数 $\mathrm{Gr}$ | $\dfrac{g \beta \Delta T L^3}{\nu^2}$ | 浮力 / 粘性力(自然対流のReynolds数に相当) |
| Reynolds数 $\mathrm{Re}$ | $\dfrac{U L}{\nu}$ | 慣性力 / 粘性力 |
| Richardson数 $\mathrm{Ri}$ | $\dfrac{\mathrm{Gr}}{\mathrm{Re}^2}$ | 浮力 / 慣性力(混合対流の判定指標) |
| Rayleigh数 $\mathrm{Ra}$ | $\mathrm{Gr} \cdot \mathrm{Pr}$ | 浮力 / (熱拡散 × 粘性拡散) |
| Prandtl数 $\mathrm{Pr}$ | $\nu / \alpha$ | 運動量拡散 / 熱拡散 |
Richardson数の名前の由来
Richardson数は、イギリスの数学者・気象学者 Lewis Fry Richardson(1881-1953)に因む。彼は1920年代に大気の安定性を評価するために「浮力効果と流れの剪断効果の比」という概念を提案した。もともとは気象学の文脈で生まれた数だが、その後工学の熱流体分野に転用され、混合対流の支配パラメータとして広く使われるようになった。ちなみにRichardsonは「天気予報を数値計算で行う」というアイデアを最初に実行した人物でもあり、現代の数値天気予報の祖とも言われている。
数値解法と実装
離散化戦略
混合対流をCFDで解くとき、離散化で特に気をつけることってありますか?
混合対流は運動量方程式とエネルギー方程式が浮力項を通じて強く結合している。だから離散化のポイントは普通のCFDよりシビアだ:
- 空間離散化: 対流項には最低でも2次精度以上のスキーム(2次風上、QUICK、MUSCL等)を使う。1次風上差分は数値拡散が大きすぎて、浮力による繊細な流れパターンを潰してしまう
- 圧力-速度連成: SIMPLE系(SIMPLE、SIMPLEC)が定番。浮力が強い場合はCoupled Solverのほうが安定することが多い
- 時間離散化: 非定常解析(opposing flowで振動する場合が多い)では2次陰解法を推奨。CFL数は1以下に保つ
1次風上だとダメなんですか? 構造系のFEMだと低次要素でもそこそこ使えるのに…
CFDの対流項は構造のそれとは性質が全然違う。1次風上の数値拡散はメッシュの粗さに比例するから、浮力プルーム(上昇流)がぼやけて消えてしまう。「ファンがあるのに浮力効果がゼロに見える」という結果が出たら、まず離散化スキームを疑え。
乱流モデルの選定
乱流モデルはどれを使えばいいですか? 普通のk-εでいけますか?
結論から言うと、標準k-εはおすすめしない。混合対流では浮力による乱流の生成と抑制が重要なのに、標準k-εの浮力項の扱いが不十分なんだ。推奨順はこうだ:
| 乱流モデル | 混合対流への適性 | 計算コスト | 備考 |
|---|---|---|---|
| SST k-ω | 良好 | 中 | 壁面近傍の浮力効果を比較的よく捕捉 |
| Realizable k-ε + 浮力補正 | 良好 | 中 | FluentのFull Buoyancy Effects有効化が必須 |
| k-ε-v²-f (V2F) | 優秀 | 中〜高 | 壁面近傍の非等方性を捕捉。STAR-CCM+で利用可 |
| RSM(Reynolds応力モデル) | 優秀 | 高 | 浮力乱流の異方性を正確に再現。収束がやや難 |
| LES | 最高精度 | 非常に高 | 研究用途や最終検証に |
Fluentの「Full Buoyancy Effects」って何ですか? デフォルトでオフなんですか?
そう、デフォルトではオフだ。この設定をオンにすると、乱流エネルギー方程式(k方程式)に浮力による乱流生成項 $G_b = -\beta g_i \dfrac{\mu_t}{\mathrm{Pr}_t} \dfrac{\partial T}{\partial x_i}$ が追加される。混合対流では必ず有効にすべき設定だ。オフのまま解析すると、浮力による乱流の増強・抑制が完全に無視されて、特にopposing flowで大きな誤差が出る。
収束テクニック
混合対流って収束しにくいイメージがあるんですが、何かコツはありますか?
混合対流は確かに収束しにくい。浮力と慣性力が拮抗しているから、解が振動しやすいんだ。実務で効果的なテクニックをまとめるよ:
- 初期条件の工夫: まず浮力なし($g=0$)で強制対流だけの解を収束させ、それを初期値にして重力を徐々にオン(under-relaxationで$g$を段階的に増加)にする
- Under-relaxation係数: 運動量を0.5→0.3、圧力を0.3→0.2に下げる。エネルギーは0.8〜0.9で比較的高めに保つ
- 定常→非定常切替: opposing flowでは本質的に非定常解しか存在しないケースがある。定常で収束しない場合は迷わず非定常解析に切り替える
- 残差の監視ポイント: 全体残差だけでなく、「壁面のNu」「特定断面の速度プロファイル」をモニターして物理的な収束を確認する
実践ガイド
電子機器の混合対流冷却
電子機器冷却で混合対流が問題になるのって、具体的にどんな場面ですか?
一番典型的なのは「ファンの回転数が落ちたとき」だ。正常動作時はファンの風速が十分高く、$\mathrm{Ri} \ll 0.1$ で強制対流として問題ない。ところが:
- ファンが経年劣化して回転数が低下
- 省電力モードでファンを低速運転
- 吸気口にフィルター目詰まりが発生
こういった状況では風速が下がって $\mathrm{Ri}$ が上昇し、混合対流領域に入る。特にノートPCの薄型筐体では、ファンが弱まったときにCPU周辺の局所的な浮力流れが支配的になり、設計時の想定と実際の温度分布が大きく乖離することがある。
じゃあ、設計段階ではファン全開のときだけでなく、低速のケースもシミュレーションすべきということですね?
そのとおり。実務では最低3ケースを回す:
- ファン定格運転($\mathrm{Ri} < 0.1$、強制対流確認)
- ファン最低速運転($\mathrm{Ri}$ 計算して混合領域かチェック)
- ファン停止($\mathrm{Ri} \to \infty$、自然対流のみ)
特に3番目のファン停止ケースは安全設計上、TDP(Thermal Design Power)以下で部品の許容温度を超えないことを確認するために必須だ。
データセンターのホットアイル管理
データセンターでも混合対流が問題になるんですか? あそこって空調がガンガン効いてるイメージですけど…
データセンターは混合対流の宝庫だよ。ホットアイル(サーバー背面の排熱通路)では、サーバーからの高温排気が浮力で上昇する一方、天井のCRAC(Computer Room Air Conditioning)が冷気を送り下ろしている。この2つの流れの干渉がまさに混合対流だ。
実務で特に問題になるのは:
- Hot spot形成: ラック上部で排熱が蓄積し、上段のサーバーが下段より高温になる。これはopposing flow配置そのもの
- Re-circulation: コールドアイルの冷気がホットアイルに回り込む短絡流れ。浮力の影響を考慮しないと予測できない
- ブランクパネル未設置: 空きスロットから排熱が逆流する。$\mathrm{Ri} > 1$ の典型的な自然対流支配の逆流
メッシュ設計の要点
混合対流のメッシュで特に気をつけることはありますか?
壁面近傍のメッシュ品質が決定的に重要だ。なぜなら、壁面の温度勾配(→ 浮力のソース)と速度勾配(→ 壁面摩擦)の両方を正確に捕捉する必要があるから。
| 項目 | 推奨値 | 備考 |
|---|---|---|
| 壁面第一層 $y^+$ | $y^+ \leq 1$(壁面解像) | 壁関数は浮力効果を正しく反映しないため非推奨 |
| 壁面直交方向のセル数 | 温度境界層内に最低10層 | 温度境界層 ≠ 速度境界層。$\mathrm{Pr}$ で異なる |
| 成長率 | 1.1〜1.2 | 急激な成長は数値拡散を増大 |
| プルーム領域 | 細分化必須 | 浮力プルームの上昇域に十分な解像度 |
壁関数を使わないほうがいいんですか? 計算コストが増えそうですけど…
理想はLow-Re壁面解像だけど、実務ではスケーラブルな壁関数(Enhanced Wall Treatment等)を使うことも多い。ただし、壁関数は「壁面近傍の速度・温度プロファイルが対数則に従う」という仮定の上に立っているから、浮力で対数則が崩れるopposing flow条件では信頼性が低下する。メッシュ収束確認は絶対にサボるな。
境界条件の設定指針
混合対流で境界条件の設定ミスが多いって聞きました。何に気をつければ?
混合対流特有の落とし穴をいくつか挙げよう:
- 出口境界条件: 圧力出口(pressure outlet)を使うこと。outflow境界条件は逆流を許容しないソルバーがあり、opposing flowで浮力による逆流が発生すると発散する
- 開放境界: 自然対流で流入・流出が不定な開放端には、pressure inletに静水圧プロファイルを設定する。均一圧力を指定すると、温度差による密度差が駆動力として正しく作用しない
- 重力方向と参照密度: 前述のとおり、重力ベクトルの設定ミスは致命的。Boussinesq近似では Operating Density を適切に設定する(Fluentでは「Operating Conditions」で指定)
- 壁面の熱条件: 等温壁(Dirichlet)か等熱流束壁(Neumann)かで結果が大きく変わる。電子部品はTDP一定(等熱流束)、配管壁面は外気温度一定(等温壁に近い)が多い
ソフトウェア比較
商用ソルバーの混合対流対応
混合対流解析に使えるソフトって、何がおすすめですか?
主要なCFDソルバーはどれも混合対流に対応しているけど、設定の容易さと精度には差がある。比較するとこうだ:
| ソルバー | Boussinesq対応 | 可変密度 | 浮力補正乱流 | 特記事項 |
|---|---|---|---|---|
| Ansys Fluent | 標準搭載 | Incompressible Ideal Gas等 | Full Buoyancy Effects設定あり | Coupled Solverが混合対流に強い |
| STAR-CCM+ | 標準搭載 | 多数の密度モデル | 自動考慮 | ポリヘドラルメッシュが壁面層を自動生成 |
| COMSOL Multiphysics | 標準搭載 | Weakly Compressible Flow | 手動設定 | マルチフィジクス連成が容易 |
| OpenFOAM (buoyant系) | buoyantBoussinesqSimpleFoam | buoyantSimpleFoam | 手動実装 | 無償。設定の自由度は最高 |
| Ansys CFX | 標準搭載 | 対応 | Buoyancy Turbulence | Coupled Solverがデフォルト |
電子機器の熱設計に特化したソフトもあるんですか?
ある。FloTHERM(Siemens)やIcepak(Ansys)は電子機器冷却に特化していて、混合対流の設定が簡略化されている。ファンのP-Q特性曲線を入力するだけでファン+浮力の混合対流を自動的に解いてくれる。ただし汎用CFDほどの柔軟性はないから、複雑な形状や特殊な条件では汎用ソルバーに戻ることになる。
OpenFOAMでの実装
OpenFOAMで混合対流をやりたい場合、どのソルバーを使えばいいですか?
OpenFOAMの代表的なソルバー選択はこうだ:
- buoyantBoussinesqSimpleFoam: Boussinesq近似・定常・非圧縮。$\beta \Delta T < 0.1$ の混合対流に最適。最もよく使われる
- buoyantBoussinesqPimpleFoam: 同上の非定常版。Opposing flowで振動するケースに
- buoyantSimpleFoam: 可変密度・定常。大温度差の場合
- buoyantPimpleFoam: 可変密度・非定常。最も汎用的だが計算コスト高
constant/transportProperties で $\beta$(体膨張係数)と参照温度 $T_\mathrm{Ref}$ を設定し、constant/g で重力ベクトルを指定する。初心者がよく忘れるのが p_rgh(静水圧を除いた圧力)の初期条件設定だ。
先端技術
LES/DNSによる混合対流解析
混合対流の研究ではLESやDNSは使われているんですか?
使われている。特にopposing flowでの遷移現象や層流-乱流共存を正確に捕捉するにはLESが不可欠だ。最近の研究トレンドをいくつか紹介しよう:
- 垂直管内混合対流のDNS(You et al., 2003; Kasagi研究室): $\mathrm{Ri} = 0.01 \sim 1$ の範囲で乱流構造の変化を解明。Opposing flowでは壁面近傍の乱流が浮力で抑制され、「再層流化(laminarization)」が起きることを示した
- LESによるデータセンター室内環境: ラック列間の混合対流パターンをLESで解いた研究が増加中。RANSでは再現できない間欠的な熱プルームの挙動を捕捉
- Wall-modeled LES: 壁面近傍をモデル化して計算コストを大幅削減。産業スケールの混合対流に適用可能になりつつある
機械学習サロゲートモデル
混合対流にも機械学習が使われ始めているんですか?
うん、特に設計最適化の場面で活用が進んでいる。混合対流のCFDは1ケース数時間〜数日かかるから、設計空間の探索にそのまま使うのは非効率だ。そこで:
- Physics-Informed Neural Networks (PINNs): Boussinesq方程式を損失関数に組み込んだニューラルネット。少ないCFDデータで温度分布を予測
- サロゲートモデル: ファン風速、発熱量、筐体形状をパラメータとして、Nu数やTjunction(素子接合部温度)をGaussian Process等で近似
- Data-driven乱流モデル補正: RANS乱流モデルの浮力項の係数をDNS/LESデータから学習して補正する手法
ただし、opposing flowでの流れの双安定性(2つの安定解が存在する)など、本質的に非線形な現象は機械学習でも注意が必要だ。
トラブルシューティング
残差振動・発散
混合対流の解析で残差が全然収束しないんです… 何が原因でしょうか?
混合対流の残差が収束しない場合、原因の大半は以下の3つに分類できる:
- 本質的な非定常性: $0.5 \lesssim \mathrm{Ri} \lesssim 5$ の領域では、浮力と慣性力が拮抗して流れが振動的になる。これは物理的に正しい挙動であり、定常ソルバーでは収束しない。→ 対策: 非定常ソルバーに切り替え、時間平均でNu等の量を評価する
- Under-relaxation過大: 混合対流では運動量方程式とエネルギー方程式の結合が強いため、通常のCFDよりunder-relaxationを下げる必要がある。→ 対策: 運動量を0.3以下、圧力を0.2以下に設定
- 初期条件が不適切: ゼロ速度場からの起動では浮力項が最初から全力で効いて不安定になる。→ 対策: まず$g=0$で強制対流解を求め、その後$g$を段階的にオンにする
非物理的な温度分布
計算は収束したんですが、壁面温度が周囲温度より低くなる箇所が出てきました。加熱壁なのに…
典型的な数値アーティファクトだ。原因をチェックする順番はこうだ:
- 参照温度 $T_0$ の設定ミス: Boussinesq近似で参照温度が高すぎると、本来の加熱壁でも「冷却」方向に浮力が働くことがある。Operating Temperatureを入口温度に合わせているか確認
- Operating Density: Fluentで Boussinesq を使う場合、Operating Density を正しく設定しないと圧力場がおかしくなり、二次的に温度場も崩れる
- 数値拡散による温度アンダーシュート: 1次風上差分で対流項を離散化すると、急激な温度変化の下流側でアンダーシュートが発生することがある。→ 2次精度以上のスキームに変更
- メッシュ品質: 壁面近傍のメッシュが歪んでいると、温度勾配の計算精度が著しく低下する。Non-orthogonality correctionを有効にする
Opposing flow条件での収束困難
Aiding flowだと普通に収束するのに、opposing flowにした途端に発散します。何が違うんですか?
Opposing flowは本質的に難しい。浮力と慣性力が逆方向に作用するから、壁面近傍で剥離再付着が起き、流れ場が複雑になる。特に $\mathrm{Ri} \approx 1$ 付近では、流れの向きが局所的に反転する「逆流ゾーン」が出現し、これが数値的不安定の元凶になる。
対処法をまとめると:
- 出口境界で逆流を許可: Pressure outletの「Backflow」条件に適切な温度を設定する。デフォルトの300Kのまま放置すると、逆流時に非物理的な冷気が流入して温度場が崩壊する
- 計算領域の延長: 出口を壁面から十分離す(10D以上)。逆流が計算領域境界に達すると数値的に不安定
- Coupled Solver: 圧力ベースの分離型ソルバー(SIMPLE)よりCoupled(圧力-速度連立)ソルバーのほうが安定
- 非定常解析: opposing flowでは定常解が存在しないことがある(渦放出のようなperiodic shedding)。この場合は非定常解析が唯一の選択肢
なるほど… opposing flowのときは最初から非定常で回すほうが安全ということですね。混合対流、奥が深いです。
その判断は正しい。混合対流は「簡単そうに見えて、実は2つの物理メカニズムの競合」という点で、CAEの中でも独特の難しさがある。Richardson数でまず領域判定をして、それに応じた解析戦略を立てる。これが最も効率的なアプローチだ。
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