密閉空間の自然対流
理論:閉じ込められた空気が動き出す条件
概要
複層ガラスの空気層は厚いほうが断熱によいと思っていたのですが、12 mmくらいが多いのはなぜですか?
空気は動かなければよい断熱材だけど、空間が厚くなると動き出すからだよ。暖かいガラス側で温まった空気は上へ、冷たいガラス側で冷えた空気は下へ動いて、空間の中をぐるぐる回る流れができる。そうなると熱は伝導だけでなく流れでも運ばれる。薄いうちは厚くするほど伝導の抵抗が増えて得をするけど、ある厚さを超えると対流が始まって得が打ち消される。その境目を決めるのがレイリー数なんだ。
レイリー数
$L$ は向かい合う壁の間隔、$\Delta T$ は壁の温度差。間隔の3乗で効くので、厚さを2倍にするとレイリー数は8倍になる。水平な空間を下から温める場合は約1,708を超えると対流が始まる(レイリー・ベナール対流)。縦の空間では、低いレイリー数でも弱い循環はあるが、熱の伝わり方はほぼ伝導と同じになる。
縦長の空洞の相関式
$H$ は空洞の高さ。高さと間隔の比が大きいほど、上下の端の影響が相対的に小さくなる。適用範囲の外、特にレイリー数が1万より小さいところではこの式は使えず、ヌセルト数は約1(伝導だけ)とみなす。
ベナールの六角形のセル
1900年、フランスのベナールは、下から温めた薄い油の層に、六角形のきれいな模様(対流のセル)が並ぶことを観察した。1916年にレイリー卿がこれを理論で説明し、温度差と層の厚さの組み合わせがある値を超えると流れが始まることを示した。これがレイリー数の名前の由来だ。のちに、ベナールの模様の多くは実は表面張力の温度変化による流れ(マランゴニ対流)だったことがわかったが、2人の名前は今も対流の出発点として並べて呼ばれている。
計算例:複層ガラスの空気層
高さ1 m、ガラスの温度差15 K、空気の平均温度約10 ℃として、空気層の熱の通りやすさ(伝導と対流、放射は除く)を求めた。
| 空気層の厚さ | レイリー数 | ヌセルト数 | 熱の通りやすさ | 伝導だけの場合 |
|---|---|---|---|---|
| 6 mm | 395 | 1.00 | 4.17 W/(m²·K) | 4.17 |
| 12 mm | 3,160 | 1.00 | 2.08 W/(m²·K) | 2.08 |
| 16 mm | 7,500 | 1.13 | 1.76 W/(m²·K) | 1.56 |
| 20 mm | 14,600 | 1.42 | 1.78 W/(m²·K) | 1.25 |
| 30 mm | 49,400 | 2.18 | 1.82 W/(m²·K) | 0.83 |
16 mmより厚くしても、ほとんど下がらないんですね。
そう。伝導だけなら30 mmで0.83まで下がるはずなのに、対流が始まって1.82に戻ってしまう。厚くしてもガラスが重く、枠も太くなるだけだ。実際の製品が12〜16 mmあたりなのはこのためだね。なお16 mm付近は相関式の適用範囲の端で、実際の値はなだらかに移り変わるから、最小の位置は12〜20 mmくらいの幅で考えたほうがいい。温度差が大きいほどレイリー数が大きくなって、最適な厚さは少し薄い側へずれる。
アルゴンを封入した場合
同じ16 mmにアルゴンを入れると、熱伝導率が小さいぶん熱の通りやすさは1.76から1.31 W/(m²·K)に下がる。ただし窓全体では、ガラスどうしの放射でも1 m²あたり数W/(m²·K)分の熱が伝わるので、ガラスの表面に放射を抑える膜(Low-E膜)を付けて初めて、ガスの違いが大きく効いてくる。
解析の進め方
CFDでの注意点
- 壁近くの格子:温度と速度の境界層が壁ぎわに薄くできるので、壁に垂直な方向を細かく分ける。
- 放射を忘れない:空気の空間では放射が伝導・対流と同じかそれ以上になる。
- 非定常になることがある:レイリー数が大きいと流れが周期的に揺れる。定常計算が収束しないときは非定常で平均をとる。
- 端の条件:上下の端や枠の熱の逃げ方で、角の温度が大きく変わる。結露の判定では特に大事。
「電子機器の箱の中は思ったより熱い」
密閉した電子機器の箱の中で、基板の温度を箱の外の空気との温度差だけで見積もると、実際より低く出ることがある。箱の中の空気は密閉空間の自然対流で循環するが、その流れは弱く、上のほうに熱い空気がたまる。箱の上部に置いた部品は、下の部品より10 K以上熱くなることも珍しくない。解析では箱の中の空気の流れまで解き、部品の配置で上下の温度差を確かめるとよい。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 厚いほど断熱と考える | 対策が効かない | レイリー数で判断 |
| 相関式を範囲外で使う | 熱伝達を誤る | 適用範囲を確認 |
| 放射を除いて評価 | 熱損失を大きく過小評価 | 放射を同時に解く |
| 定常計算で振動を無視 | 収束しない・値がぶれる | 非定常で平均 |
| 箱の中の空気を一様と仮定 | 上部の部品を過小評価 | 内部の流れを解く |
自然対流の計算を自分でも試したいです。
自然対流シミュレーターとグラスホフ数の計算で無次元数と熱伝達、対流セルのシミュレーターで対流のセルを試せるよ。関連する形は垂直平板の自然対流、レイリー・ベナール対流、垂直流路の自然対流、無次元数の意味はグラスホフ数とレイリー数の記事にある。
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