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AM・金属粉末造形

金属AM 熱変形・残留応力予測シミュレーター — Inherent Strain 法

LPBF・EBM・DED で造形した金属部品の反り(warping)と残留応力を Inherent Strain 法で概算するツールです。レーザーパワー・走査速度・層厚を変えてエネルギー密度のプロセスウィンドウを確認し、Ti-6Al-4V や Inconel 718 の熱変形リスクをビルド前に評価できます。

パラメータ設定
材料
ヤング率 E・熱膨張係数 α・降伏応力 σ_y を自動設定
プロセス
LPBF:レーザー粉末床/EBM:電子ビーム/DED:指向性エネルギー
部品代表寸法 L
mm
部品高さ h
mm
レーザーパワー P
W
走査速度 v
mm/s
層厚 t
μm
ハッチ間隔は 0.1 mm 固定として計算
計算結果
エネルギー密度 (J/mm³)
プロセス品質
残留応力 σ_res (MPa)
降伏応力比 σ_res/σ_y
熱変形 δ (mm)
ビルド時間 (h)
粉末床・レーザー走査・残留応力マップ

粉末層の上をレーザーが走査し、既造形部品に熱応力が蓄積していく様子を可視化します。色は局所応力(青→緑→橙→赤)。

プロセスマップ — レーザーパワー P と走査速度 v
材料別の残留応力・熱変形比較
理論・主要公式

$$E = \frac{P}{v \cdot h \cdot t}, \qquad \epsilon^{ } = \alpha\,(T_m - T_0)\cdot 0.5, \qquad \delta \approx \frac{\epsilon^{ } L^{2}}{h}$$

E:体積エネルギー密度 [J/mm³]、ε*:固有歪み(Inherent Strain)、δ:反り変位、α:熱膨張係数、L:部品代表寸法、h:部品高さ。係数 0.5 は弾性回復を簡略化した実験的補正。

$$\sigma_{\text{res}} = \min\!\bigl(\sigma_y,\; E\cdot\epsilon^{*}\bigr)$$

残留応力は弾性拘束 E·ε* と材料降伏応力 σ_y のうち小さい方。降伏すると塑性変形でクリップされ、これ以上応力は増えない。

金属AM 熱変形・残留応力予測 — Inherent Strain 法

🙋
金属の3Dプリンタって、レーザーで粉を溶かして固めるんですよね?でもなぜ部品が反ったり、ヒビが入ったりするんですか?
🎓
いいところに目を付けたね。LPBF(レーザー粉末床溶融)では、直径 0.1 mm くらいの溶融池が 1m/s 近い速度で動きながら、毎秒 100 万度(10⁶ K/s)で冷えていく。これが何百層も積み重なる。各層が冷えるとき、下の固まった部品に拘束されて自由に縮めないから、その分が「残留応力」として蓄積する。最終的に応力が降伏を超えると、サポートを外した瞬間に部品がベリッと反ったり、最悪は造形中にクラックが走ったりするんだ。
🙋
そんな複雑な現象、シミュレーションで予測できるんですか?毎層・毎パス計算したら何ヶ月もかかりそうですけど…
🎓
そのとおり、フルフィジクスで溶融池まで解こうとすると数百万メッシュ×数十万ステップになって、産業部品では現実的じゃない。そこで使われるのが Inherent Strain 法(Bugatti 2001)だよ。「層ごとに発生する塑性ひずみは、実は条件が同じならほぼ一定だ」と仮定して、それを実験で測った等価な「固有歪み ε*」として CAE に初期条件で与える。すると線形弾性解析だけで全体変形が出る。100〜1000 倍速くなって、Ansys Workbench Additive や Autodesk Netfabb はこれを採用しているんだ。
🙋
なるほど!じゃあ左の「レーザーパワー」と「走査速度」を変えると、エネルギー密度が変わって、変形量が変わるんですね?
🎓
そう。E = P/(v·h·t) で体積エネルギー密度が出るんだけど、Ti-6Al-4V の LPBF では 50〜80 J/mm³ が optimal。30 未満だと融け不足で気孔(lack of fusion)、150 を超えると蒸発でキーホール気孔ができる。デフォルトの P=250W、v=1200mm/s、t=30μm だと E=69.4 J/mm³ で「Optimal」になる。試しに走査速度を 3000 まで上げてみて。エネルギーが薄くなって「Lack of fusion」になるはずだ。逆に P=1000W にすると 277 J/mm³ で「Keyhole risk」だね。
🙋
材料を AlSi10Mg にすると反りが大きくなりました。なぜですか?
🎓
熱膨張係数 α の違いだよ。Ti-6Al-4V は α≈9.4×10⁻⁶ /K だけど、AlSi10Mg は約 21×10⁻⁶ /K で 2 倍以上。ε* = α·ΔT·0.5 で固有歪みが直接 2 倍になるから、反り δ も比例して大きくなる。AlSi10Mg はブガッティ Chiron のエンジンマウントや BMW の i8 ルーフブラケットで実用化されているけど、薄肉構造ではサポートを密にして反りを抑えるのが鉄則。Inconel 718 は α は中程度(13×10⁻⁶)だけど降伏応力が 1100 MPa と高いので、応力が降伏でクリップされにくく、SpaceX Raptor のインジェクターでも応力解放熱処理(HIP)が必須なんだ。
🙋
熱変形を実機で減らす方法って、シミュレーション以外にもあるんですか?
🎓
たくさんあるよ。一番効くのが「ビルド方向の最適化」で、長い辺を Z 軸に立てて L を短くすれば δ ∝ L² でドラスティックに減る。次が「サポート密度の追加」で、拘束を高めて層間の自由収縮を抑える。EBM は最初から 700°C にプレヒートしているので T_0 が高く ε* が小さい——これが EBM が大型 Ti-6Al-4V 医療インプラントに強い理由だ。あとはスキャンストラテジ。島分割(island)やチェッカーボードで熱を分散させる、Magics Simulation で事前に「変形を逆向きに織り込んだ補正形状」を生成して打ち消す、というのも標準テクニックだね。

よくある質問

Inherent Strain 法は Bugatti(2001)が提案した金属AMの全体変形予測手法で、層ごとに発生する塑性ひずみを「等価初期歪み」として実験的に決定し、それを初期条件として線形弾性 CAE 解析を行うことで部品全体の反りや残留応力を高速に予測します。微小スケールの溶融池・凝固を直接解かないため、フルフィジクス熱応力解析と比べて 100〜1000 倍速く、Ansys Workbench Additive・Autodesk Netfabb・Materialise Magics Simulation・Simufact Additive などに実装されています。本ツールでは ε* = α(T_m - T_0)·0.5 という簡易式で固有歪みを推定し、片持ち梁プロキシ δ ≈ ε*·L²/h で反り量を概算します。
体積エネルギー密度 E = P/(v·h·t) [J/mm³] はレーザーパワー P、走査速度 v、ハッチ間隔 h、層厚 t で決まる「単位体積あたりの投入エネルギー」です。Ti-6Al-4V の LPBF では一般的に 50〜80 J/mm³ が optimal で、30 未満では融け不足(lack of fusion)気孔、150 を超えると蒸発によるキーホール気孔が発生します。本ツールはハッチを 0.1 mm 固定として E を算出し、30/80/150 J/mm³ のしきい値でプロセス品質を Lack of fusion / Optimal / Acceptable / Keyhole risk に4分類します。
残留応力 σ_res が降伏応力 σ_y の 80% を超えると、サポート除去や熱処理前の取り扱いで部品が反り、ベースプレートから剥離し、最悪は造形中にクラックが入ります。航空機エンジン部品(GE LEAP の燃料ノズル)やロケットエンジン(SpaceX Raptor のインジェクター)では、応力解放のための熱処理(HIP・ストレスリリーフ)を造形後に必ず行います。本ツールが返す σ_res は弾性的に拘束された ε*·E の上限を σ_y でクリップした値なので、降伏応力比 σ_res/σ_y が 0.95 を超える設計はサポート密度の追加や熱処理工程の見直しが必要です。
δ ≈ ε*·L²/h が示すように、まず大きく効くのは「代表寸法 L を短く、高さ h を高く」することです。長い水平面(オーバーハング)ほど反るので、ビルド方向を立てて L を短く取るのが基本です。次にビルドプレート加熱(EBM の 700°C 予熱が代表)で T_0 を上げ ε* を下げる、サポート構造を密にして拘束を高める、スキャンストラテジを島分割・チェッカーボードにして熱蓄積を分散する、というアプローチがあります。AlSi10Mg のように α が大きい材料は本質的に反りやすく、Ti-6Al-4V や Inconel 718 のように高温強度の高い材料は応力が降伏でクリップされず高残留応力で残りやすい、という材料別の特性も考慮します。

実世界での応用

航空機エンジン部品:GE Aviation の LEAP エンジン用燃料ノズルは Ti-6Al-4V / Co-Cr の LPBF 造形で、従来 20 部品の組立を 1 部品で実現しています。複雑な内部冷却流路をもつタービンブレードでは、サポート除去後の反りが翼端で 0.5 mm を超えるとエンジン組付け不能になるため、ビルド前に Inherent Strain 解析で逆変形補正(コンペンセーション)形状を生成し、造形ファイルを変形させて打ち消します。

ロケットエンジン・宇宙部品:SpaceX Raptor のメタンエンジン用インジェクター、Rocket Lab Rutherford の電動ポンプハウジングは Inconel 718 の LPBF で製造されています。高温・高圧サイクルに晒されるため、造形後の HIP(熱間等方圧加圧)で残留応力を解放し、内部気孔を圧着するのが標準工程です。本ツールの「降伏応力比」はその HIP 必要性の早期スクリーニング指標として使えます。

自動車・モビリティ:Bugatti Chiron のチタン製ブレーキキャリパー、BMW i8 ロードスターの AlSi10Mg ルーフブラケット、Bugatti のエンジンマウントなど、軽量化と複雑形状を両立する部品で実用化が進んでいます。AlSi10Mg は α が大きく反りやすいため、トポロジー最適化で剛性を確保しつつ、サポート設計で熱応力を逃がす設計が一般的です。

医療インプラント:股関節・脊椎ケージの Ti-6Al-4V インプラントは、骨成長を促進する多孔質構造を一体造形できる AM の代表用途です。EBM(Arcam, GE Additive)は 700°C 予熱で残留応力が LPBF の 1/5 程度に抑えられるため、大型インプラントで特に好まれます。本ツールでプロセスを EBM に切り替えると、同じ条件でも変形リスクが下がる傾向を確認できます。

よくある誤解と注意点

まず最大の落とし穴が、「エネルギー密度 E が同じなら同じ造形結果になる」という誤解です。E は P・v・h・t の積の逆数なので、たとえばパワーを 2 倍・速度を 2 倍にすれば E は同じです。しかし実際には溶融池の長さ・深さ、熱蓄積、急冷速度が全く異なります。高 P・高 v のほうがキーホール気孔が出やすく、低 P・低 v は熱影響域が広がって粒成長が起きます。E は「設計の出発点」であり、最適点は P と v を独立に振った 2D プロセスマップで探す必要があります(本ツールのプロセスマップグラフ参照)。

次に、「Inherent Strain 法で出た応力 σ_res が実機の応力と等しい」という思い込み。本手法はあくまで全体変形予測に最適化されたモデルで、ε* は実験キャリブレーションありきです。Ansys Additive のデフォルトでは Ti-6Al-4V LPBF の ε* ≈ 0.7〜1.5% が標準値ですが、機械(EOS M290 vs SLM 280 vs Renishaw RenAM 500)・粉末ロット・スキャンストラテジで容易に 30% 変わります。本ツールの簡易式は「相対比較」と「初期検討」に有効で、絶対値で部品設計の合否を判定する用途には、必ず実機キャリブレーションが必要です。

最後に、「サポートを密にすれば反りは消える」という単純化。サポートは確かに変形を拘束しますが、その分の応力はサポート除去時に部品本体に転移します。除去後に逆方向の反り(スプリングバック)が現れ、サポート跡には応力集中で疲労クラックの起点になります。実務では「サポート量を最小化する向き」と「逆変形補正形状で最初から反りを織り込んでおく」のセットで対応します。Materialise Magics Simulation や Autodesk Netfabb はこのコンペンセーション機能を標準搭載しているので、Inherent Strain 解析の結果は補正形状生成にこそ価値があると考えるべきです。

使い方ガイド

  1. 部品寸法(mm)、部品高さ(mm)を入力します。Ti-6Al-4V、AlSi10Mg、SS316L、Inconel 718、Cuから材料を選択してください。
  2. レーザー出力(W)とスキャン速度(mm/s)を設定し、エネルギー密度(J/mm³)を計算します。一般的にTi-6Al-4Vは80~120 J/mm³、AlSi10Mgは50~90 J/mm³が最適範囲です。
  3. シミュレーター実行後、残留応力σ_res(MPa)、降伏応力比σ_res/σ_y、熱変形δ(mm)、ビルド時間(h)がリアルタイム出力されます。

具体的な計算例

Ti-6Al-4V製造の例:部品寸法50mm、部品高さ30mm、レーザー出力200W、スキャン速度1000mm/sを入力すると、エネルギー密度は約100 J/mm³となります。Inherent Strain法により残留応力は約250~300MPa、降伏応力比0.35~0.42と推定され、熱変形は2.1~2.8mmです。ビルド時間は約4.2時間となります。一方AlSi10Mgで同一条件(レーザー出力150W、スキャン速度1200mm/s)の場合、エネルギー密度60 J/mm³、残留応力160~180MPa、熱変形1.4mmで、ビルド時間は3.8時間と予測されます。

実務での注意点

  1. Inconel 718はエネルギー密度110~140 J/mm³の範囲でHIPプロセス後の残留応力を85~120MPaに低減できます。過剰な出力設定は粗大結晶粒を招き、降伏応力比が0.5を超えると割れリスクが急増します。
  2. SS316L(オーステナイト系)は熱膨張係数15.9×10⁻⁶/K で反り感度が高く、δ>3mmの場合は支持構造体の追加設計が必須です。
  3. Cuはビルド中の局所過熱により200MPa超の残留応力が発生しやすいため、レーザー出力は150W以下に制限し、スキャン速度を1500mm/s以上に設定することを推奨します。
  4. 本シミュレーターの予測値は平均的なLPBF/EBM条件に基づいており、実際のプロセス品質(欠陥率、表面粗さ)は雰囲気制御、ノズル温度、粉末品質に依存します。