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流体解析

血流・血管力学シミュレーター(ポアズイユ流)

ハーゲン・ポアズイユ式で血流量・壁面せん断応力・ウォーマースリー数をリアルタイム計算。狭窄・血管タイプ・粘度を変えて動脈硬化リスクを評価。

パラメータ設定
血管タイプ
血管半径 R
mm
0.5 μm(毛細血管)〜 12 mm(大動脈)
血管長 L
cm
圧力差 ΔP
Pa
10 mmHg = 1333 Pa
血液粘度 μ
mPa·s
温度・ヘマトクリット依存
ヘマトクリット Hct
%
狭窄率
%
半径を縮小(0%=正常、90%=重篤狭窄)
心拍数 HR
bpm
計算結果
流量 Q [ml/min]
平均流速 [cm/s]
壁面せん断応力 τ_w [Pa]
レイノルズ数 Re
ウォーマースリー数 Wo
WSS リスク評価
速度プロファイル(断面)
流量 vs 半径(R⁴依存性)
狭窄率 vs 壁面せん断応力
理論・主要公式

$$Q = \frac{\pi R^4 \Delta P}{8 \mu L}$$

ハーゲン・ポアズイユ式。R:血管半径 [m]、ΔP:圧力差 [Pa]、μ:粘性係数 [Pa·s]、L:管長 [m]

$$\tau_w = \frac{4\mu Q}{\pi R^3} = \frac{R\,\Delta P}{2L}$$

壁面せん断応力 τ_w [Pa]。動脈硬化リスク評価では正常値 1〜2 Pa が目安

$$u(r) = \frac{\Delta P}{4\mu L}(R^2 - r^2)$$

ポアズイユ流の速度プロファイル(放物線分布)。r:中心からの距離 [m]

血流・血管力学シミュレーター(ポアズイユ流)とは

🙋
このシミュレーターで計算できる「壁面せん断応力」って何ですか?血管の健康と関係あるんですか?
🎓
大まかに言うと、血液の流れが血管の内壁を“こする力”だよ。血管の内側にある内皮細胞はこの力を感じ取っていて、正常な範囲(1〜7 Paくらい)だと健康を保つけど、低すぎると動脈硬化のリスクが高まるんだ。上の「狭窄率」のスライダーを動かしてみて。血管が細くなると、このせん断応力がどう変わるか確認してみよう。
🙋
え、血管が細くなると流れが速くなるから、せん断応力は上がるのではないですか?でも動脈硬化は細い血管で起こるんでしょ?矛盾してませんか?
🎓
良いところに気づいたね!実は臨床で問題になるのは、狭窄の「下流」で起こる“せん断応力の低下”なんだ。狭窄部では確かに流れが速くなり応力は上がるけど、その直後で流れが乱れて剥離し、逆流する領域ができる。この領域でせん断応力が極端に低くなり(0.4 Pa以下)、プラークがたまりやすくなる。シミュレーターで「狭窄率」を大きくすると、流量Qがガクンと減るのがわかるよね。これが下流の低せん断応力領域を作る原因なんだ。
🙋
なるほど!じゃあ「ヘマトクリット」や「血液粘度」を変えると、せん断応力や動脈硬化リスクはどう変わるんですか?
🎓
その通り、大きく関係するよ。ヘマトクリット(血液中の赤血球の割合)が高いと、血液粘度μも上がる。すると同じ圧力差でも流量Qが減り(ポアズイユ式の分母だね)、壁面せん断応力も下がる。脱水や多血症で血液が“ドロドロ”状態になると、動脈硬化リスクが高まる一因になるんだ。実際の診断では、このシミュレーターで計算する「ウォーマースリー数」という無次元数(粘度×心拍数/せん断応力)も、血栓のできやすさの指標として使われているよ。パラメータを動かして確かめてみて。

よくある質問

ハーゲン・ポアズイユ式では流量が半径の4乗に比例するため、半径が10%減少すると流量は約34%も低下します。狭窄スライダーを少し動かすだけで劇的に変化するのはこの物理法則によるもので、動脈硬化リスク評価において重要なポイントです。
ウォーマースリー数(α)は、血流の慣性力と粘性力の比を示す無次元数です。αが小さいと定常流(ポアズイユ流)に近く、大きいと拍動流の影響が強くなります。このツールでは血管タイプや狭窄度に応じてαが変化し、流れの性質を評価できます。
血管タイプ(大動脈・冠動脈・脳動脈など)を選択すると、標準的な血管半径・長さ・圧力差が自動設定されます。これにより、部位ごとの血流量や壁面せん断応力の違いを簡単に比較でき、動脈硬化の好発部位をシミュレーションできます。
本ツールは教育・研究目的のシミュレーターであり、実際の診断や治療判断に直接使用することはできません。理想的な定常層流を仮定しているため、個々の患者の血管形状や拍動の影響は反映されていません。あくまで動脈硬化リスクの定性的な理解にご利用ください。

実世界での応用

動脈硬化リスクの定量的評価:冠動脈や頸動脈の狭窄部を単純化した円管モデルとして扱い、狭窄率の変化が壁面せん断応力や流量に与える影響を迅速に評価します。臨床データと組み合わせて、治療が必要な狭窄の閾値(例えば70%狭窄)を理解するための教育的ツールとしても活用されます。

血管内治療デバイスの設計(CAE連携):血管ステント(網状の金属筒)を留置した後の血流を予測する際の基礎計算として利用されます。ステントによって拡張された血管半径Rを入力し、再狭窄のリスク指標となる壁面せん断応力が適正範囲内に収まるかを、本格的なCFDシミュレーションの前段階で簡易検証します。

血液疾患や薬剤効果の評価:貧血(ヘマトクリット低下)や多血症(ヘマトクリット上昇)、抗凝固剤の投与(粘度変化に影響)が全身の血流抵抗や心臓の負荷に与える影響を、パラメータを変えて定性的に理解するために用いられます。

人工臓器・医療機器の開発:人工心肺装置や人工腎臓(透析)の内部流路、あるいはLab-on-a-Chipなどの微小流路バイオリアクターを設計する際、所望の流量を得るための圧力や流路寸法を、層流条件(レイノルズ数<2300)の範囲で見積もる基礎計算として応用されています。

よくある誤解と注意点

このシミュレーターを使い始める際、特に初心者がつまずきやすいポイントがいくつかあります。まず第一に、「半径の4乗則は絶対的ではない」という点。確かにポアズイユの式 $Q \propto R^4$ は強力ですが、これはあくまで「真っ直ぐで硬い円管」「ニュートン流体」「定常流」という理想条件での話。実際の血管は曲がっていて、弾性があり、拍動流です。例えば、半径を2倍にすると流量は16倍になりますが、生体では血管の自動調節機能が働き、圧力が一定に保たれるよう調整されるので、ここまで単純には増えません。計算結果をそのまま臨床データと比較するのは危険です。

次に、「入口・出口の圧力差ΔPを固定して考える」という落とし穴。シミュレーターではΔPを固定パラメータとしていますが、実際の循環系では心拍出量(≒流量Q)がほぼ一定に保たれ、狭窄が起きるとそれを維持するためにΔPが上昇します(心臓の負担増)。「狭窄率を上げると流量Qが減る」という結果は、ΔPが変わらないという仮定での話。実務では「どのパラメータを独立変数とみなすか」を常に意識しましょう。

最後に、血液粘度μの扱い。ここでは「ヘマトクリット」で粘度を簡易的に変えていますが、実際の血液は「非ニュートン流体」で、せん断速度(流れの速さ)によって粘度が変わります。血管の中心部と壁面近くでは粘度が異なる可能性があります。学習ツールとしてはこれで十分ですが、研究や高度な設計に使う場合は、この仮定がもたらす誤差を頭に入れておく必要があります。