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粘性流体シミュレーター

クェット流れ シミュレーター — 平行平板間の粘性流

平行平板(上板速度 U、下板静止)の間の定常層流について、上板速度・隙間・粘性・圧力勾配を変えてせん断応力と単位幅流量、クェット+ポアズイユの合成プロファイルをリアルタイム可視化。

パラメータ設定
上板速度 U
m/s
隙間 h
mm
粘性係数 μ
Pa·s
圧力勾配 dp/dx
Pa/m

流体は水(ρ = 1000 kg/m³)を仮定します。dp/dx = 0 で純粋クェット流れ、U = 0 で純粋ポアズイユ流れになります。

計算結果
平均壁面せん断応力
単位幅流量
平均流速
Reynolds 数
平板間の速度プロファイル

上=動板(速度 U)/下=静止板/矢印=速度ベクトル(クェット直線+ポアズイユ放物線の合成)/逆流は赤色で表示

正規化プロファイル u/U vs y/h

横軸=y/h [0, 1]/縦軸=u/U/青実線=合成プロファイル/灰破線=純粋クェット直線(参照)

理論・主要公式

平行平板間(上板速度 U、下板静止、隙間 h)の定常層流は、ナビエ・ストークス方程式から解析的に解け、クェット直線とポアズイユ放物線の重ね合わせになります。圧力勾配 dp/dx を含む一般解:

$$u(y) = U\,\frac{y}{h} - \frac{1}{2\mu}\,\frac{dp}{dx}\,y(h-y)$$

上下板の壁面せん断応力(ニュートン粘性則 $\tau = \mu\,du/dy$):

$$\tau_{\mathrm{top}} = \frac{\mu U}{h} - \frac{h}{2}\frac{dp}{dx},\qquad \tau_{\mathrm{bot}} = \frac{\mu U}{h} + \frac{h}{2}\frac{dp}{dx}$$

単位幅当たりの体積流量と平均流速:

$$Q' = \int_{0}^{h} u\,dy = \frac{Uh}{2} - \frac{h^{3}}{12\mu}\frac{dp}{dx},\qquad V_{\mathrm{avg}} = \frac{Q'}{h}$$

レイノルズ数(代表長さに隙間 $h$、代表速度に $U$):

$$Re = \frac{\rho\,U\,h}{\mu}$$

$U$ は上板速度 [m/s]、$h$ は隙間 [m]、$\mu$ は粘性係数 [Pa·s]、$dp/dx$ は流れ方向圧力勾配 [Pa/m]、$\rho$ は密度 [kg/m³]、$y$ は下板からの高さです。

クェット流れ シミュレーターとは

🙋
「クェット流れ」って初めて聞きました。ハーゲン・ポアズイユとは何が違うんですか?
🎓
ポアズイユが「圧力で押し流す」流れなのに対して、クェットは「板をずらして引きずる」流れだ。下の板を固定して上の板を速度 U で動かすと、間の流体が粘性に引きずられて層状に滑る。圧力勾配がゼロなら、速度は底(u=0)から天井(u=U)まできれいに直線で繋がる——これが純粋クェット流れだ。式は $u(y) = U y/h$ と一行で済むよ。
🙋
え、放物線じゃなくて直線なんですか?円管のときは確か放物線でしたよね?
🎓
そう、駆動メカニズムが違うから形も違う。クェット流れは板の動きが境界条件を「ずらす」だけで、内部に体積力がないから運動方程式は $\mu\,d^2u/dy^2 = 0$ になる——その解は線形。逆に圧力勾配を入れると右辺に定数が乗って $\mu\,d^2u/dy^2 = dp/dx$ になり、放物線解が出る。シミュレーターでは両方を重ね合わせた一般解 $u(y) = U y/h - (1/(2\mu))(dp/dx)\,y(h-y)$ を表示している。スライダーで dp/dx を 0 にすれば線形に、U を 0 にすれば純粋ポアズイユになる。
🙋
圧力勾配のスライダーで「逆流」っていうのが出てきましたが、これは何ですか?
🎓
圧力勾配を dp/dx > 0、つまり「上板の動きに逆らう方向」に設定すると、ポアズイユ寄与が上板駆動と反対向きに流体を押す。下板付近ではこの反対向きの押しが上板の引きずりを上回って、速度が負(逆流)になる。シミュレーターでは赤い矢印と赤い網掛けで表示している。これは軸受や歯車のすき間内で実際に起きる現象で、潤滑膜内の油が一部逆向きに流れる「逆流ポケット」と呼ばれる現象だ。Play ボタンで dp/dx を −2000 から +2000 までスイープしてみると、純粋クェット直線→ポアズイユ放物線で凸に膨らむ→逆方向に押されて逆流発生、という遷移が一目で分かる。
🙋
壁面せん断応力が 0.5 Pa って表示されてますけど、これって大きい?小さい?
🎓
デフォルト値(U=1 m/s、h=2 mm、水)で τ = μU/h = 0.001·1/0.002 = 0.5 Pa だ。これは小さい値だが、隙間 h を 0.02 mm(潤滑膜の典型値)に縮めると τ = 50 Pa に跳ね上がる。軸受の摩擦損失や油膜温度上昇の見積もりでは、まさにこの式から発熱量 W = τ·U·面積 を計算する。スマホの中の精密軸受や自動車のクランクシャフトの油膜まで、本質的にはこのクェット流れの式で支配されているんだ。
🙋
Re = 2000 と表示されてますが、これは層流の解析解として大丈夫ですか?
🎓
いい指摘だ。平行平板せん断駆動流は、円管と違って Re ≈ 1500 を超えると乱流に遷移し得る。デフォルト値の Re=2000 はちょうどその境界付近にある。粘性 μ を 10倍(例えば軽油の 0.01 Pa·s)にすると Re=200 で確実に層流域、逆に隙間 h を 10倍(20 mm)にすると Re=20000 で乱流域に入り、この層流解析解は理論値としての参考値に留まる。本ツールは層流解析解を表示しているので、Re と相談しながら使ってほしい。

よくある質問

物理的な駆動メカニズムで使い分けます。クェット流れは「境界の動き(壁面速度)」が駆動源で、軸受の油膜・歯車のすき間流れ・回転粘度計など「動く面と固定面の間に挟まれた粘性流」を扱う場面で使います。一方ポアズイユ流れは「圧力差」が駆動源で、配管内の流量計算・点滴・マイクロ流体チップなど「上流から押し出される流れ」を扱います。実用上は両者が共存することも多く、たとえばエンジン軸受では「シャフトが回転するクェット駆動」と「外部ポンプによる潤滑油の供給ポアズイユ駆動」の重ね合わせとして解析されます。本ツールはまさにこの合成解を表示しています。
純粋クェット流れ(dp/dx = 0)では、平行平板間の流体には体積力も圧力勾配もかからず、運動方程式は $\mu\,d^2u/dy^2 = 0$ という極めて単純な二階微分=0 の式に帰着します。境界条件 u(0)=0、u(h)=U で解くと、二階微分が 0 → 一階微分(せん断速度)が定数 → 速度は y の線形関数、という流れで $u(y) = U y/h$ が得られます。物理的には、上板から下板へ粘性によってせん断応力が一様に伝達され、流体の各層が「カードのデッキを横にずらす」ように一様な速度勾配で滑ります。せん断応力は深さによらず一定で、これは設計式の基礎になっています。
圧力勾配 dp/dx ≠ 0 を加えると、運動方程式は $\mu\,d^2u/dy^2 = dp/dx$ となり、放物線成分が線形クェット成分に重ね合わされます。一般解は $u(y) = U y/h - (1/(2\mu))(dp/dx)\,y(h-y)$ で、上下板の壁面せん断応力は τ_top = μU/h − (h/2)·dp/dx、τ_bot = μU/h + (h/2)·dp/dx と非対称になります。dp/dx が大きく正の方向(流れに逆らう方向)になると下板付近で逆流が現れ、これは軸受のキャビテーションや潤滑膜の不安定化と関係します。レイノルズ方程式(流体潤滑理論の基礎方程式)はこのクェット+ポアズイユの合成解を出発点に導出されます。
円筒型回転粘度計(クェット型レオメーター)は、まさにこのクェット流れを応用した装置です。内側円筒(または外側円筒)を一定の角速度で回転させ、内外円筒間の薄い隙間に試料液を入れて、回転トルクから粘度を測定します。隙間 h が円筒半径に比べて十分小さければ、円筒面を平行平板に近似でき、本ツールの式 τ = μU/h で粘度 μ を逆算できます。コーン-プレート型レオメーターも同じ原理で、せん断速度 du/dy = U/h を全体で一様にすることで非ニュートン流体の粘度(せん断速度依存性)を精密測定できます。化粧品・食品・塗料・血液など産業界で広く使われています。

実世界での応用

潤滑工学・トライボロジー:すべり軸受・玉軸受・歯車のすき間に流れる潤滑油は、まさにクェット流れ+ポアズイユ流れの合成として扱われます。レイノルズ方程式は流体潤滑理論の基礎方程式で、本ツールが表示する一般解 $u(y) = U y/h - (1/(2\mu))(dp/dx)\,y(h-y)$ を出発点として導出されます。摩擦損失 W = τ·U·面積、発熱量、油膜厚さの最小値、軸受の負荷容量などはすべてこの式から計算されます。エンジン軸受の設計・スマホの精密モーターから新幹線のクランクシャフトまで、潤滑膜のあるあらゆる回転機械の解析の中心式です。

レオロジー・粘度測定:クェット型レオメーター(円筒型粘度計)とコーン-プレート型レオメーターは、共にクェット流れの原理で動作します。せん断速度 du/dy = U/h を試料全体で一様にすることで、ニュートン流体の粘度を精密測定するほか、せん断速度依存性のある非ニュートン流体(チキソトロピー流体・ビンガム流体・パワーローモデル流体など)の粘度関数 $\mu(\dot\gamma)$ を測定します。化粧品・食品・塗料・印刷インク・血液・ポリマー溶液など、産業の品質管理に不可欠です。

マイクロ流体・LOC(Lab on a Chip):マイクロ流体チップでは、隙間 h ≈ 10〜100 μm の薄いチャネル内で電気泳動や毛細管力による流れを扱うとき、駆動部分にクェット成分(電気浸透流が壁近傍で生成する境界層)と、圧力駆動成分(ポンプによる流れ)が同時に存在します。両者の合成プロファイルから細胞のソート・タンパク質分離・PCR装置内の流路設計などが行われています。本ツールの「逆流が発生する条件」は、マイクロ流体の流路設計で意図的に逆流域を作って混合を促進する場面でも応用されます。

地殻変動・氷河流動:氷河の流動・マントル対流・地殻のプレート運動も、長い時間スケールで見ると粘性流体として扱えます。氷河は底面が固定(基盤岩)、上面が大気と接して自由(応力ゼロ)と境界条件は異なりますが、底面付近の流速プロファイルはクェット流れに類似した形になります。粘性 μ が 10¹⁵ Pa·s 程度と非常に大きく、流速も極めて遅い(年に数 m)ですが、本ツールと同じ運動方程式で解析されます。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解は、「クェット流れは常に線形プロファイル」と思い込むことです。確かに圧力勾配 dp/dx = 0 の純粋クェット流れでは線形ですが、実際の軸受・歯車・レオメーター内では必ず圧力勾配が存在します。たとえば軸受では負荷を支えるために油膜内に圧力分布が発生し、これがポアズイユ寄与として加わります。本シミュレーターで dp/dx スライダーを動かすと、プロファイルが線形から放物線寄与で曲がる、さらに逆流が現れる、という変化を体感できます。レイノルズ方程式を使った軸受設計では、この圧力分布を含めて解くのが標準です。

次に多いのが、「平行平板の Re 臨界値を円管と同じ 2300 だと思い込む」ことです。平行平板せん断駆動流(純粋クェット)の線形安定性解析では「全 Re で線形安定」という有名な結果がありますが、実験では Re ≈ 360〜1500 で乱流に遷移します(サブクリティカル遷移)。本ツールはあくまで層流の解析解を表示するため、Re が高い場合は実際の流れと乖離する可能性があります。一方、円管流れの臨界 Re=2300 や、平板上の境界層流れの臨界 Re ≈ 5×10⁵ など、流れの種類ごとに臨界値が異なる点に注意してください。

最後に、「単位幅流量 Q'(m²/s)と通常の体積流量 Q(m³/s)を混同する」ことです。平行平板間の流れでは、流路が紙面奥行き方向に無限に広がる2次元問題として扱うため、流量は「奥行き方向の単位幅当たり」になり単位は m²/s です。実際の流路幅 W [m] を掛ければ 3次元の体積流量 Q = Q'·W [m³/s] に換算できます。本ツールでは Q'(単位幅流量)と V_avg(平均流速)の両方を表示しているので、目的に応じて使い分けてください。CAE 解析で 2D 仮定と 3D 換算を混同すると、流量計算で W 倍の誤差が出るのでくれぐれも注意。