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固体物理シミュレーター

ブラッグ回折 シミュレーター — X 線結晶解析

ブラッグの法則 2d sinθ = nλ により、結晶面間隔 d・X 線波長 λ・回折次数 n・格子ひずみ ε から、ブラッグ角・回折角 2θ・実効面間隔・最大可能次数を実時間に計算します。結晶面の反射経路差と多次数の回折ピーク位置を可視化します。

パラメータ設定
結晶面間隔 d
Å
X 線波長 λ
Å
回折次数 n
格子ひずみ ε

既定値は d=2.500 Å、λ=1.540 Å(Cu Kα 線)、n=1、ε=0。Cu Kα 線は最も汎用的な X 線源で多くの金属・セラミックスの XRD 解析に使われます。Mo Kα 線(0.71 Å)は高角域まで測定可能、Co Kα 線(1.79 Å)は鉄鋼解析向きです。

計算結果
ブラッグ角 θ
回折角 2θ
実効面間隔 d_eff
最大可能次数
結晶面と反射経路

水平線=結晶面(d 間隔で平行配置)/黄=入射 X 線(θ で入射)/赤=反射 X 線(θ で出射)/白点線=結晶面に直交する法線/緑=隣接面からの反射経路差 2d sinθ

多次数の回折ピーク

横軸=回折角 2θ(0°〜180°)/縦軸=相対強度/青縦線=各次数 n=1,2,3... の 2θ 位置/黄マーカー=現在の n に対応する 2θ/グレー帯=物理的に許される領域

理論・主要公式

ブラッグの法則は、隣接する結晶面からの反射波の光路差 $2d\sin\theta$ が波長 $\lambda$ の整数倍となる条件で導かれます:

$$2d\sin\theta = n\lambda$$

$\theta$ をブラッグ角、$2\theta$ を回折角と呼びます。格子ひずみ $\varepsilon$ が加わると実効面間隔が変化します:

$$d_{\text{eff}} = d(1+\varepsilon),\quad \sin\theta = \frac{n\lambda}{2 d_{\text{eff}}}$$

$\sin\theta \le 1$ という物理制約から、可能な最大次数は:

$$n_{\max} = \left\lfloor \frac{2 d_{\text{eff}}}{\lambda} \right\rfloor$$

$d$ は結晶面間隔(Å)、$\lambda$ は X 線波長(Å)、$n$ は整数次数、$\varepsilon$ は格子ひずみ(無次元)。1 Å = 10⁻¹⁰ m。

ブラッグ回折 シミュレーターとは

🙋
X 線って結晶を「透視」できるって聞いたんですけど、どうやって構造を測るんですか?写真みたいに撮れるんですか?
🎓
いい質問だ。透視ではなく「回折」を使う。結晶は原子が規則正しく並んで何枚もの「面」を作っていて、X 線をかけると各面で反射する。隣り合う面からの反射波が「ちょうど波長 1 個分」ズレるとき、波が強め合って強い反射が観測される — これがブラッグの法則 2d sinθ = nλ だ。本ツールで既定値のまま「計算結果」を見てごらん。Cu Kα 線(λ=1.540 Å)で d=2.5 Å の面なら、ブラッグ角 θ ≈ 17.94°、回折角 2θ ≈ 35.88°、最大 3 次まで観測可能と出るはずだ。
🙋
「経路差 2d sinθ」って図にありますけど、これってどう計算してるんですか?なんで「2d」なんでしょう?
🎓
幾何学的な話だ。上の面で反射する光と、下の面(深さ d)まで降りてから反射して戻ってくる光を比べると、下の光は余計に「降りる分 + 戻る分」を進む。両者とも結晶面となす角が θ だから、垂直方向には d、斜め方向には d/sinθ ではなく、ピタゴラスの定理から往復で 2d sinθ だけ長くなる。これがちょうど波長の整数倍 nλ になる角度で建設的干渉が起こる。本ツールでスライダーの d を 2.5→5.0 Å に変えると、図の右下に表示される経路差が連動して変わるのが見えるはずだ。
🙋
「最大次数 3」って数字が気になります。これは何を表してるんですか?
🎓
物理制約から来る。sin θ = nλ/(2d) で sin θ ≤ 1 が必要だから、n は最大でも 2d/λ までしか取れない。floor を取って整数次数の最大値が決まる。既定値(d=2.5、λ=1.540)では 2·2.5/1.540 = 3.247 で、その整数部分が 3 だ。実験的にも 1 つの面から得られるピークは有限個で、d 間隔が大きいほど、また λ が短いほど多くの次数が観測できる。本ツールで λ を 0.71 Å(Mo Kα)に変えてみると最大 7 次まで観測可能になる。これが Mo Kα が単結晶構造解析で好まれる理由だ。
🙋
最後にひとつ、「格子ひずみ ε」って何ですか?なんで残留応力測定に使えるんですか?
🎓
ε は結晶が外力や熱で引張・圧縮されたときの面間隔の相対変化だ。d_eff = d(1+ε) として実効面間隔が変わる。ε=+0.01 なら 1% 伸びた状態。本ツールで ε を 0→+0.01 にすると 2θ が 35.88°→35.52° に下がる(低角シフト)。逆に圧縮(ε=−0.01)では高角シフト。この「ピーク位置のわずかなずれ」を sin²ψ 法などで多方向に測ると、結晶内部のテンソル応力が MPa 精度で測れる。航空機エンジンのタービンブレード残留応力、橋梁の溶接残留応力、半導体薄膜の応力測定 — 全部この原理を使っているんだ。

よくある質問

ブラッグの法則 2d sinθ = nλ は、X 線が結晶面で反射する際に隣接面からの反射波が建設的に干渉する条件を表す式です。1913 年に William Henry Bragg と William Lawrence Bragg 親子が導出し、後に父子でノーベル物理学賞を受賞しました。d は隣接する結晶面の間隔、θ はブラッグ角(結晶面からの入射角)、n は整数次数、λ は X 線波長です。本ツールでは既定値(d=2.500 Å、λ=1.540 Å の Cu Kα 線、n=1、ε=0)で θ ≈ 17.94°、回折角 2θ ≈ 35.88°、実効面間隔 2.500 Å、最大可能次数 3 と表示されます。
隣接する結晶面からの反射波の光路差 2d sinθ が波長 λ の整数倍 (nλ) になるとき、波の位相が揃って建設的干渉(強い回折)が起こります。整数倍以外では位相がずれて打ち消し合い、観測されません。本ツールで n を 1→2→3 と変えると 2θ が 35.88°→71.96°→152.99°(Cu Kα・d=2.5 Å の場合)と次々シフトし、各次数で異なるピーク位置に対応します。次数 n が大きいほど 2θ も大きくなり、sin θ = nλ/(2d) ≤ 1 という物理制約から、ある d と λ では有限個の次数しか観測できません。
格子ひずみ ε は結晶が引張・圧縮を受けたときの面間隔の変化率で、d_eff = d(1+ε) として実効面間隔を変化させます。ε>0(引張)では d が大きくなり、同じ次数 n でも sinθ = nλ/(2 d_eff) が小さくなるため 2θ が低角側にシフトします。ε<0(圧縮)では逆に高角側にシフト。X 線回折による残留応力測定(sin²ψ 法など)はこの原理を利用し、ピーク位置のずれから応力を 1 MPa 単位で精密測定します。本ツールで ε を −0.05→+0.05 で動かすと、2θ ピークが連続的に左右に動くのが見えます。
Cu Kα 線(特性 X 線、λ=1.5406 Å)は、銅をターゲットとした X 線管から効率よく発生し、強度・コヒーレンス・取り扱いやすさのバランスが優れているため、世界中の XRD 装置で最も多く使われています。波長が一般的な結晶面間隔(1〜5 Å)と同程度であるため、低角から高角まで多くの回折ピークが観測でき、多くの試料に対応可能です。本ツールで λ を 0.71 Å(Mo Kα)に変えると同じ d=2.5 Å でも 2θ が小さくなり、より高角まで測定可能(最大次数 7)になります。逆に長波長 Co Kα(1.79 Å)では鉄鋼の蛍光を抑制でき、用途で使い分けます。

実世界での応用

結晶構造の同定(Phase ID):未知の結晶試料に X 線を照射して回折ピーク位置 2θ を測定し、ブラッグの法則から d 値を逆算し、ICDD(PDF)データベースの登録物質と照合することで、その物質が何であるかを特定できます。鉱物学・地球科学では岩石中の鉱物相を同定したり、製薬では原薬の結晶多形(α 型 vs β 型)を区別したりします。本ツールで d スライダーを変えるとピーク位置が動くのが直感的にわかります。実機では多結晶試料の 2θ-強度プロファイル全体(XRD パターン)を取得して照合します。

残留応力・ひずみ測定:金属や半導体の内部応力は、ピーク位置のわずかなシフトから測定できます。航空機タービンブレードのショットピーニング後の圧縮応力、自動車エンジン部品の溶接残留応力、シリコンウェーハ上の薄膜応力などが典型例です。sin²ψ 法では試料を傾けながら 2θ を多点測定し、d 値の方向依存性から応力テンソルを算出します。本ツールで ε スライダーを ±5% 動かすと、2θ が数度シフトするのが観察でき、実機での μstrain(10⁻⁶ オーダー)測定の感度の高さを実感できます。

結晶子サイズ・配向解析:ナノ粒子の結晶子サイズは Scherrer 式(B = Kλ/(L cosθ))でピーク半値幅から推定でき、ブラッグの法則と組み合わせて使われます。触媒粒子径、リチウムイオン電池正極材料、磁性ナノ粒子などの開発に必須の手法です。また圧延・押出加工された金属の集合組織(テクスチャ)解析では、複数の hkl ピークの相対強度比から結晶方位分布関数(ODF)を求め、塑性異方性を予測します。

タンパク質結晶構造解析:創薬で重要なタンパク質-リガンド複合体の構造は、結晶を作って X 線(多くは放射光、λ=0.7〜1.0 Å)を当て、数万本のブラッグ反射を測定して逆フーリエ変換で電子密度マップを作ります。1953 年の DNA 二重らせん構造、1958 年のミオグロビン構造はこの手法の金字塔。現代では COVID-19 のスパイクタンパク質構造もこの方法で 1 週間以内に解析され、ワクチン設計に直結しました。本ツールは単一面間隔の解析ですが、実際は数千〜数万の面に対して同じ計算を行っています。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解が、「ブラッグ角 θ は X 線と試料表面のなす角」というものです。実際にはブラッグ角は X 線と結晶面のなす角であり、試料表面ではありません。多くの教科書図解では試料表面と結晶面が平行になっていますが、実際の試料では結晶粒の向きはランダムで、ブラッグ条件を満たす粒だけが回折を起こします。また「回折角 2θ」は入射ビーム方向から見た反射ビームの偏向角で、ブラッグ角の 2 倍です。本ツールでも「θ」と「2θ」を別々のスタットカードで表示しているのは、初学者がこの区別で混乱しやすいためです。

次に多いのが、「ブラッグの法則だけで結晶構造がわかる」という誤解です。実はブラッグ条件は「どの 2θ にピークが出るか」しか教えてくれず、そのピークの強度は結晶内の原子配置(構造因子 F_hkl)に依存します。FCC、BCC、HCP、ダイヤモンド構造などで許容反射の組み合わせが異なり、これは別途構造因子計算が必要です。例えば BCC では h+k+l=偶数の反射のみ許され、FCC では h,k,l がすべて同じ偶奇性の場合のみ許されます。本ツールは d 既知の場合の角度計算に特化していますが、結晶構造同定には XRD パターン全体のフィッティング(Rietveld 法など)が必要です。

最後に、「X 線回折はあらゆる結晶に使える万能ツール」と思いがちですが、軽元素(水素・リチウムなど)は X 線散乱断面積が極めて小さいため位置が決めにくく、中性子回折や電子回折が補完的に使われます。リチウムイオン電池の Li 位置決定には中性子回折が必須で、有機分子の水素位置は中性子か超高分解能 X 線が必要です。また非晶質(ガラス・高分子)は規則的な面間隔がないため、ブラッグの鋭いピークではなくブロードなハロー状散乱になり、別の解析手法(PDF 解析、Pair Distribution Function)が必要になります。本ツールはあくまで結晶質試料の理想的なブラッグ条件を扱います。