パラメータ設定
既定値は C=0.40%、Mn=0.80%、Cr=0.50%、Ni=0.30%(Mo=V=Cu=0)。IIW 炭素当量 CE = C + Mn/6 + (Cr+Mo+V)/5 + (Ni+Cu)/15、最大焼入れ硬度 HRC_max ≈ 30 + 50C、理想臨界径 D_I ≈ 50·CE(mm)の簡略式を採用しています。ジョミニー硬度は HRC(d) = HRC_max · exp(−d / D_I / 10) で減衰させて表示します。
ジョミニー試験片と硬度分布
上=円柱試験片(左端を水で急冷)/下=長手方向 d に沿った硬度 HRC(d) = HRC_max · exp(−d / D_I / 10)/黄=距離 D_I における硬度マーカー/赤破線=HRC_max 水準
CE と必要予熱温度
横軸=炭素当量 CE [0, 1.5]/縦軸=必要予熱温度 (°C)/青線=経験則(CE<0.4: 0°C、0.4–0.6: 100·(CE−0.4)/0.2 °C、CE>0.6: 200°C)/黄マーカー=現在の CE
理論・主要公式
IIW(国際溶接学会)炭素当量 CE は鋼材の溶接性・焼入れ性を表す代表的指標です:
$$\mathrm{CE} = \mathrm{C} + \frac{\mathrm{Mn}}{6} + \frac{\mathrm{Cr}+\mathrm{Mo}+\mathrm{V}}{5} + \frac{\mathrm{Ni}+\mathrm{Cu}}{15}$$
最大焼入れ硬度は炭素量にほぼ比例し、簡略式で次のように表されます:
$$\mathrm{HRC}_{\max} \approx 30 + 50\,\mathrm{C}$$
理想臨界径 D_I は Grossmann の概略式により CE と関連付けられます:
$$D_I \approx 50\,\mathrm{CE}\ \mathrm{[mm]}$$
ジョミニー試験片の長手方向 d における硬度の減衰モデル:
$$\mathrm{HRC}(d) = \mathrm{HRC}_{\max}\,\exp\!\left(-\frac{d}{D_I/10}\right)$$
C・Mn・Cr・Ni は質量百分率(%)、CE は無次元、HRC はロックウェル C 硬度、D_I・d は長さ(mm)。本ツールは簡略式による傾向把握用です。
ジョミニー焼入れ性 シミュレーターとは
🙋
「焼入れ性」って、ただ硬く焼けるかどうかの話じゃないんですか?「ジョミニー試験」って初めて聞きました。
🎓
いい疑問だ。「最大硬度」と「焼入れ性」は別物なんだ。最大硬度はほぼ炭素量で決まる — 本ツールの式 HRC_max ≈ 30 + 50C を見てくれ。一方「焼入れ性」は、芯部までマルテンサイトを得られるかどうか、つまり「硬度を維持できる径」のことを指す。ジョミニー試験(端面焼入れ試験)は、円柱試験片の片端を水で急冷して、長手方向の硬度分布を測ることでこれを定量化するんだ。既定値(C=0.40、Mn=0.80、Cr=0.50、Ni=0.30)だと、CE ≈ 0.653、HRC_max ≈ 50.0、D_I ≈ 32.7 mm、溶接性は「本格予熱必要」と出る。
🙋
CE って溶接の文脈でよく聞きますけど、焼入れ性と同じものなんですか?
🎓
「同じコインの裏表」と言える。IIW 炭素当量 CE = C + Mn/6 + (Cr+Mo+V)/5 + (Ni+Cu)/15 は、合金元素を炭素換算した指標で、これが大きいほど焼入れ性が高い — つまり「硬く焼ける」一方で、溶接の熱影響部に脆いマルテンサイトが出やすい。だから溶接屋にとっては「危険度指標」、熱処理屋にとっては「品質指標」になるわけだ。本ツールで Mn を 0→2% に動かしてみてくれ、CE が大きく変わって、溶接性区分が「予熱不要」→「軽予熱」→「本格予熱必要」と切り替わるのが見える。
🙋
理想臨界径 D_I が 32.7 mm って出てますけど、これは「32.7 mm 以下の丸棒なら芯部まで硬くなる」ってこと?
🎓
そういう理解で正しい。D_I は「理想急冷条件下で 50% マルテンサイトを芯部に得られる丸棒の直径」と定義される。Grossmann が 1942 年に提唱した概念だ。本ツールでは概略式 D_I ≈ 50·CE を使ってる。例えば自動車のクランクシャフト(径 60〜80 mm)を全断面マルテンサイト化したければ、D_I を 80 mm 以上、つまり CE > 1.6 程度の高合金鋼が必要になる。だから JIS SCM440(CE ≈ 0.85)や SNCM439(CE ≈ 1.2)といった合金鋼が使われるんだ。
🙋
必要予熱温度のグラフが面白いです。なぜ CE = 0.40 と 0.60 で段が変わるんですか?
🎓
これは経験則で、AWS や JIS の溶接規格に基づいてる。CE < 0.40 では HAZ にできるマルテンサイトが少なく、低水素溶接棒なら予熱不要。0.40〜0.60 は中間域で、板厚と拘束度を見ながら 80〜150°C の予熱が推奨される。CE ≥ 0.60 になると、急冷で必ず硬くて脆い HAZ が出るので、150〜250°C の本格予熱と PWHT(溶接後熱処理)が必須になる。本ツールでは線形補間で簡略表現してる。例えば原子力配管材(SCMV44、CE ≈ 0.65)の溶接では、150°C 以上の予熱と 600°C 以上の PWHT が JIS で義務付けられてるんだ。
よくある質問
ジョミニー試験(端面焼入れ試験、ASTM A255、JIS G 0561)は、円柱形試験片の片端を水で急冷し、長手方向に沿った硬度分布を測定することで鋼材の焼入れ性を評価する手法です。焼入れ性とは「マルテンサイト変態の起こりやすさ」を表し、合金元素・炭素量・初期粒度などに依存します。本ツールの既定値(C=0.40、Mn=0.80、Cr=0.50、Ni=0.30)では、IIW 炭素当量 CE ≈ 0.653、最大焼入れ硬度 HRC_max ≈ 50.0 HRC、理想臨界径 D_I ≈ 32.7 mm、溶接性区分は「本格予熱必要」と表示されます。
IIW(国際溶接学会)炭素当量 CE = C + Mn/6 + (Cr+Mo+V)/5 + (Ni+Cu)/15 は、鋼材の溶接性を一つの数値で表す指標です。CE が大きいほど焼入れ性が高くなり、溶接熱影響部(HAZ)で硬く脆いマルテンサイトが生成しやすくなります。一般に CE < 0.40 は予熱不要、0.40 ≤ CE < 0.60 は軽い予熱(80〜150°C)が推奨、CE ≥ 0.60 では本格的な予熱(150〜250°C)と低水素溶接棒が必須です。本ツールで Mn を 0.0→2.0% に動かすと、CE が大きく変化し溶接性区分が切り替わるのが確認できます。
理想臨界径 D_I(Ideal Critical Diameter)は、理想的な急冷条件下で芯部まで 50% マルテンサイトを得られる丸棒の直径を表す指標です。Grossmann により提唱され、D_I が大きいほど焼入れ性が高く、大断面部品でも芯部硬化が期待できます。本ツールでは概略式 D_I ≈ 50 × CE(mm)を用いて、CE と関連付けています。実用上、軸・歯車・ボルトなど大型機械部品の材料選定や焼入れ条件の予測に使われます。D_I より小さい径の丸棒では芯部もマルテンサイト化し、大きい径ではフェライト・パーライトが混在することになります。
急冷条件下で得られる最大焼入れ硬度は、ほぼ炭素量 C のみで決まり、合金元素の影響はわずかです。本ツールは簡略式 HRC_max ≈ 30 + 50·C を用い、C=0.10→0.60% の範囲で 35〜60 HRC の典型値を返します。これは「マルテンサイトの硬度は炭素含有量で決まる」という金属組織学の基本原則を反映しています。一方、焼入れ性(HRC を芯部まで保てるか)は合金元素で大きく変わるため、HRC_max・D_I・CE の3つを同時に見て材料選定するのが実務の基本です。本ツールで C を 0.40→0.60% にすると HRC_max が 50→60 HRC に上昇するのが確認できます。
実世界での応用
自動車駆動系部品の材料選定:クランクシャフト・カムシャフト・歯車・ドライブシャフトなど、大断面で全層硬化が必要な部品では、D_I が径の 1.5 倍以上ある合金鋼(SCM440、SNCM439、SCr420 など)が選ばれます。本ツールで Cr=1.0%、Mo=0%(簡略のため固定)、Ni=0.3% に設定すると CE が 0.75 前後となり、D_I ≈ 38 mm と表示されます。実際の SCM440 は Mo を加えて D_I を 60 mm 級まで上げています。歯車では浸炭焼入れ(表面 0.8% C・芯部 0.2% C)と組み合わせ、表面硬度 60 HRC・芯部 35 HRC の傾斜組織を作るのが定石です。
橋梁・建築構造用鋼の溶接施工管理:高張力鋼(SM490B、SM570、SBHS500 など、CE = 0.40〜0.55)の溶接では、板厚・拘束度・水素量に応じた予熱が JIS Z 3158 や WES 1108 で規定されています。本ツールで Mn を 1.5%、Cr=Ni=0 にすると CE ≈ 0.65 となり「本格予熱必要」と表示され、150〜200°C の予熱と低水素系溶接棒(H-5 以下)が要求される実例と一致します。CE を下げる手段として、Mn を抑え微量の Nb・Ti・V で析出強化する TMCP 鋼が橋梁向けに広く採用されています。
圧力容器・配管の安全管理:火力発電・原子力発電・石油化学プラントの圧力容器(A516、SQV2A など)や配管(STPA24、SCMV44 など)では、HAZ の硬さ管理が爆発・破断事故防止の最重要項目です。CE が 0.60 を超える材料では PWHT(溶接後熱処理、600〜750°C 焼戻し)が ASME B&PV Code や JIS B 8265 で義務付けられます。本ツールで Cr=2.5%、Mn=0.5% にすると CE ≈ 0.95 となり、PWHT 必須レベルが視覚的に理解できます。検査では超音波・磁粉探傷で硬さ・割れの両方を監視するのが定石です。
大型鍛造軸の品質保証:発電タービン軸・船舶推進軸・圧延ロールなど、径 500 mm 級の大型鍛造品では、芯部まで均一なマルテンサイト+焼戻し組織が要求されます。D_I が径の 1.0〜1.5 倍を満たすよう Ni を 2.0〜4.0% 添加した低合金鋼(SFNCM などの規格、JIS G 3201)が選ばれ、本ツールで Ni=3.0% に設定すると CE が 0.7 前後、D_I ≈ 36 mm と表示されます。実材料では Mo・V も加えて D_I を 500 mm 級まで上げ、油焼入れ後 600°C 高温焼戻しで靭性を確保しています。
よくある誤解と注意点
最も多い誤解が、「炭素を増やせば焼入れ性が上がる」というものです。確かに炭素量は最大焼入れ硬度(HRC_max ≈ 30 + 50C)を支配しますが、「芯部まで硬くなる径」を意味する焼入れ性は、Mn・Cr・Mo・Ni などの合金元素で大きく決まります。炭素を増やしすぎると(C > 0.5%)マルテンサイトが脆くなり、Ms 点も下がって残留オーステナイトが増加、結果として却って靱性・寸法安定性が悪化します。本ツールで C を 0.4→0.8% に上げると HRC_max は 50→70 HRC まで上がりますが、実材料では焼割れ・残留応力の問題で C は 0.4〜0.5% に抑え、合金元素で D_I を稼ぐのが定石です。
次に多いのが、「IIW 炭素当量だけで溶接性が決まる」という誤解です。IIW 式は厚板・低合金鋼(CE ≈ 0.4〜0.6)に最適化された経験式で、低炭素鋼(C < 0.18%)には Pcm(伊藤・別所式)= C + Si/30 + (Mn+Cu+Cr)/20 + Ni/60 + Mo/15 + V/10 + 5B の方が適切とされます。実務では板厚・拘束度・水素量・接合形態(突合せ/隅肉)・後熱処理の有無まで総合判断します。本ツールの CE 値はあくまで「第一近似の溶接性指標」であり、重要構造物では JIS Z 3158、WES 1108、AWS D1.1 等の規格に基づき板厚別の予熱表で確認するのが必須です。
最後に、「ジョミニー試験の結果をそのまま実部品に適用できる」という誤解です。ジョミニー試験は標準試験片(径 25 mm・長さ 100 mm)の理想急冷を測りますが、実部品では断面寸法・形状・冷却媒体(水・油・空冷)・撹拌強度で冷却速度が大きく変わります。換算には Grossmann の「H 値」(severity of quench、水撹拌で 2.0、油静止で 0.3 程度)を用い、実効径 D_e = D × (Q/H) で補正します。本ツールの D_I は理想急冷を仮定した値であり、実部品の芯部硬度を保証するには H 値補正や CCT 図との照合、試作・破壊試験による検証が不可欠です。