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複合材料・構造強度

CFRP 積層板 Tsai-Wu 破壊基準シミュレーター

炭素繊維強化プラスチック(CFRP)積層板の Tsai-Wu 破壊基準を、相互作用項 F12 を含めて評価するツールです。繊維系(T800/T1000/M55J/Eガラス)・繊維体積分率・主応力 σ11/σ22/τ12・主層配向を変えると、Tsai-Wu 破壊指標、最大応力指標、強度比 R、安全率が同時に更新されます。

パラメータ設定
繊維系
UD 単層の基準強度(X_t/X_c/Y_t/Y_c/S)を自動設定
繊維体積分率 V_f
プリプレグ・オートクレーブ品で 0.55〜0.65 が標準
軸方向応力 σ11
MPa
繊維方向の主応力。正=引張
横方向応力 σ22
MPa
繊維直交方向の主応力。マトリックス支配で許容値が低い
せん断応力 τ12
MPa
面内せん断応力(繊維/マトリックス界面)
主層配向
配向ごとに簡易補正係数を掛け、TWI を再評価する
計算結果
繊維方向強度 X_t (MPa)
Tsai-Wu 指標 TWI
Max stress 指標
強度比 R
層構成後 TWI
安全率 SF
積層板断面 — 配向・応力ベクトル可視化

各層の繊維配向(0°/±45°/90°)と現在の σ11・σ22・τ12 ベクトル、簡易 Tsai-Wu 楕円体および現在応力点を表示します。点が楕円外なら TWI > 1(破壊)。

σ11 掃引 — Tsai-Wu vs Max Stress 包絡
繊維系別 強度比較 X_t / Y_t / S
理論・主要公式

$$F_{1}\sigma_{1} + F_{2}\sigma_{2} + F_{11}\sigma_{1}^{2} + F_{22}\sigma_{2}^{2} + F_{66}\tau_{12}^{2} + 2F_{12}\sigma_{1}\sigma_{2} \leq 1$$

Tsai-Wu 破壊基準。F_i は線形項、F_ii は2次項。X_t / X_c は繊維方向引張・圧縮強度、Y_t / Y_c は横方向、S は面内せん断強度。

$$F_{1}=\tfrac{1}{X_t}-\tfrac{1}{X_c},\; F_{2}=\tfrac{1}{Y_t}-\tfrac{1}{Y_c},\; F_{11}=\tfrac{1}{X_t X_c},\; F_{22}=\tfrac{1}{Y_t Y_c},\; F_{66}=\tfrac{1}{S^{2}}$$

強度係数。引張/圧縮の非対称性を線形項 F_1, F_2 で表現する点が Max Stress 基準との大きな違い。

$$F_{12}\approx-\tfrac{1}{2}\sqrt{F_{11}F_{22}},\qquad aR^{2}+bR-1=0\;\Rightarrow\;R=\frac{-b+\sqrt{b^{2}+4a}}{2a}$$

相互作用項 F_12 は2軸試験で実測するのが理想だが、本ツールでは Tsai 推奨の近似値を用いる。強度比 R は応力を比例倍したとき TWI=1 になる倍率。

CFRP 積層板 Tsai-Wu 破壊基準 — 複合材設計

🙋
Tsai-Wu 基準ってよく聞くんですけど、結局なんで CFRP では「最大応力基準」じゃダメなんですか?金属だと σ_y と比較すれば済みますよね。
🎓
いい問いだね。金属は等方性で引張と圧縮もほぼ対称だから単純で済む。でも CFRP の一方向(UD)単層は、繊維方向 X_t が 2800 MPa あっても、横方向 Y_t はせいぜい 70 MPa。しかも引張 70 MPa に対し圧縮 250 MPa と非対称。さらに2軸状態だと、σ1 が引張のときに σ2 がどっち向きかで破壊強度が変わる。「成分ごとに比較する Max Stress」はその相互作用を全部無視してしまうんだ。Tsai-Wu は polynomial で全成分を1本にまとめてしまう。
🙋
この相互作用項の F12 ってどう決めるんですか?式を見ると -0.5√(F11·F22) ってありますけど、本当は実験で決めるって書いてあったり…。
🎓
そう、本来は等軸2軸(σ1=σ2)試験で破壊応力を測って逆算するんだ。ただ等軸試験はクルーシフォーム試験片や圧力容器試験が必要でコストが高い。だから Tsai 自身が「F12 = -0.5·√(F11·F22) を使え」と推奨していて、現場ではこれが事実上の標準。航空機認証でも明示する場合があるよ。F12 を 0 にするか負側に振るかで破壊楕円の長軸方向が変わるから、決して無視できる項じゃない。
🙋
「強度比 R」がよくわかりません。安全率と何が違うんですか?
🎓
超重要なポイント。安全率 1/TWI は「いまの応力状態がどれくらい余裕か」を見るけど、Tsai-Wu は非線形(2次)だから単純な 1/TWI は厳密には荷重倍率にならない。R は「応力ベクトルを R 倍したとき TWI=1 になる」倍率、つまり「あと何倍の荷重に耐えるか」を厳密に出している。実務では複合材 FEM の許容判定もこの R を出力するのが普通。R=1 でちょうど破壊、R=2 なら荷重が倍になるまで持つ、と直感的だね。
🙋
なるほど!じゃあ「準等方積層 [0/±45/90]s」は何のメリットがあるんですか?UD のほうが強度高いように見えますけど。
🎓
UD は確かに繊維方向に最強。でも荷重方向が決まっていない部品、例えば航空機の外板、ロケットの胴体、自動車のモノコックでは、どの方向の応力にも一定の強度が要る。準等方は 0°/±45°/90° を等量入れることで面内方向に等方性に近い特性を作り、ノッチ近傍の応力集中にも強い。Boeing 787 の CFRP 比率 50%、Airbus A350 の 53% はほぼ準等方〜疑似準等方が中心だよ。ただし剛性も平均化されてしまうので、剛性最優先の部材(風車翼の桁、ヨット帆桁)は逆に強い配向を維持する設計になる。
🙋
最後に、繊維体積分率 V_f を上げ続ければ強度上がるんですよね?スライダー動かすとそうなるんですが、実際の限界はどこですか?
🎓
理論的には混合則で V_f に比例して X_t は上がる。でも実用上は V_f=0.65 くらいが上限。それ以上は樹脂が繊維束間に行き渡らず、ボイドができたり繊維の直線性が崩れて、逆に強度が落ちる。プリプレグ+オートクレーブの航空機材で V_f=0.58〜0.63、フィラメントワインディングの圧力容器で 0.65 前後、RTM だと 0.55 程度が現実値。本ツールも 0.7 までしか掃引できないようにしているのはそのため。

よくある質問

最大応力基準(Max Stress)は σ1, σ2, τ12 それぞれを単独で許容値と比べる単純な基準で、応力成分の「相互作用」を見ません。Tsai-Wu は polynomial 基準で、F12·σ1·σ2 の項を介して縦横の応力の組み合わせ効果(2軸引張・圧縮・引張+せん断 など)を取り込みます。CFRP は σ1 と σ2 の符号によって破壊強度が大きく変わるため、Max Stress では安全でも Tsai-Wu では NG という領域があり、本ツールはその差を可視化します。
現在の応力ベクトルを比例倍 R 倍に拡大したとき Tsai-Wu 基準がちょうど 1 になる倍率が強度比です。R = 1 で破壊、R > 1 はまだ余裕、R < 1 はすでに破壊状態を意味します。安全率と違って「あと何倍の荷重に耐えられるか」を直感的に表せるため、CFRP 構造設計や複合材 FEM の許容判定ではこちらをよく使います。本ツールでは Tsai-Wu の2次方程式から R を解析的に求めています。
繊維方向強度 X_t, X_c は V_f にほぼ比例して増えます(混合則)。これは荷重を主に繊維が担うためです。一方、横方向強度 Y_t, Y_c とせん断強度 S はマトリックス支配で、V_f 増加への感度は弱く、本ツールでは √(V_f/0.6) で近似しています。実用 CFRP は V_f=0.55〜0.65 が一般的で、これ以上に詰めると含浸不良・ボイド・繊維直線性低下で逆に強度が落ちます。
一方向(UD)積層は 0°方向は超強いが横方向は弱く、面内で大きく異方性を持ちます。準等方積層は 0°/±45°/90° を等量含むため面内方向に強度・剛性が均一化され、荷重方向が不確定な部材(航空機外板、自動車構造、圧力容器のフィラメントワインディング周方向ローテーション)に向きます。本ツールでは 0°UD を基準(補正係数 1.0)、準等方を 0.6 として簡易化し、配向の効果を比較できるようにしています。

実世界での応用

航空機構造:Boeing 787 は機体構造の約 50%、Airbus A350 は約 53% を CFRP 化し、胴体・主翼・尾翼の主構造材に使われます。準等方〜疑似準等方の積層が中心で、Tsai-Wu 基準を満たすことが構造認証(FAA / EASA)の要件のひとつ。アルミ合金比で約 20% の軽量化を実現する一方、雷撃時の電流経路や落雷修理が CFRP 特有の設計課題になります。

圧力容器・水素タンク:燃料電池車(トヨタ Mirai、Hyundai Nexo)の 70 MPa 水素タンクは、内側 PE/Al ライナーに T700/T1000 級 CFRP をフィラメントワインディングしたタイプ IV 構造。周方向と螺旋方向の組合せで2軸応力が支配的になるため、Tsai-Wu の相互作用項 F12 が安全率設計に直接効きます。航空宇宙の固体ロケットモータケース、ドローン用酸素タンクも同じ設計考え方を用います。

モータースポーツと量産車:F1 マシンのモノコックは CFRP サンドイッチで、衝突安全規定(FIA)に Tsai-Wu / Hashin 系の許容判定が組み込まれています。量産車では BMW i3 のライフモジュール(CFRP 一体成形)、Lexus LFA のキャビン構造などが代表例で、量産プロセス(オートクレーブ vs RTM vs プレス成形)ごとに V_f と強度ばらつきが異なるため、設計時に Tsai-Wu 安全率を厚めに取ります。

大型風車翼・スポーツ用品:陸上風車では 100 m 超の翼が CFRP/GFRP ハイブリッド化されており、桁(スパー)には UD CFRP、シェルには GFRP の準等方が使われます。Tsai-Wu 基準は疲労解析と組み合わせ、25 年寿命を保証する許容応力レベルを決める軸になります。同様にゴルフシャフト、テニスラケット、ロードバイクフレーム(Trek、Specialized など)でも層構成最適化に Tsai-Wu が広く使われています。

よくある誤解と注意点

最も多い落とし穴が、「F12 を 0 にしてしまう」こと。F12 = 0 は数値的には扱いやすいですが、これは Tsai-Hill 基準に近づき、Tsai-Wu の本質である「2軸相互作用」を捨てることになります。とくに σ1 引張+σ2 引張という2軸引張状態では、F12=0 と F12=-0.5·√(F11F22) で破壊楕円の長軸方向が変わり、許容応力が 10〜30% 違うことがあります。設計図面に F12 の根拠を必ず明記し、可能なら2軸試験で実測した値を使いましょう。本ツールのデフォルトは Tsai 推奨の F12 = -0.5·√(F11F22) です。

次に、「単層強度をそのまま積層板に当てはめる」こと。本ツールが返す TWI は UD 単層レベルの破壊指標で、実機の積層板強度はこれに層構成補正、層内変動、ボイド、自由縁効果(free-edge effect)、層間せん断(ILSS)が掛け合わさります。とくに自由縁ではせん断応力 τ23 と層間応力 σ33 が局所的に大きくなり、Tsai-Wu では捕捉できない層間剥離(デラミ)が先に起きることがあります。穴あけ部・端部・ボルト孔は別途 Hashin 基準や経験的許容で評価してください。

最後に、「強度比 R が大きい=設計が良い」と思い込むこと。CFRP 構造で R を 2 以上に振ると、層数増加で重量・コスト・厚みが急増します。航空構造の現場では R=1.5(安全率 1.5)を基準に、座屈、衝撃後圧縮(CAI)、繰返し荷重(CCAR 25)など複数の許容条件のうち最も厳しいものに合わせるのが普通。Tsai-Wu の R はあくまで第一近似であり、これ単独で「破壊しない設計」と判断するのは危険です。FEM では Tsai-Wu と Hashin(繊維/マトリックス破壊を分離)を同時出力し、両方の許容を満たすことを設計クライテリアにするのが標準アプローチです。

使い方ガイド

  1. 繊維体積分率(Vf)を 50~70% の範囲で設定します。T800/T1000/M55J/Eガラス等の繊維種を選択し、マトリクス樹脂(エポキシ/ビスマレイミド)を指定します
  2. 主応力 σ11(繊維方向)、σ22(横方向)、τ12(面内せん断)を MPa 単位で入力します。航空機主翼では σ11=600~800 MPa、σ22=50~120 MPa が典型値です
  3. 層構成(0°/±45°/90° の積層比率)を指定後、Tsai-Wu 破壊指標(TWI)と最大応力基準(Max Stress)の計算結果を比較し、安全率(SF)が 1.5 以上であることを確認します

具体的な計算例

T800H/エポキシ、Vf=60% の CFRP 単方向板に σ11=700 MPa、σ22=80 MPa、τ12=35 MPa が作用する場合:繊維方向強度 Xt≈2100 MPa、Tsai-Wu 指標 TWI≈0.42、最大応力基準≈0.48 となります。[0°/90°/±45°]s 積層構成では相互作用項により TWI≈0.55 に上昇し、安全率 SF≈1.82 で安全域を確保できます

実務での注意点