Tsai-Wu基準
$F_1\sigma_1 + F_2\sigma_2 + F_{11}\sigma_1^2$$+ F_{22}\sigma_2^2 + F_{66}\tau_{12}^2 + 2F_{12}\sigma_1\sigma_2 \leq 1$
F₁=1/Xt−1/Xc, F₁₁=1/(XtXc)
Xt,Xc:繊維引張/圧縮強度
Yt,Yc:マトリクス引張/圧縮強度
CFRP・GFRPのプライ応力を計算し、Tsai-Wu・Hashin・最大応力基準で破壊判定。繊維/マトリクス破壊モードと破壊包絡線をリアルタイム表示。
Tsai-Wu破壊基準(二次相互作用基準)
最も広く使われる多軸破壊基準の一つで、引張強度と圧縮強度の違いを考慮し、応力成分の線形項と二次項を組み合わせた一般形です。
$\sigma_1, \sigma_2$: 繊維方向及びそれに直交する面内主応力
$\tau_{12}$: 面内せん断応力
$F_1, F_2, F_{11}, F_{22}, F_{66}, F_{12}$: 材料の強度(引張$X_t, Y_t$、圧縮$X_c, Y_c$、せん断$S$)から決まる係数。例:$F_1 = 1/X_t - 1/X_c$
左辺の値を「破壊指数(FI)」と呼び、FI ≥ 1で破壊と判定します。
Hashin破壊基準(モード別破壊基準)
破壊の物理的モード(繊維破壊かマトリクス破壊か、引張か圧縮か)に基づいて4つの独立した判定式を設けます。損傷の発生箇所とメカニズムの特定に優れています。
各モードごとに破壊指数が計算され、どれか一つでも1を超えれば、そのモードでの破壊が始まると考えられます。これにより、設計の弱点をより詳細に把握できます。
航空機・宇宙機の一次構造材設計:CFRPを用いた主翼や胴体部材の設計では、多軸応力状態下での安全性をTsai-Wu基準等で評価します。軽量化のために極限近くまで材料を使うため、正確な破壊予測が不可欠です。
風力発電用ブレード(ウィンドタービン):GFRP製の大型ブレードは、繰り返し荷重と複雑な曲げ・ねじりを受けるため、Hashin基準を用いて繊維とマトリクスの各損傷モードを分離評価し、寿命予測に役立てます。
自動車の軽量構造部品:CFRPを用いたドライブシャフトやサスペンションアームでは、積層角度を最適化してねじり剛性と強度を両立させます。シミュレーターのように角度をスイープさせて破壊指数を調べる作業が、設計プロセスで行われます。
スポーツ用品の開発:テニスラケット、自転車フレーム、釣り竿などでは、特定の方向への剛性と強度が求められます。積層設計と破壊基準を用いることで、狙った性能と安全性を兼ね備えた製品開発が可能になります。
このシミュレーターを使い始める際、特にCAE初心者がハマりがちな落とし穴がいくつかあります。まず「破壊指数(FI)が1を超えたら即座に全体がバラバラになる」という誤解です。実際の複合材料、特に積層板では、一層が破壊しても他の層が荷重を負担する「逐次破壊」が起こります。FI=1.2は「その層で破壊が始まる」サインであって、部品全体の終局強度ではありません。実務では、FI=0.5~0.8程度に抑える安全率を設定するのが一般的です。
次に材料定数の入力ミス。例えば、引張強度(Xt)と圧縮強度(Xc)を逆に入力してしまうと、結果は全く意味を成しません。CFRPでは繊維方向の圧縮強度は引張強度の6〜7割程度であることが多く、例えばXt=1500MPaならXc=900〜1000MPaが目安です。この関係性が逆転していたら、入力を見直すべきサインです。
最後に「最強の破壊基準」を探そうとする姿勢。Tsai-Wuは便利ですが、破壊モードは教えてくれません。一方、Hashinはモードを教えてくれますが、繊維とマトリクスの相互作用を完全には考慮していない場合があります。重要なのは「設計のどの段階で、何を知りたいか」です。概念設計ではTsai-Wuで大まかなFIを出し、詳細設計でHashinで弱点モードを特定する、といった使い分けが実践的です。
このツールで計算する破壊指数は、単なる学術的な数値ではなく、実製品の設計・製造・評価プロセス全体と深く結びついています。まず「積層設計」との関連は直接的です。シミュレーターで45度層のせん断に対する弱さを確認したら、実際の設計では[0/45/90/-45]sのような多軸積層にして弱点を補います。
さらに「構造最適化」、特にトポロジー最適化や自由形状最適化の結果を評価する際の制約条件として破壊指数が使われます。最適化ソフトが生み出す有機的な形状が、複合材料の異方性を考慮して本当に強度を満たすか、このツールのような計算で検証します。
また、「非破壊検査(NDI)」や「構造ヘルスモニタリング(SHM)」とも連携します。例えば、Hashin基準で「マトリクス圧縮破壊」のリスクが高いと判定された部位は、超音波検査やAE(アコースティック・エミッション)センサーで重点的に監視対象とします。シミュレーションが検査計画の効率化に役立つのです。
このツールに慣れたら、次のステップとして「なぜその数式が成り立つのか」という背景を学ぶ
実務に直結する発展トピックは「層間応力」と「環境影響」です。このツールは1層内の面内応力だけを扱いますが、積層板では層と層の間にはがれる(層間剥離)が重大な破壊モードです。また、高温・湿潤環境下では樹脂の強度が低下します。次の学習では、引張強度Xtやせん断強度Sが温度や吸水率によってどのように変化するか(強度低下係数)を調べ、その値をシミュレーターに入力して感度分析をしてみてください。これで、より現実に即した評価が可能になります。