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熱力学

実在気体の圧縮率因子 Z シミュレーター

理想気体の式 PV=nRT は便利ですが、高圧や低温では実在気体からずれてきます。本ツールは Lee-Kesler/Pitzer の対応状態相関で、圧力・温度・臨界定数・偏心因子から圧縮率因子 Z をリアルタイムに計算します。理想気体との誤差が一目で分かり、圧縮機・パイプライン・貯蔵タンクの設計感を養えます。

パラメータ設定
圧力 P
MPa
系の絶対圧力。Pitzer の P_r = P / P_c に使う
温度 T
K
系の絶対温度。換算温度 T_r = T / T_c に使う
臨界圧力 Pc
MPa
物質固有の臨界圧力。メタン 4.6、N₂ 3.40、CO₂ 7.38、水 22.06 MPa
臨界温度 Tc
K
物質固有の臨界温度。メタン 190.6、N₂ 126.2、CO₂ 304.1、水 647.1 K
偏心因子 ω
分子形状の補正項。Ar 0.000、CH₄ 0.011、C₂H₆ 0.099、CO₂ 0.225、H₂O 0.344
計算結果
換算温度 Tr
換算圧力 Pr
Z⁽⁰⁾ 単純流体項
Z⁽¹⁾ 偏心補正項
圧縮率因子 Z
実モル体積 (cm³/mol)
分子運動 — 引力・斥力の支配領域

Z<1 の中圧域では分子間引力が勝り、分子は少し寄り集まります。Z>1 の超高圧域では分子サイズによる斥力が勝り、分子は反発し合います。色は現在の Z を緑(≈1)→橙→赤で示します。

Z vs Pr — 換算圧力に対する圧縮率因子
Z vs Tr — 換算温度に対する圧縮率因子
理論・主要公式

$$Z=\frac{PV}{nRT}=Z^{(0)}+\omega\,Z^{(1)}$$

Z=1 は理想気体。Z<1 は飽和線近傍の中圧域(分子間引力支配)、Z>1 は超高圧域(分子サイズによる斥力支配)。ω は分子形状補正の偏心因子。

$$Z^{(0)}=1+\left(0.083-\frac{0.422}{T_r^{1.6}}\right)\frac{P_r}{T_r},\quad Z^{(1)}=\left(0.139-\frac{0.172}{T_r^{4.2}}\right)\frac{P_r}{T_r}$$

Vogel-Schlosser による Pitzer 2項相関の簡約形。T_r=T/T_c、P_r=P/P_c の換算座標を使う。低〜中圧(P_r<2)の単相気相で精度良好。

$$V_{\text{ideal}}=\frac{RT}{P},\qquad V_{\text{real}}=Z\cdot V_{\text{ideal}}$$

理想モル体積と実モル体積(R=8.314 J/(mol·K))。Z はまさに「実気体の体積が理想気体の何倍か」を表す。

圧縮率因子 Z とは

🙋
「実在気体」って、要するに高校で習った PV=nRT が成り立たない気体ですよね?でも、なぜわざわざ「Z」みたいな1つの数字で表すんですか?
🎓
いい疑問だね。実は PV=nRT は「気体分子の大きさはゼロ」「分子間の力はゼロ」と仮定した式なんだ。常温・低圧ならその仮定でも 0.5% 以内で合うんだけど、圧力が数 MPa を超えたり、臨界点に近づくとずれてくる。そのずれを丸ごと押し込んだのが圧縮率因子 Z = PV/(nRT) で、Z=1 が理想気体、Z≠1 が「どれだけ理想からズレているか」のメーターになる。1つの数字で済むから、設計でも教科書でもまずこの Z を出すのが定石なんだ。
🙋
なるほど!じゃあ、Z は普通 1 より大きいんですか?小さいんですか?
🎓
面白いのは、両方ありえるってところ。中くらいの圧力(数 MPa〜十数 MPa)では、分子同士が「ちょっと引き合う」効果が勝って Z<1 になる。だいたい 0.6〜0.95 くらい。さらに圧力を上げて、分子が押し合いへし合いするくらい詰まると、今度は分子の体積そのものが効いてきて Z>1 になる。極端な例だと水素を 100 MPa まで上げると Z は 1.7 くらいまで上がるんだ。デフォルト値(メタン 5 MPa、350 K)だと Z ≈ 0.955、つまり実気体は理想気体より 4.5% だけ体積が小さい状態だね。
🙋
物質ごとにグラフを描いたら大変そうですが、どうやって計算してるんですか?
🎓
ここで出てくるのが「対応状態原理」と「Pitzer の偏心因子」だよ。温度を T_c で、圧力を P_c で割った換算座標 (T_r, P_r) で描くと、なんと多くの物質がほぼ同じ Z 曲線に重なる。これが対応状態の原理。さらに分子が非球形だとちょっとずれるので、その補正パラメータ ω(偏心因子)を入れて Z = Z⁽⁰⁾ + ω·Z⁽¹⁾ とすると、メタンから n-オクタンまで同じ式で扱える。本ツールではこの簡約版(Vogel-Schlosser)を使っていて、低〜中圧なら 2% 以内で合うんだ。
🙋
実務だと、Z を間違えるとどんな失敗が起きるんですか?ちょっとリアルな例で知りたいです。
🎓
よくあるのは天然ガスのパイプライン設計。メタン主体の 5 MPa を理想気体で扱うと、実際の流量より 4〜5% 多めに見積もってしまう。コンプレッサーの段数を 1 段ケチって痛い目を見るやつだね。もっと派手なのは CCS(CO₂貯蔵)。CO₂ を 10 MPa・常温で送ると Z は 0.4〜0.6 まで落ちる。理想気体扱いだと容器サイズを実に 2 倍近く間違える。冷凍機の R-410A や、水素ステーションの 70 MPa 水素タンク容量計算でも、Z 補正は絶対必須なんだ。「圧縮機選定で初手に出る数字」と言っていい。
🙋
じゃあ Z=1 だと思っていい範囲ってどこですか?
🎓
目安は T_r > 2 かつ P_r < 0.5。たとえば空気を常温・常圧(T_r ≈ 2.3、P_r ≈ 0.027)で扱うなら Z = 0.9997 で、ほぼ 1 と思っていい。逆に T_r < 1.5 か P_r > 1 に入ってきたら Z 補正を必ず効かせる。さらに T_r < 1 だと飽和蒸気領域に入って 2 相になる可能性があるから、この簡約 Pitzer 相関の守備範囲を超える。臨界点付近や液相を扱うときは SRK、Peng-Robinson、Lee-Kesler フル相関などの状態方程式に切り替えるのが定石だよ。

よくある質問

圧縮率因子 Z は実在気体が理想気体からどれだけずれているかを表す無次元数で、Z = PV/(nRT) と定義されます。理想気体では Z=1 ですが、実在気体は分子サイズと分子間引力をもつため Z≠1 となります。中圧域では分子間引力が支配的で Z<1(およそ 0.6〜0.95)、超高圧域では分子サイズによる反発が支配的で Z>1 となります。圧縮機選定・パイプライン設計・冷凍サイクル計算で理想気体近似を使うと数十%の誤差を生むため、Z の評価は実務上極めて重要です。
Pitzer の2項相関は対応状態原理に偏心因子 ω を組み込んだ補正で、Z = Z⁽⁰⁾(T_r, P_r) + ω·Z⁽¹⁾(T_r, P_r) の形をとります。本ツールでは Vogel-Schlosser 近似 Z⁽⁰⁾ = 1 + (0.083 − 0.422/T_r^1.6)·P_r/T_r、Z⁽¹⁾ = (0.139 − 0.172/T_r^4.2)·P_r/T_r を用いており、低〜中圧(およそ P_r < 2 かつ T_r > 0.8)の単相気相で 2% 以内の精度が得られます。臨界点近傍や 2 相領域、液相では誤差が拡大するため SRK/PR/Lee-Kesler フル相関などのEOSが必要です。
偏心因子 ω は Pitzer が導入した分子形状補正のパラメータで、T_r = 0.7 における換算飽和蒸気圧 P_r,sat から ω = -log10(P_r,sat) - 1 として定義されます。完全に球形・無極性の単純流体(Ar、Kr、Xe)では ω ≈ 0、メタンで 0.011、エタンで 0.099、n-ヘプタンで 0.349、水で 0.344 です。標準的な化学工学ハンドブック(Reid-Prausnitz-Poling 等)に多数の物質値が掲載されています。本ツールのデフォルト値 0.011 はメタンに相当します。
誤差は条件次第ですが、低圧・高温(T_r > 2、P_r < 0.5)では 1% 未満で実用上問題ありません。一方、天然ガス(メタン主体)を 5 MPa・350 K で送る場合は Z ≈ 0.955 で約 5%、二酸化炭素を 10 MPa で輸送する CCS パイプラインでは Z ≈ 0.4〜0.6 になり 40〜60% もずれます。圧縮機の段数選定や貯蔵タンクのサイズに直結するため、超臨界域や高圧では Z 補正が必須です。本ツールの右側カードに「理想モル体積 vs 実モル体積」が出るので、その比 = Z を見れば誤差規模が一目で分かります。

実世界での応用

天然ガスパイプラインと圧縮機設計:メタン主体の天然ガスを 5〜10 MPa で長距離輸送するとき、Z は 0.85〜0.95 になります。ガス容量・流速・摩擦損失の計算に Z を入れないと、年間輸送量を数%単位で見誤り、圧縮機段数の選定ミスや顧客契約量未達につながります。北米・欧州の長距離パイプラインでは AGA-8 や GERG-2008 状態方程式が標準で、本ツールの Pitzer 相関はその簡易プレチェック版に相当します。

CO₂ 回収貯留(CCS)と超臨界輸送:火力発電所や製鉄所から出る CO₂ を液化・超臨界状態で地下貯留する CCS では、CO₂ を 7〜15 MPa・常温で輸送するのが標準です。CO₂ の T_c=304 K・P_c=7.38 MPa なので、ちょうど臨界点付近にあたり Z は 0.2〜0.6 と大きく変動します。理想気体扱いだとパイプライン口径・ポンプ仕様を倍くらい間違えるため、Z 補正は CCS 設計の第一歩です。

高圧水素貯蔵タンクと水素ステーション:燃料電池車(FCV)用の高圧水素は 35 MPa または 70 MPa でタンクに貯蔵されます。水素は T_c=33 K と低いため、常温では T_r が大きく Z は 1 を超え、70 MPa では Z ≈ 1.4〜1.5 にもなります。つまり同じ体積のタンクに、理想気体換算より 30〜40% 少ない水素しか入りません。FCV の航続距離計算で Z を 1 と置くと過大評価になり、ステーション設計や車両開発で致命的な誤算につながります。

冷凍サイクルと冷媒選定:HFC(R-134a、R-410A)や次世代の HFO 冷媒(R-1234yf)は、エバポレーター・コンデンサーの温度範囲で T_r が 0.7〜0.95 と低く、Z は 0.7〜0.9 の領域にあります。COP(成績係数)や凝縮器サイズの計算には、Pitzer や PR/SRK 状態方程式による Z 評価が必須で、エアコン・ヒートポンプの効率設計の核となります。

よくある誤解と注意点

まず最大の落とし穴が、「常温・常圧なら Z=1 でいい」を高圧でも引きずってしまうこと。本ツールでスライダーを動かすと分かりますが、メタンを 10 MPa まで上げると Z は 0.85 を切ります。理想気体扱いだとパイプライン流量を 15% も過大評価することになり、コンプレッサー能力不足の原因になります。経験則は「P_r が 0.3 を超えたら Z 補正、P_r が 1 を超えたら必ず Z 補正」です。常温・常圧での Z ≈ 1 は本当に低圧での話で、機器設計の前提にしてはいけません。

次に、「Pitzer 相関は万能ではない」こと。本ツールの Vogel-Schlosser 簡約 Pitzer は、T_r > 0.8 かつ P_r < 2 の単相気相で 2% 以内の精度がありますが、臨界点近傍(T_r ≈ 1)では分子間相関が爆発的に変動するため、ここでは Lee-Kesler フル相関や Peng-Robinson 状態方程式に切り替える必要があります。また 2 相領域(飽和蒸気と飽和液が共存する領域)では、そもそも Z が 2 つの値を持つため、本ツールの数式は使えません。極性が強い水(ω=0.344)やアンモニアでも、より高度な相関(SRK、PRSV、SAFT)が好ましいです。

最後に、「Z は『気体だけ』の話ではない」こと。Z は液相にも定義され、液相では Z は通常 0.01〜0.3 と非常に小さくなります(モル体積が気相より 2〜3 桁小さいため)。本ツールは気相側を対象にしていますが、化学工学では同じ状態方程式(PR や SRK)から気相・液相両方の Z を計算し、その差から飽和蒸気圧や気液平衡を求めるのが普通です。Z の概念そのものは、気相・液相・超臨界相を統一的に扱う強力な道具だと覚えておくと良いでしょう。

使い方ガイド

  1. 圧力(0.1~1000 bar)、温度(250~500 K)、物質の臨界圧力・臨界温度・偏心因子ωを入力します。CO₂(Pc=73.8 bar, Tc=304.13 K, ω=0.228)やCH₄(Pc=46.0 bar, Tc=190.6 K, ω=0.011)など実在気体のパラメータを選択可能です。
  2. シミュレーターが換算温度Tr=T/Tcと換算圧力Pr=P/Pcを自動計算し、Lee-Kesler相関式によってZ⁽⁰⁾(単純流体項)とZ⁽¹⁾(偏心補正項)を算出します。
  3. 圧縮率因子Z=Z⁽⁰⁾+ωZ⁽¹⁾が得られ、実モル体積V=ZRT/Pがcm³/mol単位でリアルタイムに表示されます。理想気体(Z=1)との偏差を視覚化できます。

具体的な計算例

窒素ガス(N₂: Pc=33.9 bar, Tc=126.2 K, ω=0.039)を圧力50 bar、温度300 Kで圧縮した場合:Tr=2.38、Pr=1.47が換算座標となり、Z⁽⁰⁾≈0.920、Z⁽¹⁾≈0.015を経由して、Z≈0.926が得られます。実モル体積は理想値480 cm³/molに対して約445 cm³/molに圧縮されることが判定でき、産業ガス精製装置での流量設計に活用できます。

実務での注意点