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熱流体・空調

顕熱比 SHF 計算ツール — 空調負荷バランス

人体・照明・機器・外気導入による顕熱負荷 Q_s と潜熱負荷 Q_L を集計し、顕熱比 SHF=Q_s/Q_t をリアルタイム算出。空気線図上に SHF 線として可視化し、冷却コイル設計の指標として活用できます。

パラメータ設定
人数 N
照明発熱密度
W/m²
機器発熱密度
W/m²
床面積 A

外気導入率 OAF = 20%(1人あたり 30 m³/h)、外気 32°C/60%RH、室内 26°C/50%RH、人体は中程度作業(顕熱 65W、潜熱 60W)を仮定しています。

計算結果
合計顕熱負荷 Q_s
合計潜熱負荷 Q_L
全熱負荷 Q_t
顕熱比 SHF = Q_s/Q_t
室内負荷の内訳と空気線図上の SHF 線

上半=負荷の積層バー(人体顕熱・人体潜熱・照明・機器・外気顕熱・外気潜熱)/下半=簡略空気線図と SHF 線(室内点→コイル方向)

理論・主要公式

室内空調負荷は温度を変える顕熱と湿度を変える潜熱に分けられ、その比 SHF がコイル設計の主要指標になります。

顕熱負荷 Q_s。m_a は空気質量流量、c_p ≈ 1.006 kJ/(kg·K)、ΔT は温度差:

$$Q_s = m_a \, c_p \, \Delta T$$

潜熱負荷 Q_L。Δw は絶対湿度差、h_fg ≈ 2501 kJ/kg は水の蒸発潜熱:

$$Q_L = m_a \, \Delta w \, h_{fg}$$

全熱と顕熱比 SHF:

$$Q_t = Q_s + Q_L, \qquad SHF = \frac{Q_s}{Q_t}$$

SHF が高い(≈0.8)と乾いた負荷、低い(≈0.5)と多湿負荷を意味し、空気線図上の SHF 線の傾きでコイル処理方向が決まります。

顕熱比 SHF 計算ツールとは

🙋
設計者の先輩から「このオフィスは SHF が低いから注意して」と言われたんですけど、SHF って何ですか?
🎓
ざっくり言うと、空調が処理する全部の熱(全熱 Q_t)のうち、温度を下げるための熱(顕熱 Q_s)が占める割合のことだ。式で書けば $\mathrm{SHF}=Q_s/Q_t$。残りは湿度を下げるための潜熱 Q_L だね。上のシミュレーターを既定値で見てごらん。SHF が 0.47 くらいになっているはずだ。これは「冷房で除湿する仕事の方が、温度を下げる仕事よりも多い」状態を意味する。
🙋
なんでそんなに潜熱が多いんですか?オフィスでそんなに湿気が出るとは思えないんですけど。
🎓
秘密は「外気導入」だ。シミュレーターは1人あたり 30 m³/h の外気を入れる前提になっている。夏の外気は 32°C・60%RH で、絶対湿度が 18 g/kg もある。これを室内の 26°C・50%RH(約 10.5 g/kg)まで下げると、1 kg の空気あたり 7.5 g もの水を凝縮させる必要がある。これが潜熱負荷の正体で、シミュレーターの内訳バーで「外気潜熱」が一番大きな赤色のセグメントになっているのが分かるはずだ。
🙋
人数のスライダーを動かすと、SHF はどう変わるんですか?
🎓
面白いことに、人数を増やすと SHF はさらに下がる方向に動く。人体の発熱(顕熱65W/潜熱60W)はほぼ半々なんだが、人数に比例して外気導入量も増える設定だから、外気潜熱がドンと効いてくる。逆に床面積を増やして照明・機器を増やすと、これらは全て顕熱なので SHF は上がる。シミュレーターでスライダーを動かして、4つの数値カードがどう動くかを観察してみよう。
🙋
空気線図に出てる青い破線が「SHF 線」ってやつですか?
🎓
そう、それがコイル設計の主役だ。室内の状態点(黄色)から、SHF に応じた傾きで斜めに伸ばした線が SHF 線。冷却コイルはこの線に沿って空気を処理する必要があるんだ。緑の点が「ADP(装置露点)」で、SHF 線と飽和曲線の交点。これがコイル表面の理論温度の目安になる。SHF が低いほど線が急になり、コイル表面温度を低く設計する必要が出てくる、というわけだ。

よくある質問

一般的なオフィスや住宅の冷房では SHF = 0.65〜0.80 程度が標準です。会議室や高密度のオフィスでは外気導入や人体発熱の影響で 0.55〜0.65 に下がります。ジムや厨房、湿気の多い工場では 0.40〜0.55、逆にサーバールームや乾燥工場では 0.90 超になることもあります。本ツールの既定値は外気導入比率が高めの設定で SHF ≈ 0.47 となり、潜熱負荷の大きい現場の典型例です。
空気線図上で室内設計点から SHF に対応した傾きで線を引き、冷却コイル後の送風空気の状態点を SHF 線上に取ります。送風温度と SHF 線が決まれば、コイルが処理すべき温湿度差が一意に決まり、コイル能力(顕熱・潜熱)を選定できます。SHF 線が急な(傾きが大きい)場合は除湿主体、ゆるい場合は冷却主体のコイルが必要です。
標準的な冷却コイルでは SHF ≈ 0.7 付近の処理が最も効率的なので、SHF が 0.5 を切るような現場では工夫が必要です。代表的な対策として、コイルで過冷却・除湿した後に再熱する「再熱方式」、固体吸着剤で湿気を除く「デシカント空調」、潜熱と顕熱を別系統で処理する「分離型空調(ハイブリッドDOAS)」などがあります。いずれも省エネ性と除湿能力のバランスで選定します。
外気32°C/60%RH・室内26°C/50%RHの夏季標準条件、外気導入は1人あたり30m³/h(OAF≈20%相当)、人体は中程度作業(顕熱65W・潜熱60W)、照明・機器は全て顕熱として扱っています。実設計では立地・用途・時間帯による負荷変動、再熱・送風機発熱、外壁からの伝熱なども考慮する必要があります。本ツールは「全体像と SHF の感覚」をつかむための教育用シミュレーターとしてご利用ください。

実世界での応用

オフィスビル・商業施設の空調設計:事務所ビルや百貨店の空調機選定では、外気導入率と人員密度から SHF を見積もり、冷却コイル能力と再熱要否を判断します。SHF が 0.6 を切る場合は再熱コイル付きの空調機(CAV/VAV)を採用し、室内湿度の上昇を防ぎます。会議室や講堂のように人員密度が時間帯で大きく変わる空間では、SHF も変動するため可変風量制御や運転モード切替が重要になります。

データセンターと精密空調:サーバールームの発熱は IT 機器がほぼ100%顕熱で、人員はほぼゼロ、外気導入もごく少量に絞られるため、SHF は 0.9〜1.0 に達します。この場合は除湿不要の「ドライコイル」運用が可能で、コイル表面温度を高く保ち露点以下にしないことで、省エネと結露防止を同時に実現します。設計時の SHF 算定は、コイル選定と冷水温度設定の出発点です。

厨房・スポーツ施設・プール:厨房の蒸気や調理発生の水分、ジムでの発汗、プールサイドの蒸発などにより、潜熱負荷が顕熱負荷を上回るケースがあります。SHF が 0.4 を切る現場も珍しくなく、デシカント除湿機や再熱式空調を組み合わせた特殊設計が必要です。本ツールで概算 SHF を確認し、標準的な空調機で対応可能か、それとも特殊機器が必要かを判断します。

CAE と建築熱負荷シミュレーション:EnergyPlus や TRNSYS などの建築熱負荷シミュレータでも、各時刻ごとの SHF が出力されます。本ツールで「人員・照明・機器・外気がそれぞれ SHF にどう効くか」を直感的に理解しておくと、シミュレーション結果の解釈や空調機選定の妥当性検証が格段にしやすくなります。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解は、「室内設計温湿度を満たせば SHF は気にしなくてよい」と考えてしまうことです。実は SHF は「コイルが室内設計点に到達するためにどの方向に空気を処理すべきか」を示す方向ベクトルであり、最終状態だけでなく途中の処理経路を決定します。SHF が 0.5 の現場で、SHF = 0.75 を想定した標準コイルを使うと、設計温度には達しても湿度が下がりきらず、室内が不快な高湿度状態になります。シミュレーターで人数や外気を変えながら SHF と内訳バーの両方を確認し、現場の SHF レンジを把握してから機器選定に入るのが鉄則です。

次に多いのが、外気導入量を過小評価することです。建築基準法や換気基準で定められた最低外気量を入れるだけで、本ツールのように外気潜熱が全体の40%以上を占めることがあります。「人数 × 30 m³/h」は事務所の最低ラインで、会議室や教室、感染症対策強化施設ではこの2〜3倍が要求されることも珍しくありません。シミュレーターで人数スライダーを動かすと、外気導入分(赤色セグメント)がほぼ比例して増え、SHF が下がっていくのが分かります。外気処理のための専用空調機(DOAS)を別系統で持たせる設計が一般化しているのは、このためです。

最後に、SHF を単一値で固定して設計してしまうのは危険です。SHF は時間帯・季節・在室人員・運転モードで大きく変動します。朝の立ち上げ時は外気が冷涼で潜熱が少なく SHF が高め、昼のピーク時は人員・外気とも増えて SHF が下がる、夜間の換気停止時は人員ゼロで内部発熱主体になり SHF が高くなる、というように一日のなかでも変わります。設計では「ピーク時 SHF」だけでなく「年間の SHF レンジ」も意識し、可変能力制御(インバータ、VAV、再熱量制御)で広い SHF レンジに対応できる空調システムを選ぶことが、快適性と省エネを両立する鍵です。