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船舶推進・プロペラ設計

船舶プロペラ Wageningen B-Series 設計シミュレーター — BP/δ 線図

MARIN(オランダ海事研究所)の Wageningen B-Series 系統試験に基づく船舶プロペラの初期設計ツール。主機馬力・シャフト回転数・船速・翼数・展開面積比・直径を入力すると、BP/δ 係数、前進率 J、最適 P/D、開水中効率 η₀、推力、空洞数 σ までを一気通貫で見られます。

パラメータ設定
シャフト馬力 P_D
kW
シャフト RPM N
rpm
船速 V
kn
翼数 Z
B-series で実機データのある翼数
展開面積比 A_E/A_O
大きいほど面圧分散・キャビ抑制に有利
プロペラ径 D
m
後流係数 w
V_a = V·(1−w)。船体の後流速度補正
推力減小係数 t
推力 T と有効推力 T_E の比 (1−t)
計算結果
前進率 J
BP 係数
δ 係数
最適 P/D
開水中効率 η₀
推力 T (kN)
プロペラ + BP/δ 動作点

中央はプロペラの円盤表示と翼断面、右側は BP/δ 平面上の動作点と最適 η₀ 等高線の概念図です。色は判定(緑=設計OK、橙=効率低下、赤=空洞リスク)。

開水中効率 η₀(J) — B-Series 概略
翼数別の参考効率比較
理論・主要公式

$$B_P = \frac{N\sqrt{P}}{V_a^{2.5}},\qquad \delta = \frac{N\,D}{V_a},\qquad J = \frac{V_a}{n\,D}$$

Bp はパワー係数(英単位:N rpm、P HP、V_a knots)、δ は直径係数(D は ft)、J は前進率(無次元、SI)。Bp が既知なら B-series 線図から最適 P/D・η₀・δ_opt を読み、δ_opt → D を逆算するのが Taylor の BP-δ 設計法。

$$K_T = \frac{T}{\rho n^{2} D^{4}},\quad K_Q = \frac{Q}{\rho n^{2} D^{5}},\quad \eta_0 = \frac{J\,K_T}{2\pi\,K_Q}$$

スラスト係数 K_T・トルク係数 K_Q から開水中効率 η₀ が決まる。η_total = η₀·η_H = η₀·(1−t)/(1−w) が船全体の伝達効率。

$$\sigma = \frac{p_{\rm atm}+\rho g h - p_v}{\tfrac{1}{2}\rho V_R^{2}}$$

空洞数 σ。V_R はプロペラ翼先端の代表速度(ここではチップ速度 πnD を用いる近似)。σ が 0.3 を下回るとシートキャビテーション発生のリスク域。

船舶プロペラ Wageningen B-Series — BP/δ 選定法

🙋
先生、船のプロペラって翼の形がいろいろあるけど、どうやって「これでいい」と決めてるんですか?毎回CFD回すわけじゃないですよね?
🎓
いいところだね。商船の初期設計では、いきなりCFDじゃなく Wageningen B-Series という系統試験データを使うのが伝統的な王道なんだ。これはオランダの MARIN(旧 NSMB)が1937年から1969年にかけて作った、約120個の系統的な模型プロペラ群でね。翼数を3〜7、展開面積比を0.30〜1.05、ピッチ比を0.5〜1.4で振って、ぜんぶ open water 試験で K_T・K_Q・η_0 を測ってあるんだ。実機エンジニアはこの線図を「読む」だけで、まずまずのプロペラを引ける。
🙋
なるほど。それで左のスライダーに BP とか δ とか出てきますけど、これは何ですか?
🎓
BP-δ 法は Taylor が古典的に整備した設計法で、Bp = N·√P/V_a^2.5、δ = N·D/V_a と置く。馬力 P と回転数 N、伴流速度 V_a が分かれば Bp が決まるよね。それを横軸に取った B-series 設計線図には、最適効率 η_0 のラインと、そのときの P/D と δ_opt が等高線で書き込まれている。だから「Bp 既知 → 線図から最適 P/D、η_0、δ_opt を読む → δ_opt から D を逆算」という流れで、馬力と RPM から最適直径まで一発で決まる。本ツールはこの線図フィットを近似計算しているんだ。
🙋
あれっ、デフォルト値だと判定が「空洞リスク」で赤になってます。σ が 0.106 って小さすぎますか?
🎓
それ、まさにこのツールが教えてくれる典型的な失敗パターンだよ。RPM=200・D=5m だとチップ速度が約52 m/s、これは速すぎる。チップ速度の2乗が分母に効くから、σ が一気に小さくなる。実機の商船プロペラ設計だと、チップ速度は普通 35〜45 m/s 以下に抑える。修正案は (1) RPM を下げる、(2) 直径を小さくする、(3) 展開面積比 A_E/A_O を 0.85〜1.0 まで増やして単位面圧を下げる、の3つだ。試しに RPM=150 にしてみると σ がぐっと持ち直すはず。
🙋
翼数を変えると効率も変わるグラフがありますね。実船では何枚翼が多いんですか?
🎓
理論的には翼数を減らすほど open water 効率は上がる(誘導損失が小さい)から、漁船や小型船の高速艇は3枚翼が多い。一方、大型タンカーや LNG 船では振動・キャビ・URN(水中放射騒音)を分散させるために 5枚翼や6枚翼 が主流。クルーズ船では旅客の振動快適性のため6〜7枚翼も使う。効率は2〜3%しか変わらないけど、振動とキャビ寿命はぜんぜん違ってくるんだ。
🙋
最近は CFD や 機械学習で設計するって聞きますが、B-series はもう古いんですか?
🎓
古いどころか現役だよ。CFD(OpenFOAM、STAR-CCM+、Fluent)は B-series で当たりを付けた形状を出発点 にしないと、設計空間が広すぎて収束しない。実務では「B-series で 初期 P/D・D・η_0 を見積もる → CFD で渦・空洞・URN を確認 → スキューやレーキを足して最適化」という二段構え。最近は Kaplan(ダクテッド)、Voith Schneider、ポッド推進(Wärtsilä WUS、ABB Azipod)など派生も多いけど、それでも比較基準として B-series η_0 は必ず参照される。IMO MEPC.337(76) の URN ガイドラインも、B-series チップ速度を一つの安全側目安にしているくらいだ。

よくある質問

Wageningen B-Series は、オランダの MARIN(Maritime Research Institute Netherlands)が 1937 年から 1969 年にかけて系統的な open water 試験を行ったプロペラ群です。翼数 Z=2〜7、展開面積比 A_E/A_O=0.30〜1.05、ピッチ比 P/D=0.5〜1.4 の組合せで約 120 種のモデルを試験し、K_T(J)・K_Q(J)・η_0 の線図と等高線を整備しました。1975 年に Oosterveld と Oossanen が多項式(39 項の Reynolds 補正付き)に整理して以来、商船・漁船・タンカーなどの初期プロペラ設計の事実上の標準ツールとして使われています。
BP(パワー係数)は Bp = N·√P_HP / V_a^2.5、δ は δ = N·D / V_a で定義される無次元量です(英単位:HP、RPM、knots、ft)。設計フローは、(1) 主機馬力 P と回転数 N、船速 V_s と後流係数 w から伴流速度 V_a を求める、(2) Bp を計算する、(3) Bp に対して B-series 線図から最適効率となる P/D、δ_opt、η_0 を読む、(4) δ_opt から最適直径 D=δ_opt·V_a/N を逆算する、という順です。本ツールは Bp に対する経験的フィットで P/D と η_0 を推定し、設計初期の見積りに使えます。
J = V_a / (n·D) は無次元の前進率で、プロペラが「ピッチに対してどれだけ進んでいるか」を表します。スラスト係数 K_T = T / (ρ·n²·D⁴)、トルク係数 K_Q = Q / (ρ·n²·D⁵)、開水中効率 η_0 = (J·K_T)/(2π·K_Q) です。J が 0(係留時)に近いほど K_T と K_Q が大きく η_0 は 0、J が大きすぎると K_T が負になり推力が出ません。B-series のチャートでは J=0.5〜0.7、P/D=0.8〜1.2 あたりで η_0 が 0.6〜0.7 のピークを迎えるのが典型です。
空洞数 σ は σ = (p_atm + ρ·g·h − p_v) / (½·ρ·V_R²) で定義され、翼面上で局所静圧が蒸気圧 p_v を下回るとキャビテーション気泡が発生します。σ が 0.3 以下になると翼負圧面でシートキャビテーションが広がり、推力が減る・効率が落ちる・気泡崩壊で翼面が損傷(ピッティング)・チップ渦から強い水中放射騒音(URN)が発生する、といった害が一気に出ます。対策は展開面積比 A_E/A_O を増やして単位面積荷重を下げる、Skew を入れて圧力勾配を緩める、RPM を下げて V_R を下げる、などです。IMO MEPC.337(76) の URN ガイドラインも、この観点から議論されています。

実世界での応用

コンテナ船・バルクキャリア・タンカーの初期設計:主機馬力と最大連続定格 RPM(MCR)、設計船速が与えられたとき、本ツールのような BP-δ 法でまず最適直径 D と P/D を概算します。船底クリアランス(D は LWL の 0.7 倍以下が目安)に収まるか、軸トルク Q が許容値以下か、開水中効率 η_0 が 0.55 以上あるかを確認し、シャフト構成と機関選定の整合を取ります。Maersk Triple-E や VLCC のような大型船では、D=9〜10m、P/D≈0.8、N≈80〜90 rpm という低 RPM・大直径が主流です。

漁船・作業船・タグボートの可変ピッチ化検討:係留状態(J=0)から自由航行(J=0.4〜0.6)まで広い作動範囲を持つ船は、固定ピッチ(FPP)よりも可変ピッチ(CPP)が有利です。本ツールで J を動かして η_0 の落ち方を見ると、固定 P/D では off-design で効率が急減することが分かります。CPP は P/D を翼ごとに変えて常に最適点に置けるため、燃費が 5〜10% 改善することも珍しくありません。

キャビテーション・空洞数 σ の評価:本ツールはチップ速度から代表 σ を計算しますが、実機ではキー部・ハブ部それぞれの局所 σ を見ます。Burrill チャートや Keller 公式(A_E/A_O ≥ (1.3+0.3Z)·T/(p_atm−p_v)·D² + k)でキャビテーション余裕を二段評価し、必要なら A_E/A_O を 0.85〜1.0 まで上げます。クルーズ船や軍艦のように URN が問題になる船では、さらに Skew を 30〜40°入れて圧力勾配を緩めます。

ポッド・アジマス・ダクテッド推進との比較ベンチマーク:Wärtsilä WUS や ABB Azipod、Rolls-Royce Mermaid、Schottel STP などの新型推進器は、B-series 単独より高効率な場合もあれば、低速ではダクト抵抗で逆に効率低下する場合もあります。意思決定の出発点として「B-series で η_0 が幾つになるか」を本ツールで把握してから、メーカー提案の効率と比較するのが定石です。

よくある誤解と注意点

まず最大の落とし穴は、「BP-δ 法は古くて精度が低い」という誤解です。確かに Oosterveld-Oossanen 多項式は 1975 年のもので、現代の CFD と比べて翼形状の最適化はできません。しかし初期パラメータ(D、P/D、η_0、Q)の見積もり精度は CFD と同程度の ±3〜5% です。CFD の最大の弱点は「設計空間が広すぎる」「メッシュと乱流モデルの選定で結果が ±10% 変動する」ことで、出発点として BP-δ で当たりを付けるのは現代でも標準手順です。本ツールも、CFD を回す前の サニティチェック として使うのが正しい立ち位置です。

次に、「後流係数 w と推力減小係数 t を 0 として無視する」こと。これは初学者がよくやる致命的なミスです。w は船体後流による速度低減(タンカーで 0.3〜0.4、フィン付きフェリーで 0.1〜0.2)、t は推力増加に伴う船体抵抗増(だいたい 0.7〜0.9·w)で、両方を無視すると η_total が 20〜30% も過大評価 されます。本ツールでは w=0.2、t=0.15 をデフォルトにしていますが、実船では模型試験または Holtrop-Mennen 法でちゃんと推定してください。船型(block coefficient C_B)が大きいほど w も t も大きくなる傾向です。

最後に、「キャビテーション余裕は σ だけで足りる」という油断。本ツールの σ 計算は代表チップ速度ベースの一段評価で、実機の翼根・翼端・ハブそれぞれの局所キャビテーションは別途 Burrill や Keller、あるいは CFD・空洞水槽試験で見る必要があります。特に近年は IMO MEPC.337(76) や ICES(国際海洋探査評議会)の URN 規制で、商船にも水中放射騒音の上限が議論されており、シートキャビテーションだけでなく チップボルテックスキャビテーション(TVC) の抑制が要求されます。Skew・Tip Unloading・最適 P/D 分布などのテクニックは、B-series 単独では設計できないので、専門ソフト(Propeller Optimization Suite、PROCAL など)に進む必要があります。

使い方ガイド

  1. 船舶の主機関出力(kW)、プロペラ軸回転数(rpm)、設計船速(ノット)を入力します
  2. プロペラの翼枚数、展開面積比 Ao/A(0.4~1.0)、直径(m)を設定し、計算開始ボタンを押します
  3. 前進率 J、BP/δ 係数、最適 P/D、開水中効率 η₀、推力を確認し、Wageningen B-Series 系統試験データから最適翼形を選定します

具体的な計算例

5,000 kW、120 rpm の貨物船、設計船速 14 ノット、翼数 4 枚、展開面積比 0.65、直径 3.8 m の場合:前進率 J = 0.58、BP 係数 = 86.5、δ 係数 = 2.15、最適 P/D = 0.82、開水中効率 η₀ = 0.68、推力 T = 285 kN と計算されます。この条件で MARIN B4-70 翼形(翼枚数 4、面積比 0.65)が効率・キャビテーション性能のバランスで最適候補となります

実務での注意点