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ポンプ・流体機械シミュレーター

NPSH シミュレーター — ポンプキャビテーションの安全判定

大気圧・飽和蒸気圧・吸込揚程・配管摩擦損失から、利用可能 NPSH(NPSHa)と必要 NPSH に対する余裕を実時間で計算。ポンプのキャビテーション安全性を直感的に確認できる教育用シミュレーターです。

パラメータ設定
大気圧 P_atm
kPa
飽和蒸気圧 P_v
kPa
吸込揚程 h_s
m
配管摩擦損失 h_loss
m

流体は水を仮定(ρ = 1000 kg/m³、g = 9.81 m/s² 固定)。必要 NPSH(NPSHr)は実機ポンプ依存ですが、本ツールでは代表値 2.0 m を仮定しています。

計算結果
利用可能 NPSH
大気圧水柱
余裕(NPSHa − NPSHr)
安全性
吸込側の模式図

液面・吸込配管・ポンプの位置関係。h_s(吸込揚程)と h_loss(配管摩擦損失)を矢印で表示し、利用可能 NPSH の意味を可視化します。

吸込揚程 h_s と利用可能 NPSH

横軸=h_s (m)/縦軸=NPSHa (m)。赤帯=キャビテーション領域(NPSHa < NPSHr)/黄点=現在の運転点。

理論・主要公式

利用可能 NPSH は、吸込側の絶対圧水柱から蒸気圧水柱・幾何揚程・配管摩擦損失を差し引いた量で、キャビテーション余裕の指標です。

利用可能 NPSH(NPSHa):

$$\mathrm{NPSH}_a = \frac{P_\text{atm} - P_v}{\rho\,g} - h_s - h_\text{loss}$$

キャビテーション安全条件と余裕:

$$\mathrm{NPSH}_a \geq \mathrm{NPSH}_r + M,\qquad M = \mathrm{NPSH}_a - \mathrm{NPSH}_r$$

$P_\text{atm}$:大気圧 [Pa]、$P_v$:液体の飽和蒸気圧 [Pa]、$h_s$:吸込揚程 [m](液面より上で正)、$h_\text{loss}$:吸込配管の摩擦損失 [m]、$\rho = 1000$ kg/m³(水)、$g = 9.81$ m/s²、$M$ は安全余裕($M > 0.5$ m を「安全」と判定)。

NPSH シミュレーターとは

🙋
先輩、ポンプの選定で「NPSHa が NPSHr より大きいことを確認しろ」って言われたんですけど、NPSHa って何を計算してるんですか?
🎓
ざっくり言うとね、ポンプの吸込口に届く時点で「液体がまだ蒸発していない余裕」がどれくらい残っているかを水柱メートルで表した量だ。式は $\mathrm{NPSH}_a = (P_\text{atm}-P_v)/(\rho g) - h_s - h_\text{loss}$ で、大気圧から蒸気圧を引いた水柱から、ポンプを持ち上げる分と配管摩擦を引く。プラスならまだ余裕、ゼロに近づくとキャビ(気泡発生)が始まるよ。
🙋
水温が上がるとキャビしやすいって聞いたんですけど、そこに何が効いてるんですか?
🎓
蒸気圧 $P_v$ が温度に対して指数関数的に上がるからだね。20°C で 2.3 kPa が、80°C では 47 kPa まで急増する。式の中の $-P_v/(\rho g)$ がドカッと効いて NPSHa が小さくなる。スライダーで $P_v$ を 2.3 → 47 に動かしてみると、利用可能 NPSH が約 4.5 m も低下するのが見えるはずだ。だからボイラ給水ポンプは押込み運転がほぼ必須なんだよ。
🙋
配管摩擦損失 h_loss って、なんでこんなに効くんですか?吸込側だけなら短いですよね?
🎓
確かに吸込側は普通 5〜10 m と短いんだけど、流速の二乗に比例するから流量を上げただけで急に効く。例えば 50 mm 配管で 1 m³/min を流すと数 m の損失になることもある。実務では「吸込配管は 1 サイズ太く」が鉄則。エルボ・ストレーナー・偏心レデューサーも含めて積算するから、本ツールではまずトータル h_loss として 1 つの値で扱っているよ。
🙋
余裕(マージン)は 0.5 m で十分なんですか?もっと取った方がいい気もしますけど。
🎓
教科書的には 0.5 m が「最低限」、API 610 や ANSI/HI では 1.0 m 程度が推奨だね。NPSHr の試験誤差(±10%)、運転点のずれ、温度上昇による $P_v$ 変動を考慮するとやはり 1 m は欲しい。本ツールでは 0.5 m を「安全と注意の境界」として表示しているけど、実機設計では 1 m 確保を目標にスライダーを動かしてみてほしい。

よくある質問

大気圧 $P_\text{atm}$ が標高とともに低下するためです。海面で 101.3 kPa の大気圧は、標高 1,000 m で約 89.9 kPa、3,000 m で約 70 kPa、富士山頂(3,776 m)では約 64 kPa まで下がります。NPSHa の式では先頭項 $(P_\text{atm}-P_v)/(\rho g)$ がそのまま約 3.7 m 減少するので、設計揚程余裕も同じだけ目減りします。山岳地帯のプラント・水力発電所の取水設備では大気圧補正が必須で、本ツールでも slPatm を 70〜80 kPa に動かして高地条件をシミュレートできます。
いいえ、押込み運転(h_s < 0)でも条件次第ではキャビテーションは起きます。たとえば $P_v$ が 50 kPa(≒80°C 水)だと蒸気圧水柱だけで約 5.1 m を消費し、配管摩擦 h_loss = 3 m を加えると、h_s を −2 m まで押し込んでも NPSHa は 4.5 m 程度にしかなりません。NPSHr が 4 m のポンプだと余裕は 0.5 m で「危険」域です。押込み運転は強力な対策ですが万能ではなく、必ず計算で確認する必要があります。
通常は ISO 9906 や ANSI/HI 1.6 に基づく実機キャビテーション試験で決定されます。具体的には、吸込側の圧力を徐々に下げながら全揚程を測定し、3% 揚程低下が起きた時点の吸込側 NPSH を NPSHr として記録します(NPSH3 とも呼びます)。この値はインデューサー有無・運転流量で大きく変わるため、メーカーカタログでは流量に対する NPSHr 曲線として提供されます。本ツールでは代表値 2.0 m を仮定していますが、実機選定では必ずメーカー曲線を参照してください。
基本式は変わりませんが、流体ごとに $\rho$ と $P_v$ を読み替える必要があります。本ツールは ρ = 1000 kg/m³(水)固定なので、たとえば軽油(ρ ≈ 850 kg/m³)では水柱 1 m が圧力 8.34 kPa に相当し、計算結果のスケールがずれます。LNG や液化アンモニアは沸点近傍で運転されるため $P_v$ がほぼ運転圧と等しく、NPSHa の確保が極めて困難になります。冷媒系統では多くの場合「飽和液からの過冷却度」を NPSHa の代わりに使う設計手法に切り替えます。学習用には本ツールでも十分ですが、実プラント設計では流体物性を組み込んだ専用ソフト(Aspen HYSYS など)を併用してください。

実世界での応用

火力・原子力発電所のボイラ給水ポンプ:180°C 級のボイラ給水では飽和蒸気圧が 1 MPa 近くにまで達し、開放タンクからの自然吸込みでは NPSHa が成立しません。脱気器を高所に設置して数十メートルの押込み水頭を確保し、さらに前置ブースターポンプで圧力を上げてから本ポンプに送るという 2 段構成が標準です。本ツールで $P_v$ を上限の 50 kPa(80°C 水相当)まで動かすと、$h_s$ をかなり負側に振らないと安全域に入らないことが体感できます。

上水道の取水ポンプ:河川や湖から取水する場合、水位変動と配管経路の長さが NPSHa に直接効きます。渇水時に水位が下がると h_s が増加し、夏場の水温上昇で $P_v$ が上昇するという悪条件が重なります。設計では「最悪水位+最悪温度」での NPSHa を計算し、必ず NPSHr + 1.0 m 以上を確保します。本ツールで複数条件を順に動かしながら最低 NPSHa を見つけ、最も厳しい運転点で設計するという感度解析が直感的に行えます。

石油精製プラントの軽質留分ポンプ:ナフサや LPG など蒸気圧の高い流体を扱うポンプでは、NPSHa の確保が常に設計クリティカルパスです。API 610 では NPSHa ≥ NPSHr + 0.6 m(ガソリン)あるいは + 1.0 m(軽質留分)と要求されています。プラント計画段階で塔底からポンプ吸込までの配管圧損とノズル高さを最小化する必要があり、本ツールのような早見表的計算が初期検討で役立ちます。

ビル給水・空調冷却水ポンプ:常温水ですが、ビル屋上の冷却塔から地下ポンプ室に降ろした冷却水を再循環させる構成で、配管摩擦 h_loss の見積もり誤差が NPSHa を直撃します。実務では「設計流量の 110%」「ストレーナー目詰まり時」など複数条件で h_loss を増やして本ツールのような計算を回し、最も厳しい条件で NPSHa を満たすかを確認します。設備改修で配管を細くする提案が来た時の影響評価にも使えます。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解は 「ポンプを液面より下に置けばキャビは起きない」 と思い込むことです。確かに $h_s$ が負になれば NPSHa は増えますが、温水や揮発性流体では $P_v$ が支配的になり、押込み運転でも余裕が取れないケースが多々あります。たとえば水温 80°C なら $P_v \approx 47$ kPa、蒸気圧水柱だけで約 4.8 m を消費するので、NPSHr = 3 m のポンプを使う場合、h_loss を含めて 7.8 m 以上の押込み水頭が必要です。本ツールの $P_v$ スライダーを 47 kPa まで動かしてその効果を確認してみてください。

次に多いのが、「NPSHa は流量によらず一定」 と勘違いすることです。実際には流量を上げると吸込配管の摩擦損失 $h_\text{loss}$ が流速の二乗で増えるので、NPSHa は流量とともに減少します。一方、ポンプの NPSHr は流量とともに増加するため、両者は流量に対して逆方向に動き、ある流量を超えるとキャビテーションが必ず発生します。これが「ポンプの最大流量はキャビテーションで制限される」という現象の正体で、本ツールでは h_loss を流量の代理パラメータとして動かしてみるとこの動きを再現できます。

最後に、「本ツールの NPSHr = 2 m はあらゆるポンプに当てはまる」 と誤解しないことです。実際の NPSHr は、小型キャンドポンプで 0.5 m 以下、中容量遠心ポンプで 2〜5 m、大型ボイラ給水ポンプでは 10 m を超えるものまで幅があります。さらにインデューサー付きの低 NPSHr 仕様や、流量増加とともに急増する非定常曲線など、メーカー固有の特性が大きく影響します。本ツールはあくまで「教育用に NPSHa の感度を直感的に理解する」目的で、実機選定では必ずメーカーの NPSHr 曲線(流量対 NPSHr)を入手して使用してください。