基準値と実値
換算の関係
Z_base = V_base² / S_base
I_base = S_base / (√3 · V_base)
V_pu = V / V_base, Z_pu = Z / Z_base
理論・主要公式
基準インピーダンス:$$Z_{\mathrm{base}} = \frac{V_{\mathrm{base}}^2}{S_{\mathrm{base}}}$$
基準電流:$$I_{\mathrm{base}} = \frac{S_{\mathrm{base}}}{\sqrt{3}\,V_{\mathrm{base}}}$$
p.u. 値変換:$$V_{\mathrm{pu}}=\frac{V}{V_{\mathrm{base}}},\quad Z_{\mathrm{pu}}=\frac{Z}{Z_{\mathrm{base}}}$$
p.u. 系のオームの法則:$$V_{\mathrm{pu}} = Z_{\mathrm{pu}} \cdot I_{\mathrm{pu}}$$
$V_{\mathrm{base}}$ は線間電圧(kV)、$S_{\mathrm{base}}$ は三相皮相電力(MVA)。$\sqrt{3}$ が現れるのは三相系の線間⇔相間の換算によるものです。
単位法シミュレーターとは
🙋
先輩、電力系統の教科書で「p.u.値」っていう書き方をよく見るんですけど、なんで実値(V とか Ω)のまま計算しないんですか? そっちのほうが分かりやすそうなのに…。
🎓
いい疑問だ!系統には 6.6kV から 500kV まで全然違う電圧階級が変圧器で繋がっていて、変圧器ごとに巻数比で値が跳ねるんだよ。p.u.値にすると変圧器の巻数比を吸収できて、系統全体を1つの等価回路として解析できる。試しに V_base=400kV、S_base=100MVA でこのツールを動かしてみて。Z_base が 1600Ω と計算されて、現実の 50Ω の線路は Z_pu=0.0313 という、ほぼゼロに近い小さい値になるのが見えるよ。
🙋
本当だ、Z_pu が 0.0313 になりました。これってどう読めばいいんですか? 50Ω が小さいのか大きいのかピンと来なくて…。
🎓
p.u.値の便利なところは「100% 動作点との比」として読めることだよ。Z_pu=0.0313 は「定格時の電圧降下は 3.13%」と即座にわかる。実務では発電機の同期リアクタンスが X_pu=1.0〜2.0、変圧器の漏れリアクタンスが X_pu=0.08〜0.15、送電線のリアクタンスは長さによるけど数十パーセント以下が普通だ。慣れてくると p.u. 値を見ただけで「あ、これは妥当」「これは想定外」と直感で判断できるようになる。
🙋
基準容量 S_base はどうやって選ぶんですか? ツールでは 100 MVA がデフォルトですけど。
🎓
電力会社の系統解析では「100 MVA」を共通基準にするのが業界標準。各機器メーカーは自社定格容量で p.u. を出してくるから、それを 100MVA 基準に換算して系統モデルに組み込む。換算式は Z_pu_new = Z_pu_old × (S_base_new/S_base_old) で、容量を 2 倍にすると Z_pu も 2 倍。本ツールで S_base スライダーを動かすと、Z_pu の値がきちんと反比例して変化するのを観察できるよ。
物理モデルと主要な数式
三相電力系統の単位法では、基準線間電圧 $V_{\mathrm{base}}$(kV)と基準三相皮相電力 $S_{\mathrm{base}}$(MVA)の2つを独立に選び、そこから派生する基準値を以下のように定義します:
$$Z_{\mathrm{base}} = \frac{V_{\mathrm{base}}^2}{S_{\mathrm{base}}},\quad I_{\mathrm{base}} = \frac{S_{\mathrm{base}}}{\sqrt{3}\,V_{\mathrm{base}}}$$
実値 $V$, $I$, $Z$ をそれぞれの基準値で割れば p.u. 値が得られます。$V_{\mathrm{pu}} = V/V_{\mathrm{base}}$、$I_{\mathrm{pu}} = I/I_{\mathrm{base}}$、$Z_{\mathrm{pu}} = Z/Z_{\mathrm{base}}$。重要なのは、p.u. 系では電圧・電流・インピーダンスの関係が単純な $V_{\mathrm{pu}} = Z_{\mathrm{pu}}\,I_{\mathrm{pu}}$ になり、$\sqrt{3}$ や巻数比 $a$ が一切現れないことです。これが「変圧器を等価回路上で消す」と言われる単位法の核心的なメリットです。
実世界での応用
潮流計算(Power Flow):系統全体のノード電圧と線路潮流を解く潮流計算は、すべて p.u. 値で行います。100MVA 基準が国内外の電力会社で事実上の標準です。本ツールで Z_pu を直感的に把握できれば、潮流計算の入力データの妥当性チェックがしやすくなります。
短絡電流計算:遮断器の遮断容量や保護リレーの整定で使う三相短絡電流は、$I_{\mathrm{sc,pu}} = 1/Z_{\mathrm{th,pu}}$(テブナンインピーダンス)で簡潔に計算できます。実値に戻すには $I_{\mathrm{sc}} = I_{\mathrm{sc,pu}} \times I_{\mathrm{base}}$。本ツールの I_base 出力がそのまま使えます。
変圧器仕様の比較:変圧器カタログのインピーダンス電圧(%Z)は p.u. 値そのものです。20MVA・%Z=10% の変圧器は、自身の容量基準で X_pu=0.10。これを 100MVA 基準に換算すると X_pu=0.50 となります。
安定度解析:過渡安定度や電圧安定度の解析ソフト(PSS/E, PowerWorld, BPA, CRIEPI Y法など)は全て p.u. 入力。慣れることが系統技術者の必須スキルです。
よくある誤解と注意点
第一に、「p.u. 値は単純に %(パーセント)の1/100ではない」こと。多くの場面で「変圧器%Z=10%」と「X_pu=0.10」は等価ですが、これは「機器自身の定格を基準にした場合」のみ。系統共通の S_base に換算すると数値はがらりと変わります。本ツールで S_base を変えるとあらゆる p.u. 値が比例して変わるのが観察できます。
第二に、線間電圧と相電圧の取り違え。本ツールでは V_base は「線間電圧」を採っています(系統解析の標準)。Z_base = V_base²/S_base の式が成立するのはこの定義の場合のみ。相電圧を基準にすると 3 倍ずれます。実務で他者のモデルを引き継ぐときは、必ずどちらの定義かを確認すべきです。
第三に、変圧器の両側で V_base を巻数比に応じて変える必要があります。一次側 V_base=275kV、二次側 V_base=66kV のように選べば、変圧器自身の漏れリアクタンス X_pu は両側で同じ値になり、巻数比の効果が等価回路から自動的に消えます。S_base は系統全体で共通の1つを使います。本ツールは単一電圧階級での換算に特化していますが、この階級ごとの V_base の話は系統解析の基本中の基本です。
よくある質問
はい。V_base=400kV、S_base=100MVA とすると、Z_base = V_base²/S_base = (4×10⁵)² / 10⁸ = 1.6×10¹¹ / 10⁸ = 1600 Ω となります。同様に I_base = S_base/(√3·V_base) = 10⁸/(√3·4×10⁵) ≈ 144.3 A です。275kV系では Z_base ≈ 756 Ω、66kV系では Z_base ≈ 43.6 Ω と、電圧階級ごとに2桁以上変化します。
V_pu=1.05 は「定格電圧の 105%」という意味です。日本の高圧系統の運用範囲は概ね 0.95〜1.05 p.u.(±5%)に収められ、需要家受電端では電気事業法施行規則で 101±6V や 202±20V といった具体的な範囲が定められています。1.10 を超えると過電圧保護が動作し、0.85 を下回ると低電圧脱落のリスクが出ます。
Z_pu は S_base に比例します。S_base を 100MVA から 1000MVA に 10 倍にすると、同じ実値 Z=50Ω の線路でも Z_pu は 0.0313 から 0.313 に 10 倍になります。本ツールで S_base スライダーを動かして実際に確かめてみてください。これが各機器メーカーの自社基準容量から系統共通基準への換算が必要になる理由です。
三相皮相電力は S_pu = V_pu × I_pu*(共役)と単純化されます。√3 や cosφ への配慮を式の中で意識しなくてよくなり、複素電力としてそのまま V_pu·I_pu* で計算できます。これも単位法のメリットの一つで、潮流方程式が非常に対称的に書けます。