反発係数 e は、衝突直後の相対速度を衝突直前の相対速度で割った無次元量で、Newton が定義した「衝突の質」を表す指標です。e = 1 は完全弾性衝突(エネルギー保存)、e = 0 は完全非弾性衝突(くっついて離れない)を意味し、現実の物体は 0 < e < 1 の間にあります。例えばゴルフボールと硬い床で e ≈ 0.78、テニスボールで e ≈ 0.75、野球ボールと木製バットで e ≈ 0.55 程度です。本ツールで e を 0.0 から 0.99 まで動かすと、跳ね高さの減衰速度が劇的に変わることが直感できます。
これは Zeno のパラドックスの古典力学版で、各跳ねの時間 t_n = (2v_0·e^n)/g が公比 e の等比数列をなすため、その無限和 T = (2v_0/g)·(1+e)/(1-e) は e < 1 で有限値に収束します。例えば h=2 m, e=0.8, g=9.81 m/s² では T ≈ 11.5 秒で全運動が止まります。回数自体は数学的に無限ですが、実際のボールは跳ね高さが分子振動レベル(10⁻¹⁰ m)に達した時点で物理的に止まります。本ツールで e を 0.99 に近づけると T が急激に伸び、e を 0 に近づけると瞬時に止まる様子が確認できます。
速度比 e は 1 回の衝突で速度を e 倍にしますが、高さは速度の 2 乗に比例します(h = v²/(2g))。したがって 1 回の跳ねで高さは e² 倍、n 回後は (e²)^n = e^(2n) 倍となります。例えば e=0.8 の場合、各跳ね高さは 0.64 倍ずつ減るので、5 回後は 0.64⁵ ≈ 0.107 倍、すなわち 2 m から 0.215 m まで減衰します。エネルギーで考えても 1 回ごとに e² だけ運動エネルギーが残るため同じ式になります。本ツールでは e と n を変えてこの幾何級数の急激な減衰を直接観察できます。
本ツールは Newton の反発係数定義に基づき、空気抵抗・回転・床の弾性応答時間・温度依存性・接触時の摩擦・ボール内部の振動モードなどを無視しています。実際にはゴルフボールが芝生に当たると e は約 0.4 まで下がり、硬球同士でも 1 回の衝突で温度が上昇し e が時間経過で変化します。また高さ 2 m から落とすと空気抵抗で着地速度が約 0.3% 遅くなり、超低温では多くのゴム材料の e が低下します。本ツールは衝突力学の基本理解と概算用途に十分で、e の精密測定には ASTM F2117 や ISO 8124 などの規格試験を参照してください。
実世界での応用
スポーツ用具の品質規格:テニスボールは ITF 規格で 254 cm の高さからコンクリート床に落としたとき 135〜147 cm の高さまで跳ねることが要求され、これは e ≈ 0.73〜0.76 に相当します。野球の公認球は MLB 規格で 8 フィート(2.44 m)から大理石板に落として 0.514〜0.578 倍の跳ね(e ≈ 0.514〜0.578)が条件。ゴルフボールでは USGA が定める COR(Coefficient of Restitution)が 0.83 以下と厳格に制限されており、これを超えるドライバー/ボール組合せは公式競技で使用禁止です。本ツールで e を 0.55、0.78、0.92 に切り替えると、スポーツ用品の差が直感できます。
自動車衝突安全設計:車両前後方向の衝突解析で、バンパー・フレームの設計に反発係数 e が使われます。完全非弾性 e ≈ 0 のクラッシャブルゾーンでは衝突エネルギーを車体変形で吸収し、乗員への加速度を最小化。逆に e ≈ 1 だと乗員が反対方向に跳ね返り頸椎損傷のリスクが急増します。NCAP(New Car Assessment Program)の前面衝突試験では e ≈ 0.1〜0.2 になるよう設計されており、運動エネルギー散逸率は 1-e² = 96〜99% に達します。
材料・粒状物試験:セメント・粉体の充填密度評価では、ペレットを既知高さから落として跳ね高さを測り e を算出することで、表面粗さ・粒径・湿度の影響を評価します。シリカゲル粒子で e ≈ 0.65、湿った砂粒で e ≈ 0.05 と大きく異なり、サイロ設計や粉体輸送でこの差が壁面摩耗速度を決めます。鋼球を用いた Leeb 硬度試験では、衝撃ヘッド速度の前後比から e を測り材料硬度に換算する原理が使われています。
ロボット・グリッパー制御:産業用ロボットアームが対象物を掴む・置く動作で、把持時の e を考慮した制御が必須です。ガラス製品(e ≈ 0.95)は跳ね返りが大きいため吸引パッドや低粘弾性ゴム(e ≈ 0.2)でグリッパーを設計します。協働ロボット(cobot)の安全認証では人体接触時の運動量変化が ISO/TS 15066 で制限され、ロボット表面の e と人体組織の e の組合せから許容速度が決定されます。
よくある誤解と注意点
最も多い誤解は、「反発係数 e は質量や落下高さで変わる」というものです。Newton の定義 e = v_after/v_before は速度比のみで決まり、質量には依存しません。一定の試験条件であれば e は材料・温度・接触面の特性で決まる固有値で、例えばゴルフボール × 大理石板の組合せは試験高さが 1 m でも 5 m でも同じ e を示します。ただし高速衝突(>50 m/s)では塑性変形が進み e が低下する傾向があるため、ASTM などの規格試験は速度範囲を厳密に指定しています。本ツールで h を 0.1〜10 m で動かしても e による高さ比は同じであることを確認してください — h は v₀ と総時間にしか効きません。
次に多いのが、「e=1 でも実物のボールは無限に跳ね続ける」という勘違いです。本ツールでは e=0.99 までしか設定できませんが、たとえ e=1 でも実物のボールでは内部摩擦・空気抵抗・床の振動エネルギー伝達などで必ず減衰します。完全弾性衝突は理想化された極限で、超伝導体上の Maglev 球など特殊系でしか近似されません。本ツールで e=0.99 を入れると T が膨大な値(数百秒)になりますが、これは Newton モデルの予言であり、実際の系では追加の散逸機構が必ず効くことを念頭に置いてください。