パラメータ設定
距離をスイープ
リセット
d/λ = 0 が負荷端、0.5 で位相は 360° 一周します(無損失線路を仮定)。
複素平面における反射係数 Γ
赤丸=負荷反射係数 Γ_L/青丸=現在位置の Γ(d)/緑破線=|Γ| 一定円/青破線=負荷から電源側への軌跡(時計回り)
理論・主要公式
伝送線路上で生じる反射の強さは、複素反射係数 Γ で表されます。Γ は負荷端で次のように決まります:
$$\Gamma_L = \frac{Z_L - Z_0}{Z_L + Z_0}$$
負荷から電源側へ距離 d だけ離れた点での反射係数。β = 2π/λ は位相定数:
$$\Gamma(d) = \Gamma_L \, e^{-j\,2\beta d}$$
線路上のその点におけるインピーダンスへの変換:
$$Z_\text{in}(d) = Z_0\,\frac{1 + \Gamma(d)}{1 - \Gamma(d)}$$
電圧定在波比 VSWR は |Γ| のみで決まります:
$$\text{VSWR} = \frac{1 + |\Gamma|}{1 - |\Gamma|}$$
無損失線路では |Γ| が一定のまま位相だけ回転するため、複素平面で Γ は原点を中心とする円を描きます。
反射係数シミュレーターとは
🙋
アンテナとかケーブルを扱う仕事で「反射係数」「VSWR」って言葉をよく聞くんですけど、結局何を表しているんですか?
🎓
ざっくり言うと、線路に流れる電波がどれだけ「跳ね返ってくるか」を表す指標だ。線路の特性インピーダンス Z_0 と、その先につながっている負荷 Z_L が一致していないと、波の一部が反射して戻ってくる。その反射波と入射波の比が反射係数 Γ で、$\Gamma_L = (Z_L - Z_0) / (Z_L + Z_0)$ で計算できる。上のツールで Z_L を 50Ω に合わせてみて。Γ がぴたっと原点に来るだろう?それが完全整合の状態だ。
🙋
複素数なのが難しいです。実部と虚部って何が違うんですか?
🎓
大きさ |Γ| が「どれだけ強く跳ね返るか」、角度 ∠Γ が「跳ね返るときにどれだけ位相がずれるか」を表している。負荷が純抵抗で Z_0 と等しければ Γ=0、純抵抗で Z_0 と違えば Γ は実数(位相 0° か 180°)、リアクタンスが入ると複素数になる。初期値の Z_L = 100 + j50 では、|Γ|≈0.447、位相 26.6° と出るはずだ。複素平面では原点から右上に向かう点として描かれている。
🙋
「距離をスイープ」のボタンを押すと、青い点が円の上を時計回りに動きますね。これは何ですか?
🎓
それが線路上を負荷から電源側へ進んだときの反射係数 Γ(d) だ。無損失なら大きさ |Γ| は変わらないから、複素平面では緑の円の上を回り続ける。1波長進むと位相は 4π、つまり 2 周ぶん回って元の位置に戻る。スミスチャートで Γ が円を描くのはこの式 $\Gamma(d) = \Gamma_L e^{-j2\beta d}$ がそのまま見えているからだよ。
🙋
VSWR ってカードに出てる数字、初期値で 2.62 になってます。これは何の意味ですか?
🎓
電圧定在波比 (Voltage Standing Wave Ratio) で、線路上で電圧がどれくらい暴れているかを表す。完全整合なら 1、全反射なら ∞。実機ではアンテナの仕様書に「VSWR 2.0 以下」とか書いてあって、それを満たすために整合回路をチューニングする。VSWR は |Γ| だけで決まるから、線路のどこで測っても同じ値になるのがポイント——だから「アンテナの VSWR が悪い」という表現が成り立つんだ。
よくある質問
d/λ = 0.25(λ/4 線路)で Z_in はどうなりますか?
電気的距離が 0.25 のとき、位相は π 回転して反射係数の符号が反転(Γ(λ/4) = −Γ_L)します。これをインピーダンスに変換すると Z_in = Z_0² / Z_L となり、負荷インピーダンスが「特性インピーダンスの 2 乗を負荷で割った値」に変換されます。これが「λ/4 トランス」と呼ばれる整合手法の根拠です。例えば Z_0 = 50Ω、Z_L = 100Ω の場合、λ/4 進むと Z_in = 25Ω に見えます。
|Γ| が 1 を超えることはありますか?
通常の受動負荷では |Γ| ≤ 1 です。負荷が能動素子(負性抵抗素子、発振しているトランジスタなど)の場合に限り |Γ| > 1 となり、これは「線路にエネルギーを注入している」状態を意味します。発振器や負性抵抗を使った増幅器の設計では |Γ| > 1 を意図的に作りますが、本ツールでは受動負荷を想定しているため通常は |Γ| < 1 になります。
スミスチャートとの関係は何ですか?
スミスチャートは、本ツールが描いている複素 Γ 平面(単位円の内側)の上に、規格化インピーダンス z = Z/Z_0 の等抵抗円・等リアクタンス円を重ね描きしたものです。本ツールでは円グリッドを |Γ| 一定円として描いていますが、スミスチャートではこれに加えてインピーダンスの目盛りが直接読めるようになっています。整合回路設計の現場では、Γ をプロットしながら直線移動とジャンプを繰り返してチャート上で整合をとります。
損失のある線路では何が変わりますか?
本ツールは無損失線路を仮定しているため |Γ| は一定ですが、実際の同軸ケーブルやマイクロストリップは導体損・誘電損があり、Γ(d) = Γ_L · exp(−2αd) · exp(−j2βd) のように α(減衰定数)の項が掛かります。負荷から離れるほど |Γ| は減衰し、複素平面では円ではなく内側に巻き込むスパイラル軌跡になります。電源側で測った VSWR は負荷側より良く見えるため、ケーブル測定では注意が必要です。
実世界での応用
アンテナ・無線機の整合設計: 携帯電話・無線 LAN・放送用送信機など、ほぼ全ての RF 機器でアンテナと送信回路の整合に反射係数が使われます。VSWR が悪いと送信電力が反射で戻ってきてアンプを壊したり、受信感度が落ちたりするため、整合回路(LC マッチング、λ/4 トランス、スタブ)で Γ を原点に近づけるのが日常作業です。ネットワークアナライザの S パラメータ S11 は、まさに入力反射係数そのものです。
ケーブル試験(TDR): 時間領域反射測定(Time-Domain Reflectometry)は、ケーブルにステップパルスを入射し、不連続点で反射する波形を観察して断線や接触不良の位置を特定する手法です。反射の極性と大きさから、その点が開放(Γ=+1)に近いか短絡(Γ=−1)に近いかが分かり、ケーブル長と伝搬速度から距離も求まります。LAN ケーブルや高周波同軸の保守で広く使われています。
レーダー・通信線路: レーダー送信機の導波管系では、ロータリージョイントやアンテナ給電部の整合が悪いと反射波が高出力アンプに戻り焼損します。アイソレータやサーキュレータで反射波を吸収端へ逃がす設計が必須で、その許容反射量を Γ で規定します。光通信ファイバーでも反射(リターンロス)が信号品質に影響し、−40 dB 以下といった仕様が定められます。
教育・電磁波理論の基礎: 反射係数は、入射波・反射波という波動の重ね合わせ、複素インピーダンス、位相回転、定在波という電磁波工学の核心概念が凝縮された量です。学部 3 年〜4 年の電磁気・通信工学で必ず扱われ、本ツールのように複素平面上の振る舞いを動かして見ることで、抽象的な式の意味が一気に腑に落ちる教材になります。
よくある誤解と注意点
最も多い誤解は、「Z_L が実数なら反射は起きない」と思い込む ことです。実際に反射が起きないのは Z_L = Z_0 のとき(複素数として一致)であり、Z_L が純抵抗でも Z_0 と値が違えば反射は起きます。例えば 50Ω 系に 75Ω の純抵抗をつないだ場合、Γ = (75−50)/(75+50) = 0.2 で、VSWR は 1.5 になります。本ツールの初期値(Z_L = 100+j50)を Im を 0 に下げて純抵抗 100Ω にしてみると、Γ = 1/3 で位相 0°、VSWR = 2.0 となるのが確認できます。「実数だから OK」は誤りです。
次に多いのが、距離 d/λ を増やすと Γ が「外側に広がる」「徐々に整合する」と勘違いする ことです。無損失線路では |Γ| は完全に一定で、Γ は原点を中心とする円上を時計回りに位相回転するだけです。整合状態(|Γ|=0)に「近づく」ことはありません。線路長を変えるだけで整合できるように見えるのは、特定の位相で Z_in が都合のよい値になるだけで、その後に LC 素子やスタブで Γ を実際に原点へ動かす必要があります。本ツールで d/λ をスイープしながら |Γ| カードを見ると一定であることが分かります。
最後に、本ツールが扱っているのは電圧反射係数であり、電力反射率(|Γ|²)と区別する必要がある 点に注意してください。反射電力は入射電力の |Γ|² 倍であり、|Γ|=0.5 なら電力反射率 25%、つまり 75% しか負荷に伝わりません。dB 表記のリターンロス RL = −20 log₁₀|Γ| では、|Γ|=0.5 が約 6 dB、|Γ|=0.1 が 20 dB に対応します。仕様書で「リターンロス 20 dB 以上」と書かれていれば |Γ| < 0.1、VSWR < 1.22 と読み替える必要があります。電圧・電力・dB の三者を意識して使い分けることが、RF 設計の出発点です。