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航空宇宙

衛星電力バジェットシミュレーター

太陽電池アレイのサイズ、バッテリー容量、食時間、放電深度(DoD)、寿命末期(EOL)電力をリアルタイム計算。LEO/MEO/GEO 各軌道のシナリオに対応し、宇宙機の電力系設計の初期検討を加速します。

軌道パラメータ
軌道高度 h
km
LEO:200-2000 / MEO:2000-35786 / GEO:35786
軌道傾斜角 i
°
太陽電池パラメータ
変換効率 ηsa
%
シリコン:14-18% / GaAs:28-32% / 3接合:35%
配線損失 ηwire
%
年間劣化率 d
%/yr
設計寿命 L
電力要件・バッテリー
衛星消費電力 Psat
W
許容DoD
%
バッテリー電圧 Vbat
V
計算結果
軌道周期 (min)
食時間 (min)
日照率 (%)
太陽電池面積 (m²)
バッテリー容量 (Wh)
EOL電力比 (%)
内訳
パラメータBOL値EOL値単位
理論・主要公式

軌道周期:$T_{orb}= 2\pi\sqrt{\frac{(R_e+h)^3}{\mu}}$

食時間:$T_e = \frac{T_{orb}}{\pi}\arcsin\!\left(\frac{R_e}{R_e+h}\right)$

EOL電力:$P_{EOL}= P_{BOL}(1-d)^L$

必要太陽電池電力:$P_{sa}= \frac{P_{sat}\cdot T_{orb}}{\eta_{sa}\eta_{wire}\left[T_{sun}- \frac{T_e \cdot P_{sat}}{\eta_{bat}\cdot P_{sat}}\right]}$

バッテリー容量:$C_{bat}= \frac{P_{sat} \cdot T_e}{DoD \cdot \eta_{bat}}$

衛星電力バジェットとは

🙋
衛星の「電力バジェット」って何ですか?地上の電気設計と何が違うんですか?
🎓
大まかに言うと、衛星が宇宙で生き残るための「電力の収支計算」だよ。最大の違いは、太陽光が常に当たらないこと。例えば地球の影に入る「食時間」にはバッテリーでやりくりし、太陽が出ている「日照時間」に充電するんだ。このシミュレーターで「軌道高度」のスライダーを動かすと、軌道周期と食時間がリアルタイムで変わるよ。高度が高くなるほど食時間は短くなるんだ。
🙋
なるほど!じゃあ「EOL電力」って何ですか?「年間劣化率」のパラメータと関係ありますか?
🎓
その通り!EOLは「End of Life(寿命末期)」の略で、打ち上げから何年も経って太陽電池が劣化した後の性能を指すんだ。実務では、衛星の一生を通じて電力不足にならないよう、このEOL性能を基準に設計する。上のパネルで「年間劣化率」を1%から3%に上げてみて。必要とされる太陽電池の面積が一気に増えるのがわかるだろ?これが宇宙環境の厳しさだね。
🙋
え、そんなに増えるんですか!じゃあバッテリーはどう設計するんですか?「許容DoD」ってパラメータが重要そうですが。
🎓
鋭いね!DoDは「Depth of Discharge(放電深度)」で、バッテリーをどれだけ使い切るかの度合いだ。例えば許容DoDを30%に設定すると、バッテリー容量の30%までしか使わない設計になる。これを80%に緩めると必要なバッテリー容量は小さくできるけど、その分、充放電サイクルで劣化が早まって寿命が縮むんだ。LEO衛星みたいに1日に何十回も充放電を繰り返す場合は、このDoDの設定が命綱になるよ。

よくある質問

本シミュレーターは円軌道を前提としています。楕円軌道の場合、高度が変化するため食時間も変動します。楕円軌道の解析には、別途近地点・遠地点高度を考慮した計算が必要です。
DoDが大きいほど1サイクルあたりの放電量が増え、バッテリーのサイクル寿命は短くなります。一般的にLi-ionバッテリーではDoDを30〜40%以下に抑えることで、長期間の運用が可能です。
劣化率は太陽電池の種類や軌道環境(放射線量・温度サイクル)に依存します。一般的なGaAsセルでは年間2〜3%、Siセルでは3〜5%程度を目安に、ミッション期間を乗じて設定してください。
本ツールは必要電力を満たす最低限の面積を算出します。実際の設計では、パネル間の配線損失・温度上昇による出力低下・姿勢制御による太陽入射角の変化を考慮し、20〜30%のマージンを加えることを推奨します。

実世界での応用

地球観測衛星(LEO):軌道高度500-800kmを約90分で周回します。1日に十数回も昼夜を繰り返すため、食時間(約30-40分)中のバッテリー運用と、短い日照時間での効率的な充電が設計の鍵になります。DoD管理がバッテリー寿命を決定します。

通信・放送衛星(GEO):静止軌道(高度約36,000km)では、年に2回、春分・秋分の前後にのみ地球の影に入る食(最大約72分)が発生します。この期間に備えた大容量バッテリーと、長期にわたる電力マージンの確保が重要です。

超小型衛星(CubeSat):限られた表面積に貼られる太陽電池パネルの発電量は厳しいため、電力バジェット計算はミッション成立の可否を左右します。可能な機器の動作モードや通信時間がこの計算から割り出されます。

深宇宙探査機:太陽から遠ざかるほど太陽光は弱くなる(太陽定数が低下する)ため、必要な太陽電池面積は飛躍的に増大します。または原子力電池(RTG)の採用が検討され、電力バジェットの考え方そのものが変わります。

よくある誤解と注意点

まず、「日照時間=充電時間」と思い込むこと。実際は、太陽電池パネルが太陽を向いている「発電可能時間」だけが充電に使えます。例えば、地球を向きながら観測を行う衛星は、姿勢制御によってパネルが太陽からずれる時間があり、これが「日照損失」として効率に響きます。シミュレーターで「太陽電池効率」を100%近くに設定しているなら、ここにマージンが必要だと気づくはずです。

次に、バッテリー容量の計算で「平均消費電力」だけを見てしまう落とし穴。衛星は機器のオン/オフで電力消費が大きく変動します。特に、高電力の通信機やスラスタを作動させる「ピーク電力」時に、バッテリー電圧が大きく下がらないか(バッテリーの内部抵抗による電圧降下)を別途チェックする必要があります。シミュレーターの結果はあくまで平均値ベースの必要容量です。

最後に、「年間劣化率」は一定ではないという事実。数式 $P_{EOL}= P_{BOL}(1-d)^L$ は単純化されたモデルで、実際の劣化は放射線フルエンス(蓄積被曝量)や熱サイクルの回数に強く依存します。特に、ヴァン・アレン帯を通過する軌道では、打ち上げ後数年で急激に劣化が進む「性能低下曲線」を考慮する必要があります。シミュレーターの固定値は「一つの目安」と捉えましょう。