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宇宙工学・軌道摂動

太陽輻射圧 SRP シミュレーター — 宇宙機軌道摂動と帆推進

宇宙機に作用する太陽輻射圧 (SRP) を計算するツールです。質量・受光面積・反射率・太陽距離・軌道タイプを変えると、SRP 圧力、力、加速度、β パラメータ、累積 ΔV がリアルタイムで分かり、GEO 静止保持・ラグランジュ点ミッション・ソーラーセイル設計の事前検討に使えます。

パラメータ設定
宇宙機質量 m
kg
受光有効面積 A
太陽光に垂直な投影面積 (パネル+構体)
反射率 ρ
0=完全吸収 / 1=完全鏡面反射
吸収係数 c
表面に吸収される割合 (熱解析の参考値)
太陽からの距離 d
AU
水星 0.39 / 地球 1.0 / 火星 1.52 / 木星 5.2
ミッション期間
day
軌道タイプ
SRP が支配的になるかどうかは軌道で大きく変わる
計算結果
SRP 圧 (μN/m²)
SRP 力 (mN)
SRP 加速度 (μm/s²)
β パラメータ
累積 ΔV (m/s)
軌道インパクト
SRP 模式図 — 光子・宇宙機・摂動ベクトル

太陽から放射された光子の流れが宇宙機の受光面に当たり、SRP 力ベクトル (橙) が反太陽方向に作用します。色は β の大きさを示します。

SRP 力 vs 太陽距離 (AU)
反射率別 SRP 力比較
理論・主要公式

$$P_{SRP} = \frac{\Phi}{c},\quad F = (1+\rho)\,P\,A,\quad \beta = \frac{a_{SRP}}{a_{grav}} = \frac{(1+\rho)\,\Phi\,A}{c\,m\,a_g}$$

Φ = 太陽流束 (W/m²、1 AU で 1361)、c = 光速 2.998×10⁸ m/s、ρ = 反射率、A = 受光面積 (m²)、m = 宇宙機質量 (kg)、a_g = 太陽引力加速度。β > 1 で太陽から正味で押し出される。

$$\Phi(d) = \frac{\Phi_{1\,AU}}{d^{2}},\qquad \Delta V_{cum} = a_{SRP} \cdot t_{mission}$$

流束は距離の2乗に反比例 (逆2乗則)。累積 ΔV は加速度をミッション秒数で積算した概算値。実機では入射角・地球影 (eclipse)・自転で時間平均が落ちる。

太陽輻射圧 (SRP) と宇宙機の摂動

🙋
「太陽輻射圧」って、太陽光が宇宙機を押すってことですよね?でも光って質量ないのに、本当に力になるんですか?
🎓
いい疑問だね。光子は静止質量はゼロだけど、エネルギー E と運動量 p = E/c を持っているんだ。これが宇宙機の表面に当たって反射・吸収されると、運動量保存則で必ず宇宙機に運動量を渡す。1 AU で太陽からのエネルギー流束は約 1361 W/m²、これを光速 c で割ると圧力は約 4.54 μN/m² になる。確かに 1 m² あたり数マイクロニュートンと極小だけど、大気のない宇宙空間では摩擦が一切ないから、これが何ヶ月・何年と積もっていくんだ。
🙋
なるほど!じゃあ通信衛星みたいな普通の人工衛星でも、SRP は実際に効いてるんですか?左で「GEO」を選ぶと「GEO 位置維持に重要」と出てます。
🎓
そう、GEO 静止衛星はまさに SRP の影響が顕著な例なんだ。GEO 衛星は太陽電池パネルが大きくて (50 m² 級も普通)、質量に対する受光面積比 A/m が大きい。その結果、SRP 加速度が日周方向で変動して、軌道離心率を増減させる。年間で見ると東西保持 (E-W station-keeping) の主要外乱の一つで、概ね 1〜3 m/s/年の ΔV を SRP 補正に使うことになる。これは衛星の燃料寿命に直結するから、軌道設計の段階で必ず織り込む。デフォルトの 1000 kg・20 m² でも 1 年で数 m/s 程度の累積 ΔV が出るのは、そういう理由だよ。
🙋
β パラメータって何ですか?右に「β = 1.99e-5」って出てますけど、これが大きいとどうなるんですか?
🎓
β は「SRP 加速度を太陽引力加速度で割った無次元量」で、SRP がどれだけ重力に対抗できるかを示す指標なんだ。普通の衛星は β = 1e-5 〜 1e-4 と非常に小さくて、SRP は摂動扱い。でもソーラーセイル機はわざと β = 0.01〜0.1 を狙う。β = 1 を超えると、SRP が太陽引力を上回って、宇宙機が太陽から正味で押し出される軌道になる。JAXA の IKAROS (2010) は 14 m 角・約 310 kg で β ≈ 1.4e-4 を達成し、世界で初めてソーラーセイルだけで惑星間航行を実証したんだ。左の軌道タイプを「ソーラーセイル」に切り替えて、面積を大きく、質量を小さくしてみると β が劇的に上がるのが見えるよ。
🙋
ラグランジュ点ミッションだと SRP は何が問題になるんですか?JWST がそこにいるって聞いたことがあります。
🎓
JWST、Gaia、SOHO はみんな太陽-地球系のラグランジュ点 (L1 か L2) で運用されている宇宙機だね。ラグランジュ点は本質的に不安定な「鞍点」で、わずかな摂動で軌道がずれていく。L2 にいる JWST にとって、SRP は主要な外乱の一つで、巨大なサンシールド (約 22 m × 12 m) があるから受光面積が大きい。さらに困ったことに、サンシールドの反射特性が一様でないと、SRP の合力ベクトルが質量中心からずれてトルクも生じる。これを補正するため、JWST は数ヶ月に一回ステーションキーピング噴射を行っていて、これが推進剤寿命を決める要因の一つになっているんだ。
🙋
ソーラーセイルだと SRP が「邪魔者」じゃなくて「主推進源」になるんですね。これって本当に深宇宙に行けるんですか?
🎓
うん、原理的には行ける。最大の魅力は「推進剤質量がゼロ」という点で、ΔV を稼ぐのに化学推進ロケットなら指数関数的に推進剤が必要になるのに対し、セイル機は時間さえあれば理論的に無限の ΔV を得られる。実機としては IKAROS (金星方向)、NASA の NEA Scout・LightSail 2、来予定の Solar Cruiser などがある。ただし加速度が極小 (β=1e-4 で 5e-7 m/s² 程度) なので、目的地まで数年〜十数年かかる。深宇宙の小惑星偵察や、太陽極軌道など化学推進では到達困難なミッションで真価を発揮する技術として研究が続いているよ。

よくある質問

光子はエネルギー E と運動量 p = E/c を持ち、宇宙機表面に当たって反射・吸収されるたびに運動量を渡します。1 AU での太陽放射流束は約 1361 W/m² で、これを光速 c で割ると圧力は約 4.54 μN/m² と極めて小さい値になります。しかし大気のない真空中では摩擦がなく、年単位で累積すると数 m/s から数十 m/s の ΔV になり、GEO 静止衛星の保持や深宇宙ミッションの軌道決定では無視できない摂動になります。
β は SRP 加速度を太陽引力加速度で割った無次元量で、β = a_SRP / a_grav = (1+ρ)·Φ·A / (c·m·a_g) で定義されます。一般の通信衛星は β が 1e-5 〜 1e-4 程度と小さく、SRP は摂動として扱います。一方ソーラーセイル機の β は 0.01 〜 0.1 を狙い、IKAROS は約 1.4e-4、本格的なセイルでは β=1 を超えると太陽から正味で押し出される軌道が可能になります。
GEO 静止衛星は質量に対して太陽電池パネル面積が大きく、SRP による加速度が日周方向に変動して離心率を増減させます。代表的な大型通信衛星 (m=3000kg, A=50m²) では、SRP による年間 ΔV 要求は概ね 1〜3 m/s 程度で、東西保持 (E-W) の主要外乱の一つです。三体摂動 (太陽・月) による南北保持 (N-S) の 50 m/s/年 と比べれば小さいですが、推進剤寿命に直結するため軌道計画では必ず織り込みます。
ソーラーセイルは大面積の薄膜 (典型 7.5 μm のポリイミドにアルミ蒸着) で太陽光を反射し、SRP を主推進源として使います。推進剤を一切消費しないため ΔV あたりの質量増分がゼロで、長期間の継続運用で深宇宙到達が可能です。JAXA の IKAROS (2010) は 14m 角・約 310kg で β≈1.4e-4 を実証し、NASA NEA Scout・LightSail 2 も同様の原理で運用されました。セイル面を傾けると接線方向の力成分が生じ、軌道半径を自在に変えられます。

実世界での応用

GEO 静止衛星の east-west station-keeping:通信・放送衛星は地球から見て同じ経度に居続ける必要があります。SRP による日周変動加速度で軌道離心率がゆっくり増大し、衛星位置が東西に振れるため、年に数回スラスタを噴射して補正します。設計時には A/m 比 (面積質量比) を SRP 解析モデルに入れ、推進剤搭載量を決めます。本ツールで GEO・面積大・質量小に設定すると、累積 ΔV が急増する様子が見えます。

ラグランジュ点ミッションの軌道決定:太陽-地球系 L1 (SOHO・WIND・ACE) と L2 (Gaia・JWST・Euclid) は本質的に不安定な平衡点で、SRP がわずかでも作用するとリサジュー軌道がドリフトします。実機では SRP の合力と質量中心オフセットによるトルクの両方を高精度で運用解析し、数ヶ月毎にステーションキーピング (SK) 噴射でリサジュー軌道を維持します。JWST では SK 推進剤の枯渇が事実上の寿命限界です。

ソーラーセイルによる深宇宙探査:JAXA IKAROS (2010、金星方向、β≈1.4e-4)、Planetary Society LightSail 2 (2019、地球周回、軌道高度上昇を実証)、NASA NEA Scout (2022、小惑星接近)、近年では Solar Cruiser・Heliogyro 等の中・大型セイル計画が進行中です。化学推進では到達困難な太陽極軌道、星間空間境界、長周期彗星追跡などで、SRP を主推進源とする探査機が現実的な選択肢になりつつあります。

軌道決定 (POD) の高精度モデル:GPS・Galileo 等の測位衛星や、地球観測衛星 (Sentinel・GRACE) では、cm レベルの軌道再構築精度が要求されます。SRP モデル (Box-wing 法、CODE モデル等) を高精度化し、地球アルベド・赤外放射圧と合わせて運動方程式に組み込むことで、cm 級の精密軌道再現を達成しています。SRP は単なる摂動ではなく、測地・宇宙天気・暗黒物質探査の精度を決める要素技術なのです。

よくある誤解と注意点

まず最も多い誤解が、「SRP は微小なので無視してよい」というものです。確かに 1 AU での圧力は 4.54 μN/m² と極小ですが、宇宙空間では摩擦も大気抵抗もないため、加速度が小さくても時間積分で大きな ΔV になります。デフォルト設定 (1000 kg・20 m²) でも 1 年で約 3.7 m/s 累積し、5 年運用で 18 m/s に達します。これは月の三体摂動の南北方向 ΔV (50 m/s/年) には及びませんが、推進剤計画では絶対に省けない量です。「微小だから無視」は、短期間 (時間〜日) のラフな見積りでのみ通用するルールだと覚えてください。

次に、「反射率 ρ を 1 にすれば SRP 力が 2 倍になる」という単純化です。本ツールの式 F = (1+ρ)·P·A は完全鏡面反射を仮定したモデルで、実際の宇宙機表面 (太陽電池セル、サーマルブランケット、白塗装、アルミ箔等) は鏡面・拡散・吸収が混在します。実機解析では、各表面パッチに対して鏡面反射率 ρ_s、拡散反射率 ρ_d、吸収率 α を分けてモデル化する「Box-wing モデル」や、より詳細な ray-tracing が使われます。本ツールの値はあくまで概算で、運用解析には CRD (Cannonball Reflector Model) を超えるモデルが必要です。

最後に、「地球の影 (eclipse) を考慮していない」こと。LEO 衛星では 1 周回 (約 90 分) のうち最大 36 分が地球影に入り、その間 SRP はゼロになります。GEO でも春分・秋分の前後 45 日間は最大 72 分の食が発生します。本ツールはこの食率を 100% に仮定した上限値を示しているため、LEO の実際の年間累積 ΔV は本ツールの 60〜65% 程度になります。また宇宙機自身の自転やセイル傾斜角の変化、地球アルベド (約 0.3) の影響も省略しています。詳細解析では SPICE 等のエフェメリス・カーネルと組み合わせて時刻積分するのが標準的な実務です。

使い方ガイド

  1. 宇宙機の乾燥質量をkg単位で入力(例:GEO衛星なら1500kg、ソーラーセイルなら100kg)
  2. 太陽輻射を受ける面積をm²で設定(GEO衛星パネル:20m²、ラグランジュ点探査機:15m²)
  3. 反射率と吸収率を0.0~1.0で入力(アルミニウム合金反射率0.88、黒色表面0.05)
  4. シミュレータが自動計算するSRP圧・加速度・βパラメータを確認
  5. 軌道タイプ(GEO・L1・ソーラーセイル)を選択して摂動影響を評価

具体的な計算例

GEO静止衛星(質量1200kg、受光面積18m²、反射率0.85)のSRP計算:太陽定数1361W/m²、光速3.0×10⁸m/sから、SRP圧=4.54μN/m²、SRP力=81.7mN、加速度=68.1μm/s²。1年間の累積ΔVは2.15m/s。ラグランジュ点ミッション(質量500kg、面積25m²、βパラメータ0.18)では加速度が15倍増加し、ヒーロシェア効果による軌道ドリフトが年1.2°に達する。

実務での注意点