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エネルギー貯蔵・次世代電池

全固体電池 エネルギー密度シミュレーター

次世代EVと民生機器のキー技術である全固体電池(SSB)の設計ツール。正極材料・Li金属/Si-C負極・硫化物/酸化物/ポリマー電解質を選び、各層の厚みとローディングを変えると、質量エネルギー密度(Wh/kg)と体積エネルギー密度(Wh/L)が Li-ion 基準(250 Wh/kg・600 Wh/L)と比較しながらリアルタイムで分かります。

パラメータ設定
正極材料
比容量(mAh/g)と密度(g/cm³)を自動設定
負極材料
Li金属は理論容量3860 mAh/g
電解質
硫化物は高伝導度、酸化物は高安定性
平均放電電圧 V
V
正極ローディング
mg/cm²
単位面積あたりの正極活物質質量
正極厚 t_c
μm
負極厚 t_a
μm
電解質厚 t_e
μm
薄いほど高エネルギー密度・短絡リスク↑
パッケージング質量比
ケース・タブ・冷却機構等の質量割合
計算結果
正極面積容量 (mAh/cm²)
セル面積エネルギー (mWh/cm²)
質量エネルギー密度 (Wh/kg)
体積エネルギー密度 (Wh/L)
出力密度 (W/kg)
Li-ion比改善 (%)
全固体電池セル断面・Li⁺移動アニメーション

正極集電体(Al)/正極活物質/固体電解質/負極(Li金属)/負極集電体(Cu)の多層構造。放電中はLi⁺イオンが負極→電解質→正極へ移動します。

セル質量内訳 (mg/cm²)
エネルギー密度マップ — Li-ion vs SSB
理論・主要公式

$$\rho_{cell} = \frac{C_a \cdot V}{m_{total}/A},\qquad C_{a} = \text{loading} \times C_{specific}$$

ρ_cell:質量エネルギー密度(Wh/kg)、C_a:正極の面積容量(mAh/cm²)、V:平均放電電圧、m_total/A:単位面積あたりのセル総質量。

$$\rho_{vol} = \frac{C_a \cdot V}{t_{cell}} \cdot (1 - f_{pkg}/2)$$

体積エネルギー密度(Wh/L)。t_cell:正極+電解質+負極の合計厚、f_pkg:パッケージング質量比。体積側はケース寄与が半分程度として補正。

$$P_{kg} \approx \sigma_{ion} \cdot \rho_{cell} / 10$$

出力密度の概算(W/kg)。σ_ion:固体電解質のイオン伝導度(mS/cm)。硫化物(高)→ポリマー(低)で大きく変化。

全固体電池のエネルギー密度設計

🙋
「全固体電池」って最近ニュースでよく聞きますけど、普通のリチウムイオン電池と何が違うんですか?
🎓
ざっくり言うと、電解質が「液体→固体」になっただけだ。でも、その違いが効くんだよ。今のLi-ionは可燃性の有機電解液を使っているから、温度が上がると燃える。だから冷却機構や安全装置で重くなる。固体電解質(硫化物のLGPSや酸化物のLLZO)に替えれば燃えないから、まずパッケージを軽くできる。そして何より大きいのは、固体だから「Li金属負極」が使えること。これが全固体電池の本命の理由なんだ。
🙋
Li金属負極?黒鉛とそんなに違うんですか?
🎓
めちゃくちゃ違う。黒鉛は1グラムあたり372 mAhしか溜められないけど、Li金属は3860 mAh。約10倍だ。左パネルで負極を「Li金属」から「黒鉛」に切り替えて、エネルギー密度がどう変わるか試してごらん。デフォルトのNCA+Li金属だと約489 Wh/kg、でも黒鉛にすると300前後まで落ちる。これがSSBが「次世代電池」と呼ばれる本質的な理由なんだ。Toyotaが2027年に出すと言っているのも、まさにこのLi金属を使った高密度版を狙っている。
🙋
でも、Li金属って昔の電池で発火事故を起こした、あの危険な負極ですよね?なんで今ならOKなんですか?
🎓
いいツッコミだ。1980年代のLi金属一次電池は、充電中にLiが針状(デンドライト)に成長してセパレータを突き破り、ショートして燃えるという事故が多発した。それで業界はLi金属を諦めて黒鉛に逃げたんだ。全固体電池の挑戦は「固体電解質ならデンドライトを物理的に止められるはず」という賭けで、ここがまだ完全に解けていない最大の課題でもある。臨界電流密度(CCD)を上げる研究、均一加圧スタック、Liを少量だけ予め置く「アノードフリー」構造など、いろんな攻め方が走っている。
🙋
電解質も3種類ありますね。硫化物・酸化物・ポリマー…どれがいいんですか?
🎓
トレードオフだから「絶対これ」はないんだ。硫化物(LGPS)はイオン伝導度25 mS/cmで液体電解質並み、しかも柔らかいので加圧で良好な界面接触が取れる。Toyota・出光・三井金属の本命。ただし水と反応して有毒なH₂Sガスが出るからドライルームが要る。酸化物(LLZO)は化学的に超安定でLi金属とも仲良くできるけど、伝導度が硫化物の100分の1。ポリマー(PEO)は薄膜化と量産が一番ラクだけど60〜80℃に加温しないと動かない。ツールで切り替えると「出力密度」が桁で変わるのが見えるよ。EV用なら硫化物が本命、定置蓄電なら酸化物、バスEVの一部はポリマーが既に走っている。
🙋
「パッケージング質量比」って何ですか?これも結構効いてますね。
🎓
活物質以外の重量、つまりセルケース・集電タブ・モジュール内のスペーサ・冷却プレート・BMS基板なんかが全体に占める割合だね。研究レベルのコインセルなら18%以下に抑えられるけど、車載モジュールにすると30〜40%まで膨らむ。「コインセルで500 Wh/kg出ました!」というプレスリリースがよくあるけど、それがそのまま車に載るわけじゃない。本ツールではデフォルト0.18にしてあるが、EV搭載検討なら0.30〜0.35で試算するのが現実的だ。冷却機構が簡略化できるのがSSBの強みだから、Li-ion比でこの比率を下げる、というのが商用化の勝負どころでもあるんだ。

よくある質問

最大の理由はLi金属負極が使えることです。Li金属は理論容量 3860 mAh/g と、黒鉛 372 mAh/g の約10倍。負極の質量と厚みを大幅に減らせるので、同じ正極容量に対してセル全体の質量・体積が小さくなります。さらに固体電解質は不燃なので、セパレータ・電解液・冷却機構・安全装置の重量を削減でき、パッケージング質量比も下げられます。理論的には500〜700 Wh/kgまで到達可能で、本ツールのデフォルト条件(NCA + Li金属 + 硫化物 LGPS)でも約489 Wh/kg を示します。
硫化物(LGPS、Li₁₀GeP₂S₁₂など)はイオン伝導度が25 mS/cmと液体電解質に匹敵し、柔らかいので加圧成形で良好な接触が得られます。Toyota・出光・三井金属が量産化を進めています。酸化物(LLZO、Li₇La₃Zr₂O₁₂)は0.2 mS/cm程度と低めですが、化学的安定性が高くLi金属と直接接触させやすい。ポリマー(PEO系)は0.01 mS/cmと最も低く、60〜80℃の昇温運転が必要ですが、薄膜化・量産性に優れBolloréのバスEVに採用実績があります。本ツールで電解質を切り替えると、出力密度(W/kg)が大きく変わるのが確認できます。
セルケース(パウチ・缶)、集電タブ、モジュール内のスペーサ、冷却プレート、BMS基板など、活物質以外の構成要素が全体に占める質量割合です。研究レベルのコインセルでは20%以下に抑えられますが、車載モジュール化すると典型的に30〜40%に膨らみます。全固体電池は不燃で冷却機構を簡素化できるため、Li-ion比でこの比率を下げられるのが大きな利点です。本ツールはデフォルト0.18(小型セル想定)で、これを0.30に上げるとエネルギー密度が約15%低下します。EV搭載検討時は0.25〜0.35の範囲で試算するのが現実的です。
3つの大きな壁があります。(1) 界面抵抗:固体同士の接触は液体電解質より接触面積が小さく、サイクル中の体積変化でさらに悪化します。加圧スタック構造や中間層(バッファ層)で対策中。(2) Liデンドライト:Li金属負極では充電中に針状のリチウムが伸び、固体電解質を突き破ってショートを起こします。臨界電流密度(CCD)の向上と均一加圧が鍵。(3) 量産プロセス:硫化物は水分と反応して有毒なH₂Sを発生するため、ドライルーム・グローブボックス環境が必要で設備コストが高い。TDK・村田・QuantumScape・Solid Power等が2027〜2030年のEV搭載を目標に量産技術開発中です。

実世界での応用

電気自動車(EV)の航続距離延伸:現行Li-ion搭載EVの航続距離は400〜600 kmが主流ですが、全固体電池で質量エネルギー密度を1.5〜2倍にできれば、同じ電池重量で600〜1000 kmへ延伸可能です。Toyotaは2027〜2028年に「BEV専用プラットフォーム」で全固体電池搭載モデルを発表予定。Nissan、BMW、Mercedes-Benzも2030年前後の量産化目標を公表しています。中国ではNIO、CATL、BYDが急速に研究投資を増やしています。

民生機器・小型ドローン:スマートフォン・ノートPC・ウェアラブル機器では、薄膜全固体電池(薄膜SSB)が既に商用化されています。Cymbet、ST Microelectronicsなどが基板実装型の0.1〜1 mAhセルを供給。Apple Watchサイズのウェアラブルでは、不燃性と薄型化の両立が重要で、SSBの体積エネルギー密度(800〜1200 Wh/L)が活きます。長時間飛行ドローンでも、重量制約が厳しい用途で先行採用が進んでいます。

定置用蓄電・系統連系:再生可能エネルギーの調整力として使われる定置用蓄電池では、エネルギー密度より安全性・寿命・コストが重視されます。酸化物全固体電池(LLZO系)は10,000サイクル以上の長寿命とほぼ不燃の安全性を活かして、データセンターの無停電電源やマイクログリッド用途に向けて開発中。Bolloré(仏)のLMP®ポリマー電池はパリの電気バス Bluebus に2014年から実装実績があります。

航空宇宙・電動航空機:eVTOL(垂直離着陸機)や小型電動航空機では、現状のLi-ion(250 Wh/kg)では実用化に必要な400 Wh/kg超に届きません。SSBの500+ Wh/kgが実現すれば、Joby Aviation、Lilium、空飛ぶクルマの航続時間が一気に伸びます。NASAも電動航空機向けSSB研究プログラム「SABERS」を進めており、2030年代の実用化を視野に入れています。

よくある誤解と注意点

まず最大の落とし穴が、「コインセル試験のエネルギー密度をそのまま車載性能と思い込む」こと。学術論文やプレスリリースで「500 Wh/kg達成!」と書かれた値は、たいてい数十マイクロアンペアで放電した小型コインセル(CR2032など)の値で、活物質質量だけで割っています。実際にEVに載せるには、(1) パッケージング質量比 30〜40%、(2) モジュール・冷却機構の追加、(3) C/3レートでの放電(高速放電は密度低下)、(4) サイクル劣化を考慮した余裕容量、を全て織り込む必要があります。本ツールのデフォルト489 Wh/kgも、車載モジュール換算では300〜350 Wh/kg程度になる前提で見てください。

次に、「電解質を薄くすれば必ず良い」という誤解。固体電解質厚 t_e を25 μmから5 μmに薄くすると体積エネルギー密度は確かに上がります。しかし(1) 機械強度が落ちてピンホール・破断のリスク増、(2) Liデンドライトが貫通する確率上昇、(3) 正極・負極の活物質粒子サイズ(10〜20 μm)と同等以下になると不均一接触で局所電流集中、という3重の劣化要因が出ます。実用的には硫化物で20〜50 μm、酸化物で20〜100 μm、ポリマーで50〜200 μmが安全域です。「研究で5 μm達成」と「商用で20 μm」は意味が違います。

最後に、「全固体電池は急速充電が苦手」という固定観念。確かに酸化物・ポリマー系は出力密度が低いですが、硫化物系(LGPS)は液体電解質に匹敵する25 mS/cmのイオン伝導度を持ち、適切な界面設計をすれば10C放電(6分で完放)にも対応できます。本ツールで電解質を「硫化物」のままにすると出力密度が1000 W/kg超になることが確認できます。Toyotaの2023年の発表では「10分で80%充電可能な全固体電池」という具体的な数値も出ており、急速充電は十分実現可能な領域です。

使い方ガイド

  1. セル電圧(V)を2.0〜4.5V範囲で設定。全固体電池は固体電解質により高電圧動作が可能なため、従来型Li-ionの3.7Vを超える値を選択できます
  2. 正極面積容量(mg/cm²)を入力。NMC811で150〜200、LFPで100〜150が典型値です。厚み調整で面積容量が自動更新されます
  3. 正極・負極・電解質の厚みをマイクロメートル単位で設定。LCO正極50〜100μm、Si負極30〜80μm、酸化物電解質20〜50μmが実用範囲です
  4. 計算実行により質量・体積エネルギー密度がリアルタイム表示。EV設計の航続距離シミュレーションに直結します

具体的な計算例

NMC811正極(密度4.8g/cm³、放電容量210mAh/g)、Li金属負極、酸化物電解質の設定例:セル電圧4.2V、正極面積容量180mg/cm²、正極厚み75μm、負極厚み50μm、電解質厚み30μmの場合、質量エネルギー密度は約380Wh/kg、体積エネルギー密度は約620Wh/Lとなります。従来型18650セル(250Wh/kg、620Wh/L)と比較して質量エネルギー密度で52%向上します

実務での注意点