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燃焼工学

化学量論空燃比(理論空燃比)シミュレーター

炭化水素燃料 CxHyOz を完全燃焼させるのに「ちょうど必要な空気量」を計算するツールです。炭素数・水素数・等量比 φ を変えると、モル基準と質量基準の空燃比、過剰空気率、混合気がリッチかリーンかの判定がリアルタイムで分かります。

パラメータ設定
炭素原子数 x
燃料1分子中の炭素原子の数(CH₄なら1、C₈H₁₈なら8)
水素原子数 y
燃料1分子中の水素原子の数(CH₄なら4、C₈H₁₈なら18)
燃料中の酸素原子数 z
炭化水素なら0、メタノール CH₃OHなら1、エタノールなら1
等量比 φ
φ=1で理論混合、φ>1で燃料過剰、φ<1で空気過剰
燃料の分子量 Mf
g/mol
CH₄:16, C₃H₈:44, C₈H₁₈:114, ディーゼル≈190
計算結果
必要酸素モル数 (mol O₂/mol fuel)
化学量論空燃比(モル)
化学量論空燃比(質量)
実空燃比(質量)
過剰空気率 (%)
混合気の状態
燃焼室への流入と理論空燃比針

左から燃料(橙)、上から空気(青)が流入し燃焼室で混合・燃焼します。空気と燃料分子の数は実A/F比に応じてスケールされ、下のゲージは理論線(φ=1)を中央に、リッチ/リーンを示します。

化学量論空燃比(質量)vs 炭素数 x(CH₂系列)
実空燃比 vs 等量比 φ
理論・主要公式

$$C_xH_yO_z + \!\left(x+\tfrac{y}{4}-\tfrac{z}{2}\right)\!O_2 \rightarrow xCO_2 + \tfrac{y}{2}H_2O$$

完全燃焼の化学量論式。燃料1分子あたりに必要な O₂ のモル数 = x + y/4 − z/2。

$$(A/F)_{\text{mol}} = 4.76\!\left(x+\tfrac{y}{4}-\tfrac{z}{2}\right),\qquad (A/F)_{\text{mass}} = (A/F)_{\text{mol}}\cdot\frac{28.97}{M_f}$$

空気は O₂ 21% + N₂ 79%(モル比)と見なせるため、O₂ 1 mol に対し空気 4.76 mol。質量基準は空気平均分子量 28.97 g/mol と燃料分子量 Mf を掛けて換算する。

$$(A/F)_{\text{actual}} = \frac{(A/F)_{\text{mass}}}{\varphi},\qquad \text{Excess Air} = \!\left(\frac{1}{\varphi}-1\right)\!\times 100\,[\%]$$

等量比 φ は「実A/F比」と「理論A/F比」の逆比。φ=1 で理論混合、φ>1 でリッチ(燃料過剰)、φ<1 でリーン(空気過剰)。

化学量論空燃比(理論空燃比)とは

🙋
よく車の本で「空燃比 14.7」って見かけるんですけど、これって何の比ですか?空気と燃料の比率ってことは分かるんですけど、なんで14.7みたいな半端な数字なんですか?
🎓
いいところに気づいたね。「空気14.7 kg + 燃料1 kg」がガソリンを完全に燃やすのにちょうど必要な比率なんだ。化学量論空燃比、または理論空燃比って呼ぶ。なぜ14.7かというと、ガソリン(だいたい C₈H₁₈、分子量約114)1モルを完全燃焼させるには酸素が12.5モル必要で、空気は酸素の4.76倍だから空気は約59.5モル、これを質量で割り戻すと14.7になる、というのが計算根拠だよ。左のパラメータでCH₄(メタン)を入れると約17.2、これが天然ガスの理論A/F比だね。
🙋
なるほど!じゃあ「φ(ファイ)」っていうのも見かけるんですけど、これは空燃比とどう違うんですか?スライダーを動かすとリッチとかリーンって出ますが…
🎓
φは等量比って言って、実際の燃料/空気比が理論比の何倍かを表す無次元数だよ。φ=1なら理論通り、φ=1.2なら「理論より2割多く燃料を入れた状態(リッチ)」、φ=0.8なら「2割少なく燃料を絞った状態(リーン)」だね。空燃比そのものはガソリンと天然ガスで全然違うけど、φなら燃料の種類によらず「理論からどれくらいずれているか」を共通の物差しで言えるから便利なんだ。レース屋さんはφ≈1.15のリッチ、ボイラー屋さんはφ≈0.9のリーン、と日常的に使ってる。
🙋
出力欲しいならリッチ、燃費欲しいならリーン、で良さそうなのに、普通の車はφ=1を厳守してるって聞きました。なんでパワー出るリッチで走らないんですか?
🎓
理由は三元触媒なんだ。あの排気管の途中にある触媒コンバーターは、COとHCを「酸化」しつつNOxを「還元」する、という相反する反応を同時にやってのける唯一の装置なんだけど、両反応がバランスする窓がφ=1のごく狭い近傍(±1%くらい)にしかない。リッチに振れると未燃HCとCOが、リーンに振れるとNOxが残ってしまう。だからO₂センサで排気の酸素を読みながらECUがミリ秒単位でインジェクターのパルス幅を微調整して、平均的にφ=1を保ってる。これがエンジン制御の心臓部だよ。ディーゼルはNOxを別の触媒(SCR)で処理するから、ずっとリーンで走れるってわけ。
🙋
ボイラーは「ちょっとリーン」で運転すると聞いたんですが、それはなぜ理論通りφ=1じゃないんですか?
🎓
混合がそこまで完璧じゃないからだよ。バーナーの炎の中では、空気と燃料が分子レベルで完全に混ざる前に燃焼が始まる場所があって、局所的に空気不足になると未燃COや煤が出てしまう。それを防ぐために、理論より10〜20%多めに空気を入れておくのが工業ボイラーの常識。これを「過剰空気率10〜20%」と呼んで、φで言えば0.83〜0.91の範囲だね。多すぎると排ガスで熱を逃がして効率が下がるから、O₂センサで排ガス酸素濃度を測って自動制御するのが今のスタンダード。家庭用ガス給湯器も同じ理屈で、わずかにリーンに振ってる。
🙋
じゃあ水素エンジンって最近話題ですけど、水素の理論A/Fって34.3もあるんですよね?それってどういう意味なんですか?
🎓
水素は分子量がたった2しかないから、質量で見ると「燃料がほんの少しで大量の空気を必要とする」ように見えるんだ。1 kgの水素を燃やすのに34.3 kgの空気が要る、という意味だね。ただしモル基準で言えば H₂ + 0.5 O₂ → H₂O だから O₂ 0.5 mol、空気2.38 mol で済む。質量基準の数字が大きいのは「水素軽すぎ問題」なんだ。実際の水素エンジンはφ≈0.3〜0.5の極リーンで運転されることが多い。これは水素の燃焼速度が非常に速くてリーンでも安定して燃えるという性質を活かして、NOxを根本的に出さない設計を狙ってる。脱炭素時代の燃焼工学の最前線だね。

よくある質問

化学量論空燃比(理論空燃比)とは、燃料を完全燃焼させるのにちょうど必要な空気量を、燃料量で割った比です。炭化水素燃料 CxHyOz が完全燃焼すると、炭素は全て CO2、水素は全て H2O になります。このために必要な酸素のモル数は x + y/4 − z/2 で、空気は酸素 21%・窒素 79%(モル比)と見なせるので、空気のモル数はこの 4.76 倍となります。質量基準では空気の平均分子量 28.97 g/mol と燃料の分子量を使って換算します。ガソリンで約 14.7、メタンで約 17.2、ディーゼル燃料で約 14.5、水素で約 34.3 が代表値です。
等量比φは「実際の燃料/空気比」を「理論燃料/空気比」で割った無次元量です。φ=1 がちょうど理論混合(stoichiometric)、φ>1 が燃料リッチ(rich、空気不足)、φ<1 がリーン(lean、空気過剰)を表します。スパーク点火エンジンは三元触媒の動作窓を維持するために φ=1 に厳密制御され、レース用は最高出力を狙って φ≈1.1〜1.2 のリッチ域、ディーゼルは φ≈0.2〜0.7 の常時リーン、ボイラーは φ≈0.85〜0.9 の少しリーン気味で運転されます。
過剰空気率は (1/φ − 1)×100 %で計算されます。φ=1 のとき 0 %(理論通り)、φ=0.8 のとき 25 %過剰空気、φ=1.25 のとき −20 %(つまり空気不足)を意味します。ボイラーや工業炉では完全燃焼を確実にするために 10〜20 %の過剰空気で運転するのが定石です。過剰空気が多すぎると排ガスで熱を持っていかれてしまい熱効率が下がり、少なすぎると未燃CO・煤が出ます。O2 センサで排ガス酸素濃度を測って常時補正することが多いです。
スパーク点火(ガソリン)エンジンが φ=1 を守る理由は、出力でも燃費でもなく、三元触媒が CO・HC を酸化しつつ NOx を還元するという「同時反応」を起こせる窓が、化学量論の極めて狭い近傍(φ≈0.99〜1.01)に限られているからです。排気管中の O2 センサ(ラムダセンサ)で酸素濃度を読み、エンジンECUがミリ秒単位でインジェクターのパルス幅を補正してφを揺らしながら平均φ=1に保ちます。ディーゼル機関は触媒方式が異なる(DPF+SCR)ためφ=1に縛られず、出力は空気でなく燃料量で制御するためφ<1のリーン領域で運転します。

実世界での応用

ガソリンエンジン(スパーク点火):三元触媒の動作窓を維持するため φ=1 厳守。O₂ センサで常時補正し、ECUがインジェクター開弁時間を数ミリ秒単位で増減させて理論空燃比 14.7 を平均で保ちます。冷間始動時のみ一時的にリッチ(φ≈1.2〜1.4)にして触媒が活性化温度に達するまで燃焼を安定させ、全開加速時は出力ピーク(φ≈1.1)で短時間だけリッチ走行することもあります。

ディーゼル機関:圧縮着火方式のため、空気量を絞らず燃料量で出力を制御する原理上、常時リーン(φ≈0.2〜0.7)。理論空燃比は約14.5ですが、実運転では空燃比 20〜70 で動きます。リーンでNOxが出やすいので、DPF(粒子状物質フィルター)+尿素SCR(選択的触媒還元)の組合せでNOxを処理します。φで言えば極リーン側で走るため、三元触媒は機能しません。

工業ボイラー・加熱炉:不完全混合を考慮して過剰空気率 10〜20 %(φ≈0.83〜0.91)で運転。排ガス中の O₂ 濃度を測定して燃料・空気バルブをフィードバック制御し、O₂ を 2〜4 %に保つのが標準。過剰空気が多すぎると排ガスで熱を逃がし熱効率が落ちるため、O₂ センサと O₂ トリム制御が省エネの要です。最新のガスバーナーでは O₂ を 1 %近くまで絞る低過剰空気燃焼も普及しています。

水素・アンモニア燃焼:脱炭素のための新燃料として水素(A/F≈34.3)やアンモニア(A/F≈6.05)が研究されています。水素は燃焼速度が速くリーンでも安定燃焼するため、極リーン(φ≈0.3〜0.5)でNOx生成を抑える戦略が主流。アンモニアは逆に燃焼速度が遅く着火しにくいため、わずかにリッチ気味(φ≈1.05)で燃焼器を成立させたあと希薄化する2段燃焼が研究されています。

よくある誤解と注意点

まず最大の落とし穴が、「化学量論空燃比=最高出力空燃比だと思い込む」こと。実は最高出力はφ≈1.1〜1.2のわずかにリッチな領域で発生し、化学量論よりも数%出力が高くなります。理由は、燃焼室内で局所的に空気が不足する箇所をなくすために燃料を「少し多めに」入れた方が、平均的に火炎温度が高く燃焼速度も速くなるためです。逆に最高燃費はφ≈0.9のわずかにリーンで発生します。φ=1は「出力でも燃費でもなく、排ガス対策のための値」だという認識が重要です。

次に、「過剰空気率を上げれば完全燃焼になる」と誤解すること。確かに極端な空気不足はCO・煤を出しますが、過剰空気を増やしすぎると逆に問題が起きます。(1) 排ガスの熱量損失が増えて熱効率が下がる、(2) 火炎温度が下がって燃焼が不安定になりCO発生が再増加する、(3) 高温で過剰の N₂・O₂ が反応してNOxが急増する。最適点はφ≈0.85〜0.95の狭い領域にあり、それより薄すぎても濃すぎても排ガスは悪化します。「過剰空気率10〜20%」が定説なのは、この最適点を実用的に外さないためです。

最後に、「燃料の組成が分かれば即座に理論A/Fが決まる」と過度に単純化しないこと。本ツールは CxHyOz の理想化された燃料を完全燃焼すると仮定していますが、実燃料はガソリン1つとっても炭素数 C₄〜C₁₂ の混合物で、季節やオクタン価グレードで組成が変わります。さらに窒素・硫黄・酸素を含む添加剤、E10(エタノール10%混合)やE85などの含酸素燃料、LPG(プロパン+ブタン混合)などで A/F は理論値から数%ずれます。実機の制御は本ツールの計算値を「設計の出発点」として、O₂センサで実測フィードバックして実用値に追い込むのが鉄則です。

使い方ガイド

  1. 炭素原子数・水素原子数・酸素原子数を入力してください。例:ガソリン(オクタン C8H18)は炭素8、水素18、酸素0です。
  2. 当量比(Equivalence Ratio λ)を0~2の範囲で設定します。λ=1.0で化学量論混合気、λ>1.0でリッチ、λ<1.0でリーン判定になります。
  3. シミュレーター実行後、必要酸素モル数・化学量論空燃比(モル・質量)・過剰空気率・混合気状態がリアルタイム表示されます。

具体的な計算例

ディーゼル軽油(C12H23)で計算した場合:必要酸素モル数は18.5 mol O₂/mol燃料、化学量論空燃比(モル)は87.6 mol空気/mol燃料となります。質量基準では約14.7 kg空気/kg燃料になります。当量比λ=0.9(リーン混合気)で実空燃比を算出すると、16.3 kg空気/kg燃料となり過剰空気率は+10.2%です。λ=1.2(リッチ混合気)では実空燃比12.3 kg空気/kg燃料、過剰空気率-18.4%になります。

実務での注意点