太陽同期軌道 SSO 設計シミュレーター 戻る
宇宙工学・地球観測

太陽同期軌道 SSO 設計シミュレーター — J2 昇交点歳差

地球扁平(J2 摂動)による昇交点歳差を太陽公転角速度に同調させる、地球観測衛星の標準軌道「太陽同期軌道」を設計するツールです。軌道高度・LTAN・繰り返し周期を変えると、必要傾斜角・1 日軌道数・赤道地上トラック間隔・蝕時間がリアルタイムで分かります。

パラメータ設定
軌道高度 h
km
地球表面からの平均高度。SSO は 200–1500 km の低軌道帯
離心率 e
ほぼ円軌道(e<0.01)が SSO の標準
昇交点地方時 LTAN
h
10:30 や 13:30 が観測衛星標準、6:00/18:00 は SAR の Dawn-Dusk
繰り返し周期
day
LANDSAT は 16 日、Sentinel-2 は 10 日
観測緯度
°
SSO は ±(180-i)° まで観測可能(i≈98° なら ±82°)
計算結果
軌道周期 (分)
必要傾斜角 i (°)
1 日軌道数
周期内軌道数
赤道トラック間隔 (km)
蝕時間割合 (%)
軌道面の歳差アニメーション

黄色=太陽、青=地球、白丸=衛星。retrograde 軌道面が J2 摂動でゆっくり東向き(反時計回り)に歳差し、太陽方向との角度が一定に保たれます。地表の青線は地上トラック、黄色帯が LTAN ライン。

軌道高度 vs 必要傾斜角
軌道高度 vs 軌道周期
理論・主要公式

$$\dot\Omega = -\frac{3}{2}\sqrt{\frac{\mu}{a^{3}}}\,J_{2}\left(\frac{R_{E}}{a}\right)^{2}\frac{\cos i}{(1-e^{2})^{2}} = \frac{2\pi}{T_{\text{year}}}$$

J2 摂動による昇交点 Ω の歳差レート。これを 1 年 = 360° に合わせる傾斜角 i が SSO の必要傾斜角。高度 500–1000km で i≈97.4–99.5°(retrograde)。μ:地心重力定数、a:軌道長半径、R_E:地球半径、J2≈1.08263e-3、e:離心率。

$$T = 2\pi\sqrt{\frac{a^{3}}{\mu}}, \qquad a = R_{E} + h$$

ケプラー第三法則による軌道周期 T。高度 700km なら T≈98.8 分、1 日約 14.6 周回。

$$\Delta\lambda = \frac{360^{\circ}}{N_{\text{orbits/day}}}, \qquad d_{\text{eq}} = \frac{2\pi R_{E}}{N_{\text{orbits/day}}}$$

隣接軌道の赤道での経度間隔 Δλ と地表距離 d_eq。高度 700km なら約 24.7°(2749km)離れた地上トラックを 1 日 14.6 本描く。

太陽同期軌道 (SSO) — 昇交点歳差設計

🙋
「太陽同期軌道」って名前は聞いたことあります。衛星が太陽と一緒にぐるぐる回ってるってことですか?
🎓
いい質問だ。半分合ってて、半分違う。衛星自体は太陽の周りを回ってるわけじゃなくて、ふつうの低軌道(高度 600〜800km くらい)を 90 分ちょっとで地球の周りを回ってるだけなんだ。じゃあ何が「同期」してるかというと、軌道面そのもの。地球が太陽の周りを 1 年で 360° 公転するのに合わせて、衛星の軌道面も 1 年で 360° ゆっくり東に回転していて、結果として「太陽と軌道面の角度」が一年中ほぼ一定に保たれる。これが SSO の本質だよ。
🙋
でも、放っておいた衛星の軌道面が勝手に回るんですか?何が回してるんですか?
🎓
地球が完全な球じゃなくて、赤道がちょっと膨らんだ「みかん型」だからだ。この扁平の項を J2 摂動と呼ぶ。膨らんだ赤道のおかげで、傾いた軌道の衛星には常に赤道方向に余計な引力がかかり、軌道面(昇交点)がジャイロの歳差みたいにゆっくり回り続ける。式で書くと dΩ/dt = -(3/2)·n·J2·(R_E/a)²·cos(i)/(1-e²)² で、傾斜角 i の余弦の符号で歳差の向きが変わる。これを 1 年 = 360° = 0.9856°/day にぴったり合わせる i が SSO の必要傾斜角で、左のスライダーで高度を変えると自動的に計算されるよ。
🙋
必要傾斜角がデフォルトの 700km で 98.19° って出てます。これって 90° を超えてますよね?逆向きに回ってるんですか?
🎓
そう、retrograde(逆行)軌道だ。地球の自転と逆向きに回ってる。必要な歳差方向(東向き)を作るには、cos(i)<0 つまり i>90° でなきゃならない。これが SSO のすべての衛星が「赤道を北上するときちょっと北西向き」に飛んでる理由なんだ。地上から見ると、LANDSAT も Sentinel-2 も ALOS も、みんなほぼ真北から少しだけ傾いて頭上を通っていく。Dawn-Dusk 軌道(LTAN 6:00 か 18:00)だと、軌道面がちょうど昼夜境界に沿うから、衛星が地球の影に入る時間がほぼゼロになって SAR 衛星の電力設計が劇的にラクになる。
🙋
LTAN を 10:30 にしてあるのも、なにか理由があるんですか?
🎓
これは撮影のしやすさで決めてる。LTAN 10:30 だと衛星が赤道を北上するときが現地時間で午前 10 時 30 分、つまり太陽が東の中天より少し前にあって、地形の起伏が長すぎず短すぎない影で立体的に見える。LANDSAT 系列は伝統的に 10:00–10:30、Sentinel-2 は 10:30、SPOT は 10:30、Worldview-3 は 13:30 と、光学衛星はほぼこの「Morning」か「Afternoon」帯に集中している。逆に農業観測なら朝早めで雲が少ないうちに撮るとか、雪氷観測なら影が長い方が亀裂が見えるとか、用途で 30 分単位で選んでる。本ツールで LTAN を 6:00 にすると蝕割合が劇的に下がる Dawn-Dusk 軌道になることも確かめられるよ。
🙋
繰り返し周期を変えると「周期内軌道数」が変わるけど、これって何を意味するんですか?
🎓
「同じ地点をまったく同じ視野角で再観測するまでの日数」のことだ。例えば 5 日繰り返しなら、衛星は 5 日間で 73 周回して、6 日目には初日と同じ地上トラック上を通る。LANDSAT は 16 日 233 周回、Sentinel-2 は 10 日 143 周回、ALOS-2 は 14 日 207 周回。短いと時間分解能(同じ場所を何日おきに撮れるか)が良くなり、長いとトラック間隔が狭くなって 1 周期で地表をびっしり覆える。災害観測には短サイクル、地図作成には長サイクルが向いてる。本ツールの「赤道トラック間隔」がその密度の物差しで、4000km を超えると判定が warn になるよ——隣の軌道との隙間が広すぎて地表をカバーしきれないからね。

よくある質問

太陽同期軌道(SSO, Sun-Synchronous Orbit)は、地球の扁平(J2 項)による昇交点 Ω の歳差レートを地球の公転角速度(約 0.9856°/day)と一致させた特殊な軌道です。普通の極軌道(i=90°)では昇交点が慣性空間に固定されるので、地表の同じ地点を通過する時刻が日々ずれていきますが、SSO(i≈98°、retrograde)では軌道面が太陽を追って 1 年で 360° ゆっくり東に回転し、地表の任意の地点を常にほぼ同じ地方時に通過します。これにより太陽光線角が安定し、地球観測や太陽電池発電の設計が大幅に簡単になります。
LTAN(Local Time of Ascending Node)は衛星が赤道を北上横切る瞬間の地方平均太陽時で、衛星が地表をどんな照明条件で撮るかを決めます。10:30 や 13:30(Morning/Afternoon 軌道)は LANDSAT や Sentinel-2 など光学観測衛星の標準で、影が長すぎず・短すぎず地形の起伏が見やすい。6:00 や 18:00(Dawn-Dusk 軌道)は軌道面が常に昼夜境界に沿うため、衛星が地球の影に入る時間がほぼゼロになり、SAR 衛星(RADARSAT、SAR-Lupe)のように電力を多く消費するアクティブセンサーや、惑星間ミッションのプラットフォームに使われます。
J2 摂動による昇交点歳差レートは dΩ/dt = -(3/2)·n·J2·(R_E/a)²·cos(i)/(1-e²)² で、cos(i) の符号で歳差の向きが決まります。太陽同期に必要な向きは「東向き(+)」、つまり地球公転と同じ向きですが、係数の前に負号があるので cos(i)<0、すなわち i>90° の retrograde 軌道でなければなりません。高度 600–800km なら i≈97.8–98.6°、高度 1000km なら i≈99.5° 程度が定番です。逆に prograde(i<90°)では歳差が西向きになり、太陽同期は実現できません。
繰り返し周期は、整数日 D の間に衛星が整数本 N 周回し、地上トラックが完全に再来する条件 D·86400/T_orbit = N(地球自転補正込み)で決まります。LANDSAT-8/9 は 16 日・233 周回、Sentinel-2A/B は 10 日・143 周回が代表例で、これらは「観測対象の同じ地点を常に同じ太陽光下で撮れる」という SSO の利点に「同じ視野角で撮れる」という条件を加えたものです。サイクルが短いほど時間分解能が良いがトラック間隔が広く、長いほどトラック間隔が密で地表を緻密に覆えます。本ツールでは繰り返し日数を入力すると、その日数分の軌道数と赤道トラック間隔を算出します。

実世界での応用

地球観測衛星(光学):LANDSAT 8/9(高度 705km、i=98.2°、LTAN 10:00)、Sentinel-2A/B(高度 786km、i=98.5°、LTAN 10:30)、WorldView-3(高度 617km、i=97.97°、LTAN 13:30)、ALOS-3(高度 669km、i=97.9°、LTAN 10:30)など、商業から政府まで光学リモートセンシングの主力衛星はほぼすべて SSO です。陸地・海洋・農地のモニタリングで「いつ撮っても同じ太陽光下」という SSO の特性が、時系列変化検出に不可欠な役割を果たしています。

SAR・気象衛星:RADARSAT-2(高度 798km、i=98.6°、Dawn-Dusk LTAN 18:00)、TerraSAR-X(高度 514km、i=97.4°、Dawn-Dusk LTAN 18:00)など SAR 衛星は、レーダー送信に大電力を必要とするため Dawn-Dusk 軌道で太陽電池を常時照射する設計が定番。気象衛星では NOAA POES シリーズや Suomi NPP / JPSS が SSO で運用され、毎日同じ地方時に全球気温・雲量を観測しています。

軌道設計と打ち上げ計画:SSO に投入するには、打ち上げロケットを所定の高度・傾斜角(i≈97-100°)に正確に投入する必要があり、低緯度射場(赤道近く)からの打ち上げではエネルギー的に不利になります。種子島やヴァンデンバーグ、クールー、ヴォストチヌィ宇宙基地などが SSO ミッションに使われる主要射場で、本ツールで設計した軌道は打ち上げ Δv 計算や運用フェーズ計画の前段階の概念設計に直接使えます。

軌道維持と制御:SSO は理想的には自然に維持されますが、実際には大気抵抗(高度 600km 以下で顕著)や三体摂動、太陽輻射圧によって徐々に傾斜角や離心率がずれます。LANDSAT クラスでは年に数回、推進剤を使った軌道補正(station-keeping)を行い、LTAN を ±10 分以内に維持しています。本ツールはこうした補正設計の前提となる「ノミナル軌道」を素早く検討するためのツールとして使えます。

よくある誤解と注意点

まず多いのが、「SSO だから衛星はいつも太陽光に当たっている」という誤解。確かに Dawn-Dusk 軌道(LTAN 6:00/18:00)では蝕時間がほぼゼロですが、Morning/Afternoon 軌道(LTAN 10:30/13:30)では衛星も普通に地球の影に入ります。高度 700km・LTAN 10:30 だと 1 周回 98 分のうち約 21%、つまり 20 分程度は蝕中です。電力収支設計ではこの蝕中の太陽電池ゼロ+バッテリー放電を必ず考慮します。本ツールの「蝕時間割合」は簡易近似(季節変動なし)ですが、LTAN の影響の方向感はつかめます。

次に、「J2 だけで完璧に太陽同期が維持される」という思い込み。J2 摂動は最も大きな項ですが、現実には J3、J4 など高次の地球重力高調波、月・太陽の三体引力、大気抵抗、太陽輻射圧、潮汐などが軌道を乱し続けます。打ち上げ後 1 年で LTAN は数十分ドリフトすることがあり、これを推進剤を使って補正します。また地球自転速度の変動(うるう秒)も長期的には軌道計画に影響します。本ツールは「理想 SSO 条件」を示すもので、運用設計には専門の軌道伝搬ソフト(STK、GMAT、Orekit など)が必要です。

最後に、「SSO なら地球全体を観測できる」という誤解。SSO の傾斜角は 97-100° なので、衛星は南北緯 80-83° 程度までしか直下を通りません。極冠(北極点近傍と南極点近傍の数百キロ)は SSO では撮影できず、観測したい場合は ICESat-2 のような i=92° の準極軌道や、独立した極軌道衛星が必要です。逆に SSO の利点を活かすなら観測対象は中緯度〜亜熱帯帯にあり、本ツールの「観測緯度」を 70° などに設定すると、その緯度での再観測可能性や視野角の制約が判定に反映されます。

使い方ガイド

  1. 高度(km)を入力します。LANDSAT-8は705km、Sentinel-1Aは693kmです。
  2. 離心率を設定します。地球観測衛星は0.0001以下のほぼ円軌道が標準です。
  3. 昇交点現地時刻(LTAN)を指定します。日中観測用に10:30、夜間観測用に22:15が一般的です。
  4. 回帰周期(日数)を選択します。Sentinel-2は10日周期、LANDSAT-8は16日周期です。
  5. シミュレーターが J2 摂動による昇交点歳差角速度 dΩ/dt と太陽の平均運動 n_sun(約0.9856°/日)を一致させる必要傾斜角を自動計算します。

具体的な計算例

高度700km、離心率0.0001、LTAN 10:30、回帰周期16日の場合:軌道周期は約98.9分、必要傾斜角は約98.2°(太陽同期極軌道)、1日軌道数は14.5回、赤道トラック間隔は約172km、蝕時間割合は約34%となります。地球扁平係数 J2=1.08263×10^-3 による歳差 dΩ/dt≈0.986°/日が太陽の公転角速度に同期し、衛星は常に同じ太陽入射角で地表を撮像できます。

実務での注意点