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宇宙工学・地球観測

極軌道 地上局可視時間シミュレーター

極軌道(Polar Orbit)の地球観測衛星と地上アンテナの通信パス時間を計算するツールです。軌道高度・傾斜角・地上局の緯度・最低仰角を変えると、1パスの最大時間・1日あたりのパス回数・ミッション期間中の総ダウンリンク量がリアルタイムで分かり、衛星運用のリンクバジェットを直感的に設計できます。

パラメータ設定
軌道高度
km
LEO 帯(典型 500〜800km)
軌道傾斜角
°
98° 付近で太陽同期軌道
地上局 緯度
°
東京 35°、Svalbard 78°
地上局 経度
°
最低仰角 ε_min
°
アンテナが追尾できる地平線からの角度
ミッション期間
day
計算結果
軌道周期 (min)
スラント距離 (km)
最大パス時間 (min)
1日パス回数
ミッション総アクセス時間 (min)
想定データ量 (GB)
極軌道・地上局・可視円錐 アニメーション

青の地球を極軌道で周回する衛星と、地上局の可視円錐(最低仰角で決まる)を表示します。衛星が円錐内に入ったときが通信可能なパス時間です。

パス時間 vs 最低仰角 ε_min
緯度別 1日パス回数
理論・主要公式

$$T_{pass,max} = \frac{2}{n}\arccos\left(\frac{R_E\cos\epsilon_{min}}{a}\right),\quad N_{passes/day} \approx \frac{86400}{T_{period}}\cdot\frac{2\theta_{swath}}{360°}$$

n = √(μ/a³) は衛星の平均運動 [rad/s]、ε_min は地上局の最低仰角、R_E は地球半径(6378.137 km)、a は軌道長半径(R_E + 高度)、θ_swath = arccos(R_E/a) は可視円錐の半角。

$$\rho_{slant} = -R_E\sin\epsilon_{min} + \sqrt{a^2 - (R_E\cos\epsilon_{min})^2}$$

スラント距離 ρ_slant は衛星が最低仰角に到達したときのアンテナ-衛星間距離。リンクバジェットの自由空間損失 L_fs = 20·log₁₀(4πρ/λ) の入力値になる。

極軌道衛星と地上局通信パス時間 — リンクバジェット基礎

🙋
「極軌道衛星」って、地球を縦に回ってる衛星のことですよね?普通の衛星と何が違うんですか?
🎓
そう、まさにそれだね。傾斜角がだいたい 90° で、北極と南極をかすめるように周回する。普通の通信衛星でよく聞く「静止軌道(GEO)」は赤道上空 36,000km で地球の自転と同じ向きに回るから、地上から見るとずっと同じ位置に止まって見える。一方、極軌道衛星は高度 500〜800km の低軌道(LEO)を約 100分で1周するんだ。地球を縦にぐるぐる回るあいだに地球自身が東に自転するから、衛星から見ると地表が経度方向にずれていって、結果として数日で全球をスキャンできる。これが NOAA 気象衛星や Landsat、Sentinel が極軌道を選ぶ最大の理由だよ。
🙋
なるほど、地球観測には便利そう!でも、地上局と通信できる時間はそんなに短いんですか?左の「最大パス時間」が 14分くらいって出てるんですが…
🎓
いい質問だね。極軌道衛星は秒速 約 7.5km、つまりマッハ 22 で飛んでいるから、地上局の真上を一直線に横切ったとしても可視時間は 10〜15分しかない。これが「パス時間」というやつ。最低仰角 ε_min を上げる(5° → 10° → 15°)と、地平線近くを切り捨てるからパス時間はさらに短くなる。逆に Svalbard(北緯 78°)のような高緯度局なら、極軌道のほぼ全周回が頭上を通るから 1日 12〜14 パスとれて、つなげば 2時間以上のアクセス時間になるんだ。だから地球観測衛星の多くは「中緯度局+極地局」の組み合わせで運用される。
🙋
10分しかないのにマッハ 22 で動いてる衛星から、どうやってデータを取るんですか?アンテナが追いつかなさそう…
🎓
そこが地上局運用の腕の見せ所だよ。まず大型のパラボラアンテナ(3〜13m 径)が衛星を予測軌道に従って自動追尾する。AZ/EL 駆動の追尾速度は最大で毎秒 数度。次に、衛星が高速移動するから周波数がドップラーシフトする。X 帯 8GHz なら ±170kHz くらいズレるので、受信機はリアルタイムで補正する。さらに低仰角ではスラント距離が長くなり、大気減衰も増えるから、SNR が一気に落ちる。ツールの「スラント距離」を見てごらん、ε_min=5° なら 2500km、つまり真上の高度 700km の 3.6倍だ。自由空間損失だけで 11dB 余計に消える計算だよ。
🙋
そんなに苦労してまで撮ったデータ、1週間でどのくらいの量になるんですか?
🎓
ツールが出している「想定データ量」がそれだよ。X 帯 100Mbps、1週間で総アクセス時間 290分なら 約 220GB。実機はもう少し多くて、Sentinel-1 は 520Mbps、Landsat-9 は 384Mbps だから 1週間で 1TB を超える。ただし衛星のオンボードメモリは 1〜2TB しかないから、極地局でこまめにダウンリンクしないと観測停止に追い込まれる。だから運用側は「軌道周期 × 1日パス回数 × ミッション日数」で総データ量を見積もり、メモリ容量・地上局スケジュール・観測量を綿密に設計するんだ。このツールはその第一歩の感覚を掴むためのものだよ。
🙋
なるほど、衛星設計って軌道力学だけじゃなくて、データロジスティクスも含まれるんですね。よくわかりました!

よくある質問

最大パス時間(衛星が真上を通過する場合)は T_max = (2/n)·arccos(R_E·cos(ε_min)/a) で求めます。n = √(μ/a³) は衛星の平均運動、R_E は地球半径、a は軌道長半径、ε_min は地上局の最低仰角です。高度 700km・最低仰角 5° なら最大パス時間は約 14分、典型的な実パスはその 0.7 倍程度の 10分前後になります。LEO(低軌道)の1パスはおおむね 5〜15分の範囲に収まります。
本ツールでは N_passes/day ≈ (86400/T_period) · (2θ_swath/360°) · 2 という簡易式を使います。1日の周回数(典型 14〜15)に、地球を1周する経度のうち地上局が可視範囲に入る割合をかけ、昇交と降交の2パスを考慮します。実際の中緯度地上局では 1日 4〜6 パスが目安で、極地局(Svalbard, Inuvik, Troll)では ほぼ全周回を取得できます。詳細な解析には SGP4 と数日間の伝播計算が必要です。
極軌道(傾斜角 ~90°)の衛星は地球を南北方向に周回します。1周回するあいだに地球が東向きに約 25° 自転するため、衛星から見ると地表は経度方向にずれていき、数日で全球をカバーできます。これが NOAA 気象衛星・Landsat・Sentinel・JAXA だいち(ALOS)などの地球観測ミッションが好んで極軌道を選ぶ理由です。さらに太陽同期軌道(98° 前後)にすると、同じ地点を毎日ほぼ同じ地方時刻に撮影でき、変化検出に有利です。
本ツールでは X 帯 100 Mbps を仮定し、総ダウンリンク量 = 総アクセス時間 [s] × データレート [bps] ÷ 8 ÷ 10⁹ [GB] で計算します。例えば 1週間で 200分のアクセス時間が確保できれば、約 150 GB の地球観測データを取得できます。実機ではマージン・誤り訂正・スイッチング時間で 30〜50% 目減りするため、設計時には実効レートを 60〜70% で見積もるのが安全です。Sentinel-1 は X 帯 520 Mbps、Landsat-9 は 384 Mbps が代表値です。

実世界での応用

気象衛星 NOAA / Metop シリーズ:NOAA-15/18/19 と欧州 Metop-A/B/C が高度 800km 前後の極軌道に投入され、AVHRR・HIRS・AMSU などのセンサで全球の雲・温度・湿度を毎日 4〜6 回更新しています。受信は世界気象機関(WMO)の地上局網が分担し、Svalbard と McMurdo(南極)でほぼ全パスを取得することで、1〜3 時間遅延で全世界に気象データが配信されます。本ツールで NOAA を模擬するなら高度 800km・傾斜角 98.7°・最低仰角 5° を入れてみてください。

地球観測 Landsat / Sentinel:米 USGS Landsat-8/9 と欧州 Copernicus Sentinel-1/2 は太陽同期軌道(高度 705km / 693km)から 10〜30m 分解能で全球を撮像します。Sentinel-1 は SAR で雲を貫通でき、災害監視・氷河変動・農地モニタリングに使われます。X 帯 384〜520Mbps のダウンリンクと極地局網(Inuvik、Kiruna、Punta Arenas)の組み合わせで、観測から地上配信まで 24 時間以内のレイテンシを実現しています。

JAXA だいち(ALOS)・しきさい(GCOM-C):JAXA のだいち2号は高度 628km・傾斜角 97.9° の太陽同期極軌道で SAR 観測を行い、地震・火山・洪水の災害解析に活用されています。地上局は JAXA 鳩山局(緯度 36°)と Svalbard 局を併用し、災害発生時は緊急観測モードで 24 時間以内に画像配信。本ツールに高度 628km・地上局緯度 36° を入れて、平常時の 1日アクセス時間を見積もると、なぜ極地局が必須なのかが直感的にわかります。

小型衛星コンステレーション:Planet Labs(200+ 機)、Iceye、Capella の SAR コンステレーション、Starlink V2 など、近年は LEO 極軌道に数百〜数千機の小型衛星を投入する構成が主流です。1機あたりの 1日パス回数は限られますが、機数を増やすことで再訪頻度(リビジット)を 数時間〜分単位まで短縮できます。本ツールで「ミッション期間 30日」を選ぶと、1機あたりの累積アクセス時間が把握でき、コンステレーション規模の概算に使えます。

よくある誤解と注意点

まず最大の誤解が、「極軌道衛星は地上の真上をいつでも通る」というイメージです。実際は1周 約 100分のあいだに地球が 25° 東に自転するため、衛星から見た地表の通過経路は1周ごとに約 2800km ずれます。中緯度地上局の真上を通る回数は 1日に 多くて 2〜3 回(早朝と夕方)程度。それ以外は地平線寄りの低仰角パスになり、スラント距離が長くなって受信レベルが落ちます。本ツールの「平均パス時間 = 最大パス時間 × 0.7」はこの実情を反映した近似で、実際の運用ではさらに気象(降雨減衰)や追尾誤差で取得効率が下がります。「パスがあれば必ず全データが落とせる」と思って計画を組むと、確実にデータが足りなくなります。

次に、「最低仰角は小さいほど良い」という思い込みも危険です。確かに ε_min を 5° から 0° に下げれば計算上のパス時間は伸びますが、低仰角では (1) 大気減衰が急増(X 帯で 0° 時は 5° 時の 3倍以上)、(2) マルチパス干渉(地表反射波と直接波の干渉)、(3) 周辺ビル・山岳による遮蔽が発生し、SNR が破綻します。実用上は ε_min = 5°〜10° が最適で、特に都市部の小型局では 10° 以上を推奨します。本ツールで ε_min を変えてスラント距離が爆発的に伸びる様子を確認すると、なぜ運用現場が「低仰角の取り合い」をしないのか理解できます。

最後に、「軌道計算は SGP4 ほど精密でなければ無意味」という誤解。確かに実運用では SGP4/SDP4 と TLE(Two-Line Elements)で 1秒単位の精密パス予測を行いますが、ミッション初期のリンクバジェット設計や地上局選定の段階では本ツールのようなケプラー解(無摂動)で十分です。実際、JAXA や NASA の初期設計フェーズでもまずこのレベルの簡易解析でデータ量とリンク余裕を見積もり、その後に J2 摂動・大気抵抗・SGP4 を組み込みます。簡易ツールで「桁感」を掴むこと、これが衛星設計の最も重要な第一歩です。本ツールの目的はまさにそこにあります。

使い方ガイド

  1. 軌道高度(km)と軌道傾斜角(度)を入力。NOAA-18などの極軌道衛星の場合、高度705km・傾斜角99度を設定
  2. 地上局の緯度経度(度単位の十進法)を入力。例:日本の種子島宇宙センター35.235°N, 130.969°Eを指定
  3. シミュレーターが軌道周期・スラント距離・パス時間・1日アクセス回数を自動計算。リンクバジェット設計時に必要な総アクセス時間とダウンリンク容量を確認

具体的な計算例

高度700km、傾斜角98.8度の極軌道衛星を北緯70度の地上局で受信する場合:軌道周期は約99分、スラント距離は最小2,450km(真上通過時)、最大パス時間は約14分。1日のパス回数は14回、24時間の総アクセス時間196分となる。X帯(8.4GHz)でダウンリンクレート450Mbpsの場合、1パスあたり約5.3GB、1日合計74GBのデータ取得が可能。軌道離心率がゼロの円軌道と仮定した計算結果

実務での注意点

  1. 赤道付近の地上局(緯度±30度以内)では極軌道衛星のパス回数が極地の1/3以下に低下するため、複数地域局の配置またはリレー衛星の導入を検討
  2. 仰角マスク角を5度以上に設定する場合は、計算結果のパス時間を10~15%減少させ、大気減衰による減衰量(Ku帯で降雨時3~5dB)をリンクバジェットに加算
  3. 衛星の軌道減衰により実際の軌道周期は年間約0.5分短縮するため、ミッション中盤以降の可視パスシーケンスを3ヶ月ごとに再計算