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反応工学

ティーレ係数と触媒有効係数シミュレーター

多孔質触媒ペレットの内部では、反応と拡散が競い合っています。触媒の形状・大きさ・反応速度・有効拡散係数を変えると、ティーレ係数 φ と有効係数 η、見かけの反応速度、触媒利用率がリアルタイムで分かり、拡散律速になっていないかを判定できます。

パラメータ設定
触媒ペレット形状
特性長さ L_c の計算式が形状で変わる
特性寸法(球・円柱は半径、平板は半厚)
mm
反応速度定数 k
1/s
一次反応の速度定数。触媒の活性の高さ
有効拡散係数 De
×10⁻⁷ m²/s
細孔内を反応物が拡散する速さ
表面濃度 Cₛ
mol/m³
ペレット表面での反応物濃度
計算結果
ティーレ係数 φ
有効係数 η
律速段階
見かけの反応速度 (mol/m³·s)
特性長さ L_c (mm)
触媒利用率 (%)
触媒ペレット断面 — 内部濃度プロファイル

ペレット断面の色は反応物濃度(明=Cₛに近い/暗=ゼロに近い)。φ が大きいほど中心が枯渇し、表面の薄い殻でのみ反応が進みます。粒子は反応物の内部拡散を表します。

有効係数 η vs ティーレ係数 φ
ペレット内部の濃度プロファイル C(ξ)/Cₛ
理論・主要公式

$$\phi=L_c\sqrt{\frac{k}{D_e}},\qquad \eta=\frac{\tanh\phi}{\phi}$$

ティーレ係数 φ(無次元)と有効係数 η。L_c:特性長さ、k:反応速度定数、De:有効拡散係数。η は球・円柱・平板のいずれでも一般化ティーレ係数で近似できる。

$$r_{obs}=\eta\,k\,C_s,\qquad L_c=\frac{V_p}{S_p}\;\big(\text{球}:R/3,\ \text{円柱}:R/2,\ \text{平板}:L\big)$$

見かけの反応速度 r_obs と、ペレット体積/表面積で定義する特性長さ L_c。Cₛ:表面濃度、Vₚ:ペレット体積、Sₚ:外表面積。

$$\frac{C(\xi)}{C_s}=\frac{\cosh(\phi\,\xi)}{\cosh\phi}$$

平板形状の内部濃度プロファイル(ξ=0:中心、ξ=1:表面)。φ≪1 で η→1(反応律速)、φ≫1 で η≈1/φ(拡散律速)となる。

ティーレ係数と有効係数とは

🙋
「触媒」って、化学反応を速める粉や粒のことですよね。なんでその中で「拡散」なんて気にしないといけないんですか?
🎓
いい質問だね。工業用の触媒は、表面積を稼ぐために中身がスポンジみたいにスカスカの「多孔質」になっているんだ。反応物のガスや液体は、まずペレットの外表面に来て、それから細い孔をたどって内部へ「拡散」していく。中まで届いてはじめて、その奥の触媒も仕事ができる。つまり「反応」と「内部への拡散」が競争しているんだよ。
🙋
競争…?反応が速ければ速いほど良いんじゃないんですか?
🎓
それが落とし穴なんだ。反応が速すぎると、反応物が表面付近に来た瞬間に全部消費されてしまう。すると中心まで反応物が届かず、ペレットの奥は「やることがない」状態になる。その「反応の速さ」と「拡散の速さ」の比を一つの数字にしたのが、ティーレ係数 φ なんだ。φ = L_c·√(k/De) で計算する。左で反応速度定数 k を大きくすると、φ がぐんぐん上がるのが見えるよ。
🙋
φ が大きいと、奥の触媒がサボってる状態なんですね。それを表すのが有効係数 η ですか?
🎓
そのとおり。η は「ペレット全体が表面と同じ濃度で反応できたら出るはずの速度」に対して、実際にどれだけ出ているかの割合だ。η = tanh(φ)/φ で計算できて、φ が小さければ η はほぼ1——触媒が100%働いている。φ が大きくなると η はどんどん下がる。η=0.3 なら、高価な触媒の7割が遊んでいるということ。下の η-φ グラフを見ると、φ が10を超えたあたりから η が直線的に落ちていくのが分かるよ。
🙋
それは困りますね…。η を上げるには、何をいじればいいんですか?
🎓
φ を下げればいい。一番手っ取り早いのは「ペレットを小さくする」こと。特性長さ L_c が縮めば φ も縮む。次が「細孔を大きくして拡散を速くする」、つまり De を上げる。あとは「反応を遅くする」——温度を下げたり、活性をあえて抑えたりだね。実務で多いのは、活性が高い触媒ほどあえて小径ペレットにしたり、活性成分を外殻だけに塗った「シェル触媒」にして、反応物が長距離を拡散しなくて済むようにする工夫だよ。
🙋
なるほど!φ を下げる、η を上げる、という見方で触媒設計を考えればいいんですね。
🎓
そう。ただし小さくすれば良いわけでもなくて、ペレットを小さくすると充填層の圧力損失(差圧)が増えてしまう。「触媒利用率」と「圧損」のトレードオフを見ながら寸法を決める。このツールで φ・η と触媒利用率を見ながら、いろんな組み合わせを試してみてほしい。

よくある質問

ティーレ係数 φ は、触媒ペレット内の「本来の反応の速さ」と「反応物がペレット内部へ拡散していく速さ」の比を表す無次元数です。φ = L_c·√(k/De) で計算します(L_c は特性長さ、k は反応速度定数、De は有効拡散係数)。φ が小さいと拡散が十分速く反応物がペレット全体に行き渡り、φ が大きいと反応が速すぎて反応物が表面付近で消費し尽くされ、ペレット中心まで届きません。
有効係数 η は、ペレット全体の実際の反応速度を「ペレット内部が表面濃度のまま反応した場合の速度」で割った値です。一般化ティーレ係数を使うと、球・円柱・平板のいずれの形状でも近似的に η = tanh(φ)/φ で表せます。η=1 なら触媒が100%有効に働いている状態、η=0.3 ならペレットの3割しか実質的に使われていないことを意味します。φ≪1 で η→1、φ≫1 で η≈1/φ となります。
目安として φ < 0.4 なら反応律速(η≈1、ペレット内濃度はほぼ均一)、0.4 ≤ φ ≤ 4 なら拡散の影響が無視できない中間域、φ > 4 なら強い拡散律速(η≈1/φ、反応は表面の薄い殻でのみ進行)です。拡散律速の領域では、高価な触媒の大部分が遊んでいる状態になります。本ツールは φ と η を計算し、どの領域にあるかを自動で判定します。
η を上げる=φ を下げることなので、(1) ペレットを小さくして特性長さ L_c を縮める、(2) 細孔を大きくして有効拡散係数 De を上げる、(3) 反応速度定数 k を下げる(活性を抑える・低温で運転する)、のいずれかが有効です。実務では、活性の高い触媒ほど拡散律速に陥りやすいため、わざと小径ペレットや薄いシェル触媒(活性成分を外殻だけに担持)にして、内部拡散の経路を短くする設計がよく採られます。

実世界での応用

石油精製・石油化学プロセス:接触改質、水素化脱硫、流動接触分解(FCC)など、製油所の主要プロセスはすべて多孔質触媒ペレットを使います。これらは反応が速く φ が大きくなりやすいため、触媒は数 mm 以下の小径成形品やシェル触媒として供給され、内部拡散による有効係数の低下を抑えています。触媒メーカーの設計指標として φ と η は日常的に使われています。

アンモニア合成・メタノール合成:固定床反応器で大量の触媒を充填する大規模プロセスでも、ペレット内拡散は無視できません。ペレットを小さくすれば η は上がりますが、充填層の圧力損失が増えてコンプレッサー動力が増大します。η(触媒利用率)と圧損のトレードオフが、ペレット寸法決定の核心です。

自動車排ガス浄化触媒:三元触媒やディーゼル酸化触媒では、貴金属(Pt・Pd・Rh)をハニカム壁面の薄い触媒層(ウォッシュコート)に担持します。触媒層を薄くするのは、まさに L_c を小さくして φ を下げ、限られた貴金属を有効に使うためです。コールドスタート時の低温活性も内部拡散と密接に関係します。

反応器シミュレーションとスケールアップ:固定床反応器の設計では、見かけの反応速度 r_obs = η·k·Cₛ を反応器モデルに組み込みます。実験室の小粒子データ(η≈1)を、そのまま工業サイズの大粒子(η<1)に適用するとスケールアップに失敗します。φ と η で内部拡散の影響を補正することが、信頼できるスケールアップの前提です。

よくある誤解と注意点

まず多いのが、「実験室で測った反応速度がそのまま工業反応器でも成り立つ」という思い込みです。実験室では微粉砕した触媒を使うことが多く、その場合 φ はほぼゼロ、η≈1 で「真の反応速度(本質的な活性)」が測れます。ところが工業用の大きなペレットでは φ が大きく η<1 になり、見かけの速度は η 倍に落ちます。実験室データを補正せずにスケールアップすると、反応器が想定の何分の一の性能しか出ない、という事故が起こります。粒径を変えて速度が変われば、それは内部拡散律速のサインです。

次に、「有効拡散係数 De を分子拡散係数と混同する」こと。De は触媒の細孔内での実効的な拡散係数で、自由空間の分子拡散係数より大幅に小さくなります。これは細孔率(空隙の割合)で割り引かれ、屈曲度(孔の曲がりくねり)でさらに割り引かれ、孔径が小さいとクヌーセン拡散の効果も加わるためです。典型的には自由空間値の 1/10 程度になることも珍しくありません。De を分子拡散係数のまま使うと φ を過小評価し、拡散律速を見落とします。

最後に、「η = tanh(φ)/φ はあらゆる場合に厳密」だと思わないこと。この式が厳密に成り立つのは「等温・一次反応・平板形状」です。本ツールは一般化ティーレ係数(特性長さに L_c=Vₚ/Sₚ を使う)を採用することで球・円柱でも良い近似を与えますが、あくまで近似です。発熱反応でペレット内に温度勾配ができる場合(非等温)、η が1を超えることすらあります。また反応次数が一次でない場合や、外表面の物質移動抵抗が大きい場合は、別の補正が必要です。φ と η はまず「拡散律速かどうかの当たりをつける」ための強力な指標であり、最終設計では非等温・反応次数まで含めた詳細モデルで検証してください。

使い方ガイド

  1. 触媒ペレット特性長さ(mm)をLsizeRangeで設定します。球形ペレットの場合は半径、円筒形は半径を入力してください。
  2. 反応速度定数k(mol/m³·s)をkRateRangeで指定し、有効拡散係数Deff(m²/s)をDeffRangeで入力します。
  3. ペレット表面濃度Cs(mol/m³)をCsRangeで設定後、シミュレーション実行ボタンを押すとティーレ係数φと有効係数ηが同時計算されます。

具体的な計算例

アンモニア合成用Fe触媒ペレット(球形、半径R=3mm)でシミュレーション実施。反応速度k=0.05mol/m³·s、Deff=1.2×10⁻⁶m²/s、表面濃度Cs=500mol/m³の条件下でティーレ係数φ=1.8を得ました。この場合有効係数η=tanh(φ)/φ≈0.48となり、触媒利用率48%、見かけの反応速度=0.024mol/m³·sと計算されます。拡散律速判定ではφ>1により内部拡散が律速段階と診断されました。

実務での注意点