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溶接・熱

溶接熱入力・冷却速度(Rosenthal解)

溶接熱入力と冷却速度をオンラインでシミュレーション。NovaSolverの無料計算機で、MIG/TIG/SAWの熱サイクル、t8/5時間、HAZ幅をリアルタイムに計算・可視化します。溶接条件の最適化に役立つ直感的なツールです。

溶接プロセス

溶接条件

1200
501000
1050
0.101.0

母材・板厚

150
0300
0.550
計算結果
熱入力 HI (kJ/mm)
t₈₅ (s) 800→500°C
冷却速度 CR (°C/s)
HAZ幅 (mm)
熱サイクル T(t) — 観測点 r での温度履歴
等温線コンター(上面図) — 溶接プール・HAZ境界
最高温度 T_peak vs 溶接線距離 r
溶接熱源アニメーション — 移動熱源と温度分布
理論・主要公式

$$HI = \frac{\eta \cdot V \cdot I}{v} \quad \text{[kJ/mm]}$$

溶接入熱量:$\eta$ 熱効率(MAG:0.8、TIG:0.6)、$V$ 電圧 [V]、$I$ 電流 [A]、$v$ 溶接速度 [mm/s]

$$T(r,t) = T_0 + \frac{Q}{4\pi\lambda t}\exp\left(-\frac{r^2}{4\alpha t}\right)$$

点熱源による温度分布(ロゼンタール解):$\lambda$ 熱伝導率、$\alpha$ 熱拡散率

$$HAZ \propto \sqrt{HI / (\rho c (T_{AC1} - T_0))}$$

熱影響部(HAZ)幅:入熱量の平方根に比例

溶接熱入力・冷却速度(Rosenthal解)とは

🙋
このシミュレーターで計算できる「t₈₅」って何ですか?溶接の教科書でよく見るけど、なぜそんなに重要なんですか?
🎓
大まかに言うと、溶接部が800℃から500℃まで冷えるのにかかる時間だよ。鋼の組織が変態する、まさにその温度帯なんだ。例えば、このツールで「溶接入熱」のスライダーを小さくしてみて。t₈₅が一気に短くなって、冷却速度が速くなるのがわかるよね。これが速すぎると硬くてもろいマルテンサイトができて、割れの原因になってしまうんだ。
🙋
え、そうなんですか!じゃあ、現場ではt₈₅を長くするために、どうするんですか?上の「プレヒート温度」のスライダーを動かすと、t₈₅が変わりますね。
🎓
その通り!実務で多いのは、板をあらかじめ温める「プレヒート」だね。シミュレーターでプレヒート温度を上げてみると、母材の初期温度T₀が上がるから、冷却が穏やかになってt₈₅が長くなる。あとは、溶接電流を上げて入熱を大きくする方法もある。でも、やりすぎると今度は変形が大きくなるから、このツールでバランスを確認するのが大事なんだ。
🙋
「薄板モデル」と「厚板モデル」の選択肢がありますが、これは何が違うんですか?切り替えると、温度分布のグラフの形が全然変わります!
🎓
いいところに気づいたね!薄板モデルは、熱が板の表裏にすぐ伝わって板厚方向の温度差がほぼないと考えるんだ。自動車の薄い鋼板の溶接などはこれに近い。一方、厚板モデルは、船や橋の分厚い板のように、熱が主に横方向にしか広がらない半無限体を仮定している。実際の溶接設計では、板厚に合わせてこのモデルを使い分けて、HAZ(熱影響部)の幅やピーク温度を予測してるんだよ。

物理モデルと主要な数式

溶接熱源を移動する点熱源とみなし、定常状態での温度分布を求めるRosenthalの厚板(3次元)解です。半無限体(厚板)を仮定しています。

$$T - T_0 = \frac{Q}{2\pi k r}\exp\left(-\frac{v(r+x)}{2\alpha}\right)$$

$T$: 位置$(x,y)$の温度 [°C]
$T_0$: プレヒート温度(初期温度) [°C]
$Q$: 溶接入熱 [J/s] ($Q = \eta V I$、効率×電圧×電流)
$k$: 熱伝導率 [W/(m·K)]
$v$: 溶接速度 [m/s]
$\alpha$: 温度伝導率 [m²/s] ($\alpha = k / (\rho c_p)$)
$r$: 熱源からの距離 [m] ($r = \sqrt{x^2 + y^2}$)
指数項 $\exp(-v(r+x)/(2\alpha))$ が、移動熱源による温度分布の非対称性(熱源後方で高温域が長く尾を引く)を表します。

重要な評価指標である、800℃から500℃までの冷却時間 $t_{8/5}$ は、上記の温度履歴から導出されます。冷却速度が速い($t_{8/5}$が短い)ほど、硬いマルテンサイト組織が生成しやすくなります。

$$ t_{8/5}\propto \frac{Q}{\rho c_p}\left( \frac{1}{500-T_0}- \frac{1}{800-T_0}\right) $$

この関係から、溶接入熱$Q$を大きくする、またはプレヒート温度$T_0$を高くすると、冷却時間$t_{8/5}$が長くなり(冷却速度が遅くなり)、組織が軟化傾向になることがわかります。これが溶接施工条件設計の基本です。

よくある質問

MIG、TIG、SAW(サブマージアーク溶接)に対応しています。各溶接法の標準的な熱効率ηがプリセットされており、電圧・電流・速度を入力するだけで入熱量Qを自動計算します。
t8/5時間は溶接後、800℃から500℃に冷却するのに要する時間です。この時間が短すぎると硬化割れ、長すぎると靭性低下のリスクがあります。本ツールはこの値をリアルタイムで算出し、適正な溶接条件の判断に役立てます。
プレヒート温度T0を高く設定すると、冷却速度が低下しt8/5時間が長くなります。これによりHAZ(熱影響部)の硬さを抑え、低温割れを防止できます。実施工の予熱条件を入力して、効果を即座に確認できます。
Rosenthal解は半無限体を仮定した理論式のため、薄板や端部に近い領域では誤差が生じます。目安として、板厚が十分厚い場合に有効です。実測との差異を考慮し、条件検討の初期スクリーニングとしてご利用ください。

実世界での応用

鋼構造物(橋梁・船舶・建築)の溶接施工設計:高張力鋼を使用する場合、脆性破壊を防ぐために熱影響部(HAZ)の硬化を抑制する必要があります。設計者はこのシミュレーターのような計算を用いて、必要なプレヒート温度や許容される溶接入熱の範囲を決定し、施工仕様書に反映します。

自動車ボディの薄板溶接(スポット溶接・レーザー溶接):板厚が薄いため「薄板モデル」が適用されます。冷却速度が極めて速く、わずかな条件変化で溶接部の硬さが大きく変動します。ロボット溶接の条件設定時に、t₈₅を指標として用い、継手強度と変形のバランスを最適化します。

パイプラインの現場溶接(ガスパイプラインなど):寒冷地や水中など過酷な環境下では、母材温度が低く冷却速度が速くなりがちです。溶接前に加熱バーナーで管を十分にプレヒートし、シミュレーションで確認した適切なt₈₅を確保することで、水素割れなどの欠陥を防止します。

溶接材料・プロセスの開発評価:新しいワイヤやフラックス、または新しい溶接法(ハイブリッド溶接など)を開発する際、そのプロセスがもたらす熱サイクル(特にピーク温度と冷却速度)をRosenthal解を用いて予測・評価します。これにより、得られる組織と機械的特性を事前に推定することが可能になります。

よくある誤解と注意点

このツールを使い始める際、特に現場からCAEを学び始めたエンジニアが陥りがちな落とし穴がいくつかあります。まず第一に、「Rosenthal解は万能ではない」という点。これはあくまで「移動する点熱源」という大胆な仮定に基づく古典解です。例えば、実際のアークは点ではなくある幅を持ちますし、材料の熱物性値も温度によって変化します。ツールの結果は傾向を掴むための「第一近似」と心得て、特にクリティカルな部材では必ず実測やより高精度なFEMシミュレーションで検証する癖をつけましょう。

第二に、熱効率ηの設定。デフォルト値(例えばMIGで0.8)はあくまで代表値です。実際はシールドガスの種類やワイヤー突出し長さ、テーミングなどで変動します。この値が0.1違うだけで、計算されるt8/5は大きく変わります。実務では、自社の標準溶接条件で実測されたt8/5値から逆算して、自社プロセスに合ったηを推定しておくのがコツです。

第三は、「薄板」と「厚板」の選択基準。板厚が5mmなら薄板?12mmなら厚板?という単純な判断は危険です。重要なのは「熱が板厚方向に一様に広がるか」です。裏面から強制冷却(水冷治具など)している場合は、厚板モデルに近くなります。逆に、板厚が15mmでも両面から同時に溶接するような場合は、薄板モデルの方が近いかもしれません。シミュレーション結果と実測のヒストリーを照らし合わせて、適切なモデルを選定する感覚を養いましょう。