パラメータ設定
α = R·√(ωρ/μ)、ω = 2πf。大動脈の代表値は R = 10 mm、f = 1 Hz、ρ = 1060 kg/m³、μ = 3.5 mPa·s で α ≈ 13.8(慣性支配)。
円管断面の拍動速度プロファイル
青枠=血管壁(半径 $R$)/4 つの曲線=拍動周期内の 4 位相(t = 0, T/4, T/2, 3T/4)の軸方向速度 $u(r,t)$/橙の薄帯=粘性侵入深さ $\delta$。α が小さいと Poiseuille 放物線、α が大きいと中心ピストン+壁面位相遅れの「環状効果」が現れます。
流動領域マップ(α 軸)
横軸=α(対数 0.1〜100)/緑帯=準定常域(α < 1)/黄帯=過渡域(1 ≤ α < 10)/赤帯=慣性支配域(α ≥ 10)/黄●=現在の α。曲線は壁面と中心の位相差(慣性度)です。
理論・主要公式
ウォマーズレー数の定義:
$$\alpha = R\,\sqrt{\dfrac{\omega\,\rho}{\mu}},\quad \omega = 2\pi f$$
粘性侵入深さ(Stokes 層厚)と α との関係:
$$\delta = \sqrt{\dfrac{\mu}{\rho\,\omega}},\quad \alpha = \dfrac{R}{\delta}\,\sqrt{2}\;\;(\text{近似})$$
ピーク Reynolds 数(ピーク速度 $U_\mathrm{peak}=1$ m/s を仮定):
$$\mathrm{Re}_\mathrm{peak} = \dfrac{\rho\,U_\mathrm{peak}\,(2R)}{\mu}$$
$R$ は血管半径 [m]、$f$ は心拍周波数 [Hz]、$\omega = 2\pi f$ は角振動数 [rad/s]、$\rho$ は血液密度 [kg/m³]、$\mu$ は動粘性 [Pa·s]。α < 1 で準定常(Poiseuille 様)、1 ≤ α < 10 で過渡、α ≥ 10 で慣性支配(大動脈・心拍 1 Hz)です。
ウォマーズレー数とは
🙋
血流の本でよく「ウォマーズレー数」が出てきますが、レイノルズ数と何が違うんですか? なぜ拍動流では別の無次元数が必要なんですか?
🎓
ウォマーズレー数 $\alpha = R\sqrt{\omega\rho/\mu}$ は「慣性 vs 粘性」を時間スケールで測る無次元数だよ。レイノルズ数は平均速度に基づくけど、拍動流では速度が周期的に変わるから「振動による慣性」も別途効いてくる。本ツールの既定値($R=10$ mm、$f=1$ Hz、$\rho=1060$ kg/m³、$\mu=3.5$ mPa·s)で α = 13.79 になる。これは大動脈・心拍 1 Hz の典型値で、完全に「慣性支配」の領域だ。
🙋
α が大きいと速度プロファイルが Poiseuille の放物線にならないんですよね? 円管断面の図で 4 つの色の線が中心がほぼ一直線になっています。
🎓
そう、それが「環状効果(annular effect)」と呼ばれる現象だ。α が大きいと中心部はピストンのように一塊で動き、壁近傍だけに薄い境界層(粘性侵入深さ $\delta$)が形成される。デフォルトでは $\delta = 0.725$ mm で、半径 10 mm の 7% しかない。壁の流体は粘性で「ブレーキ」され位相が遅れるから、最高速の瞬間(t = T/4)に中心と壁で逆向きの速度になることもあるんだ。
🙋
血管半径 R を 0.5 mm に変えると α = 0.69 になって「準定常」になりました。これが毛細血管に近いということですか?
🎓
そうそう。細い動脈(細動脈・冠動脈の末梢)では α < 1 になって、各瞬間ごとに Poiseuille 放物線が立ち上がる準定常流れになる。これは流体抵抗の式 $\Delta P = 8\mu L Q/(\pi R^4)$ がそのまま使える領域で、医療では「Poiseuille 流れ」モデルで近似する。逆に大動脈・大静脈は α > 10 で慣性支配だから、CFD 計算では Womersley の解析解か非定常 N-S 方程式が必要になる。
🙋
心拍周波数 f を 3 Hz(運動時の心拍 180 bpm)にすると α = 23.9 になりました。激しい運動時はもっと慣性支配になるんですね…
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そう、α ∝ √f だから心拍が 3 倍になると α は √3 ≈ 1.73 倍になる。さらに運動時はピーク流速も大きくなる(U_peak が 1 → 2〜3 m/s)から、ピーク Re も 6000 → 15000 を超え、乱流域に入ることもある。アスリートの大動脈では拍動と乱流が同時に発生する複雑な流れになり、これが心血管疾患のリスク評価や人工弁・ステント設計で重要なポイントになるんだ。
よくある質問
円管内の振動流(脈動流)に対する Navier-Stokes 方程式を線形化し、$u(r,t) = U(r) e^{i\omega t}$ と仮定して Bessel 方程式に帰着させると、解は $U(r) = \dfrac{G}{i\omega\rho}\left[1 - \dfrac{J_0(\alpha i^{3/2} r/R)}{J_0(\alpha i^{3/2})}\right]$ という第一種 Bessel 関数 $J_0$ で表されます。ここで $G$ は圧力勾配の振幅、$\alpha = R\sqrt{\omega\rho/\mu}$ がパラメータです。α → 0 で Poiseuille 放物線、α → ∞ でピストン流れ+壁面 Stokes 層となります。本ツールでは可読性のため定性的な近似プロファイル(Poiseuille と中心ピストンの線形補間)で可視化していますが、定量計算には Bessel 解または非定常 CFD が必要です。
あらゆる「振動を伴うパイプ内流れ」で重要で、ピストンポンプの油圧管、内燃機関の吸排気管、波動ポンプ(人工心臓)、海洋工学の振動水柱、医療デバイスの薬液脈動投与など幅広く現れます。例えば内燃機関の吸気管では $f$ = 50〜200 Hz、$R$ = 25 mm、空気では $\rho$ ≈ 1.2 kg/m³、$\mu$ ≈ 1.8e-5 Pa·s で α ≈ 130〜260 に達し、強い慣性支配で「波動共鳴」を利用したスーパーチャージ効果が設計される。生体外でも MEMS マイクロポンプ、音響流(acoustic streaming)、毛細管粘度計の振動補正など、振動・粘性・慣性が絡む場面で必ず参照される基本量です。
剛体管の Womersley 数は α = R√(ωρ/μ) ですが、血管のように管壁が弾性変形する場合は管波速度 $c$(Moens-Korteweg 式 $c = \sqrt{Eh/(2\rho R)}$)も加わり、Womersley-Witzig の弾性解析になります。$M^2 = (\omega R/c)^2$ も同時に効き、波の反射・進行による圧力波形(脈波)が重要になる。実際の大動脈では脈波速度 $c$ = 4〜10 m/s、$f$ = 1 Hz、$R$ = 10 mm で $M$ ≈ 0.006〜0.016 と非常に小さいので「準定常波動近似」が成立し、結果的に Womersley 数だけで流れ場の主要構造が決まります。動脈硬化が進むと $c$ が増大し脈波速度が上がるため、PWV(脈波伝播速度)測定が早期診断指標として臨床利用されています。
α と Re を同時に一致させる相似則設計が必要です。α が大きい場合、壁面の Stokes 層 $\delta = \sqrt{\mu/(\rho\omega)}$ を最低 5〜10 セルで解像する必要があり、$\Delta r \le \delta/5$ をメッシュ目安とします。大動脈で $\delta$ ≈ 0.7 mm なら $\Delta r$ ≈ 0.1 mm。時間刻みは 1 周期を 100〜200 ステップに分けて $\Delta t \le T/100$ とし、3〜5 周期で初期過渡を抜け、解析対象は 5〜10 周期目の周期平均をとります。乱流モデルは Re_peak が 4000 を超える場合のみ LES または k-ω SST を用い、低い場合は層流計算で十分です。ANSYS Fluent、OpenFOAM の transientSimpleFoam・pimpleFoam で標準的な拍動境界条件として速度プロファイル時系列を Womersley 解から入力するのが定石です。
実世界での応用
心血管 CFD 解析:大動脈瘤、頸動脈狭窄、心室壁の血流解析では Womersley 数 α が α > 10 の慣性支配域に入るため、定常 Poiseuille 解析では不正確で、非定常 Navier-Stokes による拍動 CFD が必須です。ANSYS Fluent、SimVascular、ABAQUS/CFX などで個別患者の MRI/CT データからメッシュを生成し、心拍流量波形を入口境界条件として 5〜10 周期の周期解を取得する手順が確立されています。本ツールの大動脈デフォルト(α = 13.79、Re_peak = 6057)はまさにこの解析対象です。
人工心臓・補助循環デバイス設計:VAD(補助人工心臓)、ECMO の血液ポンプは拍動流を生成または受容するため、Womersley 数による相似則設計が中核技術です。動物実験段階で得た α = 5〜15 のデータを臨床ヒトに外挿する際、α とピーク Re を同時に合わせる相似モデルを用いて溶血リスク(壁面せん断応力 > 150 Pa で赤血球破壊)と血栓リスク(停滞時間 > 1 秒で凝固)を評価します。ニプロ・テルモ・Abbott など国内外の主要メーカーで標準的な設計プロセスです。
脈波伝播速度(PWV)と動脈硬化診断:Womersley 数の解析と関連して、PWV(pulse wave velocity)測定が早期動脈硬化の臨床指標として確立されています。健常成人で PWV ≈ 5〜8 m/s、動脈硬化進行で 12〜15 m/s に上昇。これは管壁弾性率 $E$ の増加によるもので、Moens-Korteweg 式 $c = \sqrt{Eh/(2\rho R)}$ から逆算します。日本では「血管年齢」測定として人間ドック・特定健診で広く使用され、Womersley 流体力学が公衆衛生に直結している好例です。
内燃機関の吸排気管設計:4 サイクル機関の吸排気管では α = 50〜300 と非常に大きく、波動慣性を積極的に利用した「慣性過給(inertia supercharging)」が定石です。吸気行程末の負圧波が管端で正圧波に変換され、次の吸気行程に重なるよう管長を共振設計します。F1・MotoGP のような高回転エンジンでは吸気管長を周波数 1/4 波長に合わせ、Womersley 数 ≈ 100 の領域で実効効率を 5〜10% 向上させています。流体音響・1D-CFD ソルバ(GT-POWER、AVL Boost、Wave)でこの解析が標準です。
よくある誤解と注意点
最も多い誤解は、「血流=Poiseuille 流」と思い込むことです。これは細動脈以下の細い血管(R < 0.5 mm、α < 1)でのみ正しく、大動脈・冠動脈の主幹部では完全に成り立ちません。本ツールで R = 0.5 mm にすると α = 0.69 で準定常に入り、Poiseuille 公式 $\Delta P = 8\mu L Q/(\pi R^4)$ がそのまま使えますが、R = 10 mm の大動脈では位相遅れと中心ピストン効果のため Poiseuille 抵抗式は実際の圧力勾配を 50% 以上過大評価する場合があります。臨床血行動態評価では血管径ごとに使うモデルを切り替える必要があります。
次に多いのが、「α が大きい=乱流」という誤解です。α は慣性 vs 粘性の比ですが、これは「振動慣性」の話で、レイノルズ数の「平均慣性」とは別物です。大動脈は α = 13.8 でも層流が支配的で、Re_peak が 4000 を超えるピーク収縮期の瞬間だけ部分的に乱流的になります。Womersley 数だけで乱流判定すると誤りで、必ず Re_peak も併せて評価することが重要です。本ツールのデフォルトでは Re_peak = 6057 で、これは収縮期ピークの一部に乱流バーストが発生し得る境界値です。
最後に、「Womersley 解析解はあらゆる血流に使える」という誤解です。Womersley 解は「直管」「剛体壁」「ニュートン流体」「単一周波数」「軸対称」を仮定した線形解で、実際の血管は分岐・湾曲・弾性・血液の非ニュートン性(赤血球凝集による低せん断粘性増大)を含みます。例えば動脈分岐部では二次流れ(Dean 渦)が発生し Womersley 単独では記述できません。教育・基礎理解には Womersley 数が極めて有用ですが、患者個別の臨床計算では患者別 MRI 形状+非定常 CFD+非ニュートン流体モデル(Carreau-Yasuda 等)の組み合わせが必須です。