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CFD 基礎シミュレーター

無次元壁距離 y+ シミュレーター — CFD 境界層解像

壁から第 1 セルまでの無次元距離 $y^+ = y\,u_\tau/\nu$ をリアルタイム計算します。主流速度 $U_\infty$、第 1 セル高さ $y$、動粘性係数 $\nu$、摩擦係数 $c_f$ を変えて、摩擦速度 $u_\tau$、壁面せん断応力 $\tau_w$、適切な乱流モデル領域(粘性底層・バッファ層・対数則層)を即時に判定し、$u^+$ プロットと境界層模式図で可視化します。

パラメータ設定
主流速度 U_inf
m/s
第 1 セル高さ y
μm
動粘性係数 nu (×10⁻⁶)
m²/s
摩擦係数 c_f (×10⁻³)

空気密度 $\rho = 1.225$ kg/m³ を固定で使用。$u_\tau = U_\infty\sqrt{c_f/2}$、$y^+ = y\,u_\tau/\nu$。

計算結果
無次元壁距離 y+
摩擦速度 u_τ
モデル選定推奨
壁面せん断応力 τ_w
境界層 4 領域と現在の y+ 位置

壁面(左)から外層に向けた境界層模式図。緑=粘性底層(y+ < 5)/橙=バッファ層(5 ≤ y+ < 30)/青=対数則層(30 ≤ y+ < 300)/赤=解像不足(y+ ≥ 300)。黄色矢印=現在の y+ 位置。

速度プロファイル u+ vs log10(y+)

横軸=$\log_{10}(y^+)$(−1 から 3)/縦軸=$u^+ = U/u_\tau$/青線=粘性底層則 $u^+ = y^+$/橙線=対数則 $u^+ = (1/\kappa)\ln(y^+) + B$($\kappa = 0.41$、$B = 5.0$)/黄●=現在の $y^+$ における理論 $u^+$。

理論・主要公式

無次元壁距離の定義($y$=壁から第 1 セル中心まで、$u_\tau$=摩擦速度、$\nu$=動粘性係数):

$$y^+ = \frac{y\,u_\tau}{\nu}$$

摩擦速度は壁面せん断応力 $\tau_w$ と密度 $\rho$ から、平板境界層では摩擦係数 $c_f$ を介して主流速度に直結します:

$$u_\tau = \sqrt{\frac{\tau_w}{\rho}},\qquad \tau_w = \tfrac{1}{2}\,c_f\,\rho\,U_\infty^2,\qquad u_\tau = U_\infty\sqrt{\frac{c_f}{2}}$$

壁近傍の無次元速度 $u^+ = U/u_\tau$ は領域ごとに異なる関数:

$$u^+ = \begin{cases} y^+ & (y^+ < 5,\ \text{粘性底層}) \\ \dfrac{1}{\kappa}\ln(y^+) + B & (y^+ \ge 30,\ \text{対数則層}) \end{cases}$$

$\kappa \approx 0.41$(フォン・カルマン定数)、$B \approx 5.0$(滑らか壁)。CFD で SST k-ω や Spalart-Allmaras を low-Re で使う場合は $y^+ < 1$、k-ε に wall function を組み合わせる場合は $30 \le y^+ < 300$ を目標とします。バッファ層($5 \le y^+ < 30$)は両モデルの仮定が成立しないため、第 1 セルを置かないのが基本です。

無次元壁距離 y+ とは

🙋
CFD のチュートリアルでよく「y+ を 1 以下にしてください」とか「y+ = 30〜300 を狙ってください」って指示が出ますが、結局 y+ って何ですか?
🎓
ざっくり言うと、壁にどれだけ近くメッシュを切ったかを表す無次元数だよ。定義は $y^+ = y\,u_\tau/\nu$ で、$y$ が壁から第 1 セル中心までの距離、$u_\tau$ が摩擦速度、$\nu$ が動粘性係数。本ツールの既定値($U_\infty=10$ m/s、$y=100$ μm、空気 $\nu=1.5\times10^{-5}$ m²/s、$c_f=5\times10^{-3}$)では、$u_\tau = 10\sqrt{0.0025} = 0.500$ m/s、$y^+ = 10^{-4}\times0.5/1.5\times10^{-5} = 3.33$ になる。「計算結果」カードで確認してみて。
🙋
y+ = 3.33 だと「粘性底層解像」って表示されました。これってどういう意味ですか?
🎓
壁近傍は 4 つの領域に分かれていて、$y^+ < 5$ が粘性底層、$5 \le y^+ < 30$ がバッファ層、$30 \le y^+ < 300$ が対数則層、$y^+ \ge 300$ は解像不足。粘性底層では速度勾配を直接計算するので、SST k-ω や Spalart-Allmaras の low-Re モデルを使えば剥離や熱伝達も正確に解ける。あなたの設定は粘性底層に第 1 セルが入っているから、low-Re モデルが推奨される、ということだ。
🙋
$y$ を 100 μm から 1000 μm に上げると、$y^+$ が 33 になって「対数則層」になりました。これだと wall function が使えるんですね。
🎓
そう、$30 \le y^+ < 300$ なら k-ε に wall function を組み合わせた古典的手法が使える。メッシュ数が少なくて済むから配管・大空間の流体解析や建築風環境に向いている。ただ剥離や強い逆圧勾配がある場合は精度が落ちるので、エンジン内部やタービン翼のような複雑流れでは low-Re モデルに戻すのが定石だよ。
🙋
バッファ層($5 \le y^+ < 30$)に第 1 セルを置いたらダメな理由は?
🎓
バッファ層は粘性底層則($u^+ = y^+$)も対数則($u^+ = (1/\kappa)\ln y^+ + B$)も成立しない遷移領域なんだ。low-Re モデルは粘性底層仮定で式を組んでいるし、wall function は対数則仮定で組んでいる。バッファ層に第 1 セルが入ると、どちらの仮定にも合わないため壁面せん断応力の予測が 20〜50% 外れることがある。本ツールで $y$ を 150 μm に設定して $y^+ \approx 5$ にしてみると、警告メッセージが出るのが確認できるよ。

よくある質問

実形状の流れでは局所的に流速や圧力勾配が変わるため、$y^+$ は表面の場所ごとに大きくばらつきます。例えば自動車車体では、前方淀み点付近では $y^+$ がほぼゼロ、車側面の高速領域では数百に達するというように 2 桁以上の変動があります。設計目標の $y^+$ レンジに「平均値」だけが入っていても、表面の大部分が範囲外であれば意味がありません。CFD ソルバーでは $y^+$ の場分布(contour)と最小・最大・平均を必ず確認し、対象領域が目標範囲に収まっていることを確認します。剥離や熱伝達の重要部位ではより厳しい確認が要求されます。
$y^+ = 1$ を狙う場合、第 1 層厚さは典型的に 1〜10 μm(空気・$U_\infty = 30$ m/s クラス)。境界層全厚($\delta \approx 0.37 x / Re_x^{1/5}$)を解像するには、層比 1.15〜1.25 で 20〜30 層程度のプリズム層が必要です。例えば $x = 1$ m、$U_\infty = 30$ m/s(空気)の場合、$\delta \approx 17$ mm、第 1 層 1 μm、層比 1.2 で 25 層を積むとちょうど $\delta$ に到達します。商用ソルバー(ANSYS Fluent、STAR-CCM+、OpenFOAM)の自動プリズム機能はこの計算を自動化していますが、最終的には $y^+$ contour で検証する必要があります。
物理的には正確になりますが、計算負荷が指数関数的に増えます。第 1 層を半分にすると、層比一定なら層数を増やす必要があり、結果としてメッシュ要素数が 1.3〜1.5 倍に増加します。また、極端に薄い層は「高アスペクト比セル」になり、ソルバーの収束性が悪化します(残差が振動するなど)。一般には $y^+ = 0.5 〜 5$ の範囲を狙い、$y^+ = 1$ 程度をターゲットにします。$y^+ \ll 1$ にしても精度は飽和し、計算コストだけが上がるため避けるべきです。
古典的な wall function は対数則の解析解を使うため、第 1 セルが $30 \le y^+ < 300$ の対数則層内にある必要があります。一方、ANSYS Fluent の「Scalable Wall Function」、STAR-CCM+ の「Two-Layer All-y+ Wall Treatment」、OpenFOAM の「nutUSpaldingWallFunction」などの y+ insensitive な処理は、粘性底層・バッファ層・対数則層を Spalding の合成則や 2 層モデルで連続的に橋渡しします。これにより $y^+$ が 1 でも 100 でも妥当な解が得られ、メッシュ生成の難度が下がります。ただしバッファ層内の精度は完全ではなく、剥離や強い圧力勾配ではやはり low-Re モデルが推奨されます。

実世界での応用

自動車空力解析:$y^+$ は車体表面全域での評価が必須です。前方淀み点や A ピラー渦付近では局所流速が低く $y^+ \approx 1$、車体側面の高速領域では $y^+ \approx 100$ という分布になります。Cd(抗力係数)予測には全域 $y^+ < 5$ の low-Re メッシュが標準で、F1 や量産車の風洞 CFD 検証では 1 億セル超のメッシュが普通です。本ツールで $U_\infty = 50$ m/s、$y = 5$ μm を入力すると、$y^+$ が 1 前後になることを確認できます。

航空機翼の境界層解像:$Re = 10^7$ クラスの翼面では、$y^+ = 1$ を狙うと第 1 層厚さは 0.5〜2 μm まで薄くなります。剥離点の予測精度が抗力・揚力に直結するため、SST k-ω や Reynolds-averaged モデルの中でも高精度なものが選択されます。$y^+$ の局所値は前縁で 0.1〜0.5、後縁で 1〜3 程度に保つのが標準で、CFD 後処理で contour プロットを必ず確認します。

熱交換器・配管熱流動:熱伝達率は $y^+$ と Prandtl 数に強く依存し、$y^+ < 1$ で粘性底層内の温度勾配を直接解像する場合と、$y^+ \approx 30$ で「Kader 補正」付き wall function を使う場合で結果が異なることがあります。化学プラントや原子炉の安全解析では、Nusselt 数の検証実験との照合を経て、最適な $y^+$ 範囲とモデルが選定されます。本ツールで $\nu = 1.0\times10^{-6}$ m²/s(水)に切り替えると、空気とは桁違いに薄いメッシュが必要になることが分かります。

大気境界層・建築風環境:$Re \approx 10^9$、$y^+ \approx 10^5$ という極端な領域で、地表面粗度を考慮した「rough-wall wall function」が使われます。$y^+$ そのものよりも粗度長さ $z_0$ とその局所値の比が重要で、本ツールの想定範囲($y^+ \le 10^4$)を超えますが、概念は共通です。COST Action 732 などの建築風環境ガイドラインで標準的な扱いが定められています。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解は、「メッシュ生成時に y+ を一度設定すれば、それで終わり」と考えることです。$y^+$ は流速・粘性・摩擦速度に依存するため、流れの状態によって変動します。同じメッシュでも、低流速時は $y^+ \approx 0.5$(粘性底層解像)、高流速時は $y^+ \approx 50$(バッファ層、危険)になることがあります。CFD 解析が収束したら必ず最終的な $y^+$ contour を確認し、目標範囲に収まっていることを検証する必要があります。本ツールで $U_\infty$ を 10 → 50 m/s に動かすと、$y^+$ が約 5 倍になることが見て取れます。

次に多いのが、「low-Re モデルなら y+ をどんなに小さくしても OK」という思い込みです。$y^+$ が極端に小さい(例:0.01)と、セルアスペクト比が 10000 を超え、ソルバーの収束性が著しく悪化します。残差が振動し、不規則な反復で計算時間が膨大になることがあります。一般には $y^+ = 0.3 〜 1$ を狙い、これより低くしないのが定石です。また、低 $y^+$ ほど良いという思い込みで「とにかく薄く」とすると、隣接セルとの体積比(Volume Ratio)が悪化し、ソルバーの安定性が損なわれます。

最後に、「壁関数モデルなら y+ の正確な範囲を気にしなくてよい」と考える誤解です。古典的な対数則 wall function は $30 \le y^+ < 300$ の範囲を厳格に要求します。バッファ層($5 \le y^+ < 30$)に第 1 セルが入ると、対数則の式が成立せず、壁面せん断応力の予測が 20〜50% 外れることがあります。剥離点が完全に外れて流れ場が定性的に間違うケースもあります。$y^+$ insensitive な近壁処理(Scalable Wall Function、Two-Layer All-y+)を使えば緩和されますが、それでも精度を要求する解析では low-Re モデル+$y^+ < 1$ が安全策です。本ツールで $y$ をスイープ(再生ボタン)すると、領域がどう切り替わるかを直感的に確認できます。