鋳造充填解析

カテゴリ: 製造プロセスシミュレーション | 2026-10-02 改稿
CAE visualization for casting filling theory - technical simulation diagram
鋳造充填解析

理論:湯口方案と自由表面の流れ

概要

🙋

充填解析をするなら、湯口の大きさは手計算しなくてもよいのでは?

🎓

手計算で初期案を作ってから解析するのが効率的だ。湯口方案(湯口・湯道・堰の組み合わせ)は、ベルヌーイの式と連続の式でかなりの部分が決まる。流量は鋳物の体積と充填時間から、流速は落差から決まり、最も細い部分(チョーク)の断面で流量が制限される。チョークを湯口の底に置き、その先の湯道・堰を広げて流速を落とすのが非加圧方案で、アルミ合金のように酸化しやすい金属に向く。充填解析は、この初期案で実際に溶湯がどう流れるか、つまり堰ごとの流量の偏り、湯の跳ね上がり、空気の閉じ込め、温度の低下による湯回り不良を確かめ、細部を直すために使う。初期案なしに形だけ描いて解析を回すと、修正の方向が分からず試行錯誤が長くなる。

湯口方案の基本式

$$ v = C_d\sqrt{2 g h},\qquad A_{\text{choke}} = \frac{Q}{v},\qquad A_{\text{ingate}} = \frac{Q}{v_{\text{max}}},\qquad \frac{A_{\text{top}}}{A_{\text{base}}} = \sqrt{\frac{h_{\text{base}}}{h_{\text{top}}}} $$

C_d は流量係数(摩擦や曲がりによる損失)、h は落差、Q は流量、v_max は堰で許す最大流速、h_top・h_base は湯口上端と底までの落差。

Coffee Break よもやま話

VOF法と鋳造シミュレーション

自由表面の流れを解くVOF法は、1981年に米国ロスアラモス国立研究所のHirtとNicholsが発表した。セルごとに「液体が占める体積の割合」を追う方法で、界面が大きく変形したり、ちぎれたり合わさったりする流れを扱える。鋳造の充填はまさにそうした流れで、1980年代後半からVOF法を使った鋳造シミュレーションソフトが次々に実用化された。

計算例

一定落差・一定流量係数0.8の初期案。0.5 m/sは例示した堰の平均流速の目安で、各堰の過渡流速や巻き込みを保証しない。3セル/板厚は初期解像度であり、格子依存性の比較を省略できない。

例:5 kgのアルミ鋳物の湯口方案(充填時間10秒、湯口底までの落差250 mm)

項目値
鋳物の体積(液体密度2,385 kg/m³)2.10 L
流量0.21 L/s
湯口底の流速(理論 / 流量係数0.8)2.21 / 1.77 m/s
チョーク断面(湯口底)118 mm²(直径12.3 mm)
堰の合計断面(0.5 m/s以下)419 mm²
チョーク:堰1 : 3.5
湯口上端の断面(落差50 mm)265 mm²(底の2.24倍)

堰の流速の目安0.5 m/sは、アルミ合金で酸化膜の巻き込みを避けるための値。流量係数は湯道の曲がりや長さで変わるので、充填解析で各堰の実際の流速を確かめる。

🙋

堰の断面を合計419 mm²にしたのに、充填解析では一番近い堰から1.2 m/sで噴き出しました。なぜですか?

🎓

流量が堰に均等に分かれていないからだ。湯道を流れる溶湯は勢いがついているので、湯口に近い堰を素通りして、湯道の奥の堰に集中しやすい。逆に湯道の終端に溜まった溶湯が跳ね返って近い堰から一気に出ることもある。合計の断面積が足りていても、1か所に流量が集まればその堰の流速は目標を超える。対策としては、湯道の終端を少し延ばして最初の汚れた溶湯と勢いを受け止める(湯道延長)、堰ごとに断面を変えて流量をそろえる、湯道を段階的に細くして各堰の手前で圧力を保つ、といった方法がある。充填解析では、堰ごとの流量と流速の時間変化をモニターして、どの堰がいつ働いているかを確かめるのが要点だ。

実務での進め方

  1. 鋳物の体積・充填時間・落差から、チョーク・湯道・堰の断面を手計算で決める。
  2. 薄肉部に3セル以上入るメッシュで、VOF法の充填解析を設定する(3 mmの壁なら1 mm以下)。
  3. 堰ごとの流量・流速、湯の表面速度、空気の閉じ込めを確かめる。
  4. 温度の低下と流れにくさを含めて、湯回り不良と湯境の危険を見る。
  5. 充填の結果を初期条件として凝固解析につなぐ。
Coffee Break よもやま話

「ガラス窓の型で見た流れ」

充填解析の検証には、片面をガラスにした型や、X線で透視しながら注湯する実験がよく使われる。実際に見ると、溶湯は計算で想像するよりずっと激しく跳ね、薄い膜になって飛び散ることが多い。解析と実験の映像を同じ時刻で並べて比べると、流量係数や表面張力、型の通気の設定が妥当かが一目で分かり、解析の信頼性を大きく高められる。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
合計断面だけで堰を決める1つの堰に流量が集中堰ごとの流量を確認
まっすぐな湯口空気の吸い込み下に向かって絞る
薄肉部のセルが粗い湯回りを誤判定壁厚に3セル以上
型の通気を無視背圧で充填が遅れる通気・ガス逃げを設定
温度を解かない湯回り不良を見逃す熱と流れを連成
🙋

関連する内容も知りたいです。

よくある質問

鋳造の充填解析では何を計算しますか?

溶湯が湯口・湯道・堰を通って型の中に流れ込み、空気と置き換わっていく様子を、自由表面のある非定常の流れとして計算します。一般にVOF法で溶湯と空気の境界を追跡し、温度と、冷えて固まり始めたことによる流れにくさも同時に解きます。湯回り不良、空気や酸化膜の巻き込み、湯境(冷えた湯どうしがつながらない欠陥)の予測に使います。

湯口や堰の大きさはどう決めますか?

流量と流速から決めます。5 kgのアルミ鋳物を10秒で満たすなら流量は0.21 L/sで、250 mmの落差による湯口底の流速2.2 m/s(流量係数0.8で1.77 m/s)から、最も細いチョーク断面は118 mm²になります。堰で0.5 m/s以下に落とすには419 mm²が必要で、チョーク:堰がおよそ1:3.5の非加圧方案になります。

湯口はなぜ下に向かって細くするのですか?

溶湯は落ちるほど速くなり、流れの断面が細くなるからです。まっすぐな湯口だと溶湯が壁から離れて負圧になり、空気を吸い込みます。水盤から湯口上端まで50 mm、湯口底まで250 mmなら、上端の断面を底の√(250/50) ≈ 2.24倍にすると、溶湯が壁に沿ったまま流れます。

参考資料・検算の位置づけ

掲載値は本文の仮定に基づく教育用の参考計算。資料は理論・設定の参照先であり、本記事の数値を各ソフトで再現した証明ではない。設計・製造の判断には対象条件での検証が必要。

関連シミュレーター

この分野のインタラクティブシミュレーターで理論を体感しよう

シミュレーター一覧

関連する分野

構造解析熱解析V&V・品質保証
この記事の評価
ご回答ありがとうございます!
参考に
なった
もっと
詳しく
誤りを
報告
参考になった
0
もっと詳しく
0
誤りを報告
0