鋳造凝固解析
理論:潜熱と型への熱の流れ
概要
凝固解析は普通の熱伝導の解析と何が違うのですか?
固まるときに出る潜熱と、型との境界の扱いの2点だ。金属は固まるときに大量の熱(鋼で1 kgあたり約270 kJ)を出すので、温度は融点付近でなかなか下がらない。合金は液相線と固相線の間で少しずつ固まるので、その温度範囲で固相率に応じて潜熱を出す。数値的には、温度の代わりにエンタルピーを未知数にする方法や、潜熱を比熱の増加として扱う方法が使われる。もう一つは境界で、砂型では型そのものの熱の通りにくさが凝固の速さを決め、金型では鋳物と型の界面の熱伝達(収縮で隙間が開くと急に下がる)が決める。どちらを主に支配しているかで、入力の何に注意すべきかが変わる。
エンタルピー法
H はエンタルピー、c は比熱、L は潜熱、f_l は液相率。温度の代わりに H を解くと、潜熱の放出を安定して扱える。
砂型でのChvorinov定数
ρ_m・L・T_m は金属の密度・潜熱・融点、T₀ は型の初期温度、k・ρ・c(添字mo)は型の熱伝導率・密度・比熱。型が半無限に厚く、熱の流れを型が支配すると仮定した式で、過熱度は無視している。
チェコの技術者が見つけた2乗則
凝固時間がモジュラスの2乗に比例するという法則は、チェコの鋳造技術者ニコラス・チボリノフ(Nicolas Chvorinov)が1940年に発表した。多数の形の鋳物で凝固時間を測り、形が違っても体積÷表面積でまとめられることを示した。コンピュータのない時代に押湯の大きさを決める強力な道具になり、今でもシミュレーションの前の見積もりや結果の確かめに使われている。
計算例
表は示した熱物性を一定とした理想モデルへの代入で、特定合金の凝固時間を保証しない。アルミ行は純アルミに近い単一融点の仮定。実際の合金には凝固温度範囲、過熱度、鋳型の有限厚さと界面熱抵抗を含める。
例:けい砂の型での鋼とアルミ合金の凝固時間
けい砂:熱伝導率0.6 W/(m·K)、密度1,600 kg/m³、比熱1,170 J/(kg·K)。鋼:液体の密度7,000 kg/m³、潜熱272 kJ/kg、融点1,810 K。アルミ:密度2,385 kg/m³、潜熱398 kJ/kg、融点933 K。型の初期温度300 K。
| 金属 | Chvorinov定数 B | 厚さ20 mmの板 | 厚さ50 mmの板 |
|---|---|---|---|
| 鋼 | 1.11 s/mm² | 111 秒(1.9 分) | 695 秒(11.6 分) |
| アルミ合金 | 1.57 s/mm² | 157 秒(2.6 分) | 983 秒(16.4 分) |
無限に広い板のモジュラスは厚さの半分。厚さが2.5倍になると凝固時間は6.25倍になる。過熱度を入れるとさらに長くなる。
同じ形を金型で作るつもりで、砂型のこの定数を使って凝固時間を見積もりました。問題がありますか?
大きく外れる。この定数は「型が熱を通しにくく、熱の流れを型が支配する」という砂型の前提で導いたもので、金型にはそのまま使えない。金型の鋼は砂の数十倍も熱をよく通すので、熱の流れを支配するのは鋳物と型の界面の熱伝達になり、凝固時間はモジュラスにほぼ比例する(2乗ではない)関係に近づく。しかも界面の熱伝達係数は、注湯直後は数千W/(m²·K)と大きく、鋳物が縮んで隙間が開くと数百W/(m²·K)まで下がる。シミュレーションでは、この界面熱伝達を時間や温度、隙間の大きさの関数として与えることが結果を最も左右する。金型の場合は、実測の冷却曲線と合わせて界面熱伝達を同定するのが確実だ。
実務での進め方
- 合金の液相線・固相線・潜熱・固相率曲線と、型の熱物性を温度の関数として用意する。
- Chvorinovの式で主要部位の凝固時間を見積もり、解析結果の桁を確かめる基準にする。
- 充填解析の結果を初期温度にして凝固解析を行う。
- 最終凝固位置と孤立した液相、温度勾配を確かめ、押湯・冷やし金を調整する。
- 熱電対で測った冷却曲線と比べ、界面熱伝達や型の物性を合わせ込む。
「冷却曲線の平らな部分」
鋳物に熱電対を入れて温度を測ると、融点付近で温度がほとんど下がらない平らな部分が現れる。潜熱が出ている間の現象で、この長さがその場所の凝固時間にほぼ対応する。シミュレーションの冷却曲線をこれと重ね、平らな部分の長さと高さが合うかを見ると、潜熱と固相率曲線、界面熱伝達が適切かをまとめて確かめられる。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 潜熱を入れ忘れる | 凝固が極端に速い | エンタルピーで確認 |
| 砂型の定数を金型に流用 | 凝固時間が大きく外れる | 界面熱伝達で扱う |
| 界面熱伝達を一定 | 隙間の影響を無視 | 時間・温度の関数 |
| 固相率曲線を直線で近似 | 最終凝固の位置がずれる | 合金の曲線を使う |
| 充填を省いて一様な初期温度 | 凝固順序が誤る | 充填結果から開始 |
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よくある質問
鋳造の凝固解析では何を解いていますか?
溶湯と型の熱伝導の方程式に、凝固の潜熱の放出を加えたものです。固液共存域では固相率に応じて潜熱を出すので、エンタルピー法や見かけの比熱法で扱います。型と鋳物の界面の熱伝達、型の外面からの放熱を境界条件として与え、各点がいつ固まるか(凝固の順序と時間)と温度勾配を求めます。
凝固時間はどう見積もりますか?
Chvorinovの法則で、凝固時間はモジュラス(体積÷冷却面積)の2乗に比例します。比例定数Bは、熱の流れを型が支配する砂型なら、型の熱伝導率・密度・比熱と金属の潜熱・融点から計算できます。けい砂では鋼で約1.11 s/mm²、アルミ合金で約1.57 s/mm²で、厚さ50 mmの板は鋼で約12分、アルミで約16分です。
融点の低いアルミのほうが固まるのに時間がかかるのはなぜですか?
砂型では熱の逃げる速さを型が決めるからです。アルミは融点が低く型との温度差が小さいので、型が熱を吸い取る勢いが弱く、体積あたりの潜熱も考えると、鋼より長くかかります。金型鋳造のように型が熱をよく通す場合は事情が変わり、界面の熱伝達が凝固時間を支配するようになります。
参考資料・検算の位置づけ
掲載値は本文の仮定に基づく教育用の参考計算。資料は理論・設定の参照先であり、本記事の数値を各ソフトで再現した証明ではない。設計・製造の判断には対象条件での検証が必要。
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