インベストメント鋳造シミュレーション
理論:凝固の順序を設計する
概要
インベストメント鋳造は、普通の砂型鋳造と解析で何が違うのですか?
型が違う。インベストメント鋳造では、ろう(ワックス)で作った模型にセラミックのスラリーと砂を何層も塗り重ねて殻(シェル)を作り、ろうを溶かし出してから焼成する。殻は厚さ数mm〜10 mm程度と薄く、注湯の直前まで数百〜千度以上に予熱されることが多い。そのため溶湯は冷えにくく、薄い肉厚まで湯が回る一方、凝固はゆっくり進み、どこが最後に固まるかが形状でほぼ決まる。解析では、殻の熱物性と厚さ、予熱温度、そして炉から出した殻の外面からの放射を正しく与えることが、砂型以上に結果を左右する。タービン翼のような単結晶や一方向凝固品では、炉から殻を引き抜く速度まで含めて温度勾配を制御する。
Chvorinovの法則と押湯
t_s は凝固時間、V は体積、A は冷却に寄与する表面積、M はモジュラス、B は型と合金で決まる定数。押湯(溶湯を補給する部分)は製品より遅く固まる必要があり、モジュラスを1.2倍以上にするのが目安。
収縮代
s_w はろうの線収縮率、s_m は合金の線収縮率。ろう型の金型は両方を見込んで大きく作る。
5000年前からの技術
ろうで形を作り、粘土で包んで焼き、ろうを溶かし出して金属を流す方法は、紀元前3000年ごろのメソポタミアやインダス文明の青銅器にすでに見られる。20世紀に入ると歯科用の金冠に使われ、第二次世界大戦ではジェットエンジンのタービン翼を量産する方法として一気に工業化した。今日の単結晶タービン翼は、この古い方法に凝固制御とシミュレーションを組み合わせて作られている。
計算例
例1:薄肉部とブロックの凝固時間、押湯の大きさ
| 部位 | モジュラス | 凝固時間(薄肉部比) | 必要な押湯(H = 1.5D) |
|---|---|---|---|
| 厚さ3 mmの薄肉部 | 1.50 mm | 1 | — |
| 20×20×30 mmのブロック(全面冷却) | 3.75 mm | 6.25 | 直径24 mm以上 |
| 同上、20×30 mmの1面が薄肉部とつながる | 4.62 mm | 9.5 | 直径29.5 mm以上 |
つながった面からは熱が逃げないので、ブロックのモジュラスは3.75 mmから4.62 mmに上がり、凝固時間はさらに1.5倍になる。厚い部分が薄い部分を挟んで孤立すると、補給が途切れて引け巣ができる。
押湯の大きさは計算で決まりました。それでもシミュレーションをする意味はありますか?
ある。モジュラスの計算は「各部位が独立に冷える」という前提に立っているが、実際の製品では薄肉部とブロックが熱をやり取りし、殻の厚さも場所によって違い、隣り合う製品どうしの放射で冷えにくい面もできる。シミュレーションでは、固相率の分布を時間ごとに追い、液相のまま周囲を固相に囲まれた孤立領域(ホットスポット)ができていないかを確かめる。さらにNiyama基準のような温度勾配と冷却速度による指標で、微細な引け巣の出やすさを評価する。手計算は押湯の初期寸法と位置を決める道具、シミュレーションはその案が本当に補給できるかを確かめる道具、と使い分けるのがよい。
例2:ろう型の金型寸法
| 製品寸法 | ろう収縮 | 合金収縮 | 金型寸法 |
|---|---|---|---|
| 100 mm | 1.0% | 2.0% | 103.07 mm |
収縮率は仮定の値。2つの収縮を単純に足すと103.00 mmになり、0.07 mmの差が出る。精密鋳造の公差は±0.1 mm台のこともあるので、掛け算で扱う。実際の収縮は、殻や中子に拘束される方向で小さくなるため、方向ごとに補正値を持つのが普通だ。
実務での進め方
- 製品とツリー(湯道・押湯)の形状を作り、モジュラスで押湯の初期案を決める。
- 殻の厚さ・熱物性・予熱温度、注湯温度と注湯時間を設定する。
- 充填解析で湯回り不良と巻き込みを確かめる。
- 凝固解析で孤立した液相とNiyama指標を見て、押湯と湯道を修正する。
- 試作品のX線検査や切断面と比べ、殻と界面の熱伝達の値を調整する。
「炉から出して注ぐまでの30秒」
予熱した殻を炉から出して注湯するまでの数十秒で、薄い殻の外面は放射でみるみる冷える。解析で殻を予熱温度のまま一様に与えると、薄肉の先端で湯回り不良が出ないのに、現場では出る、という食い違いが起きやすい。殻を炉から出した時刻から冷却を計算に含めるだけで、湯回り不良の位置が試作と合うようになることは珍しくない。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 殻を一様な予熱温度で与える | 湯回り不良を見逃す | 出炉後の放射冷却を含める |
| ツリー全体を解かない | 隣接部品の放射を無視 | ツリーごと解析 |
| 収縮率を足し算 | 寸法がずれる | 掛け算と方向別の補正 |
| モジュラスだけで押湯を決定 | 孤立した液相を見逃す | 凝固解析で確認 |
| 界面熱伝達を一定値 | 凝固時間の誤差 | 隙間の発生を考慮 |
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