鋳造凝固シミュレーション
理論:どこが最後に固まるか
概要
アルミ鋳物の厚い部分に引け巣(内部の空洞)が出ます。凝固シミュレーションで何がわかるんですか?
金属は固まるときに数%縮む。まわりがまだ液体なら、その液体が流れ込んで縮みを埋めてくれるけど、まわりが先に固まって閉じ込められた液体が最後に固まると、埋める液体がなくて空洞が残る。これが引け巣だ。凝固シミュレーションの一番の目的は、どこが最後に固まるか、そしてそこへ溶けた金属を補う道(押し湯からの通り道)が最後まで開いているかを確かめることなんだ。まずは簡単な式で、形ごとの固まる時間の見当をつけよう。
Chvorinovの式
$V/A$ は体積÷鋳型に接する表面積で、モジュラスと呼ぶ。鋳物がためている熱は体積に比例し、鋳型へ逃げる速さは表面積に比例するので、この比で凝固時間が決まる。形が違っても、モジュラスが同じなら固まる時間はほぼ同じになる。
定数Bを物性から求める
砂型は熱を通しにくく、熱の吸収(鋳型の熱伝導率・密度・比熱の積)が凝固の速さを決める。$\rho_m$ は溶湯の密度、$L'$ は潜熱に注湯の過熱分の熱を加えた値、$T_m$ は融点、$T_0$ は鋳型の初期温度。金型では金属と型の間の熱抵抗が支配的になり、この式は使えない。
1940年の経験則が今も最初の見積もりに
チェコのChvorinovは1940年、多くの鋳物の凝固時間を測り、体積と表面積の比の2乗に比例するという規則をまとめた。コンピュータのない時代、鋳造の技術者はこの規則と経験で押し湯の大きさや位置を決めていた。その後、有限要素法や有限差分法で温度を細かく計算できるようになり、流動と凝固を連成させて湯の回りや引け巣を予測する専用のソフトが1980年代から実用化された。それでも、形の案を比べる最初の段階では、今もモジュラスの計算が使われている。
計算例
例1:金属ごとの定数
珪砂の鋳型(熱伝導率0.52 W/(m·K)、密度1,600 kg/m³、比熱1,170 J/(kg·K))、鋳型の初期温度25 ℃、過熱50 Kとして計算した。
| 金属 | 定数 B |
|---|---|
| アルミ | 3.9 min/cm² |
| 鋳鉄 | 3.7 min/cm² |
| 鋼 | 2.9 min/cm² |
例2:形とモジュラスと凝固時間
| 形 | 体積 | モジュラス | アルミ | 鋼 |
|---|---|---|---|---|
| 立方体 1辺50 mm | 125 cm³ | 8.3 mm | 2.7分 | 2.0分 |
| 板 200×200×20 mm | 800 cm³ | 8.3 mm | 2.7分 | 2.0分 |
| 立方体 1辺100 mm | 1,000 cm³ | 16.7 mm | 10.7分 | 8.1分 |
| 円柱 直径100・高さ100 mm | 785 cm³ | 16.7 mm | 10.7分 | 8.1分 |
板は立方体より6倍以上重いのに、同じ時間で固まるんですね。
そう、薄くて広い板は熱を逃がす面が広いからね。逆に言うと、鋳物の中で『モジュラスが大きい場所』=厚くて表面の少ない場所が最後に固まる。板と太いボスがつながった形なら、ボスのほうが遅く固まって、そこに引け巣ができやすい。モジュラスを部分ごとに計算すれば、シミュレーションの前でも危ない場所の見当がつく。モジュラスが2倍になると凝固時間は4倍になるから、差ははっきり出るよ。
例3:押し湯の大きさ
押し湯は鋳物より後に固まる必要があるので、モジュラスを鋳物の1.2倍程度にする(凝固時間は約1.44倍)。直径と高さが同じ円柱の押し湯のモジュラスは直径の1/6なので、1辺100 mmの立方体(16.7 mm)には直径・高さ120 mm、板(8.3 mm)には直径・高さ60 mmの押し湯が目安になる。押し湯は鋳物の縮む量を補えるだけの体積も必要で、両方の条件を満たす大きさにする。
解析の進め方
手順
- 部分ごとのモジュラスを計算し、最後に固まる場所と押し湯の位置の案を決める。
- 湯の流れ(充填)の解析で、湯が冷えて回らない場所や巻き込みがないか確かめる。
- 凝固の解析で温度の履歴を求め、固相率の分布から孤立した液相(ホットスポット)を探す。
- Niyama基準などの指標で引け巣の出やすさを評価し、押し湯・冷やし金の配置を見直す。
注意点
- 界面の熱抵抗:金型や冷やし金では、金属と型の間のすき間の熱抵抗が結果を大きく左右する。凝固収縮ですき間が開くと熱抵抗は時間とともに増える。
- 合金の凝固範囲:合金は温度幅をもって固まり、マッシーゾーンの広い合金ほど引け巣が分散しやすい。
- 潜熱の扱い:時間刻みが大きいと潜熱を取りこぼす。
「押し湯を大きくしても引け巣が消えない」
引け巣を消すために押し湯を大きくしたのに、同じ場所に空洞が残る——押し湯と引け巣の場所の間に、先に固まる薄い部分があって、溶湯の通り道がふさがれていることが多い。押し湯が大きくても、途中で道が閉じれば補えない。凝固の解析で『押し湯から問題の場所まで、液体の道が最後までつながっているか』を時間を追って確かめ、途中の薄い部分を厚くする(パディング)か、押し湯の位置を変える。押し湯の大きさだけでなく、補う道の順番が大事なんだ。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 押し湯の大きさだけで判断 | 補う道が途中で閉じる | 液相の連結を時間で確認 |
| 金型にChvorinovの定数を流用 | 凝固時間を誤る | 界面熱抵抗を入れる |
| 全体の凝固時間だけ見る | ホットスポットを見落とす | 部分ごとのモジュラス |
| 充填を無視して凝固だけ解析 | 初期温度分布を誤る | 充填と凝固を連成 |
| 合金の凝固範囲を無視 | 引け巣の形態を誤る | 固相率曲線を使う |
凝固時間や押し湯の計算を自分でも試したいです。
関連トピック
なった
詳しく
報告