スポット溶接シミュレーション
理論:電流が熱になり、熱が形を変える
概要
スポット溶接は電気を流すだけなのに、どうしてシミュレーションが難しいのですか?
電気・熱・変形が互いに影響し合い、しかも0.1秒程度の間に大きく変わるからだ。2枚の鋼板を銅合金の電極で挟んで加圧し、数kA〜十数kAの電流を流すと、抵抗の大きい板と板の接触面から発熱が始まる。温度が上がると鋼の電気抵抗は数倍に増えて発熱がさらに集中し、柔らかくなった板が電極に押されて接触面積が広がると、電流の通り道と電流密度が変わる。電極は水で冷やされているので、熱の大半は電極へ逃げる。溶けた部分(ナゲット)が大きくなりすぎると、溶けた金属が隙間から飛び散る「散り」が起きる。シミュレーションでは、電場・温度・変形の3つの解析を時間刻みごとにやり取りしながら解き、最も影響の大きい接触抵抗を温度と圧力の関数として与える。
熱の収支
I は電流、R は電極間の抵抗(動的抵抗)、t_w は通電時間、ρ・c・L は密度・比熱・融解潜熱、T_m は融点、V_n はナゲットの体積、t は板厚(mm)、d_n はナゲット径(mm)。
1台の車に数千点
抵抗溶接は1886年にアメリカのエリフ・トムソンが発明した。今日の乗用車のボディには数千点のスポット溶接があり、ロボットが1点を1秒足らずで打っていく。高張力鋼板や亜鉛めっき鋼板、アルミニウムとの組み合わせが増えるにつれて、適正な条件の範囲は狭くなり、試し打ちだけで条件を決めるのが難しくなった。それがスポット溶接のシミュレーションが広く使われるようになった理由の一つだ。
計算例
例1:板厚1.0 mmの鋼板2枚の熱収支(電極間抵抗100 µΩ、通電0.2秒と仮定)
| 電流 | 発熱量 |
|---|---|
| 8 kA | 1,280 J |
| 10 kA | 2,000 J |
| 12 kA | 2,880 J |
直径5 mm(5√t)、厚さ1.4 mm(板厚合計の70%)の円板としたナゲットの体積は27.5 mm³。鋼を融点まで加熱して溶かすのに必要なエネルギーは1 mm³あたり9.6 Jなので、ナゲットに必要なのは約264 J。10 kAで発生する2,000 Jのうち13%にすぎない。
発生した熱の13%しかナゲットに使われないなら、残りの87%はどこへ行くのですか? シミュレーションで気にする必要はありますか?
大いにある。残りの熱の多くは、水で冷やされた銅合金の電極へ逃げ、一部はナゲットの周りの板を温める。つまりナゲットの大きさは、発熱と電極への熱の逃げの差で決まり、電極の冷却条件や電極先端の形(先端径が摩耗で広がると電流密度が下がる)で大きく変わる。シミュレーションで電極を一定温度の境界として扱うと、熱の逃げを過大に見積もってナゲットが小さく出やすい。電極を冷却水路まで含めてモデル化し、電極と板の接触の熱抵抗も与えるのがよい。この例の電流密度は電極先端径6 mmで約354 A/mm²で、電極先端径が摩耗で7 mmに広がると約26%下がり、同じ条件でもナゲットが小さくなる。
実務での進め方
- 板と電極の2次元軸対称モデルを作り、加圧(スクイズ)→通電→保持の工程を時間で分ける。
- 電気抵抗率・熱伝導率・比熱・強さを温度の関数として、接触抵抗を温度と圧力の関数として与える。
- 加圧解析で接触面の圧力分布を求めてから、電場-温度-変形を連成して通電する。
- ナゲット径と動的抵抗の時間変化を、断面観察や溶接機の記録と比べる。
- 電流と通電時間を変えて、ナゲット不足と散りの間の範囲(ウェルドローブ)を求める。
「動的抵抗の山が教えること」
溶接機で電極間の電圧と電流を記録すると、抵抗は通電直後に下がり、いったん上がって山を作り、その後ゆっくり下がる。最初の低下は接触面のなじみ、山は温度上昇による抵抗率の増加、その後の低下はナゲットの成長と電極の食い込みによる通電面積の拡大に対応する。シミュレーションでこの形が再現できれば、接触抵抗と材料データの与え方がおおむね正しいと判断できる。散りが起きると抵抗が急に落ちるので、散りの検出にも使われる。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 接触抵抗を一定値 | 発熱の位置と量がずれる | 温度・圧力の関数 |
| 電極を一定温度 | ナゲットを過小評価 | 冷却水路までモデル化 |
| 加圧を省略 | 接触面積が不正確 | 加圧解析を先に |
| 電極先端の摩耗を無視 | 量産中のナゲット縮小を見逃す | 先端径を変えて評価 |
| めっき層を無視 | 必要電流を過小評価 | めっきの接触抵抗を考慮 |
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