溶接残留応力解析

カテゴリ: 製造プロセスシミュレーション | 2026-10-02 改稿
CAE visualization for welding residual theory - technical simulation diagram
溶接残留応力解析

理論:残留応力が生まれる仕組み

概要

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溶接すると、外から力をかけていないのに残留応力が残るのはなぜですか?

🎓

局所的に熱して、局所的に冷やすからだ。溶接部は千数百℃に加熱されて膨張しようとするが、周りの冷たい部分がそれを押さえるので、高温で強度の落ちた溶接部は圧縮されて縮む方向に塑性変形する。冷えるときは今度は元より短くなろうとするが、周りに引き止められて引張の応力が残る。こうして溶接線の方向には降伏応力に近い引張、その外側にはつり合いをとる圧縮の残留応力ができる。この応力は疲労強度や応力腐食割れを悪くし、変形(ひずみ)として形状の狂いにも現れる。解析では、移動する熱源で温度の履歴を求め、その温度変化による熱ひずみを、温度で変わるヤング率・降伏応力・膨張係数を使った弾塑性解析で解く。

冷却時間 t8/5(Rosenthalの式)

$$ t_{8/5}^{\text{thick}} = \frac{q/v}{2\pi k}\left(\frac{1}{500-T_0} - \frac{1}{800-T_0}\right),\qquad t_{8/5}^{\text{thin}} = \frac{(q/v)^2}{4\pi k \rho c\, d^2}\left(\frac{1}{(500-T_0)^2} - \frac{1}{(800-T_0)^2}\right) $$

q/v は単位長さあたりの正味入熱、k は熱伝導率、ρc は体積熱容量、d は板厚、T₀ は予熱温度。熱が3次元に広がる厚板と、板厚方向に一様な薄板で式が違い、両者が一致する板厚より薄ければ薄板の式を使う。

拘束による降伏

$$ \Delta T_{y} = \frac{\sigma_y}{E\,\alpha} $$

完全に拘束された材料が降伏に達する温度変化。σ_y は降伏応力、E はヤング率、α は線膨張係数。

Coffee Break よもやま話

溶接船が割れた冬

第二次世界大戦中にアメリカで大量に建造された溶接構造の輸送船リバティ船では、冬の北大西洋などで船体が割れる事故が相次ぎ、停泊中に真っ二つになった例もある。原因は、低温で脆くなる鋼、応力が集中するハッチの角の形、そして溶接による引張の残留応力が重なったことだった。この経験から、鋼の靭性の規格、溶接部の設計、残留応力の評価と除去(応力除去焼なまし)が工学の重要な課題になった。

計算例

例1:入熱800 J/mmのアーク溶接の冷却時間

25 V・200 A・溶接速度5 mm/s・アーク効率0.8で、正味入熱は800 J/mm。鋼の熱伝導率30 W/(m·K)、体積熱容量4.8 MJ/(m³·K)。厚板と薄板の式が一致する板厚は16.7 mm。

板厚使う式t8/5(予熱なし)t8/5(予熱150℃)
6 mm薄板26.5 秒56.9 秒
10 mm薄板9.5 秒20.5 秒
17 mm以上厚板3.4 秒5.6 秒

厚い板ほど熱が逃げやすく急に冷えるため、硬いマルテンサイトができて割れやすい。予熱は冷却を遅らせる対策で、厚板では3.4秒が5.6秒に延びる。FEMで求めた温度履歴の t8/5 をこの値と比べると、熱源のモデルと材料定数の確かめになる。

例2:拘束された鋼が降伏する温度変化

降伏応力降伏までの温度変化
250 MPa99 K
355 MPa141 K

ヤング率210 GPa、線膨張係数12×10⁻⁶/Kとして計算。溶接では1,000 K以上の温度変化があるので、溶接線近くは加熱中も冷却中も必ず降伏する。だから残留応力の大きさは、材料の降伏応力(とその温度依存)で決まる。

🙋

熱弾塑性FEMで計算したら、溶接線の残留応力が降伏応力の2倍になりました。どこがおかしいのでしょうか?

🎓

材料モデルと溶けた部分の扱いを確かめよう。よくある原因は3つある。1つ目は、高温での降伏応力を小さくしていないこと。鋼の降伏応力は600℃を超えると急に下がり、溶融温度近くではほぼゼロになるので、温度依存のデータが必要だ。2つ目は、溶けて固まった部分の塑性ひずみの履歴をリセットしていないこと。一度溶けた金属はそれまでの変形を忘れるので、融点を超えた時点で塑性ひずみをゼロに戻す(アニーリング)設定を入れる。3つ目は硬化則で、加熱と冷却で荷重の向きが逆になるため、等方硬化だけだと硬化が積み上がって応力を過大に出すことがある。移動硬化や混合硬化を使い、冷却後の応力がその温度の降伏応力程度に収まるかを確かめる。

実務での進め方

  1. 温度依存の材料特性(熱伝導率・比熱・ヤング率・降伏応力・膨張係数)を、溶融温度近くまで用意する。
  2. 移動熱源(Goldakの二重楕円体など)を、溶け込み形状のマクロ写真に合わせて調整する。
  3. 温度解析を行い、t8/5 と最高温度分布をRosenthalの式や測定と比べる。
  4. 温度を荷重にして熱弾塑性解析を行い、溶融部の履歴リセットと硬化則を設定する。
  5. X線回折や穿孔法で測った残留応力、変形量と比べる。
Coffee Break よもやま話

「多層溶接は1パスずつ」

厚板の多層溶接では、後のパスの熱が前のパスを焼き戻し、残留応力の分布を何度も書き換える。全パスを1回の熱源でまとめて与えると計算は速いが、表面と内部の応力の分布がまったく違うものになることがある。パスごとに溶着金属の要素を追加し、そのパスの熱だけを与える手順を踏むと、計算は重くなるが、測定と合う分布が得られやすい。パス数が多い場合は、近いパスをまとめる「ランプ」と呼ばれる簡略化を、測定との比較で妥当性を確かめながら使う。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
室温の材料定数だけ応力を過大評価溶融温度近くまでのデータ
溶融部の履歴を残す塑性ひずみが蓄積融点で履歴をリセット
熱源を調整しない溶け込みと温度がずれるマクロ写真に合わせる
等方硬化だけ繰返しで応力が膨らむ移動・混合硬化
拘束条件の過不足変形と応力が逆転治具を実際どおりに
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