ターボ機械のCHT解析
理論:ガスから冷却空気までの熱の通り道
概要
タービン翼の温度を予測するのに、なぜ流体と固体を一緒に解く必要があるんですか?
翼の金属は、外側を燃焼ガスに、内側を冷却空気にさらされている。金属の温度は、ガス側から入る熱、金属の中を通る熱、冷却空気が持ち去る熱のつり合いで決まる。流体だけを解く方法では、壁の温度か熱伝達係数を仮定するしかないが、実際にはそれ自体が金属の温度で変わる。しかも翼の寿命は金属温度に非常に敏感なので、数十Kの誤差は許されない。だから流体と固体を一つの計算で同時に解く共役熱伝達(CHT)が使われる。まず1次元の熱抵抗で、どこにどれだけの温度差がつくかを見てみよう。
熱抵抗の直列モデル
h_g、h_c はガス側と冷却側の熱伝達係数、t と k は遮熱コーティング(TBC)と金属の厚さと熱伝導率、T_m はガス側の金属表面温度、φ は冷却効率。計算条件:燃焼ガス1,700 K、冷却空気800 K、h_g 3,000 W/m²K、h_c 2,000 W/m²K、金属(ニッケル基超合金)1.5 mm・25 W/mK、TBC 0.3 mm・1.0 W/mK。
融点を超えるガスの中で働く翼
ガスタービンの効率は、タービン入口のガス温度を上げるほど高くなる。そのため現代の大型ガスタービンでは、入口温度がニッケル基超合金の融点(約1,600 K前後)を上回ることも珍しくない。翼が溶けないのは、内部の冷却通路、表面から冷却空気を吹き出すフィルム冷却、セラミックスの遮熱コーティングを組み合わせているからだ。こうした冷却設計の評価に、1990年代以降、流体と固体を一体で解くCHT解析が使われるようになった。
計算例
例1:遮熱コーティングの有無
| 項目 | TBCなし | TBCあり |
|---|---|---|
| 熱流束 | 1,007 kW/m² | 754 kW/m² |
| ガスに接する表面 | 1,364 K | 1,449 K |
| 金属のガス側表面 | 1,364 K | 1,222 K |
| 金属の冷却側表面 | 1,304 K | 1,177 K |
| TBC内の温度差 | — | 226 K |
| 金属内の温度差 | 60 K | 45 K |
| 冷却効率 φ | 0.37 | 0.53 |
例2:熱伝達係数の誤差と金属温度(TBCあり)
| ガス側 h_g | 冷却側 1,600 | 冷却側 2,000 | 冷却側 2,400 |
|---|---|---|---|
| 2,400 | 1,240 K | 1,195 K | 1,159 K |
| 3,000 | 1,268 K | 1,222 K | 1,186 K |
| 3,600 | 1,288 K | 1,243 K | 1,207 K |
単位は W/m²K。表の値は金属のガス側表面温度。基準(3,000・2,000)から各±20%で、ガス側は−27〜+21 K、冷却側は+46〜−36 K変わる。
例3:壁温を固定した計算との比較
TBCの表面温度を1,400 Kと仮定してガス側だけを解くと、熱流束は 3,000 × (1,700 − 1,400) = 900 kW/m²。連成解では表面は1,449 Kで、熱流束は754 kW/m²。仮定した壁温が49 K低いだけで、熱流束を19%大きく見積もった。
冷却側の熱伝達係数のほうが、金属温度に効いているんですね。
この条件では、熱抵抗のうち冷却側(5.0×10⁻⁴)がガス側(3.3×10⁻⁴)より大きいので、冷却側の誤差が効きやすい。内部の冷却通路には乱流促進のリブやピンがあり、熱伝達係数の予測は外側に劣らず難しい。だからガス側だけを精密に解いても、冷却側を相関式で済ませると、金属温度の誤差は残る。CHTでは冷却通路の流れも同時に解くので、両側の分布と金属の中の熱の回り込みが自動的に入る。一方で、乱流モデルの選び方で熱伝達係数が2〜3割変わることもあるので、実験データでの検証が欠かせない。
CHT解析の進め方
- 1次元の熱抵抗で、どの層に温度差がつくかを先に把握する。
- ガス側と冷却側の流れ、金属・TBCの固体を一つのモデルにする。
- 壁近くの格子は y⁺ ≈ 1 とし、熱伝達を壁関数に頼らない。
- 固体の熱伝導率は温度の関数で与える。
- 翼の表面温度の実測(熱電対・感温塗料など)と比べて検証する。
「平均温度は合っていたのに」
あるタービン翼で、運転後の検査で前縁近くの一部だけが酸化して傷んでいた。設計では、流体解析で得た平均的な熱伝達係数を構造の熱解析に渡しており、翼の平均温度は実測と合っていた。CHTで計算し直すと、前縁の内側の冷却通路の曲がりで流れがはく離し、その付近だけ冷却側の熱伝達係数が大きく下がって、金属温度が周りより約40 K高くなっていた。平均値を渡す方法では、このような局所の高温を見落とす。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 壁温を仮定して流体だけ解く | 熱流束を誤る | CHTで連成 |
| 平均の熱伝達係数を渡す | 局所の高温を見逃す | 分布のまま連成 |
| 壁関数で熱伝達 | 熱伝達係数の誤差大 | y⁺ ≈ 1 |
| TBCを省略 | 金属温度を高く見積もる | 薄い層として入れる |
| 冷却側を相関式で済ませる | 金属温度の誤差が残る | 冷却通路も解く |
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