遮熱コーティング(TBC)の熱応力

カテゴリ: 連成解析・熱構造 | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for thermal barrier coating theory - technical simulation diagram
遮熱コーティング(TBC)解析

理論:薄い膜の熱膨張差

概要

🙋

遮熱コーティングは熱を遮るのが役目ですよね。構造の面では何が問題になるんですか?

🎓

はがれることだ。TBCは何層もの材料が重なっていて、それぞれ熱膨張係数が違う。エンジンを止めて冷えるたびに、金属がセラミックより大きく縮んで、薄い膜を押し縮める。運転中は膜の中に大きな温度差もある。さらにボンドコートの表面では酸化膜が少しずつ育ち、その膜が大きな圧縮応力を抱えて、界面をはがそうとする。熱応力とそこにたまるひずみエネルギーを、層ごとに計算してみよう。

熱膨張差による応力とひずみエネルギー

$$ \sigma_f = \frac{E_f\,(\alpha_s - \alpha_f)\,\Delta T}{1 - \nu_f},\qquad U = \frac{\sigma_f^2\,h\,(1-\nu_f)}{E_f} $$

厚い基材の上の薄い膜が、面内の2方向に同じように拘束される場合。$U$ は膜の単位面積あたりにたまる弾性エネルギーで、膜の厚さ $h$ に比例する。これが界面のはく離に対する抵抗(界面の破壊じん性)を超えると、膜ははがれうる。

運転中の温度差による応力

$$ \sigma_{grad} = \pm\frac{E_f\,\alpha_f\,\Delta T_{grad}}{2(1-\nu_f)} $$
Coffee Break よもやま話

柱状組織の発明

初期の遮熱コーティングは、熱サイクルを繰り返すとすぐにはがれてしまうことが大きな課題だった。1970〜80年代、プラズマ溶射で作る膜にわざと微細な割れやすき間を残す方法や、電子ビームで蒸着して柱を並べたような組織を作る方法が開発された。柱と柱の間が開いたり閉じたりすることで、金属との熱膨張差を受け流せる。熱を遮る性能と、はがれにくさの両立が、TBCの材料開発の中心になった。

計算例:1000 K冷えたときのTBC

超合金の熱膨張係数15×10⁻⁶/K。ジルコニア(YSZ)10.5×10⁻⁶/K・ポアソン比0.2、酸化膜(アルミナ)8×10⁻⁶/K・ヤング率380 GPa・ポアソン比0.25。

層ごとの応力

層ヤング率厚さ圧縮応力たまるひずみエネルギー
YSZ(多孔質、溶射)50 GPa300 µm281 MPa380 J/m²
YSZ(緻密)200 GPa300 µm1,125 MPa1,519 J/m²
酸化膜(アルミナ)380 GPa5 µm3,547 MPa124 J/m²

界面の破壊じん性を仮に100 J/m²とすると、それに達する膜厚は、多孔質YSZで79 µm、緻密なYSZで20 µm、酸化膜で4 µm。実際のTBCは、すき間や割れ目で面内のヤング率がさらに低く、高温でのクリープで応力もゆるむので、この単純な見積もりより長持ちする。

運転中の温度差

厚さ0.3 mmのTBCの中に217 Kの温度差がある場合(伝熱解析の結果)、曲がりを拘束された膜には±71 MPaの応力が加わる。表面側が圧縮、ボンドコート側が引張りになる。

🙋

厚さたった5 µmの酸化膜が、60倍厚い300 µmのセラミック層の3分の1ものエネルギーをためるんですね。

🎓

アルミナはヤング率が大きく、超合金との熱膨張差も大きいので、冷えると3.5 GPaという非常に大きな圧縮を受ける。エネルギーは応力の2乗に比例するので、薄くても大きなエネルギーをためる。しかも酸化膜は運転時間とともにゆっくり厚くなり、ためるエネルギーも増えていく。そしてそのエネルギーは、セラミック層とボンドコートの境目という、一番弱い界面に集中する。TBCの寿命が、多くの場合この酸化膜の成長で決まるのはこのためだ。寿命予測では、酸化膜の成長速度と、熱サイクルの回数を組み合わせて評価する。

解析のポイント

  1. 層ごとの熱膨張係数とヤング率を温度の関数で与える。
  2. 溶射膜は面内と厚さ方向で性質が違う(異方性)ことを考える。
  3. 高温でのクリープによる応力のゆるみと、冷えたときの応力の再発生を、サイクルで追う。
  4. 界面の凹凸の山と谷で応力が集中するので、局所モデルで評価する。
  5. 酸化膜の成長を時間の関数として入れる。
Coffee Break よもやま話

「試験炉では長持ちしたのに」

あるTBCは、一定温度に保つ炉の試験では長い寿命を示したが、実機の頻繁な起動停止では早くはがれた。一定温度では酸化膜がゆっくり育つだけだが、起動停止のたびに冷えて、酸化膜とセラミックに大きな圧縮が繰り返しかかり、界面の小さな割れが少しずつ進んだのだ。試験条件を実機の熱サイクルに合わせ、サイクル数と酸化膜の厚さの両方で寿命を評価するように改められた。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
緻密なセラミックの物性応力を過大評価溶射膜の実測値
酸化膜を省略はく離を見逃すTGOを層として入れる
等温試験だけで寿命実機で早期損傷熱サイクルで評価
界面を平らに仮定局所応力を見逃す凹凸をモデル化
クリープを無視冷却時応力を誤る粘弾性・クリープ
🙋

関連する内容も知りたいです。

🎓

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