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機械要素シミュレーター

玉軸受の接触応力シミュレーター — Hertz 接触と内輪・外輪応力

玉と内輪・外輪軌道のヘルツ接触応力をリアルタイム計算。Stribeck の荷重分布から1玉最大荷重を求め、凹面側の内輪と凸面側の外輪それぞれの最大接触圧を可視化します。

パラメータ設定
軸受全荷重 F_total
kN
玉直径 D_b
mm
玉数 Z
ピッチ円直径 D_p
mm

材料は軸受鋼(E*=115.4 GPa, ν=0.3)固定。接触角 α=0°(深溝玉軸受)、軌道溝による適合度は考慮しない簡略モデル。

計算結果
1玉最大荷重 F_max
内輪接触応力 p_max,i(凹面)
外輪接触応力 p_max,o(凸面)
接触半径 a(内輪・球-平面近似)
軸受断面と接触点

外輪・内輪・玉の断面図/赤丸=接触点(外輪は応力が高く赤、内輪はやや低く橙)/D_p=ピッチ円直径、D_b=玉直径

理論・主要公式

玉軸受では、半径方向の総荷重を全玉が均等に分担するわけではなく、Stribeck の解析から「最大荷重を受ける1玉」に応力が集中します。

1玉あたり最大荷重(α は接触角、深溝玉軸受で α=0):

$$F_\text{max} = \frac{5\,F_\text{radial}}{Z\,\cos\alpha}$$

内輪(凹面接触)と外輪(凸面接触)の等価曲率半径:

$$\frac{1}{R_{eq,i}} = \frac{1}{r_b} - \frac{1}{R_i},\qquad \frac{1}{R_{eq,o}} = \frac{1}{r_b} + \frac{1}{R_o}$$

球-平面型ヘルツ接触の最大接触圧(E* は等価弾性率):

$$p_\text{max} = \frac{1}{\pi}\left(\frac{6\,F_\text{max}\,E^{*2}}{R_{eq}^{\,2}}\right)^{1/3}$$

接触半径:

$$a = \left(\frac{3\,F_\text{max}\,R_{eq}}{4\,E^*}\right)^{1/3}$$

外輪側は等価曲率半径が小さいため接触面積が狭くなり、内輪側より高い接触応力が発生します。

玉軸受の接触応力シミュレーターとは

🙋
玉軸受って、玉が転がってるだけなのに、なんで接触する部分にそんなに高い応力がかかるんですか?
🎓
ざっくり言うと、玉と軌道が「点で」接しているからだ。曲率の違う2つの曲面が押し合うと、接触領域はほんの数百ミクロン四方の小さな楕円になる。そこに玉1個あたり数kNが集中するから、応力はあっという間にGPa オーダーに跳ね上がる。シミュレーターの既定値で「内輪接触応力」のカードを見てごらん。約5.9 GPa——鋼の降伏応力をはるかに超える値だよ。
🙋
え、降伏応力を超えてるんですか!?それで壊れないんですか?
🎓
面白いところで、ヘルツ接触のような3軸圧縮応力場では、降伏は単純な引張降伏応力ではなく「最大せん断応力」で起きるんだ。p_max が 5〜6 GPa でも、せん断応力はその約0.3倍——つまり1.5〜2 GPa 程度。これが軸受鋼の許容範囲に収まっていれば、塑性変形は起きない。だから軸受鋼は超高硬度で焼入れされている(HV 700前後)んだよ。
🙋
なるほど!それで「内輪」と「外輪」の応力が違うんですか?同じ玉が接してるのに。
🎓
そう、ここがこのツールの一番面白いところだ。玉と内輪は「凸面が凹面に入り込む」格好(玉が軌道の凹みに乗る)。玉と外輪は「凸面が凸面の外側を押す」格好。後者の方が等価曲率半径が小さくなるから、接触面積が狭く、応力が高くなる。シミュレーターで外輪側が約 8.6 GPa、内輪側が約 5.9 GPa——外輪の方が約1.45倍高い。実機の軸受寿命を決める「クリティカル接触」は外輪側なんだ。
🙋
玉数 Z を増やすと応力は下がりますか?
🎓
下がるけど、思ったほどじゃない。1玉荷重は Z に反比例して下がるが、ヘルツ応力は荷重の1/3乗でしか効かない。玉数を2倍にしても応力は約 $2^{-1/3}$ ≒ 0.79倍にしかならない。スライダーで Z=8→16 と倍にしてみると、内輪応力は 5.9 GPa から約 4.7 GPa——20%程度の減少だ。応力を本気で下げたいなら、玉径 D_b を大きくする方が効く。これは1玉荷重には影響しないが、接触面積を直接広げるからね。

よくある質問

本ツールは「球と軌道(円筒面)」の接触を扱い、楕円接触の長軸方向曲率のみを考慮した球-平面近似です。実機では玉軌道に「溝適合度」(溝の曲率半径÷玉半径、通常 0.52〜0.54)があり、これにより接触は楕円になります。実機の応力は本ツール値の60〜80%程度になることが多く、本ツールは安全側(厳しめ)の見積もりです。設計初期検討やトレンド把握には十分ですが、最終設計はメーカーの動定格荷重 C を使った L10 寿命計算と組み合わせて評価してください。
深溝玉軸受では α≈0° のため radial 荷重がほぼそのまま玉に伝わります。アンギュラ玉軸受や円すいころ軸受では接触角 α が15°〜40° あり、軸方向荷重(スラスト)も同時に支えられます。この場合、1玉最大荷重は F_max = 5·F_radial/(Z·cos α) で増加し、応力も高くなります。例えば α=30° のアンギュラ玉軸受では cos α≈0.866 で、同じ径方向荷重でも1玉荷重が約15%増えます。本ツールは深溝(α=0)固定ですが、アンギュラを評価したい場合は F_total に 1/cos α を掛けた等価荷重を入力する方法で近似できます。
高硬度軸受鋼(SUJ2、HRC58〜62)での目安は、永久変形を許容しない静的設計で約 4.2 GPa、転がり接触疲労(L10 寿命基準)で約 4.0 GPa、長寿命設計(L1 等)では 2.5〜3.0 GPa です。本ツールで既定値の 5.9 / 8.6 GPa が出るのは過負荷ケースで、玉径を倍に増やすか、玉数を増やすか、荷重を半減させる必要があります。風力発電のメインベアリングのように極端な高負荷下では一時的に 4 GPa を超える運転が許容される場合もありますが、その分寿命が短くなります。
玉径 D_b は3つの効果で応力を下げます。(1) 等価曲率半径 R_eq が直接 D_b に比例して大きくなり、接触面積が広がる。(2) 内輪半径 R_i = (D_p - D_b)/2 が小さくなり、凹面適合がやや増す。(3) 外輪半径 R_o = (D_p + D_b)/2 が大きくなり、凸面の鋭さが緩和される。スライダーで D_b を 12 mm → 18 mm に増やすと、外輪応力は約 8.6 GPa から約 6.5 GPa まで低下します。ただし軸受全体の寸法と玉数 Z にも影響するため、設計では D_b と Z のバランスが重要です。

実世界での応用

自動車のハブベアリング設計:自動車のホイールハブには高負荷を受けるアンギュラ玉軸受や円すいころ軸受が使われます。コーナリング時には径方向荷重に加えて横力(スラスト)が作用し、1玉あたりの最大接触応力は 3〜4 GPa に達します。この値を許容範囲内に収めるため、玉径・玉数・軌道形状を綿密に設計します。本ツールで荷重を 20 kN まで上げてみると、現実の自動車ハブが想定する応力域を体感できます。

風力発電機のメインシャフトベアリング:大型風力発電機のメインベアリングは直径数メートルの超大型玉軸受やころ軸受です。風荷重の変動と巨大なローター質量により、内輪接触応力が瞬間的に 3 GPa を超えることがあります。この応力レベルでの繰り返し荷重が転がり接触疲労(RCF)を引き起こし、軸受寿命を決定します。設計では本ツールのような簡易計算でトレンドを把握し、有限要素解析(FEA)と組み合わせて詳細評価します。

工作機械の主軸ベアリング:高速回転する工作機械の主軸では、接触応力に加えて遠心力による玉と外輪の追加接触圧が問題になります。10,000 rpm 超の主軸では遠心力による外輪接触応力が外部荷重と同等以上になる場合があり、運転条件全体を考慮した応力評価が必要です。本ツールの「外輪応力>内輪応力」という基本特性が、なぜ高速軸受で外輪疲労が支配的になるかを示しています。

ロボット関節の小型ベアリング:協働ロボットの関節に使われる小径クロスローラベアリング・薄肉アンギュラ玉軸受では、軽量化のため玉径と玉数が制限されます。一方でモーメント荷重が大きく、1玉最大荷重が定格容量の50%を超える設計も珍しくありません。本ツールで玉数 Z=5〜8、玉径 D_b=3〜6 mm の小型条件を試すと、いかにモーメント支持が応力的に厳しいかが分かります。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解は、「玉数 Z を増やせば、軸受荷重を玉数で均等割りした荷重で設計できる」と考えてしまうことです。実際の半径方向荷重では、すきまや弾性変形のために下半周の玉だけが荷重を分担し、しかも各玉の分担は不均等です。Stribeck の解析から、最も荷重を受ける玉の荷重は F_max = 5·F_radial/(Z·cos α) と、単純平均(F_radial/Z)の約5倍にも達します。本ツールで玉数スライダーを動かしても、応力は急激には下がらないことを実感できます。設計の出発点は「最大荷重を受ける1玉」での応力評価です。

次に多いのが、内輪と外輪の応力差を見落とすことです。「玉と軌道」とひとくくりに考えると、内外輪で応力が同じだと誤解しがちですが、実際には外輪の凸面接触の方が等価曲率半径が小さく、応力は20〜50%高くなります。本ツールでは外輪 p_max,o > 内輪 p_max,i が常に成立することを確認できます。寿命設計では、応力の高い外輪側でクリティカルな疲労が先に進行するため、外輪材料の品質や軌道仕上げ精度が重要視されます。逆に「内輪と外輪の応力差はピッチ円直径 D_p で大きく変わる」性質を利用し、D_p を最適化して両者の寿命をバランスさせる設計手法もあります。

最後に、このシミュレーターの結果を直接「軸受の寿命」と解釈する誤解に注意してください。応力 p_max は瞬間的な最大値であり、軸受寿命(L10 等)は p_max の9乗(玉軸受)に反比例する強烈な感度を持ちます。応力が2倍になれば寿命は 1/512 になります。逆に、応力を 4 GPa から 3 GPa に下げるだけで寿命は約 10 倍に延びます。本ツールで応力を計算したら、L10 寿命計算ツール(rolling-bearing シミュレーター)と組み合わせて、応力レベルが寿命要件を満たすかを必ず検証してください。応力単独では「設計の良し悪し」は判断できません。