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環境工学・グリーンインフラ

バイオリテンションセル 雨水設計シミュレーター

レインガーデンとも呼ばれるバイオリテンションセルを設計するツールです。集水面積・不透水率・設計降雨と、セル面積・滞水深・メディア仕様を変えると、流出捕捉率・排出時間・汚染物質除去率がリアルタイムで分かり、低影響開発(LID)に基づく雨水管理計画が立てられます。

パラメータ設定
集水面積
セルに流れ込む流域全体の面積
不透水率
%
駐車場・道路・屋根など雨水を浸透させない面積の割合
24時間設計降雨
mm
設計対象とする雨水イベントの総降水量
セル面積
バイオリテンションセル本体の上面積
滞水深
cm
表層に一時貯留できる最大水深
メディア透水速度
mm/h
メディア層を通って下方に抜ける速度
メディア厚
cm
植栽土壌メディア層の鉛直方向厚さ
底部に有孔管を入れ、排水管へ接続する
計算結果
設計流出量 (m³)
総貯留容量 (m³)
流出捕捉率 (%)
排出時間 (h)
サイズ比 (%)
TSS 除去率 (%)
バイオリテンションセル断面 — 雨水フロー

不透水面から集まった雨水(青)がセル表層に流入し、植栽・メディア層で濾過されてアンダードレインから処理水(緑)として排出されます。滞水位はパラメータに応じて変動します。

水収支 — 設計流出量 vs 貯留容量 vs 余剰
排出時間 vs メディア透水速度
理論・主要公式

$$V_{storage} = V_{ponding} + V_{media}\,\phi,\qquad t_{drawdown} = \frac{V_{storage}}{i_{media}\cdot A}$$

φ=メディア有効間隙率(約0.30)、i_media=メディア透水速度(mm/h)、A=セル面積。表層滞水とメディア間隙の合計が貯留容量。排出時間は24〜48時間以内が設計指針です。

$$V_{runoff} = A_{catch}\cdot P\cdot C,\qquad C = f_{imp}\cdot 0.95 + (1-f_{imp})\cdot 0.15$$

設計流出量 V_runoff(m³)は集水面積 A_catch、降雨量 P(m)、流出係数 C の積。C は不透水率 f_imp による加重平均で、舗装0.95・緑地0.15の代表値を使います。

$$\eta_{TSS} = \min(95,\ 60 + 30\cdot r_{capture}),\qquad r_{capture} = \min\!\left(1,\ \frac{V_{storage}}{V_{runoff}}\right)$$

TSS 除去効率 η_TSS は流出捕捉率 r_capture の関数。捕捉できなかった分(バイパス)は無処理で放流されるため、捕捉率を高めることが除去率向上に直結します。

バイオリテンションセル — 雨水管理とグリーンインフラ設計

🙋
「バイオリテンションセル」って、街なかでよく見る草花の植わった凹んだ花壇みたいなやつですよね?あれって、雨が降るとどんな働きをしてるんですか?
🎓
そう、駐車場の隅やショッピングセンターの植栽帯でよく見るやつだね。一見ただの花壇に見えるけど、中身は土壌をかなり工夫した「天然のろ過装置+一時貯留タンク」なんだ。雨が降ると、駐車場や屋根から流れてきた汚れた雨水がまず表層の凹みに溜まる(これが滞水)。それからゆっくり植栽土壌メディアを下に浸透し、植物の根とメディアでろ過される。底のアンダードレイン管から処理水として排水管に抜けるか、地下水を涵養する仕組み。アメリカではEPAやポートランド市が1990年代から推進していて、いまや低影響開発(LID)の代表選手だよ。
🙋
ただの貯水池とは何が違うんですか?地下にコンクリートタンクを埋めて溜めればよさそうに思うんですが。
🎓
いい質問。コンクリートタンクは「量を溜める」だけで、水質は良くならないんだ。バイオリテンションセルが優れているのは、ピーク流出抑制と水質浄化を同時にこなす点。例えば駐車場の雨水にはタイヤ屑、重金属(亜鉛・銅)、油分、窒素・リンが含まれるけど、TSS(浮遊物質)は80〜95%、亜鉛は70〜90%、窒素も30〜50%除去できる。加えて植物が蒸散して都市熱島も和らげる。「グレーインフラ」(コンクリート水路)から「グリーンインフラ」への転換が世界的に進んでいる理由だよ。
🙋
なるほど!じゃあ大きく作ればいいんですよね?右の「サイズ比」を上げると捕捉率がどんどん上がっていきます。でも実際は土地が限られていますよね…。
🎓
まさにそこが設計の悩みどころ。実務の目安は集水面積の5〜10%。10%を超えると土地効率が悪く、5%を切ると75mm級の降雨で溢れる。さらにややこしいのが「排出時間」。透水の遅いメディアにすると貯留しても抜けず、24〜48時間ルールを超えてしまう。植物が水没で枯れたり、蚊の発生源になったりする。本ツールで排出時間が72hを超えるとNG判定にしているのはこのため。メディア配合は砂50〜70%・コンポスト20〜30%・表土10〜20%で透水速度50〜100mm/hを狙うのが定石だよ。
🙋
アンダードレインを入れるか入れないかも選べますね。これってどう判断するんですか?
🎓
下の地盤次第。元々の地盤が砂質で浸透速度13mm/h以上あれば、アンダードレイン無しの「フル浸透型」で地下水涵養に使える。粘土質(5mm/h以下)ならアンダードレインで雨水管に逃がす「フィルター型」が必須。判断を間違えると、雨のたびに何日も水が引かない巨大な水たまりができて住民から苦情が来る。日本だと多くの市街地が粘土〜シルト質なのでアンダードレイン付きが標準。米国フロリダの砂質土壌では浸透型が主流、と地盤調査の結果で決まるんだ。
🙋
植える植物は何でもいいんですか?普通の花壇と同じ感覚で?
🎓
それは大きな誤解で、専用の植栽計画が必要。一時的に水没してから乾燥するという過酷な環境に耐え、なおかつ窒素・リンを吸収する植物を選ぶ。米国だとオオミズゴケ、スイッチグラス、アイリス類が定番。日本ではセキショウ、シラン、ヤブラン、シダ類などが推奨される。芝生だけだと根が浅くて窒素吸収が弱いし、樹木を中央に植えると根がアンダードレインを破壊する。植栽は深根性の草本+低木のミックス、樹木はセル外周に、というのが基本だよ。

よくある質問

バイオリテンションセル(レインガーデン、生物滞留池)は、駐車場・道路・屋根などの不透水面から集まる雨水を一時的に滞留・浸透・濾過する地中浅型のグリーンインフラ施設です。表層の滞水ゾーン(5〜30cm)、植栽土壌メディア(40〜90cm、砂・コンポスト・有機物の特殊配合)、底部の砕石層と暗渠(アンダードレイン)で構成されます。米国EPAやポートランド市、シアトル市などで広く実装されており、低影響開発(LID, Low Impact Development)の中核技術として位置づけられています。
一般的なサイジング指針は、集水面積の5〜10%程度をバイオリテンションセル面積として確保することです。例えば1000m²の駐車場には50〜100m²のセルを設けます。本ツールの「サイズ比」がこの値です。サイズ比が小さすぎると流出捕捉率が下がり、大きすぎると土地利用効率が悪くなります。設計降雨イベント(例:24時間75mm)で捕捉率80%以上を目標にすると、サイズ比は不透水率や降雨量に応じて5〜15%の範囲に収まることが多いです。
排出時間は、満水のセルがメディア層を通って排水し終わるまでの時間です。米国EPAやASCEの設計指針では24〜48時間以内が推奨されます。これより長いと植物が水没で枯死し、蚊の発生源となり、次の降雨に備えた空き容量が確保できません。本ツールでは「totalStorage / (mediaInfiltrationRate × bioretentionArea)」で計算します。72時間を超えると不適格と判定されます。透水速度が遅い場合はメディア配合の見直し(砂含有率を上げる)かアンダードレインの追加が必要です。
適切に設計されたバイオリテンションセルの典型的な除去率は、TSS(浮遊物質)80〜95%、TP(全リン)40〜60%、TN(全窒素)30〜50%、重金属(亜鉛・銅)70〜90%、炭化水素類80〜95%です。除去メカニズムは物理的濾過(TSS)、植物吸収(TN・TP)、メディア吸着(重金属)、微生物分解(炭化水素)が組み合わさります。捕捉できなかった溢流(バイパス)分は処理されないため、捕捉率を高めることが除去率向上に直結します。本ツールでは流出捕捉率に応じてTSS・TN除去率を推定します。

実世界での応用

都市の駐車場・商業施設:米国ポートランドやシアトルでは、新規駐車場の建設許可条件としてバイオリテンションセルの設置が義務化されています。駐車場の植栽帯を意図的に凹型に造成し、周囲の舗装からの流出を集めて植栽メディアでろ過します。ウォルマートやスターバックスなどの大型商業チェーンも、グリーンビルディング認証(LEED)取得のために積極的に採用しています。日本でも東京都の流域貯留浸透事業で類似の取り組みが進んでいます。

道路・歩道沿いのストリートサイドプランター:歩道と車道の間に細長く設置するタイプで、ニューヨーク市の「グリーンストリート」プログラムが有名です。集水面積は小さくても、市内に何百ヶ所も配置することで合流式下水道の溢流(CSO)を大幅に削減できます。沿道の街路樹用ピットを大型化し、雨水排水機能を持たせる「ツリートレンチ」も類似コンセプトです。

住宅地のレインガーデン:戸建住宅の屋根樋からの雨水を、庭の凹地に誘導して浸透させます。米国メリーランド州のプリンスジョージ郡が1990年代に住民参加型プログラムで普及させ、現在はDIYガイドも整備されています。日本では「雨庭」という名称で京都市や金沢市が公共施設や寺社境内に導入。集水面積100〜300m²の小規模設計が中心です。

キャンパス・公園のサステナブルランドスケープ:大学キャンパスや都市公園では、教育目的も兼ねたバイオリテンション設計が増えています。ペンシルベニア大学やカリフォルニア大学バークレー校では、雨水管理機能を持つランドスケープデザインを学生プロジェクトと連動させています。日本でも東京大学柏キャンパスや早稲田大学早稲田キャンパスで類似の取り組みがあります。

よくある誤解と注意点

最大の誤解が、「普通の花壇に雨水を流せばレインガーデンになる」という思い込みです。バイオリテンションセルの心臓は専用配合の植栽メディアであり、一般的な園芸土ではありません。標準的なBSM(Bioretention Soil Media)は、砂50〜70%・コンポスト20〜30%・表土10〜20%の重量配合で、透水速度50〜100mm/hを確保しつつTP・TN・重金属の吸着能を持ちます。普通の園芸土だと透水速度が10mm/h以下になり排出時間ルールを満たせない上、コンポストが多すぎるとリンが溶脱して逆に水質を悪化させます。米国ではASTM D7928等の規格に準拠したBSMの調達と品質管理が義務付けられています。

次に、「アンダードレインがあれば下の地盤は無関係」という誤解。たとえアンダードレインを設置しても、下層地盤の浸透速度が極端に遅いと(例:5mm/h以下の重粘土)、メディア層と地盤の境界で水が停滞し、メディアが嫌気状態になって悪臭や植物の根腐れを起こします。設計前に必ず現地で浸透試験(ダブルリング浸透試験や標準浸透試験)を行い、最低でも地盤浸透速度13mm/h以上が望ましいです。それ未満なら砕石貯留層を厚くするか、不透水ライナーを敷いてアンダードレインで完全に排水管に逃がす「フィルター専用型」に切り替えます。

最後に、「設置後はメンテナンスフリー」という勘違いです。バイオリテンションセルは「自然の力で勝手に浄化してくれる」イメージから維持管理を軽視されがちですが、実際は3〜5年で表層メディアに堆積物(リター・砂・油分)が蓄積し、透水速度が当初の50%以下に低下します。年1〜2回の表層スカム除去、雑草・侵入樹木の管理、植栽の補植、3〜5年ごとの表層メディア入れ替え(上部5〜10cm)が必要です。維持管理予算を初期費用と並行して計画していない自治体や開発業者では、設置5年後に機能不全に陥った事例が米国でも多数報告されています。

使い方ガイド

  1. 集水面積を入力します。例えば駐車場3,000m²の場合、catchNum欄に3000を設定してください。
  2. 不透水面積率(0~100%)を指定します。アスファルト舗装は95%、混合地盤は60%を目安としてください。
  3. 年間降雨量データを地域別に選択します。東京は1,600mm/年、大阪は1,300mm/年が標準値です。
  4. バイオリテンションセルの設計高さ・幅・長さをm単位で入力し、総貯留容量を決定します。
  5. シミュレーション実行後、流出捉捉率(目標値75~95%)と排水時間(18~48時間推奨)を確認してください。

具体的な計算例

商業施設の敷地:集水面積5,000m²、不透水面積率85%、年降雨量1,500mm、設計降雨強度50mm/h想定。バイオリテンションセル寸法30m×20m×0.8m(容積480m³)を配置した場合、設計流出量850m³に対し総貯留容量480m³となり、流出捕捉率は56%です。砂利層深さを1.2mに変更すると容積は720m³となり、流出捕捉率は85%に改善。排水時間は36時間となり、TSS(懸濁物質)除去率は82%を達成します。

実務での注意点

  1. 透水係数5cm/hの砂壌土を基盤とする場合、排水時間が24時間以下では滞水による植物枯死リスクが高まります。最低18時間の保水を設計値として採用してください。
  2. TSS除去率は樹根層の深さ0.3m増加で5~8%向上しますが、施工コスト増加との バランス評価が必要です。
  3. 地下水位が高い地域(東京都江東区など)ではバイオリテンションセル底部から地下水面までの距離を最低1.5m確保し、排水管の二次処理を追加検討してください。
  4. 維持管理コストは初期投資の年2~3%が目安です。5年ごとの砂質層交換を予算化してください。