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加工・製造

深絞り加工の絞り力シミュレーター

平らな板金ブランクを円筒カップに成形する深絞り加工を検討するツールです。ブランク径・カップ径・板厚・引張強さを変えると、絞り力・しわ抑え力・絞り比・カップ高さがリアルタイムで分かり、しわや割れを避けた成形条件を探せます。

パラメータ設定
ブランク径 D
mm
プレス前の平らな円板の直径
パンチ径(カップ径)d
mm
成形されるカップの内径
板厚 t
mm
材料の引張強さ σ_u
MPa
軟鋼板で約340、ステンレスで約600が目安
計算結果
絞り比 DR
絞り力 (kN)
しわ抑え力 (kN)
カップ高さ (mm)
限界絞り比への余裕
絞りの判定
深絞り加工の断面図 — パンチストロークのアニメーション

パンチがブランクの中央を押し下げ、フランジを内側へ引き込みながらカップが成形されます。ブランクホルダーがフランジを押さえてしわを抑えます。

絞り力 vs ブランク径 D
絞り力 vs 板厚 t
理論・主要公式

$$\text{DR}=\frac{D}{d},\qquad F=\pi\,d\,t\,\sigma_u\left(\frac{D}{d}-0.7\right)$$

絞り比 DR と絞り力 F。D:ブランク径、d:パンチ径(カップ径)、t:板厚、σ_u:材料の引張強さ。括弧内が大きいほど絞り力が増える。

$$F_{\text{BH}}=0.35\,F,\qquad h=\frac{D^{2}-d^{2}}{4\,d}$$

しわ抑え力 F_BH(絞り力の約35%)と、面積保存から求めたカップ高さ h(底+壁にブランクの面積が分配される)。

絞り比が約 2.0 を超えると1回の絞りでは壁が破断するため、複数回の再絞り(リドロー)工程に分ける必要がある。

深絞り加工とは

🙋
「深絞り加工」って、平らな金属板を一気にコップみたいな形に変える、あのプレス加工のことですか?
🎓
そう、まさにそれだ。飲料缶、台所のシンク、鍋、自動車のボディパネル、燃料タンク、薬莢——身のまわりの「継ぎ目のない中空の製品」の多くが深絞りで作られている。仕組みは、平らな円板(これを「ブランク」と呼ぶ)をダイの穴の上に置いて押さえ、その中心を「パンチ」で押し下げて、金属を穴の中へ引き込んでカップにするんだ。
🙋
押し込むだけなら簡単そうですけど…そんなに難しいんですか?
🎓
難しいんだよ。カギは「フランジ部の変形」にある。ブランクの外周(フランジ)が内側へ引き込まれるとき、円周方向には縮まなきゃいけない。半径方向に伸ばされながら、円周方向には圧縮される——この円周方向の圧縮が、まさにフランジを座屈させて「しわ」を作る原因なんだ。じょうごに紙を押し込むとクシャッとなるだろう?あれと同じだよ。
🙋
なるほど、だからしわが出るんですね。じゃあ、どうやってしわを防ぐんですか?
🎓
そのために深絞りの金型には必ず「ブランクホルダー(押さえリング)」が付いている。フランジをちょうどいい圧力で上から押さえて、平らに保ちながらしわを抑え込むんだ。ただし、強く押さえすぎると今度は材料が穴の中へ流れ込めなくなって、別の問題が起きる。左のスライダーで「絞り力」が出るけど、しわ抑え力はその約35%が目安だよ。
🙋
押さえすぎると、何が起きるんですか?
🎓
割れだ。これがもう一方の壊れ方。すでに成形されて加工硬化したカップの「壁」が、絞り力をすべて受け持っている。フランジを引き込むのに必要な力が壁の耐えられる限界を超えると、壁がパンチ肩のR部でちぎれてしまう。だから「絞り比 DR = ブランク径÷カップ径」が一番大事な数字なんだ。引き込む材料の量を表していて、1回の絞りで成形できるのはおおむね 1.8〜2.0 まで。これを超えたら壁が割れるから、複数回の「再絞り」工程に分けて、少しずつカップを深く細くしていくしかない。

よくある質問

円筒カップの絞り力の標準的な概算式は F = π·d·t·σ_u·(D/d − 0.7) です。d はパンチ径(カップ径)、t は板厚、σ_u は材料の引張強さ、D はブランク径です。括弧内の (D/d − 0.7) は絞り比 D/d から経験的な定数 0.7 を引いた項で、絞り比が大きいほど、また板厚・引張強さが大きいほど絞り力が増えます。本ツールはこの式で絞り力を算出し、kN 単位で表示します。
しわ抑え力は経験的に絞り力の約30〜40%が目安で、本ツールでは35%として算出しています。フランジ部は内側へ引き込まれる際に円周方向に圧縮されるため、しわ(座屈)が発生しやすく、これを押さえ込むのがブランクホルダーの役割です。弱すぎるとフランジがしわになり、強すぎると材料が流入できず壁が割れます。実際にはしわと割れのどちらも出ない中間の圧力に調整します。
絞り比はブランク径をカップ径で割った値(DR = D/d)で、どれだけの量の材料を内側へ引き込むかを表します。1回の絞りで成形できる絞り比は、材料や潤滑にもよりますがおおむね 1.8〜2.0 が限界です。これを超えると壁が引張に耐えられず破断するため、複数回の再絞り工程に分けて、少しずつカップを深く・細くしていく必要があります。絞り比は深絞り加工の成否を左右する最も重要な数値です。
割れはパンチ肩のR部、つまりカップの底と壁の境目付近で起きます。フランジを引き込む力はすべてカップの壁を通して伝わるため、壁が最も大きな引張荷重を受けます。すでに成形され加工硬化した壁が、フランジの引き込みに必要な力に耐えられなくなると、パンチ肩でちぎれてしまいます。絞り比が大きすぎる、しわ抑え力が強すぎる、潤滑が不足している、パンチ肩Rが小さすぎる、といった条件で割れが起きやすくなります。

実世界での応用

飲料缶・食品容器:アルミやスチールの飲料缶は深絞りの代表例です。1枚の薄い円板から、缶ボディを継ぎ目なく一気に成形します。実際の缶製造では深絞りに加えて「しごき(アイアニング)」を組み合わせ、壁をさらに薄く長く伸ばします。年間数千億個という量産規模のため、絞り比・潤滑・工具寿命の最適化がコストに直結します。

自動車のボディパネル・燃料タンク:ドアパネル、フェンダー、ルーフ、燃料タンクなどの大型部品は、巨大なプレス機で深絞り成形されます。複雑な3次元形状のため、しわ・割れ・スプリングバックを同時に避ける金型設計が難しく、現在ではFEM解析(成形シミュレーション)が設計に必須となっています。本ツールのような円筒カップの概算は、その前段の当たりづけに使えます。

キッチン・調理器具:ステンレスのシンク、鍋、ボウル、やかんなどは深絞りで作られます。ステンレスは軟鋼より引張強さが高く加工硬化も大きいため、絞り力が大きくなり、潤滑と工具の選定がより重要になります。深い製品では複数回の再絞り工程を経て、目標の深さと径に仕上げます。

薬莢・電池ケース・モーターハウジング:銃弾の薬莢、円筒形のリチウム電池ケース、小型モーターのハウジングなども深絞りの典型です。これらは寸法精度と肉厚均一性が厳しく要求されるため、ブランク径・絞り比・工程数を綿密に設計します。深絞りは「継ぎ目がなく、強く、量産に向く」という利点を活かせる加工法です。

よくある誤解と注意点

まず大きな誤解が、「絞り力さえ足りればプレス機を選べる」という考えです。深絞りでプレス機に必要な能力は、絞り力(パンチ荷重)だけではありません。フランジを押さえるブランクホルダー力(クッション力)も同時に必要で、これは絞り力の3〜4割に達します。さらに製品をパンチから外すノックアウト力も要ります。本ツールが出すのは絞り力とその35%のしわ抑え力という概算で、実際のプレス選定では加工速度・ストローク・ダイクッションの仕様も合わせて検討してください。

次に、「絞り力の式は厳密な値を出す」という思い込み。F = π·d·t·σ_u·(D/d − 0.7) は経験式であり、定数 0.7 や引張強さの使い方は文献によって異なります。実際の絞り力は、潤滑状態、パンチ肩・ダイ肩のR、しわ抑え力、加工速度、材料のr値(ランクフォード値)や加工硬化指数 n値などに大きく左右されます。この式は「おおよその荷重レベルと、絞り比が成立するかどうか」を当たりづけするための概算と理解し、最終的な数値は成形FEMや試作で確認すべきです。

最後に、「絞り比が限界以内なら必ず成形できる」という誤解。絞り比が 1.8〜2.0 以内でも、しわ抑え力が不適切なら、フランジがしわになるか壁が割れます。また、深絞りは絞り比だけでなく、潤滑、工具のR形状、板材の表面性状、結晶方位による「耳(イヤリング)」など、多くの要因で成否が決まります。再絞りを行う場合は、加工硬化を取るための工程間焼鈍(中間焼なまし)が必要になることもあります。絞り比は最重要の指標ですが、それだけで成形性を保証するものではない、という点に注意してください。