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エレベータ・高層建築

エレベータロープ プリテンション・サグシミュレーター

高層建築用エレベータの主索(ロープ)について、張力・安全率・自重伸び・サグ(垂れ)をリアルタイム計算します。昇降距離・ロープ本数・径・カウンタウェイト比率を変えると、標準鋼・高張力・CF UltraRopeの違いと、EN 81-50(安全率≥12)に対する余裕がすぐに分かります。

パラメータ設定
エレベータ種別
トラクション・MRL・油圧・ロープレス磁気の代表式
ロープ材種
引張強さσ_break と単位長質量ρ を自動設定
昇降距離 H
m
かご重量 W_car
kg
定格積載 W_load
kg
ロープ本数 n
ロープ径 d
mm
カウンタウェイト比率
%
CW = W_car + W_load × (この値/100)
計算結果
ロープ断面積 (mm²)
1本あたり破断荷重 (kN)
1本あたり張力 (kN)
安全率 SF
ロープ自重伸び (mm)
最大サグ (mm)
エレベータ昇降路 — ロープ・かご・カウンタウェイト

トップシーブから垂下するロープでかごとカウンタウェイトを吊上げ、相対位置に応じて両側の自重バランスが変化します。色は安全率(緑=余裕/赤=危険)を表します。

張力 vs 昇降距離
ロープ材種比較 — 安全率
理論・主要公式

$$T = (W_{car}+W_{load})g + w_{rope}gL,\qquad SF = \frac{F_{break}}{T_{rope}}$$

T:ロープ頂部の総張力、SF:安全率(EN 81-50 で SF≥12、ASME A17.1 で SF≥7.6〜11.9)、CF UltraRope は同径で 2 倍の強度・1/5 の自重で 1km travel を可能にする。

$$\mathrm{sag} \approx \frac{w\,g\,s^{2}}{8\,T},\qquad \Delta L = \frac{T\,L}{A\,E}$$

カテナリー近似のサグとロープ弾性伸び。w:ロープ単位長質量、s:スパン、A:金属断面積、E:縦弾性係数。

エレベータロープ プリテンション・サグ — 高層建築

🙋
エレベータって、てっきり下から押し上げてると思ってたんですが、ロープで吊ってるんですよね?1500kgのかごをワイヤー6本で本当に大丈夫なんですか?
🎓
乗用エレベータの大半はトラクション式といって、上部の機械室にあるシーブ(滑車)の摩擦でロープを引き上げる方式だね。直径13mmの標準鋼ロープ1本だけで実は約100kNくらいの破断荷重がある。6本束ねれば600kN、つまり60トン分。一方、満載のかごが引っ張る力は2.5トン強で、安全率は20以上残る計算だ。EN 81-50は最低でも12を要求しているから、ちゃんと法規の倍以上の余裕を見ているわけ。
🙋
そんなに余裕があるのに、なぜわざわざ「安全率12以上」と決めているんですか?
🎓
理由は疲労なんだ。エレベータは1日何百回もシーブを通過するから、ロープは何百万回も繰り返し曲げられる。素線一本ずつに微小な摩耗とノッチが入り、新品時の破断荷重は徐々に下がっていく。だから「設計時に新品強度の1/12しか使わない」ことで、20年〜30年使い続けても破断にはまだ余裕がある、というロジック。シーブ径が小さいほど曲げ応力が大きいので、D/d≥40(鋼ロープ)や D/d≥30(UltraRope)といった径比要件も別途規定されているよ。
🙋
スライダーで「昇降距離」を50mから500mに増やすと、安全率がじわじわ下がりますね。何が起きているんですか?
🎓
高層になるほど、ロープ自身の重さが効いてくるんだ。標準鋼13mm×6本だと、長さ100mあたり420kgのロープ質量がある。500mだと2.1トン。これはかご重量と同じオーダーで、トップシーブにかかる張力は『かご+積載+ロープ自重』になる。だから昔は500mが鋼ロープ式エレベータの実用限界とされてきた。これを突破したのが2013年にKONEが発表したCF UltraRope。炭素繊維芯で同径ながら自重が1/5、強度が2倍。これでJeddah Tower(660m)やBurj Khalifa(828m)級の高層ビルにも単独走行できるようになった。
🙋
「カウンタウェイト比率」を0%にすると張力が一気に増えますね。50%が標準のようですが、これはどう決めているんですか?
🎓
カウンタウェイトは「かご重量+積載の半分」が業界標準。これにより、かご空(軽い)・満載(重い)の両方向で、モーターのトルク需要がほぼ対称になるんだ。50%以外にすると、片方向は楽になる代わりに反対方向で過負荷になる。最近は回生インバータが普及して、60〜70%にして満載下降時の回生エネルギーを増やす設計も出てきている。なお、ロープレス磁気エレベータ(ThyssenKrupp MULTI、2017年)はそもそもロープがなくリニアモーターで駆動するから、複数のかごが1本のシャフトを水平・垂直に走れる新方式だよ。
🙋
最後に「サグ」って何ですか?グラフでは数mmって出るのに、ロープが垂れるって心配する話ですか?
🎓
サグは、シーブ間にかかった水平に近いロープがロープ自重で垂れる量。式は sag ≈ w·s²/(8T) のカテナリー近似。本ツールでは便宜的に「昇降距離の1/3」をスパンに使っているけど、実機ではシーブ間距離は数mで、サグは数mm以下。重要なのはサグそのものより、上下のかご位置でサグ量が変わると駆動シーブのトラクションが不安定になることで、これを防ぐために50mを超える昇降距離では『補償ロープ(コンペロープ)』をかご下とCW下に繋いで、常に両側のロープ質量を一致させるんだ。

よくある質問

欧州規格 EN 81-50 ではトラクション式エレベータの主索安全率を 12 以上、ASME A17.1(米国)ではロープ本数に応じて 7.6〜11.9 を要求します。日本のJIS A 4302・建築基準法は概ね EN 81 に準拠し、設計実務では 10〜13 を目安にします。理由は、ロープが何百万回もシーブを通過する過程で素線疲労が累積するためで、新品の破断荷重に対し大きな余裕を持たせます。本ツールでは安全率が 10 未満で赤判定、12 未満で警告を出します。
カウンタウェイトはかご重量と定格積載の一部を相殺し、巻上機モーターのトルクと消費電力を低減します。一般的な設計は「かご重量 + 定積載 × 50%」で、これによりかご空・満載どちらの方向でもモーター負荷がほぼ対称になります。50% より大きくすると軽負荷時の上昇エネルギーは減りますが満載下降時のエネルギー回生量が増え、回生インバータと併用する省エネ機では 60〜70% にする例もあります。
KONE が 2013 年に発表した UltraRope は炭素繊維芯+ハイフリクションコーティングで、鋼ロープの 1/5 の質量・2 倍の強度を持ちます。これによりロープ自重が支配的な高層エレベータで travel limit が従来 500m から 1000m まで延長され、Jeddah Tower(660m)等に採用されました。一方、シーブ径要件(D/d ≥ 30 程度)、コスト、屋外使用での UV 劣化、振動減衰性能、メンテナンス手順の確立など、まだ全ビルに展開できない課題があります。
昇降距離 50m を超えると、かごが上下するたびにかご側・カウンタウェイト側のロープ自重比が変わり、駆動シーブのトラクション(摩擦伝達)が不安定になります。これを補正するのが補償ロープ(コンペンセイティングロープ)またはコンペチェーンで、かご下とカウンタウェイト下を逆向きに繋ぐことで、どの位置でも両側のロープ自重が常に等しくなります。サグは梁理論の片持ち式ではなく、ロープ単位長重量 w・スパン s・張力 T のカテナリー式 sag ≈ w·s²/(8T) で見積もります。

実世界での応用

超高層ビルの高速エレベータ:Burj Khalifa(828m)、Shanghai Tower(632m)、Jeddah Tower(660m建設中)等の超高層ビルでは、従来の鋼ロープでは travel 500m の限界を超えられず、空中ロビーで乗り換える二段方式が必要でした。KONE UltraRope(CF Composite)の登場で、1000m超を単独走行できるようになり、空中ロビーが不要になりエレベータ占有面積を 15-20% 削減できます。本ツールで標準鋼と UltraRope を切り替えると、500m 以上での安全率差が一目で分かります。

機械室レス(MRL)エレベータの設計:Otis Gen2、Schindler 3300、KONE MonoSpace 等の MRL では、シャフト最上部の壁面に薄型ギアレス巻上機を直接固定します。建築面積の節約・屋上の意匠自由度向上が利点ですが、シーブ径が小型化されるため D/d 比が小さく、ロープの曲げ疲労が大きくなる傾向があります。本ツールで径と本数を変えてみると、MRL で多用される細径多本ロープや FlexCoated Belt の合理性が理解できます。

ロープレス磁気浮上エレベータ(MULTI):ThyssenKrupp が 2017 年に発表した MULTI はロープを使わず、リニアモーター(磁気浮上)で複数のかごを 1 シャフト内で水平・垂直方向に走行させます。これによりシャフト数を 1/3 程度に削減でき、建築床面積の有効利用率が大幅に向上。本ツールで「ロープレス磁気」を選択すると、ロープに関するパラメータが概念モデル化された動作を確認できます。

巻上機・シーブの寿命予測:本ツールで計算する張力・安全率は、ロープ寿命(=シーブ通過回数)の予測にも使えます。Feyrer 寿命式(DIN 15020 や ISO 4309)では、ロープ寿命は (D/d) と (T/F_break) の対数双曲線で表され、安全率を 12 から 14 に上げるだけで寿命が約 2 倍に延びます。10 年運用したエレベータでは年 1 回の磁気探傷検査(MRT)で素線断・摩耗を定量化し、本ツールのような設計時 SF と照合して交換タイミングを判定します。

よくある誤解と注意点

まず最大の落とし穴が、「破断荷重 = 設計許容荷重」と勘違いすることです。ロープのカタログに記載される最小破断荷重(MBL: Minimum Breaking Load)はあくまで新品・静的引張試験での値で、実際の運用では (1) シーブ通過による曲げ疲労、(2) 素線摩耗・腐食、(3) ロープ間張力アンバランス、(4) 終端金物のクッション効率(80-90%)、(5) 動的衝撃(緊急停止時で 1.5-2 倍)等で実効強度は大幅に低下します。だから EN 81 の安全率 12 でも、実は実効的には 4-5 倍の余裕しか残らないこともあります。本ツールの SF はあくまで静的設計値で、動的・経年劣化を考慮していないことに留意してください。

次に、「ロープ本数を増やせば安全率も比例して上がる」という単純化。理論上は本数 n を 2 倍にすれば 1 本あたりの張力は 1/2、SF は 2 倍になります。しかし実機ではロープ間に必ず張力不均衡があり、最も強く張られたロープが先に疲労破断します。EN 81-1 はロープ間張力差 ±5% 以内を要求し、超えるとロープ調整(イコライザーボルトの再調整)が必要です。本数を増やすほど均一張力の維持が難しくなり、ある時点で「本数増 ≠ 安全率増」となります。実機の最適本数は 4-8 本が多いのはこの理由です。

最後に、「サグ ≈ 0 なら問題ない」という誤解。本ツールでも数 mm 程度の小さな値が出ますが、サグ自体は重要ではなく、サグが「かごの位置で変化する」ことが本質です。50m を超える travel では、かごが下に行くほどかご側ロープが長く・CW 側ロープが短くなり、両側の自重差がトラクション側へ移動します。これにより駆動シーブの両側張力比 T1/T2 が変動し、摩擦伝達限界(Euler 式 T1/T2 ≤ e^(μθ))を逸脱するとロープがスリップして落下リスクが生じます。これを抑える補償ロープ・コンペチェーンの設計が高層エレベータの最重要要素です。

使い方ガイド

  1. 移動高さ(m)とカゴ質量(kg)、定格荷重(kg)を入力します。例:移動高さ60m、カゴ800kg、定格荷重1000kg
  2. ロープ本数と径を選択します。標準鋼(φ13mm×8本)、高張力鋼(φ11mm×6本)、CF UltraRope(φ10mm×4本)から選択可能
  3. カウンタウェイト率(50~150%推奨)を調整し、安全率SF≧12(EN 81-50)またはSF≧10(ASME A17.1)を確認します
  4. ロープ自重伸びと最大サグを確認し、案内溝間隔やテンションシーブ設計に反映させます

具体的な計算例

移動高さ50m、カゴ900kg、定格荷重1200kg、標準鋼ロープφ13mm×8本の場合:1本あたり破断荷重約142kN、カウンタウェイト率100%時の1本あたり張力約16.9kN、安全率SF≒8.4です。CF UltraRopeφ10mm×4本に変更すると破断荷重約95kN、張力約20.3kN、SF≒4.7となり、高強度特性を活かしながるロープ本数削減が可能です。ロープ自重伸びは標準鋼で約8.2mm、UltraRopeで約3.5mmと大幅に減少し、サグは最大45mm程度に抑制されます。

実務での注意点

  1. EN 81-50ではロープ破断荷重の合計がカゴ+カウンタウェイト+定格荷重の12倍以上必須。カウンタウェイト質量不足でSFが低下する場合は機械室床補強を検討してください
  2. 自重伸びが大きい場合(標準鋼8本で10mm超)、テンションシーブやロープガイド設計で余裕を確保し、軋み音や脱落リスクを低減します
  3. CF UltraRopeは軽量かつ高強度ですが、耐摩耗性・屈曲寿命がロープ径の小型化により短くなるため、定期検査周期を短縮してください