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熱流体・空調シミュレーター

自由水面の蒸発速度シミュレーター — ASHRAE / Carrier 式

プール・池・冷却塔等の自由水面からの蒸発速度を、水温・気温・相対湿度・風速から計算。水蒸気圧差と蒸発潜熱から熱流束も同時に表示し、なぜ風があると蒸発が急に増えるのかを直感的に学べます。

パラメータ設定
水温 T_water
°C
空気乾球温度 T_air
°C
相対湿度 RH
%
水面上風速 v
m/s

水面積 A = 1 m² として計算しています。実プール等は m_evap [kg/(m²·h)] に水面積を掛けてください。

計算結果
蒸発速度 m_evap
水蒸気圧差 Δe = e_w − e_a
蒸発潜熱 L
蒸発熱流束 q = m_evap·L
水面と空気の状態

水色=水(温度 T_water)/灰色=空気(T_air, RH)/矢印=風速 v/青矢印=蒸発する水蒸気

風速に対する蒸発速度 m_evap(v)

横軸=風速 v [m/s]/縦軸=蒸発速度 m_evap [kg/(m²·h)](黄点=現在の v)

理論・主要公式

自由水面からの蒸発速度は、水面飽和水蒸気圧と空気水蒸気圧の差に風速で決まる物質伝達係数を掛けたものとして表せます。

飽和水蒸気圧 e_s(T) [hPa](Magnus 式、T は摂氏):

$$e_s(T) = 6.112\,\exp\!\left(\frac{17.62\,T}{243.12 + T}\right)$$

水面飽和水蒸気圧 e_w と空気水蒸気圧 e_a:

$$e_w = e_s(T_\text{water}),\qquad e_a = \frac{\text{RH}}{100}\,e_s(T_\text{air})$$

蒸発速度 m_evap [kg/(m²·h)](Carrier 式に基づく簡略形、v [m/s], e [hPa]):

$$m_\text{evap} = (1 + 0.8\,v)\,(e_w - e_a)\,\times 0.01$$

蒸発潜熱 L [kJ/kg] と単位面積熱流束 q [kW/m²]:

$$L = 2500 - 2.4\,T_\text{water},\qquad q = \frac{m_\text{evap}\,L}{3600}$$

風速 v = 0 でも自然対流による拡散項が残り、Δe = e_w − e_a が大きいほど(水が熱く空気が乾いているほど)蒸発速度が増えます。

自由水面の蒸発速度シミュレーターとは

🙋
プールや池の水って、夏になると勝手にどんどん減っていきますよね。あれって何で決まっているんですか?
🎓
ざっくり言うと、「水面と空気の水蒸気圧差」と「風」の2つだ。水面のすぐ上は水蒸気でほぼ飽和していて、その外の空気が乾いていればいるほど、差が大きくて水蒸気が拡散していく。それを風がさらに運び去る。上のシミュレーターで「相対湿度」を下げてみて。Δe のカードが大きくなって、蒸発速度がぐっと上がるはずだよ。
🙋
あ、ほんとだ!風速を 0 から 5 m/s に動かすと、もっとはっきり変わりますね。直線的に増えていくのが面白い。
🎓
それが Carrier 式の (1 + 0.8v) という部分だ。v = 0 でも自然対流による「無風時の蒸発」が残るから 1 から始まって、風速にほぼ比例して増える。係数 0.8 は実験から決まった値で、屋内プールや冷却塔の水面でよく使われる。屋外で強い日射がある場合はこれより速くなるから、屋外プールの設計ではさらに係数を上乗せすることが多いよ。
🙋
「蒸発熱流束」のカード、デフォルトで 410 W/m² って出てますけど、これって結構大きい数字ですよね?
🎓
かなり大きい。真夏の太陽光が地表に届くピーク値が 1000 W/m² 前後だから、その 4 割ほどを「蒸発」だけで奪っている計算になる。水の蒸発潜熱が 2400 kJ/kg もあるからだ。打ち水や霧の冷房(ミストファン)が涼しいのも、人が汗をかいて体を冷やすのも、全部この原理だよ。シミュレーターで水温を上げると Δe も潜熱もどっちも動くから、両者を見比べると面白い。
🙋
冷却塔ってこの蒸発を使ってビルを冷やすやつでしたっけ?
🎓
そう。冷却塔の中で水を細かく散布して、空気と接触する自由水面の面積を大きくする。すると同じ水量でも一気に大量に蒸発できて、熱を空気側に逃がせる。設計するときは、外気の湿球温度(このシミュレーターで RH と Ta から逆算できる温度)が下限になることに注意するんだ。「乾いた地域ほど冷却塔がよく効く」のはこの式そのものだよ。

よくある質問

屋内プールは風速が小さく(典型的に 0.05〜0.15 m/s 程度)日射の影響もないため、このシミュレーターの低風速領域の値がそのまま使えます。屋外プールは風と日射の両方を受けるため、簡易計算では (1 + 0.8v) 係数に加えて日射による加算項を考慮します。実務ではさらに「波立ち」「遊泳者の動き」によって 10〜30% 増えることが多く、補給水設計では安全側に係数を見込みます。
水温が低くても、e_w(水面飽和水蒸気圧)が e_a(空気水蒸気圧)より大きければ蒸発は続きます。空気が乾いていれば、水温 10 °C・気温 25 °C・RH 30% のような条件でも蒸発します。逆に e_w が e_a を下回ると、空気から水へ水蒸気が移動する「凝縮(結露)」になります。本ツールでは Δe が負になる場合は 0 にクランプしているため、凝縮量は別途凝縮計算ツールで扱ってください。
水の密度を 1000 kg/m³ とすると、1 kg/m² = 1 mm の水柱厚さに相当します。したがって m_evap [kg/(m²·h)] に 24 [h/day] を掛けるだけで mm/day に換算できます。例えば m_evap = 0.6 なら 14.4 mm/day。屋外プールで日射と風がある夏期には 5〜8 mm/day、冬期屋内プールでは 1〜2 mm/day が目安です。
いずれも「水蒸気圧差 Δe × 風速関数 f(v)」という Dalton 型の構造を持ちます。Dalton 式は最古の形式(m ∝ f(v)·Δe)、Carrier 式は係数を屋内プール用に校正したもの、Penman 式はさらに正味放射の影響を加えて気象学・農業用蒸発散に用いられます。本ツールは Carrier 系の簡略形を使っており、屋内プール・冷却塔・室内蒸発冷却装置の概算設計に適しています。

実世界での応用

プール・浴場の補給水と除湿設計:屋内プールでは蒸発した水が室内の湿度を急上昇させ、結露・カビ・建材腐食を引き起こします。本ツールの m_evap × 水面積で 1 日当たりの蒸発量を見積もり、これを処理できる除湿空調と補給水量を設計します。25 m × 12 m のプールで m_evap = 0.4 kg/(m²·h) なら、毎時 120 kg、1 日で 2.9 トンの水が蒸発する計算になります。

冷却塔・蒸発式凝縮器:空調冷凍機の凝縮熱を大気に捨てる冷却塔は、まさにこの蒸発冷却を最大化する装置です。充填材で水を細かく分散させ、自由水面の総面積を稼ぎ、外気を強制通風させて (1 + 0.8v) の v を大きく取ります。乾燥地域ほど Δe が大きく、冷却塔の冷却限界(湿球温度)が低くなるため、効率が良くなります。

打ち水・ミストファン・気化冷却空調:同じ原理で、夏期の屋外イベント・工場現場で使われる気化冷却技術の核です。空気に水を噴霧して通すと、蒸発した分だけ顕熱が奪われ、空気は乾球温度が下がりつつ湿球温度に近づきます。乾いた地域では数 °C 以上の冷却が容易に得られ、コンプレッサー冷凍機より大幅に省エネです。

農業灌漑・貯水池の水収支:農業用ため池や調整池では、降水・流入量から蒸発量を差し引いて貯水量を予測します。本ツールと同型の式(Penman 式や Penman–Monteith 式)が、世界中の水資源管理・潅漑計画で標準的に用いられています。乾燥地域の貯水池では年間 2 m 以上の水位低下が「蒸発のみ」で起こることもあり、水資源確保の大きな課題です。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解は、「水温が高いほど蒸発が増える」のは正しいが、効くのは水温そのものではなく e_w = e_s(T_water)だという点です。飽和水蒸気圧は温度に対して指数関数的に増えるため、水温が 20 °C から 30 °C に上がると e_w は約 23.4 hPa から 42.4 hPa に、ほぼ倍近くに跳ね上がります。一方で水温を 30 °C から 40 °C に上げるとさらに 73.8 hPa まで増加します。シミュレーターで水温スライダーを動かしながら Δe カードを見ると、高温側ほど効きが強くなることが分かります。「水温 2 倍で蒸発 2 倍」ではなく、指数的に効くと覚えてください。

次に多いのが、湿度の高い日に「水を撒けば涼しくなる」と単純に考えてしまうことです。蒸発速度は Δe = e_w − e_a に比例するため、すでに空気が湿っている(e_a が大きい)と Δe が小さくなり、蒸発も冷却効果も激減します。シミュレーターで RH を 30% から 90% に上げると、蒸発速度が約 4 分の 1 まで下がるのが見えるはずです。日本の盛夏のように高湿度地域では、打ち水・ミストの冷却効果は乾燥地域の半分以下になります。湿度を確認せずに気化冷却装置を導入すると「全然涼しくならない」事態を招くため要注意です。

最後に、本式は「自由水面」専用の式であることを忘れないでください。霧吹きで微粒化された液滴の蒸発、衣類の乾燥、土壌からの蒸発散には、それぞれ別の伝達係数(Sh 数や乾燥特性曲線)が必要です。また、強い太陽放射下や高温の表面(蒸気アイロンなど)では、放射と顕熱伝達も含めた連立解析が必要になります。本シミュレーターはあくまで「平らな水面 + 並列に流れる空気」という標準条件での近似計算ですので、用途に応じて補正係数や別モデルへの切り替えを検討してください。