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養殖・水質管理

養魚池 エアレータ 溶存酸素 SOTR 設計

養魚池のエアレータ容量を「溶存酸素(DO)収支」から設計するツールです。池の寸法・魚種・養殖密度・水温・エアレータ種類とkWを変えると、1日のO₂需要、エアレータが実際に供給できる量、目標DOを保つために必要な電力、年間電気代がリアルタイムで分かります。

パラメータ設定
池面積
池水深
m
魚種
体重1kg・1日あたりのO₂消費量を自動設定
養殖密度
kg/m³
水温
°C
エアレータ種類
SOTR (kgO₂/kWh) を自動設定
エアレータ電力
kW
目標 DO
mg/L
魚種の最低DOよりも安全側で設定する
計算結果
池容積 (m³)
全魚体重 (kg)
飽和 DO (mg/L)
1日O₂需要 (kg/day)
エアレータ供給 (kg/day)
必要電力 (kW)
養魚池 断面図 — エアレータ・魚・気泡

青色のバーは現在のDO(mg/L)を示します。水面のエアレータが気泡を出し、緑→橙→赤 で酸素不足の度合いを表現します。

DO供給 vs エアレータ電力
エアレータ種類別 SOTR 比較
理論・主要公式

$$V_{\text{pond}} = A\cdot d, \qquad M_{\text{fish}} = V_{\text{pond}}\cdot \rho_{\text{stock}}$$

池容積 V と全魚体重 M。A:池面積 m²、d:水深 m、ρ_stock:養殖密度 kg/m³。

$$\text{DO}_{\text{sat}} = 14.652 - 0.41\,T + 0.008\,T^{2}$$

水温 T (°C) に対する淡水の飽和DO 近似式(mg/L)。温度が上がるほど溶解度は低下する。

$$\dot m_{\text{O}_2}^{\,\text{supply}} = \text{SOTR}\cdot P_{\text{kW}}\cdot 24\cdot \frac{\text{DO}_{\text{sat}}-\text{DO}_{\text{design}}}{\text{DO}_{\text{sat}}}$$

エアレータの実供給 (kgO₂/day)。SOTR:標準酸素移動効率 (kgO₂/kWh)、P:電力 (kW)。DOが目標に近いほど駆動力が下がる。

$$P_{\text{req}} = \frac{\dot m_{\text{O}_2}^{\,\text{demand}}}{\text{SOTR}\cdot 24\cdot (\text{DO}_{\text{sat}}-\text{DO}_{\text{design}})/\text{DO}_{\text{sat}}}$$

目標DOを保つために必要なエアレータ kW。需要が供給を超えると魚が酸欠する。

養魚池 エアレータ 溶存酸素 SOTR 設計 — 養殖密度・水温

🙋
先生、養魚池に「エアレータ」って大きな水車みたいなのが回ってますよね。あれって、なんでこんなに電気を食ってまで必要なんですか?
🎓
いい質問だね。あの水車は「魚に酸素を供給する装置」なんだ。魚もエラ呼吸で酸素を消費していて、池に溶けている「溶存酸素 DO」が足りなくなると窒息死してしまう。とくに養殖だと、自然の池の何倍も密度が高いから、自然の対流だけじゃ間に合わない。例えば1ha(1万m²)×水深1.5mのティラピア池に25kg/m³入れると、魚の総体重は約375tにもなる。これを酸欠にしないため、毎日100kg以上のO₂を強制的に水に溶け込ませる必要があるんだ。
🙋
なるほど…。じゃあ「SOTR」っていうグラフに出てる指標は何ですか?種類によって 1.2〜3.0 と倍以上違うのが気になります。
🎓
SOTR は Standard Oxygen Transfer Rate の略で、「電気1kWhあたり何kgのO₂を水に溶かせるか」を表す効率指標だよ。パドルホイールは水面を激しく叩いて気液界面を増やすタイプで 1.5 程度。マイクロバブル拡散は底から微細気泡を出すので接触時間が長く、3.0 と倍効率がいい。ただし初期投資・メンテ性・停電耐性で選ぶことも多くて、東南アジアのティラピア養殖では「壊れにくくて電気が安いパドルホイール」が主流。日本のサケ・マス陸上養殖だと、効率重視の拡散式や純酸素混合が増えている。
🙋
あ、水温を上げると「飽和DO」が下がっていきますね。それなのに「需要」は増えるって…夏が一番危ない感じですか?
🎓
そう、まさに「夏のダブルパンチ」。気体の溶解度は温度が高いほど下がるので、20°Cで9 mg/L だった飽和DOが30°Cでは 7.5 mg/L くらいまで落ちる。一方で魚は変温動物だから、水温が上がると代謝が活発化して酸素消費が増える。さらに夜間は植物プランクトンの光合成が止まり、魚と微生物の呼吸だけが進むから、夜明け前の3〜5時にDOが最低になる。養殖事故の多くがこの時間帯で、業界では「DO クラッシュ」と呼ばれて恐れられているよ。だから設計DOは「夜明け前の最低値が3〜4 mg/L を切らない」よう、平均で5〜6 mg/L を狙うのが定石。
🙋
このツールだとデフォルトで「ng」(赤)が出ますね。5kWのパドルホイールだと足りないってことですか?
🎓
そう。デフォルト条件(2000m²×1.5m=3000m³、ティラピア25kg/m³、28°C)だと、O₂需要が約112.5 kg/day、供給は84.7 kg/dayで、約28 kg/day 足りない。必要電力は 6.6 kW なので、現状の 5kW では能力不足。改善策は3つ:(1) エアレータをマイクロバブル拡散(SOTR=3.0)に変える、(2) 電力を 7kW 以上に増やす、(3) 養殖密度を 20 kg/m³ 程度に落とす。実務ではまず「水温が下がる夜中だけ追加で1機回す」など、時間運用で対応することも多いよ。
🙋
じゃあ年間の電気代もすごそう…。
🎓
5kWを24時間×365日回すと年間 43,800 kWh。電気代 0.10 USD/kWh で約 4,380 USD(約 65 万円)になる。実は養殖原価の20〜30%が電気代というのは珍しくなくて、ここをいかに下げるかが収益のカギ。最近は太陽光+蓄電池でエアレータを動かすハイブリッド方式や、DOセンサーで自動ON/OFFする「インテリジェント運転」で30〜40%の節電を実現する事例も増えているよ。

よくある質問

SOTR は Standard Oxygen Transfer Rate の略で、清水・DO=0・20°C の標準条件で 1 kWh あたり何 kg のO₂を水中に溶け込ませられるかを表す指標です。パドルホイールで 1.3〜1.8、マイクロバブル拡散で 2.5〜3.5 kgO₂/kWh が代表値。実養魚池では DO が0でないため、本ツールでは (DO_sat - DO) / DO_sat の補正係数を掛けて実際の供給量を算出します。
魚体重1kgあたり1日のO₂消費は、ティラピアで約1.5g、ナマズで2.5g、エビで3g、サケで5g、マスで6g 程度が目安です。冷水性で活動的なマスやサケは要求量が大きく、温帯性のティラピアは少ない傾向にあります。本ツールではこの代表値で1日の総O₂需要を計算しますが、実際は給餌直後に2〜3倍まで急増するため、ピーク対応として目標DOを高め(5〜6 mg/L)に設定するのが安全です。
気体の溶解度は温度が高いほど低下します。水中の飽和DOは10°Cで約11 mg/L、20°Cで9 mg/L、30°Cで7.5 mg/L まで下がります。本ツールでは DO_sat = 14.652 - 0.41·T + 0.008·T² の近似式(淡水)を使用。さらに高温では魚の代謝も活発化して酸素要求が増えるため、夏場は冬の2倍以上のエアレータ電力が必要になることがよくあります。
一般的な目安として、池の単位水量あたりの魚体重 (kg/m³) が 20 以下を低密度(伝統的な池養殖)、20〜40 を中密度(半集約)、40 以上を高密度(集約養殖)と分類します。高密度ではエアレータ稼働なしで魚は数時間で酸欠死するため、停電対応の予備機・酸素ボンベが必須。本ツールでも 40 kg/m³ を超えると「高密度」表示に切り替わり、SOTRの安全余裕を厳しく評価します。

実世界での応用

東南アジアの大規模ティラピア・エビ養殖:ベトナム・タイ・インドネシアの河口域では、数千m²〜数haの土池にパドルホイール式エアレータを4〜10基設置するのが標準的です。停電が頻発する地域では、ディーゼル発電機の自動切替と複数基の冗長運用で「全部止まる」ことを防ぎます。本ツールで計算される必要kWに対し、実際は1.5〜2倍を備える「ピーク・冗長設計」が基本です。

日本のサケ・マス陸上循環式(RAS)養殖:水温管理した室内タンクで高密度(50〜80 kg/m³)養殖する RAS では、純酸素ガス+マイクロバブル拡散式が標準。SOTR 3.0 を超える高効率タイプを使い、DO センサー + 自動制御で常時 8 mg/L 前後を維持。本ツールの「マイクロバブル拡散」プリセットはこの用途に近い設計値です。

農業ため池の水質改善:養殖目的でなくても、夏季の貯水池で底層が酸欠になると硫化水素発生やアオコの大量発生が起きます。小型のベンチュリ式エアレータ(0.5〜2kW)で表層・底層を循環させると、富栄養化を抑制できます。本ツールで「低密度(1kg/m³)」を入れると、こうした水質維持目的の必要電力が見積もれます。

研究・教育用デモシミュレーション:水産学部・環境工学のCAE/物質収支演習で、池の酸素収支を理解するモデルとして使えます。SOTR・DO飽和・密度の3つを動かして、「需要と供給」のバランス感覚を体験的に学べます。CFD解析でエアレータ周りの流況を詳細に検討する前の、まず量論レベルの当たりづけにも有効です。

よくある誤解と注意点

第一の注意点は、「SOTRはあくまで清水・標準条件の値」であること。実際の養魚池は塩分・有機物・微細藻類が多く、酸素移動係数 kLa が清水の 0.7〜0.85 倍(α係数)に低下します。本ツールでは簡略化のためα=1としていますが、海水養殖や有機物の多い池では、SOTR を 15〜30%差し引いて評価するのが安全です。さらに pH・温度補正もあり、現場では「カタログ SOTR の60〜70%が実効値」と考えるベテランも多くいます。

第二は、「平均DOで設計せず、最低DOで設計する」という点。日中は植物プランクトンの光合成で DO が 10〜15 mg/L まで過飽和になることもありますが、夜明け前は逆に 2〜3 mg/L まで急落することがあります。魚は最低値で評価されるため、平均で 5 mg/L 確保していても、夜明けに 1 mg/L まで落ちれば一晩で全滅し得ます。実務では DO センサーで連続監視し、5 mg/L を下回ったら自動でエアレータを増段する制御が必須です。

第三は、「酸素過剰も問題になる」こと。RAS や純酸素混合システムでは、DO を高くしすぎる(15 mg/L 以上)と、魚に「ガスバブル病」が起きる場合があります。これは血中に窒素が過飽和になって気泡が生じる病気で、エラや脳血管に詰まると致命的。本ツールでは目標DOの上限を 9 mg/L にしていますが、純酸素システムを使う際は窒素分圧も含めた総ガス圧(TGP)の管理が必要で、SOTR だけでは設計できない領域に入ります。

使い方ガイド

  1. 池面積(m²)と水深(m)を入力して池容積を算出します。例:100m² × 1.5m = 150m³
  2. 養殖密度(kg/m³)と水温を指定し、魚体重と飽和溶存酸素濃度を自動計算します。密度30kg/m³、水温28℃の場合、飽和DOは約7.2mg/L
  3. 必要酸素供給量(kg/day)からSOTR(Standard Oxygen Transfer Rate)と所要電力(kW)を算出し、エアレータ機種・数量を決定します

具体的な計算例

ティラピア養殖池:面積80m²、水深1.2m(容積96m³)、養殖密度25kg/m³、水温30℃の場合。全魚体重2,400kg。飽和DO 7.0mg/L。呼吸量は魚体重の約8~12%/日と推定され、2,400kg × 0.10 = 240kgO₂/日必要。SOTR換算値2.5kg/kWh時、必要電力96kW相当。パドルホイール式エアレータ(1基15kW)なら6~7基配置で、酸素供給量250kg/日を確保できます。

実務での注意点

  1. 夜間無給餌時も基礎代謝で酸素消費が続くため、計算値の85~90%で設計すると停電対応に余裕が生まれます
  2. 水温30℃を超える高温期は飽和DO低下と呼吸量増加が同時発生するため、SOTR必要量が通常の130~150%に跳ね上がります
  3. 給餌直後3時間は酸素需要がピークを迎えるため、エアレータ容量決定時は24時間平均ではなく最大時間値で検討してください
  4. 硫化水素発生防止には底部酸素濃度を最低3mg/L保つ必要があり、全体飽和値から10~15%の余裕を見込みます