活性汚泥プロセス (CSTR・Monod型) シミュレーター 戻る
環境工学

活性汚泥プロセス (CSTR・Monod型) シミュレーター

下水処理の主役・活性汚泥法を Monod 式と完全混合槽(CSTR)の定常質量バランスで計算します。流入BOD・反応槽体積・SRT などをスライダーで動かすと、流出BOD・MLSS・余剰汚泥量・F/M比がリアルタイムに更新され、曝気槽の設計と運転条件を直感的につかめます。

パラメータ設定
流入BOD S₀
mg/L
処理場入口の生物化学的酸素要求量
反応槽体積 V
曝気槽の有効容積
流量 Q
m³/day
処理場への流入水量
SRT(汚泥滞留時間)
day
活性汚泥が系内に滞在する平均日数 θ_c
比汚泥収率 Y
kg/kg
基質単位質量あたりの生成微生物量
最大比増殖速度 μ_max
1/day
基質過剰条件下の微生物増殖速度
半飽和定数 K_s
mg/L
μ=μ_max/2 となる基質濃度
死滅係数 k_d
1/day
内生呼吸による自己分解速度
計算結果
HRT (day)
流出BOD (mg/L)
BOD除去率 (%)
MLSS 汚泥濃度 (mg/L)
余剰汚泥 (kg/day)
F/M比 (kg-BOD/kg-MLSS/day)
曝気槽の断面 — 流入・処理・汚泥返送アニメーション

茶色の有機物が流入し、空気バブルと活性汚泥(緑の微生物粒子)で分解されて青い処理水になります。底面の汚泥返送ラインがMLSSを維持しています。

流出BOD vs SRT
BOD除去率 vs F/M比
理論・主要公式

$$S_{\text{eff}}=\frac{K_s\,(1/\theta_c+k_d)}{\mu_{\max}-1/\theta_c-k_d},\qquad X=\frac{Y\,\theta_c}{\theta_H\,(1+k_d\,\theta_c)}\,(S_0-S_{\text{eff}})$$

CSTR定常状態の流出基質濃度 S_eff と MLSS(汚泥濃度)X。θ_c=SRT(汚泥滞留時間)、θ_H=HRT(水理学的滞留時間)、K_s=半飽和定数、k_d=内生呼吸係数、Y=収率、μ_max=最大比増殖速度。

$$P_x=\frac{Y\,Q\,(S_0-S_{\text{eff}})}{1+k_d\,\theta_c},\qquad \text{F/M}=\frac{Q\,S_0}{X\,V}$$

余剰汚泥発生量 P_x(kg/day)と F/M比(kg-BOD/kg-MLSS/day)。F/M比は標準活性汚泥法で 0.2〜0.5 が運転域。

活性汚泥モデル (Activated Sludge) とは

🙋
下水処理場の見学で「活性汚泥」って言葉を聞いたんですが、結局あの泡の出てる池の中では何が起きてるんですか?
🎓
あの曝気槽の中は、要するに微生物の養殖場なんだ。下水に含まれる有機物(BOD成分)をエサにして、細菌や原生動物の塊(=活性汚泥)が増殖しながら有機物を酸化分解してくれる。空気を吹き込んで酸素を供給するから、好気性微生物が一気に働いて、24時間で流入BODの95〜99%を片付ける。沈殿池で汚泥を沈ませて上澄みを放流、沈んだ汚泥の一部を曝気槽に返送=再利用するのが標準的なフローだよ。
🙋
なるほど!微生物の養殖場だったんですね。じゃあこのシミュレーターのスライダーにある「SRT」って何ですか?流量と別なんですか?
🎓
いい質問。流量から決まる滞留時間は HRT(水理学的滞留時間)で、これは水分子が槽内にいる平均時間。一方 SRT(Sludge Retention Time、汚泥滞留時間)は微生物が系内にいる平均時間で、返送と引き抜きの比率で独立に調整できるんだ。例えば HRT=0.5日(12時間)でも、汚泥を捨てる量を絞れば SRT を10日、20日と長くできる。SRTを長くすると微生物が成熟して、低濃度のBODまで食べ尽くしてくれるから流出水質が良くなる。これが活性汚泥プロセス設計の最重要パラメータだよ。
🙋
SRTを長くするほど良いなら、ずっと長くしておけばいいんじゃ?
🎓
そこが面白いところで、長くしすぎると別の問題が出る。SRT が長いと微生物の自己分解(k_d による内生呼吸)が進んで汚泥が「老化」する。老化した汚泥は沈降性が悪くなり、沈殿池でうまく分離できずに流出するんだ。さらに F/M比(食物対微生物比)が下がりすぎると糸状菌が増殖して「バルキング」という汚泥膨化が起きる。標準活性汚泥法では F/M=0.2〜0.5 がスイートスポット。シミュレータでSRTを20、25日と動かしてみて、F/Mがどう下がるか確認してみるといい。
🙋
Monod式の K_s っていうのも気になります。これって何を表すんですか?
🎓
K_s は「半飽和定数」で、微生物の比増殖速度がちょうど μ_max の半分になる基質(BOD)濃度。これが小さいほど微生物は低濃度のBODでも頑張れる、つまり処理能力が高い。下水処理菌で K_s≈30〜100 mg/L、メタン菌だと数百 mg/L、独立栄養の硝化菌だと 1 mg/L 以下と幅広い。シミュレータの式 S_eff=K_s(1/SRT+k_d)/(μ_max−1/SRT−k_d) を見ると、K_s が流出BOD に比例して効いているのが分かるね。要は「微生物のエサに対する親和性」を表すパラメータ。冷水期は K_s が大きくなる傾向があるから、冬季の処理水質悪化の説明にもなる。
🙋
最後に確認したいんですが、このモデルは「ASM1」っていう聞いたことがあるやつと同じですか?
🎓
いいところに気づいた。本格的な ASM1(IWA Activated Sludge Model No.1)は、有機物を「溶解性/粒子状」「易分解性/難分解性」と4種類に分け、さらに従属栄養菌・硝化菌・不活性物質と窒素成分まで含む13変数モデル。本ツールはその最も単純な「炭素除去のみ」「単一基質」「単一微生物群」に絞った教育用の簡易版だよ。実プラント設計や挙動予測には GPS-X や WEST のような ASM1〜ASM3 を実装した商用シミュレータが使われる。でも基本の Monod×CSTR の感覚をつかむには、本ツールのスライダーで動かすのが一番早い。流入BOD と SRT を倍に振ってみて、流出BOD と MLSS がどう変わるか体感してみて。

よくある質問

完全混合の活性汚泥反応槽では、SRT(汚泥滞留時間)と Monod 式から流出基質濃度 S が一意に決まります。微生物の比増殖速度 μ=μ_max·S/(K_s+S) から内生呼吸 k_d を引いた値が 1/SRT と釣り合うので、S = K_s·(1/SRT + k_d) / (μ_max − 1/SRT − k_d) になります。流入BODに依存せず、SRTと動力学パラメータだけで流出BODが決まる点が CSTR モデルの大きな特徴です。SRTを長くするほど S は小さくなり、除去率が上がります。
定常状態の MLSS(mg/L)は X = Y·SRT/(HRT·(1+k_d·SRT))·(S₀−S) で計算します。Y は微生物の収率、HRT は水理学的滞留時間です。SRTが長いほど X は大きくなり、k_d による自己分解で頭打ちになります。余剰汚泥発生量(kg/day)は Y·Q·(S₀−S)/(1+k_d·SRT)/1000 で、SRTを長くすると分母が大きくなり余剰汚泥が減るのが特徴です。汚泥処分コストの削減にはSRT延長が効きますが、F/M比が下がりすぎないよう注意します。
F/M比(食物対微生物比、kg-BOD/kg-MLSS/day)は活性汚泥プロセスの代表的な運転指標で、標準活性汚泥法では 0.2〜0.5 が一般的です。0.05〜0.15 の低F/Mは長時間曝気・酸化溝で、汚泥が老化して沈降性が悪化する傾向があります。逆に 0.5 を超える高F/Mは過負荷で、糸状菌増殖によるバルキング(汚泥が膨化して沈まない現象)の引き金になります。本ツールでは F/M比を自動算出し、SRTや反応槽体積を変えたときの応答を確認できます。
SRTが微生物の最小増殖時間(ウォッシュアウトSRT)を下回ると、活性汚泥が槽外へ流出し続けて反応槽内に微生物が残らず、BOD除去が成立しなくなります。臨界値は SRT_min = 1/(μ_max·S₀/(K_s+S₀) − k_d) で、流入BODが高いほど短くなります。実務では SRT_min の2〜3倍以上を確保するのが安全側設計の目安です。本ツールでは SRT が臨界値に近づくと警告を表示し、流出BODの急激な悪化を可視化します。冷水期は μ_max が小さくなるため、冬季はSRTを長めに取る運転制御が必要です。

実世界での応用

都市下水処理場(標準活性汚泥法):日本国内2,200か所超の下水処理場の大半が活性汚泥法ベースです。流入BOD 150〜300 mg/L、HRT 6〜8時間、SRT 5〜10日が代表的な設計値で、本ツールの計算式(Monod×CSTR)はそのまま処理場設計の初期検討に使われます。スライダーで流量Qを2倍にすると HRT が半分になり、流出BODが急に悪化する様子は、雨天時越流(CSO)対策の必要性を直感的に示します。

食品・化学・製紙工場の排水処理:BOD 1,000〜5,000 mg/Lの高濃度排水では、活性汚泥法の前段に嫌気処理(UASB等)を置き、後段で活性汚泥が仕上げる組み合わせが一般的です。本ツールでS₀=2000 mg/Lに振ると MLSS が大幅増加するのが分かりますが、実プラントでは MLSS 4,000 mg/L超で沈殿池の固液分離が破綻するため、膜分離活性汚泥法(MBR)に切り替えるか希釈する判断が必要です。

運転コスト最適化と省エネ設計:活性汚泥プロセスの運転コストの約60%は曝気電力(酸素供給)、約20%は余剰汚泥処分です。SRTを延ばすと余剰汚泥は減るが酸素要求量(=曝気動力)と汚泥老化リスクが増えるトレードオフがあり、運転員はこのバランスを毎日調整します。本ツールでSRT=5日と20日を比較し、余剰汚泥が半減する一方でMLSS が増えて沈殿池負荷が上がる様子を確認できます。

大学・高専の環境工学教育:Monod 式と CSTR 物質収支は、環境工学・生物化学工学の基礎教材として国内外の教科書(Metcalf & Eddy "Wastewater Engineering" など)に必ず登場します。本ツールはこの古典的な解析解を可視化することで、紙と鉛筆では難しい「8パラメータの感度解析」を学生が瞬時に体験できるよう設計されています。卒業研究のASM1モデル習得の足がかりとしても活用できます。

よくある誤解と注意点

第一の誤解は、「流入BODを変えても流出BODが変わらないのは計算ミスではないか」という指摘です。CSTR定常モデルでは、流出基質濃度 S_eff は SRT・μ_max・K_s・k_d だけで決まり、流入BOD S₀ には依存しません。これは数学的な性質で、流入が増えると微生物量 MLSS が比例的に増えて余剰能力を吸収するからです。実プラントでは MLSS 上限(沈殿池の能力)や酸素供給能の限界があるため流入BODが大きいと処理が破綻しますが、それらの制約はモデルの外側にあります。本ツールのS₀感度がフラットに見えても式は正しい、と覚えてください。

第二に、「Monod式のパラメータ μ_max, K_s, k_d, Y を文献値そのまま使えば実プラントを再現できる」という思い込み。これらは温度(20℃と10℃で μ_max は半分)、pH(中性から外れると急減)、有機物の組成(易分解性 vs 難分解性)、毒性物質の有無で大きく変動します。実プラント設計では、対象排水を使った室内回分試験(OUR測定、SOUR測定)でこれらの動力学パラメータを実測するのが鉄則です。本ツールの初期値は標準的な都市下水を想定した代表値で、産業排水には適しません。

第三に、「本モデルが扱うのは炭素除去だけで、窒素・リン除去は計算していない」点に注意。実際の高度処理では、硝化(NH₄⁺→NO₃⁻、好気)と脱窒(NO₃⁻→N₂、無酸素)、嫌気状態でのリン蓄積菌(PAO)によるリン除去が組み合わさり、ASM2/ASM2d/ASM3 で扱う変数が13〜19個まで増えます。さらに硝化菌は μ_max が小さく SRT 8日以上が必要、低温に弱い、といった独自制約があり、本ツールの単純なBOD除去とは別次元の設計検討が必要です。窒素・リン除去を含めた現代的なプロセス設計には ASM2d 以上を実装したシミュレータを使うこと。

使い方ガイド

  1. 流入BOD(mg/L)、反応槽体積(m³)、流量(m³/day)、汚泥滞留時間SRT(day)を入力してシミュレーション開始
  2. Monod型反応式μ=μmax×S/(Ks+S)に基づき、定常状態の微生物増殖速度を計算
  3. 流出BOD、除去率、MLSS濃度、余剰汚泥発生量、F/M比がリアルタイム更新される

具体的な計算例

流入BOD 300mg/L、反応槽20m³、流量10m³/day、SRT 10dayの標準活性汚泥法では:HRT=2.0day、μmax=0.5/day、Ks=50mg/L、収率Y=0.6、死滅係数kd=0.05/dayを適用すると、定常状態で流出BOD=15mg/L(除去率95%)、MLSS=3500mg/L、余剰汚泥=18kg/day、F/M比=0.48kg-BOD/kg-MLSS/dayが得られる。これは有機物負荷が適正範囲内であることを示す。

実務での注意点