パラメータ設定
周波数スイープ
リセット
ポアソン比 ν = 0.30 固定。既定値は鋼板(E=210 GPa、ρ=7800 kg/m³、h=1.0 mm、f=100 kHz)。SHM で多用される薄板の典型例です。
平板の側面図 — S_0/A_0 変位パターン
上段=S_0 モード(板厚方向に対称、面内伸縮)/下段=A_0 モード(板厚方向に反対称、面外曲げ)。波長はそれぞれ λ_S0、λ_A0 で表示。
分散曲線 — ω·h vs 位相速度
横軸=ω·h [rad/s·mm]/縦軸=位相速度 c_p [m/s]。青線=S_0(水平・非分散)/橙線=A_0(√(ω·h) で分散)。黄丸=現在の動作点。
理論・主要公式
低周波近似での Lamb 波基本モードの位相速度(ν = 0.30 固定):
$$c_{S_0} = \sqrt{\frac{E}{\rho\,(1-\nu^2)}}$$
S_0 モード(板内伸縮波):非分散で周波数に依存しません。E はヤング率 [Pa]、ρ は密度 [kg/m³]、ν はポアソン比。
$$c_{A_0}(\omega) = \sqrt{\omega}\,\left(\frac{E\,h^{2}}{12\,\rho\,(1-\nu^2)}\right)^{1/4}$$
A_0 モード(板曲げ波、Kirchhoff 薄板近似):分散的で、ω = 2πf、h は板厚 [m]。周波数が上がると位相速度も増加します。
$$\lambda = \frac{c}{f}$$
波長 λ:位相速度 c を周波数 f で割って得られます。SHM の欠陥検出分解能はおおむね λ/2 程度です。
Lamb 波分散とは
🙋
Lamb 波って、超音波探傷で聞く名前ですけど、普通の音波と何が違うんですか?
🎓
いい質問だ。普通の縦波(P 波)や横波(S 波)は無限体や厚い構造を伝わるけど、Lamb 波は「板厚と同じか短い波長」の領域で板の上下表面に反射しながら伝わる導波(waveguide)モードなんだ。例えば板厚 1 mm の鋼板に 100 kHz を入れると、S_0(板内伸縮)の波長は 54 mm、A_0(板曲げ)は 10 mm になる。板厚の数十倍の領域を「板全体として」振動させながら伝わるから、長距離 SHM に便利なんだよ。
🙋
S_0 と A_0 で速度が 5 倍も違うのはなぜですか?同じ材料なのに不思議です。
🎓
変形のタイプが全く違うからだ。S_0 は板を縦に押し縮める「面内伸縮」で、引張剛性 E が直接効くから速い(c_S0 = √(E/(ρ(1−ν²))) ≈ 5439 m/s)。A_0 は板を波打たせる「面外曲げ」で、薄板理論では曲げ剛性 D = Eh³/(12(1−ν²)) しか効かず、しかも c_A0 ∝ √ω·h なので低周波では遅い。例えば h=1 mm, f=100 kHz で c_A0 ≈ 993 m/s だ。スライダーで板厚を増やすと A_0 速度だけが上がるのが見えるはずだよ。
🙋
分散曲線で A_0 だけ曲がっているのは、A_0 が「分散する」って意味ですか?
🎓
そう、それが「分散(dispersion)」だ。周波数が変わると位相速度も変わる現象で、A_0 は √ω に比例する。実用上は問題で、パルス波形が伝播中に「広がって」しまう――異なる周波数成分が違う速度で進むからね。SHM で長距離検査をするときは、非分散の S_0 を使うか、群速度 v_g = dω/dk を考慮した補正をかけるんだ。本ツールの分散曲線で青線(S_0)が水平、橙線(A_0)が右上がりに曲がっているのを確認してみて。
🙋
これって、航空機の翼や橋の鋼板のヘルスモニタリングに使われてるんですか?
🎓
バッチリだ。航空機の CFRP 外板、橋梁・タンクの鋼板、原子炉配管――どこにでも Lamb 波 SHM システムが入っている。典型的には PZT 圧電素子を板上に貼り付けて 50〜500 kHz の Lamb 波を励起・受信し、欠陥(き裂・剥離・腐食減肉)による反射・散乱信号から損傷位置を割り出す。Boeing 787 の翼内ヘルスモニタリングや、新幹線車体の検査でも Lamb 波が標準だよ。本ツールでスライダーを動かして、実機で使われる周波数帯(50〜500 kHz)で λ_A0 がどれくらい変わるか、体感してみるといい。
よくある質問
Lamb 波の高次モード(S_1、A_1、S_2…)はなぜ表示されないのですか?
高次モード(S_1、A_1、S_2 …)は、無次元周波数 fh が「カットオフ周波数」を超えると出現します。鋼の場合、A_1 カットオフは fh ≈ 1.6 MHz·mm、S_1 は fh ≈ 2.7 MHz·mm 付近で、本ツールの動作範囲(最大 fh = 20 MHz·mm)では出現しますが、Kirchhoff 薄板理論では基本モード S_0/A_0 しか扱えません。完全な Rayleigh-Lamb 方程式を数値的に解く必要があり、本ツールは「低周波・薄板近似」での教育用ツールと位置付けています。fh > 1 MHz·mm 領域では、専用の分散ソルバ(GUIGUW、Disperse 等)の参照を推奨します。
位相速度 c_p と群速度 v_g の違いは何ですか?
位相速度 c_p = ω/k は単一周波数の波が進む速度、群速度 v_g = dω/dk は波束(パルス)のエネルギーが進む速度です。非分散な S_0 では c_p = v_g ですが、分散する A_0 では v_g = dω/dk = 2c_p(Kirchhoff 薄板近似)となり群速度のほうが速いです。SHM でパルス信号の到達時間から距離を推定する場合は、位相速度ではなく群速度を使う必要があります。本ツールは位相速度のみを表示しています。
複合材(CFRP)の Lamb 波解析にも使えますか?
本ツールは等方材料(金属、ガラスなど)専用です。CFRP のような異方性積層材では、繊維方向ごとに弾性係数が異なり、Lamb 波の伝播速度も方向依存になります。実用 CFRP 解析では、層ごとの剛性マトリクス [Q] を用いた高次積層板理論(First-order Shear Deformation、Mindlin など)や数値ソルバが必須です。ただし、CFRP の「準等方積層」の場合は、本ツールの近似でも 10〜20% の精度で参考値が得られます。実際に E は CFRP 0° で 135 GPa、90° で 9 GPa 程度で大きく異なります。
Kirchhoff 薄板近似はどこまで使えますか?
Kirchhoff 薄板理論は「波長 λ が板厚 h の 6 倍以上」(fh < 0.3 MHz·mm 程度)の領域で誤差 5% 以内です。本ツールの A_0 公式 c_A0 = √ω·(Eh²/(12ρ(1−ν²)))^(1/4) はこの仮定に立脚しており、薄板を高周波(fh > 1 MHz·mm)で励起する場合、せん断変形と回転慣性を考慮する Mindlin-Reissner 厚板理論や完全な Rayleigh-Lamb 解が必要になります。既定値(h=1 mm、f=100 kHz、fh=0.1 MHz·mm)は安全領域内ですが、h を 10 mm 以上にしたり f を 500 kHz 以上にする場合は近似誤差に注意してください。
実世界での応用
航空機の構造ヘルスモニタリング(SHM): Boeing 787、A350 などの炭素繊維複合材外板に PZT 圧電素子のアレイ(典型的 50〜200 個)を貼り付け、50〜300 kHz の Lamb 波で常時モニタする SHM システムが実用化されています。離発着時に蓄積する衝撃損傷(BVID、Barely Visible Impact Damage)の早期検出が目的で、本ツールの S_0/A_0 速度・波長から実機で必要なセンサー間距離(典型 100〜500 mm)が設計されます。
橋梁・タンク鋼板の長距離超音波探傷(LRUT): 原油タンクの底板、橋梁のフランジ・ウェブ、高圧ガスパイプラインなどの長距離検査には、Lamb 波 S_0 モード(非分散)が標準的に使われます。1 回の励振で 10〜30 m の距離を検査できるため、従来の点検査(pulse-echo UT)に比べ大幅な省力化が可能です。Guided Ultrasonics 社の Wavemaker、Olympus の Teletest が代表的な商用システムで、本ツールの S_0 波長(数 cm 〜数十 cm)が運用周波数の決定根拠です。
原子炉配管・蒸気発生器伝熱管の検査: 原子力プラントの配管(厚さ 20〜30 mm の SUS304/SUS316L 鋼)や蒸気発生器伝熱管(インコネル 600、肉厚 1.2〜2 mm)では、内部腐食・応力腐食割れ(SCC)の検出に Lamb 波が利用されます。特に薄肉伝熱管では本ツールの A_0 モードが感度高く、剥離・減肉を検出できます。日本の電力会社では PWR・BWR ともに定期検査の標準項目に含まれています。
新幹線・自動車車体溶接部の検査: 新幹線のアルミ車体スポット溶接部、自動車の鋼板溶接部の品質検査にも Lamb 波が使われています。点溶接部での散乱・反射特性から溶接ナゲットのサイズや欠陥(割れ、ポロシティ)を非破壊で評価できます。トヨタ、本田、JR 東海などで研究開発が進み、製造ライン内のリアルタイム品質保証が目標です。本ツールでアルミの場合(E=70 GPa、ρ=2700 kg/m³)の速度・波長を試算してみると、鋼との違いが明確に見えます。
よくある誤解と注意点
最初に注意してほしいのは、「Lamb 波は板を伝わる単一の波ではない」 ということです。Lamb 波には無限個のモード(S_0、A_0、S_1、A_1、S_2、A_2…)があり、励起する周波数と板厚の積 fh によって伝播するモード数が決まります。低周波(fh < 1.6 MHz·mm)では S_0 と A_0 の 2 モードのみが伝播し、これを意図的に利用するのが SHM の基本戦略です。励振信号の周波数を選ばないと複数モードが混在し、信号解釈が極めて困難になります。本ツールは基本 2 モードに絞った教育用設計です。
次に、「板厚 h を変えると S_0 速度も変わる」と誤解しないこと です。本ツールの S_0 公式 c_S0 = √(E/(ρ(1−ν²))) には h が含まれず、板厚に依存しません(低周波近似のため)。一方 A_0 は明確に h に依存し、薄い板ほど位相速度が低下します。スライダーで h=0.5 mm と h=5 mm を試して、A_0 だけが大きく変わることを確認してください。実際の Rayleigh-Lamb 完全解では、S_0 も高周波領域では h に依存するようになりますが、本ツールの動作領域(fh < 0.3 MHz·mm 推奨)では h 非依存が良い近似です。
最後に、「位相速度の値だけで欠陥位置を推定できない」 のが Lamb 波 SHM の現実です。実用 SHM では、励起波形のパルスエンベロープ(包絡線)の到達時間を群速度 v_g で割って距離を推定します。位相速度 c_p は「定常正弦波の進む速度」であり、過渡パルスの伝播には群速度 v_g が支配的です。Kirchhoff 薄板近似では A_0 の群速度 v_g = 2c_p となり、本ツールが表示する c_a0 ≈ 993 m/s(既定値)の場合、実際のパルスは 2 倍の約 2000 m/s で進みます。SHM システム設計時はこの違いを必ず認識してください。