Langmuir-Hinshelwood 表面反応速度シミュレーター 戻る
化学反応工学

Langmuir-Hinshelwood 表面反応速度シミュレーター

不均一系触媒の表面で反応物 A と B が競争的に吸着し、隣り合うサイトで反応する Langmuir-Hinshelwood 機構を可視化するツールです。吸着平衡定数や分圧を変えると、表面被覆率と反応速度がリアルタイムに変化し、分圧に対して速度が極大を持つ LH 特有の非単調な挙動を確かめられます。

パラメータ設定
表面反応速度定数 k
隣接サイトの A-B が反応する固有の速さ
反応物Aの吸着平衡定数 KA
A が表面にどれだけ強く吸着するか
反応物Bの吸着平衡定数 KB
B が表面にどれだけ強く吸着するか
Aの分圧 PA
kPa
気相中の A の分圧(駆動力)
Bの分圧 PB
kPa
気相中の B の分圧(駆動力)
計算結果
反応速度 r
Aの被覆率 θA
Bの被覆率 θB
空きサイト率 θv
被覆率合計 θABv
速度の支配因子
触媒表面 — 吸着・反応アニメーション

触媒表面の吸着サイトを、被覆率に応じて A(青)・B(橙)・空き(暗)で埋めます。隣り合う A-B が時おり反応して脱離し、生成物となって去ります。

反応速度 r vs Aの分圧 PA
被覆率 θ vs Aの分圧 PA
理論・主要公式

$$r=k\,\theta_A\,\theta_B=\frac{k\,K_A P_A\,K_B P_B}{\left(1+K_A P_A+K_B P_B\right)^2}$$

Langmuir-Hinshelwood 速度式。r:反応速度、k:表面反応速度定数、K:吸着平衡定数、P:分圧。反応速度は両被覆率の積に比例する。

$$\theta_A=\frac{K_A P_A}{1+K_A P_A+K_B P_B},\qquad \theta_v=\frac{1}{1+K_A P_A+K_B P_B}$$

A の被覆率 θA と空きサイト率 θv。θABv=1。分母(共通の吸着サイトを A・B が分け合う項)が2乗されることで、反応速度は分圧に対して極大を持つ。

Langmuir-Hinshelwood機構とは

🙋
「Langmuir-Hinshelwood 機構」って、触媒の表面で起こる反応の話ですよね?普通の反応速度論とは何が違うんですか?
🎓
ざっくり言うと、舞台が「気体や液体の中」じゃなくて「固体触媒の表面」だ、というところが違うんだ。自動車の排ガス浄化触媒や、アンモニア合成の鉄触媒を思い浮かべてほしい。反応物の分子は、まず触媒表面の「吸着サイト」という限られた席に座る。LH 機構では、A も B も両方とも席に座ってから、隣同士になったときに初めて反応するんだ。
🙋
両方とも座らないといけないんですね。じゃあ席は早い者勝ちで奪い合いになるんですか?
🎓
まさにそこが肝だよ。席(吸着サイト)の数は有限だから、A と B は同じ席を「競争吸着」する。左の KA を大きくしてみて。A が強く吸着して θA(A の被覆率)がぐっと増えるけど、その分 B の席が減って θB は下がるよね。反応速度は r = k·θA·θB、つまり両方の被覆率の掛け算だから、片方だけ増えても速度は上がらないんだ。
🙋
え、じゃあ A の分圧をどんどん上げても、速度はずっと上がるわけじゃないんですか?
🎓
そう、ここが LH 機構の一番面白いところ。下の「反応速度 vs PA」のグラフを見て。PA が低いうちは A が増えて速度が上がる。でもある点を超えると、A が表面を占領しすぎて B を席から押し出してしまう。θB が下がるから、速度はかえって落ちていく。だから曲線は「山なり」になって、どこかに極大があるんだ。普通の反応では「濃度を上げれば速くなる」が常識だから、初めて見ると驚くよね。
🙋
速度を最大にしたいときは、どう分圧を選べばいいんですか?
🎓
コツは「θA と θB をバランスさせる」ことだ。結果カードに「速度の支配因子」が出るだろう? これは被覆率が小さいほうの反応物で、いわば律速側だ。例えば θB が小さければ B が律速だから、B の分圧を上げるか A の分圧を少し下げると速度が伸びる。実務の触媒プロセスでは、この被覆率バランスを狙って原料の比率(A:B 比)を最適化するんだよ。
🙋
なるほど。強く吸着する触媒ほど良い、というわけでもないんですね。
🎓
その通り。これは触媒設計の有名な原則「サバティエの原理」につながる話で、吸着が弱すぎると分子が表面に乗らないし、強すぎると今度は離れない・相手を押しのける。ちょうど良い「ほどほどの吸着強さ」のとき、活性が最大になる。KA を極端に大きくしてみると、θA が1に近づいて θB がほぼ0になり、速度が落ちるのが見えるはずだ。LH 速度式は、この「強すぎる吸着の害」を数式できちんと表現してくれているんだ。

よくある質問

Langmuir-Hinshelwood(LH)機構は、不均一系触媒上で反応物 A と B が両方とも触媒表面の吸着サイトに吸着し、隣り合った吸着サイト同士で反応する仕組みです。反応速度は両方の被覆率の積に比例し、r = k·θA·θB と書けます。気相中の分子が直接吸着分子に当たって反応する Eley-Rideal 機構とは異なり、LH 機構ではどちらの反応物も一度表面に吸着してから反応する点が特徴です。
LH 速度式 r = k·KA·PA·KB·PB / (1+KA·PA+KB·PB)² では、分母が2乗になっています。Aの分圧 PA を上げると、低圧域では分子の項 KA·PA が効いて速度は上がりますが、高圧域では A が表面を占有しすぎて B を押しのけ、θB が下がるため速度が下がります。この「上がってから下がる」非単調な挙動が LH 機構の特徴で、競争吸着がある反応に特有の現象です。
吸着平衡定数 K は、その反応物がどれだけ強く触媒表面に吸着するかを表します。K が大きい(強吸着)と少ない分圧でも表面を多く占有しますが、同時に相手の反応物のサイトを奪うため、相手の被覆率を下げます。LH 反応では一方が強く吸着しすぎると相手が表面に乗れず、かえって反応速度が落ちます。最大速度はA・Bの被覆率がバランスした状態で得られます。
速度の支配因子は、A と B のうち被覆率が小さいほうの反応物を指します。r = k·θA·θB は両被覆率の積なので、被覆率が小さいほうが反応速度のボトルネックになります。例えば θA が大きく θB が小さければ B が律速で、B の分圧を上げるか A の分圧を下げると速度が改善します。逆に被覆率が大きいほうの分圧をさらに上げても、相手を押しのけるだけで速度は上がりません。

実世界での応用

自動車排ガス浄化触媒:三元触媒(Pt/Pd/Rh)における一酸化炭素の酸化 CO + O は、典型的な Langmuir-Hinshelwood 反応です。CO と酸素原子が触媒表面に競争吸着し、隣り合ったときに反応して CO₂ になります。低温で CO が表面を占領しすぎると酸素が乗れず反応が止まる「CO 被毒」が起こり、これはまさに本ツールで KA を大きく・PA を高くしたときに速度が落ちる現象に対応します。

アンモニア合成・水素化反応:ハーバー・ボッシュ法の鉄触媒上での窒素と水素の反応、油脂の水素添加など、多くの工業触媒反応が LH 型の速度式で記述されます。原料ガスの分圧比を最適化する設計では、被覆率バランスを意識して N₂:H₂ 比を選びます。本ツールの「分圧を上げすぎると逆効果」という直感は、こうしたプロセス設計の出発点になります。

固体触媒反応器の設計:充填層反応器や流動層反応器の設計では、触媒層内の各位置で分圧が変化します。LH 速度式を反応器モデルに組み込むと、入口付近で速度が極大を過ぎている(分圧が高すぎる)ような非直感的な状況も予測できます。反応速度が濃度に単純比例すると誤って仮定すると、反応器サイズを大きく見積もり違えることになります。

触媒スクリーニングと反応機構の判別:実験で得た反応速度を分圧に対してプロットしたとき、速度が極大を持って下降するなら LH 機構(競争吸着)が、単調に飽和するだけなら Eley-Rideal 機構や非競争吸着が疑われます。本ツールのような速度式の挙動を理解しておくと、実験データから反応機構を推定する助けになります。

よくある誤解と注意点

まず最も多い誤解が、「反応物の分圧(濃度)を上げれば反応速度は必ず上がる」という思い込みです。均一系の素反応では多くの場合これは正しいのですが、Langmuir-Hinshelwood 機構では成り立ちません。本ツールで PA を 0 から 10 まで動かすと、速度がいったん上がってから下がる「山」が見えます。これは A が表面を占領して B を押しのける「競争吸着の害」によるもので、速度を上げたいときに闇雲に分圧を上げると逆効果になることがあります。律速側(被覆率の小さいほう)の分圧を上げるのが正しい対処です。

次に、「触媒は強く吸着するほど高活性」という誤解です。吸着平衡定数 K が大きいほど被覆率は増えますが、強すぎる吸着は相手のサイトを奪い、また生成物が脱離しにくくなって表面を塞ぎます。触媒活性が吸着強度に対して火山型(極大を持つ曲線)になることは「サバティエの原理」として知られ、LH 速度式はその一面を定量的に表しています。本ツールで KA を最大まで上げると θA≈1・θB≈0 となり、速度が大きく落ちることを確認してください。

最後に、「LH 速度式さえ使えば実触媒を正しく予測できる」と過信しないことです。本ツールが扱うのは、表面が均一・吸着が理想的な Langmuir 型・反応が律速、という理想化された二サイトモデルです。実際の触媒では、表面サイトの不均一性、吸着分子間の相互作用、物質移動律速、被毒や焼結による失活、複数の反応経路などが絡みます。LH モデルは反応機構を理解し設計の方向性を掴むための優れた骨格ですが、定量設計には実測の速度パラメータによる補正と、反応器スケールの物質・熱移動の検討が欠かせません。

使い方ガイド

  1. 反応速度定数k(s⁻¹)とA・B吸着平衡定数Ka、Kb(Pa⁻¹)を設定する
  2. A成分分圧Pa(0.1~100 kPa)をスライダーで変動させ、リアルタイムで被覆率θAとθBの応答を観察する
  3. 反応速度rの変化パターンを確認し、低分圧での一次、高分圧での零次への遷移を定量評価する

具体的な計算例

CO酸化触媒(Pt)を想定:k=0.5 s⁻¹、Ka=0.08 Pa⁻¹(CO吸着)、Kb=0.02 Pa⁻¹(O₂吸着)、Pa=10 kPa時、分母(1+Ka·Pa+Kb·Pb)≈1.8、θA≈0.44、θB≈0.11、θv≈0.45、反応速度r≈0.22 mol/(m²·s)。分圧を50 kPaに上昇させるとθAは0.80に増加し飽和域に移行、速度支配因子は反応速度定数kに転換。

実務での注意点